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第7話:基盤学校

 最後のビッグラビットを掌打でふっ飛ばして一息ついたとき、


「……なんと……」


 ジーナスさんの声が聞こえた。

 振り返ると、両手を俺に向けて驚いた顔をしている。

 手には魔力が込められているようだ。

 どことなく暖かい感じがする……治癒魔法?

 気づけば、護衛のうち三人は俺のすぐ近くにいた。

 モンスターからの反撃があったときは、即座に切り捨てるつもりだったのだろう。

 本当に至れり尽くせりの初戦闘だ。


「まさか本当に一人で全て倒してしまうとは……しかもほとんど一瞬で……」

「はい、なんとか上手くいきました……。みなさんもフォローありがとうございます」

「いえ、いらぬ心配でした」


 護衛全員もビックリ! という顔のままウンウン頷いている。

 俺の足に生成された岩を指差しながらジーナスさんが続ける。


「最初の岩の柱は基礎的な土魔法の一つだと認識していますが、その後の岩の弾と、ソレは聞いたことがありません……。説明してもらっても?」


 俺は順を追って説明した。

 このくらいの魔岩なら気軽に生成できること、生成した魔岩を瞬時に岩に変質できること、そして岩を操作できること、などなど。

 ついでに、移動にも応用できるので歩くペースを上げてほしいことも伝えた。

 正直、これらの技術に驚かれるのは想定の範囲内だった。

 だから伝えるタイミングを(うかが)っていたのだ。

 父と母の前で初めて魔岩を生成したときの、あの空気は今でも覚えている。


「……うーむ……手紙には書かれてなかったぞ……」


 ジーナスさんはぼそっと言ったが、それもそのはず。

 岩操作とハンマーなしの鍛冶魔法、そしてロックダッシュ拳法は父と母にも見せていない。

 どれも実戦を想定した技術だが、実際に試せていなかったからだ。

 アイデアの有効性を検証し、事実に基づいて話す、というのはロボット研究の基本なのだ。


「……確かに昔、ドコウさんのお母さんから、土魔法の高等技術に魔岩の生成があると聞きました。実際に魔岩を見せてもらったこともあります。しかし、時間がかかるので戦闘はおろか、生産技術としても実用的ではないと言っていました。それをまさかこんな……」


 そのまま、ジーナスさんはしばらく黙り込んでしまった。


「……少し考えさせてください。今日の野営予定地はもう少し先です。ペースを上げるのであれば、もっと進むことも可能ですが、今日はゆっくり休むことにしましょう」


 その日ジーナスさんは、日常的な会話はしてくれるものの、モンスター襲撃で中断された学校の話は再開してくれなかった。

 まあ、明日もあるのだし焦ることはないだろう。


 ◇


「……ドコウさん、お待たせしました。ドコウさんがこれから通う学校についてお話しましょう」


 次の日の朝早く、ドルフィーネに向けて再出発してすぐにジーナスさんが話しかけてきた。


「この学校の名は『基盤学校』と言います。昨日ドコウさんが言ったように、ドルフィーネの発展には、ドルフィーネが置かれた状況を知り、皆で協力する大切を知る人がたくさん必要です。そして協力には、協力相手の役割、つまり他人の仕事の重要さと大変さを尊重することが不可欠だと、我々は考えています」

「相手の仕事の理解ですか……。確かに」

「そこで基盤学校では、科学、経済、農業、軍事などの基礎を一通り教えています。卒業した後はそれぞれの職に付くのですが、基礎を分かっている分、他者の気持ちを理解しやすくなる、というのが狙いです。つまり……ドルフィーネの基盤を支える人材のための学校です」

「それで、基盤学校、ということですね」

「その通りです。……どうでしょう? これから通う学校ですので、賛同とまではいかなくても、好意的に受け取ってもらえるといいのですが」


 つまり、都市に暮らす人々全体の基礎学力を上げよう、ということだろう。

 これは前世の感覚からも共感できる。


「なるほど……ありがとうございます。通いたい気持ちが強まりました」

「それは良かった」


 それに、この世界について基本的なことは知っておきたいので、網羅的に学べるカリキュラムは好都合だ。

 ……しかし、この話をするために一晩も考えていたのだろうか……?


