表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/89

第76話:ドワーフの極致

 グンッと身体を引かれる。

 その感覚を確認し、俺はすぐにそれを制御した。


 ルビートゥーナとグリムホルドの間に広がる『獣人の森』で、今日も俺達は野宿をしている。

 野宿とは言いつつも、いつも通りそこそこ快適だ。

 岩と木で出来た即席の家があるし、野生動物を加熱魔岩で調理した晩ご飯はかなり美味しい。

 今頃、皆は心地良い木の香りに包まれて眠っているだろう。


 その時を待ち、今日もこっそり抜け出してきた。

 この森に入ってから、毎日続けている日課がある。

 それは、修行だ。


 亀のモンスターが死に際に放った攻撃で、俺は一度死んだ。

 ……あれ、一度だっけ?

 転生した時も数えるべきだから……二回?

 二回も死を経験してる人は、滅多に居ないだろうな。


 ……ともかく、俺はまた不覚を取り、皆に心配をかけ、無理をさせた。

 もう二度と繰り返さない。


 修行中の技は、何もない空間の一点に意識を向けるところから始まる。

 今、俺がいるのは森の木々の上、空中だ。

 森の中で被害が出ることを避けるためだが、目立ってしまう。

 だから皆が眠った後でないといけない。


 俺が意識を集中させた空間に、魔岩が生成される。

 が、それはすぐに変質し、みるみるうちにドス黒い色へと変わっていった。

 そしてまた、身体が引っ張られる感覚。


 今回はもう少し続けてみよう。

 浮遊用で足に付けている魔岩を操作し、引力に抗う。

 ドス黒い魔岩からは距離を空けてあるが、それでもかなりの力だ。

 だいぶ仕上がってきた。


「……ん?」


 気付くのが少し遅かった。

 黒い魔岩の真下に生えていた木が、引力に負けて抜けようとしている。

 その根によって、辺りの地面は大変なことになっていた。

 大きな音がしていたはずだが、魔岩に集中しすぎて気付かなかった。


「やり過ぎたっ!!」


 俺が黒い魔岩を消すよりも一瞬早く、ついに木は大地から解き放たれ、宙に浮かんだ。

 しかし木が自由を手に入れたのは束の間。

 黒い魔岩が消えると同時に、再び大地へと呼び戻される。

 凄い速度で。


「おおおおお、どうする!? 土魔法の石柱で受け止めるか!? でもそれじゃ勢いは殺せないし……」


 その時、近くの木々の根が動き、伸び、落下する木に絡みついた。

 速度を落とした木は、そのままゆっくりと、元々生えていた場所に戻されていく。

 ……やっぱり隠しきれなかった……。


 俺が高度を下げ、地面に降りると、そこにはニナさんがいた。

 少なくとも、怒っている訳ではなさそうで一安心。


「助かったよニナさん……」

「木に異変があったので。何をしてたんですか? 毎晩。」

「当然、気付いてたよねえ」

「ええ。」


 どちらにしろ話すつもりだった。

 全力を試してからが良かったが、現時点でほぼ完成している。

 いいタイミングだろう。


「新しい魔法を開発してたんだよ」

「先程のがそうですか?」

「そう。ようやく仕上がってきたんでちょっと試してみたら……。さっきの木、大丈夫かな……?」

「はい。根を張り直しました。」


 ニナさんは戦闘であまり木魔法を使わない。

 今見たような大規模なのは、久々に見た。


「どんな魔法か聞いてもいいですか?」

「もちろん。さっきのはね、重力を操る魔法だよ」

「重力……。規模の大きい話ですね。」


 そう、規模の大きな魔法。

 相手が素早くても大きくても、問答無用に無力化できる魔法。

 そんな魔法を目指して編み出した。


「正直に言うと……仕掛けを話したくてウズウズしてるんだけど……いいかな……?」

「是非。椅子を用意しますね。」


 研究者というものは、自分が作り出した技術を誰かに説明したくて仕方がない生き物だ。

 熱が入りすぎる傾向があるので、相手を置いてきぼりにしがちである。

 よくよく気をつけなければならない。


 ニナさんは二人掛けの木の椅子を手早く作ってくれた。

 この辺りは冷えるので、岩の椅子はかなりキツい。


「……すみません、魔岩布は一枚しか持ってきませんでした。」


 魔岩布のローブを羽織ってきたようだ。

 俺は修行に不要だったので持ってきてない。

