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第68話:守る者

「ニャニャニャニャニャニャニャニャニャッ!」

「ミミカー、邪魔するよ。何か手伝えることないかな?」

「ニャニャニャニャニャニャニャニャニャッ!」

「……あ、我が主」

「あれっ、クレア!」


 魔機研にあるミミカの作業部屋。

 ここでは魔岩糸を利用した温まる布、魔岩布(まがんふ)の製作が急ピッチで進められていると聞いた。

 式典参加者……特に女性の方々に使ってもらうつもりらしい。


「そうか、魔岩糸の扱いに慣れてるクレアがミミカの手伝いを?」

「さすが我が主……補足の必要ない……」

「ニャニャニャニャニャニャニャニャニャッ!」

「……凄い勢いだね……ミミカ……」

「うん……。あれが仕事モードみたい」


 俺とクレアが会話してる間、ミミカは一度もこちらを見ない。

 ……もしかすると、俺が来たことに気付いてすらいないかも知れない。


 ミミカが使っているのは、いわゆる伝統的な機織り機だ。

 ……今は見たこともないスピードでガッシャンガッシャン動いているので、別物のように見えるが。


 ミミカの技術は、魔機研に欠かせないものとなっている。

 しかし本来ミミカは研究者ではない。

 単なる布ではなく、衣服……特に、着物を作りたいはずだ。

 彼女が本当にやりたいことに時間を割けるよう、自動化できないものか……。


「……我が主、なぜここへ……?」

「あ、そうだった。何か困ってることはないかな? 手伝いたくてさ」

「困ってること……うーん……ごめん。ミミカに聞いてみないと、ボクには分からない……」

「そうか……」


 その時、作業部屋の奥に、布で仕切られたスペースがあることに気が付いた。

 完成した魔岩布が置かれているのだろう。


「あ、それじゃ機人を使って完成した布を運んでおくよ。……この中かな?」

「……あ……そっちは……」

「ニ゛ャーーーッッ!?」


 俺が布の一角に近づくと、それまで作業に没頭していたミミカが恐ろしい形相で迫ってきた。

 ニナさんを彷彿とさせる、素早い身のこなしだった。


「だんニャァ……? ここで何してるんだニャ……?」

「え……て、手伝えることないかなって……」


 ミミカが発するプレッシャーに圧され、後退りする。


「それはありがたいことニャけど、ここは旦那立入禁止ニャッ!!」

「え……? じゃ、じゃあ何か別に……」

「大丈夫ニャ! 旦那の気持ちだけありがたく受け取っておくニャッ! 旦那がいたら気になって作業にならないニャッ!」


 ミミカの尻尾と耳の毛が逆立っている。

 理由は分からないが、ここは従っておいた方が良さそうだ。


「わ、分かった。……何かあったら、いつでも呼んで」

「ありがとうニャ! 今回はごめんニャ!」

「……我が主、また……」


 俺はミミカとクレアに手を振り、すごすごとその場を後にした。

 き、気を取り直して次に行こう。

 案外、丁度いい時間かもしれない。


 ◇


 次の目的地は、ミミカの作業場から近い。

 留守じゃないといいのだが……。

 ここは、式典の準備が行われている場所ではない。


「……バルド、居るかな……?」

「おお! 旦那ァ! 待ってたぜ!」


 俺の姿を見たバルドは、いそいそと工房の奥に引っ込んでいった。

 ……かと思ったら、すぐに戻ってきた。

 両手で目的の物を抱えている。

 準備していてくれたらしい。


「これだろ……?」

「流石……! 仕上がりはどう?」

「剣の方は前にも言った通りだが、鞘の方は文句なしだ! マギアキジアでの初めての作品だからな! 気合が入ったぜ!」


 バルドがバサッと布を取ると、美しい両手剣が姿を現した。

 刀身の美しさは既に見せてもらっていたが、鞘はまたそれとも違う素晴らしさだ。

 細部までこだわり抜かれ、洗練されたデザインが、この剣の特別さを引き立てている。

 間違いなく、ヴァルさんに渡すのに相応しい。


「……言葉も出ないよ、バルド……。……あれ? こっちは?」


 バルドは奥から戻って来る際に、何かを背負ってきた。

 その背にあった物が、机の上に置かれている。

 こちらにも、布がかけられていた。


「……それがよ旦那……入れすぎた気合が……余っちまってよ……」

「ま、まさか……」

「丁度、材料も……余っちまってよ……」

「お、おいおいバルド……」


 バルドが布をめくると、そこには美しい盾が置かれていた。

 剣と対になるデザイン、ひと目で分かる逸品だ。


「……やってくれたな……バルド……!」

「……前回の戦いの後な、旦那がまだ寝てる頃だ。モンスターの攻撃を盾で防ぎきれず、気絶しちまったことをずっと悔やんでたんだよ、ヴァル殿は」

「でも、それでレティは守られたって……」