「そこでドコウさんにお願いがあります。……学校では、手を抜いてほしいのです」

「……?」

「学校には様々な生徒がいますので、当然、出来不出来や得意不得意の差はあります。しかし、ここまでの会話や昨日の戦闘を見る限り、ドコウさんは飛び抜けています。特に戦闘能力は、経験を積めばすぐにでも護衛の者を超えるでしょう」

「いやいやそんな……」

「いえ、友の子だからと贔屓目(ひいきめ)に見ているわけではありません。その強烈さは、生徒たちがドコウさんを王にすると考えてもおかしくないほどだ、と結論しました」


 ジーナスさんは真顔だった。

 ……うーん、正直大げさだと思ってしまうが、この世界の常識を知らない俺には、反論するような根拠はない。

 これがジーナスさんが考え込んでしまった理由で間違いないだろう。

 昨日の話では、王の誕生はドルフィーネの存続を揺るがす。

 ジーナスさんの中で、父や母との約束を守ることと、ドルフィーネを守ることが天秤に載ってしまったのだ。


 すぐに答えがでなかったということは、自らも管理する都市と、俺の父母を同じくらい大事に思ってくれていることの証でもある。……ますます信頼できる人だ。

 そう考えると、ジーナスさんの提案は妥当で、ベストな案に思えた。

 もともとじっくり学びたかったし、焦る理由もない。


「分かりました。学校ではなるべく目立たないように過ごします。ご心配をおかけしてすみません」

「助かります。……しかし本当に、三歳のお子さんと話しているとは思えませんね」


 そう言うとジーナスさんは安心した様子で、はっはっは、と笑った。

 しまった……! 真剣な話だったので、つい前世の感覚で会話してた……!

 ……ま! どうせジーナスさん相手に演技を続けることは無理そうだ!

 秘策も見せたことだし、徐々にさらけ出してしまおう!

 俺はすぐに開き直り、ジーナスさんと一緒に、へへへっ、と笑った。


 ◇


 ジーナスさんの家は確かに大きかった。

 宮殿というほどではないが、五人は住んでも余裕だろう。

 門と塀に囲まれた敷地内には、護衛の皆さんの住居も別に建っていた。

 護衛という任を考えると合理的だ。


「アリアナさん、帰ったよ」


 ジーナスさんが玄関でそう言うと、ニ階の奥の方から、あらあらあら……という声とともにジーナスさんと同年代の女性がやってきた。奥さんだろう。


「ジーナスさん、おかえりなさい。早かったんですね? ごめんなさいね、気づかなくって。 予定ではあと数日はかかると聞いてましたから」

「ええ、ドコウくんの足が思いの外早くてね。順調に到着したよ」

「そうだったの。あなたがドコウくんね。私はアリアナよ。会えて嬉しいわ」


 穏やかで上品な人だ。どことなく、母に似ている。

 父とジーナスさんは全然タイプの違う人間だと思ってたが、やはりどこかに共通点があるのかもしれない。


 その後はジーナスさんの家を一通り案内してもらった。

 使わせてもらう部屋はとても立派だったし、書斎にたくさんある本も魅力的だった。

 聞けば、半分くらいは武具に関する本らしい。

 自由に読んでいいと言ってもらえたが、俺はまだこの世界の文字を読めない。

 学校の手続きは終わっているらしく、来週から早速通えるようだ。

 道中で聞いた在学期間は六年間。ちょうど日本の小学校と同じだ。


 ここからいよいよ、本格的にこの世界について知ることが出来る……!

 基盤技術創出の夢に向けて、順調に進んでいる実感がした。


 ……ジーナスさんとの約束もあるし、地味ぃ〜に学校生活を楽しむとしよう!

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