 ニナさんの隣に座ると、大きなローブが二人を包んだ。


「おお、ありがとう。……えっと……普段俺達が重力を感じているように、この星は全ての物を引っ張ってるよね」


 本当は遠心力も含めて説明したいが、脇道に反れるので省略しよう。


「はい。星に引かれるのは当然だと、おばあちゃんに習いました。」

「そうだよね。でもそれは別に星の特殊なパワーとかじゃないんだ。……実は全ての物は、重さ……正確には質量さえあれば、常に互いを引っ張り合ってる」

「……感じませんが……。」

「大抵は凄く弱い力だからね。でも、星はとんでもなく大きくて、とんでもなく重い。……引っ張る力は、重ければ重いほど大きくなるみたいなんだ」


 いわゆる、万有引力というやつだ。

 ただそこに在るだけで引き合うなんて、つくづく不思議で仕方ない。

 一つになろうとするポテンシャル。

 万物が一点に凝集した停留点。


「では、先程の魔法は……。」

「そう。物凄く重い物質を生成して、引っ張る力を生み出した魔法」

「……ドコウさんにしか出来ませんね。」


 そう言ってニナさんはローブから左腕を出し、ブレスレットを確認した。

 ニナさんの言う通り。

 この魔法を使える可能性があるのは、ドワーフだけだ。

 その中でも、魔岩の生成と鍛冶魔法の経験を積んだ俺にしか出来ないだろう。


 この魔法を思い付いた一つのきっかけは、こないだの亀。

 皮肉っぽいが、最後の一撃がヒントになった。

 極限まで凝縮した魔力のレーザー。


 この凝縮のヒントが、ずっと頭の片隅にあったもう一つのヒントと絡み合った。

 そのもう一つのヒントとは、魔岩生成と鍛冶魔法の、魔法らしい異常さ。

 この二つは、前世では大原則とされていた物理法則に従っていない。


 それは、質量保存の法則。

 物体がいくら液体になろうが砕け散ろうが燃え尽きようが、その変化の前後で全体の質量は変わらない。

 それが前世における絶対の法則だった。

 破れてしまうケース……つまり反例があるということは、この世界で質量保存の法則は成り立たない、と言うべきだろう。


 魔岩生成は言うまでもない。

 初めて魔岩の生成を見た時は、本当にビックリしたものだ。

 無から有が生まれたのだから。


 鍛冶魔法はさらに直接的だ。

 材質を変えることで、物体の重さを変えることが出来てしまう。

 機人開発では軽くすることが多いが、今回の魔法では重くした。


 とにかく魔力を圧縮し、重く重く、魔岩の質量を上げた。

 そしてようやく、周囲を引っ張る程の大質量にまで変質させることに成功したのだ。


 最初に言ったように、この引っ張る力は質量を持つ全ての物に作用する。

 さらにその引っ張る力は、近ければ近いほど強くなる。

 つまり、敵の近くに大質量の魔岩を生成すれば、質量を持つ敵を全て拘束できる。

 ……より多くの魔力を使えば、圧殺することも出来るだろう。


「もう完成なんですか?」

「うーん……もうちょっと発動までを早くしたいね。あと、フルパワーまでまだ結構余裕があるから、どこまで強力に出来るか知っておきたい」

「…………先日のせいですか?」


 ニナさんはローブしか持ってきていない。

 いつも背負っていた杖はないのだ。


「うん。やられてばっかりで格好悪いからね」


 俺を蘇生する際に、砕け散ったと聞いた。


「……ニナさん、大事な杖をごめん」

「それはもう大丈夫だと……。」


 杖のことは随分前にクレアから聞き、すぐにニナさんと話をした。

 ニナさんは気にしてないようだが、こちらが気にしてしまう。


「ありがとう。代わりに何か作ろうかと思ったんだけど……それよりまず、俺が守れるようになりたいと思ったんだ。……あ、もし希望があるのであれば精一杯作らせて欲しい」

「……希望する時は、師匠に渡していた刀のようなものを。前の杖のような大きさがいいのですが……。」

「それだと……太刀になるのかな……」

「太刀……。でも、やっぱり今は要りません。」


 ニナさんは微笑んでいた。

『今は』要らない。

 ニナさんの髪色は黒に戻っているが、前に比べると深みがない気がする。

 まだ無理はさせたくない。


 だから俺が守る。

 いや、そうじゃなくても、俺に守らせてほしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