「ヴァル殿はな、自分が倒れたからニナ殿が無理し始めた、と言ってたぜ」

「……」


 それは……否定できないかもしれない。

 ニナさんは、状況を見て最善を尽くしたんだろう。

 でも、それは皆も同じだ。


「……ありがとうバルド。……たぶん下手な慰めの言葉なんかより、これはヴァルさんを支えてくれるはずだ」

「へへッ……それで、やっぱり……」

「ああ、今晩渡そう。……丁度そろそろ、会議を兼ねた晩ご飯だしね!」

「おうよ!」


 ◇


 バルドと共に家に向かっていると、ニナさんの後ろ姿が見えた。

 声をかけるより早く、こちらを振り向く。


「ニナさん! 今からご飯だね」

「ええ。ドコウさん、バルド。そちらの荷物は?」

「へっへっへ。一度見てもらったもんだ。旦那からは、そもそもニナ殿の発案だって聞いたぜ?」

「……もしやヴァルさんの……?」

「そう! これから渡そうかと思って」

「賛成です。」


 丁度良かった。

 出来れば予め、相談に乗ってくれたニナさんにも声をかけたかったのだ。


「ニナさんは今日は何を?」

「先程までは、しばらく放置してしまっていた果樹園の手入れを。その前はミミカに呼ばれ……いえ。」

「ミミカに? 俺が会いに行った時は、作業に集中して何も見えなくなるくらい、忙しそうだったけど……」

「……。」

「 ……いいね、それじゃ訊かないでおこうかな!」

「はい。」


 家の玄関に近づくと、中から賑やかな声が聞こえてきた。

 外まで聞こえるくらいの盛り上がりようだ。

 どうやら皆揃ってる。

 なんだか、いつも俺が最後だな。


「おお! ドコウ殿! 助かったぞ!!」


 食堂に入った途端、ヴァルさんがこちらに向かいながら大声で言った。

 満面の笑みで俺の両手を握ってくる。


「どうやら少しは、役に立てたのかな?」

「少しだなんてとんでもない! あちこちで滞っていた作業が一気に進み、予定を上回った!」

「おお! それは良かった! ……でも俺がやったのはちょっとした問題解決だよ。皆の頑張りだ」

「もちろん皆にも礼を伝えていたところだ! ……これで明日は客人の相手に専念できそうだ! 続々と到着するはずだからな!」


 休める訳ではないんだな。

 しかし、かなりやる気になっている様子。

 こういうときはやはり、応援が一番だ。


「よし、明日から各国の要人に会うヴァルさんに、俺達からプレゼントだ」

「……む?」


 バルドが布にくるまれた剣を横向きに、両手で支える。

 食卓に置くのは、ちょっと気が引けたのだろう。

 同感だ。

 俺とニナさんで布を取る。


「こ、こ、これ、これは……!?」

「ずっとヴァルさんにはお礼がしたくてね。ニナさんと相談してこれに決めた。俺とバルドで共同開発した新素材を使い、バルドが仕立てた、ヴァルさんの剣だ」

「お、お、おおお……」

「是非手にとって見てほしい」


 ヴァルさんはバルドから剣を受け取ると、一瞬驚いたような表情を見せた。

 見た目よりも軽く感じただろうか、それとも、魔法特性に気付いただろうか。


「な、なんて美しい……。抜いても良いだろうか?」

「もちろん」


 ヴァルさんが鞘をゆっくりずらすと、独特な白銀色の刀身が現れる。

 これにはヴァルさん以外の皆も息を漏らした。


「こんな刃は見たことがない……」

「オリジナルの素材だからね。魔岩の魔法特性を限界まで残しつつ、金属としての特性を両立した素材だ。……まだ究極には至ってないようだけど、現存するどの武器よりも優れてると思うよ」

「なんてことだ……。ありがとう! ドコウ殿! ありがとう! ニナ殿! ありが——」

「おっと! ヴァル殿、ちょっと早いぜ?」


 バルドは背負っていた盾を両手に抱え、ポカンと口を開けたヴァルさんの前に差し出した。


「手が塞がっちまってなあ。悪いが、布を取ってくれねえか?」

「あ、ああ……」


 ヴァルさんは剣を腰に付け、震える手で布を取った。


「な、なんと……なんと……」

「まあ! 素敵な盾ですねヴァル兄様っ!」

「これはバルドからだ。ニナさんからは盾の案も貰ってたけど、俺は剣しか頼まなかった。……でも、今のヴァルさんに必要なのはこっちだったね」

「いつも俺達の居場所を作り、護ってくれてありがとうよ。これはその気持ちだぜ! 剣と同じ素材を使った、魔力を通せる盾だ!」


 ヴァルさんは両手でしっかりと盾を受け取り、左手に構えた。


「マギアキジアを代表する騎士として、これからもよろしくね、ヴァルさん」

「ああ……。ああ……っ!! 任せてくれ! この剣と盾に恥じぬ騎士であり続けると、皆に誓おう……!」


 その姿は、常に全力で仲間を護り通す、守護神そのものだった。

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