第62話:役割分担
俺達が待つ食堂に、ヴァルさんが戻ってきた。
真剣な表情だ。
「大型のモンスターが南の平原に現れ、ここマギアキジアに向かって直進しているそうだ」
「……大型のモンスター……もう少し分かる? 外見的な特徴とか、ここに向かう速度とか」
「斥候によると、亀のような見た目で、ヒルタートルを思わせるが……全身が白っぽく、キラキラとしているそうだ」
……白っぽくキラキラ……それはまるで……
「魔岩、みたいですね……」
「……ああ、そうだね、レティ」
俺はニナさんを見る。
そんなに大きなモンスターなら、ニナさんが気づいていてもおかしくない。
しかし、ニナさんは首を横に振った。
「全く気配を感じません。もしかすると、リリーナさんも感知していないかもしれません。」
「母さんも……。あ、でも今は父さんが平原にいるんじゃなかった?」
「夕方頃、豪快な気配がドワーフ村に向かいました。……その直前、急に静かになったので、何かあったのかと。」
「……母さんの読み通り、ってことか」
「はい。」
若い頃と同じ感覚で無茶をして倒れる……おっさんあるあるだ。
前世では、それで幾度となく魔女の一撃を受けた。
恐らく、父は頼れない。
ヴァルさんが話を続ける。
「……亀のような見た目の通り、今のところの進行速度は遅いそうだ。……つまり、対策する時間がある」
「うーん……。亀……か……。ニナさん、どう思う?」
「油断は禁物だと思います。初めてのリザードマンの時のように、こちらの予想を超えてくるかと。」
「……やっぱり特殊な新種ってこと?」
「はい。」
そうだよねぇ。
魔岩のように輝くモンスターなんて聞いたことないし。
「しかし今回も、よく見つけたね」
「ジーナス殿に聞いた話だが、南の平原には、ほぼ常時巡回している者がいるそうだ。それとドコウ殿の母上の二重体制らしい」
「なるほどね。今回はその人が見つけてくれた訳だ。……それで……どうする? すぐに向かう?」
「……いや、焦った末、万全でない状態で接敵するのは避けたい。今日のところは英気を養い、明日の朝に発とう」
「分かった」
その日の夕食は作戦会議を兼ねることとなった。
せっかくオズさんやギルさんも一緒だし、俺の転生に対する、皆からの細かい疑問に答えるチャンスだったのだが。
皆黙っているが、我慢している可能性は高いだろう。
しかし、不満を言っても仕方ない。
このところのモンスターによる襲撃は、ほとんど災害のようなものだ。
被害が最小限になるよう、出来る限りのことをする。
今度は、焦らないように。
◇
朝日が昇り、マギアキジアの正門が照らされる頃。
戦える者が全員、出発の準備を終えて揃っていた。
俺、ニナさん、ヴァルさん、レティ、スゥ、クレアの六人だ。
昨晩の会議の結果、ドルフィーネからの援軍は待たないことにした。
相手は山のような大きさの巨大モンスター。
大勢であるほど身動きを取りにくくなり、被害が出ると考えたからだ。
また、弟子三人組には予め説明し、各自の研究成果をなるべく持参してもらった。
相手の体表を覆うのが本当に魔岩だった場合、魔工学を利用することもあるかもしれない。
……正直言って、根拠はない。
しかし、何かに役立つ気がする。
「よし、皆準備はいいかな? 人数が多いから速度は出せないけど、乗り物で行こう」
「うむ。助かる」
俺は早速、少し大きめの岩車を生成した。
その時、正門の中、マギアキジアから、一人の兵が飛び出してきた。
全力で走るその顔は、汗だくだった。
「ほ、報告します! ……同様のッ……魔物が! ここより遠く北西……トニトルモンテ南の海岸に現れたとのことです!!」
「なんだと!?」
驚いたヴァルさんが詳細を聞き始めた。
……複数の箇所で同時に、か……。
少し驚いたが、あの兵を見た時、無意識に予想していたようだ。
確かに、何も不思議ではない。
モンスターの出現はランダム。
むしろ、今まで一箇所ずつだったのがおかしいくらいだ。
「……どう? ヴァルさん」
「……新しく現れたモンスターは、真っ直ぐにトニトルモンテを目指しているらしい。……事態は……深刻だ。連絡にかかった時間を考えると、明後日にはトニトルモンテは襲われる」
「明後日か……」
ここからトニトルモンテまで、急いでも二週間はかかる。
とても間に合うような距離ではない。
より早く着けるのは、空を飛んで手紙を運ぶ、鳥くらいだ。
……つまり、手段はある。
しかし、こっちのモンスターはどうする?
「……ドコウさん。」
「……うん。いける? ニナさん」
「ええ。皆も居ます。」
「よし、分かった。なるべくすぐに戻るよ」
俺とニナさんはそれぞれに準備を始める。
ニナさんは皆を岩車に乗せ、俺は岩バイクを生成した。
「ま、待てドコウ殿にニナ殿! 何をしているのだ!?」
「トニトルモンテのやつは、俺が行くよ。今から間に合うのは俺だけでしょ?」
「そ、それはそうだが……!」
皆がざわつき始めた。
しかし、その時間もない。
説明しないと。
「レティ」
「はい!」
「この乗り物は、レティが動かすんだ」
「…………はい……!」
よし。
俺は岩車の中央に穴を開け、新たに大きな魔岩を生成した。
それを見たスゥが、すぐに加工を始める。
「厚めが良いと思う。かなり込める必要がある」
「うむ。任せよ……!」
次に俺は、岩車の前側に機人の頭を作った。
早速、レティが魔力プログラミングを行うため、近くの椅子に腰掛ける。
「クレア」
「はい。我が主」
「行きの分は俺が込めるけど、帰りの分は皆で頼む。魔岩糸を使えば同時に込められるはずだ」
「分かった……!」
「……あと、今回の敵を倒すには魔岩の知識が役立つかもしれない。……頼んだよ」
「は、はい! 我が主!」
さて、そうこうしているうちに、スゥの加工が終わったようだ。
俺が大きな魔岩にそっと手を乗せ、魔力を込め始めると、みるみるうちに魔岩の色が変化し始めた。
白っぽい輝きから、黄色く曇った色に。
しかし、まだ足りない。
さらに込め続けると、色は濃くなっていく。
濁った濃い黄色になったところで、魔力の放出を止めた。
「……ニナさん。皆をよろしく。……でも無理はしないで」
「……はい。」
レティを見ると、ちょうど書き込みが終わったところのようだった。
やっぱり結構時間かかったな。
「ドコウさん、出来ました……! 何度も乗せてもらったお陰です!」
「それだけで出来るなんてね……。褒めまくるのは終わってからで良いかな?」
「そうですね!」
うん、大丈夫そうだ。
俺が岩バイクに跨ると、クレアが寄ってきた。
「我が主。その乗り物は寒いとニナ様に聞いたことがある……。だ、だからこれ……」
「おお! 温まる布で作ったローブか! 凄く助かる!」
「へへ……」
岩車に戻るクレアに並走するように、ゆっくりと岩バイクを動かす。
ヴァルさんの近くで止めた。
「戦闘はどうしてもニナさん中心になると思う。他の皆の指揮は、ヴァルさん、スゥの二人で互いに補いながら取って欲しい」
「うむ。任せろ。……攻撃はニナ殿に頼ることになるだろう。私は、この盾で皆を守ってみせる」
「頼んだよ」
「……そなたも……気をつけての」
「ああ、大丈夫だ。スゥ」
ヴァルさんの剣を仕上げられなかったのは、少し残念だ。
バルドと相談したが、慣れない武器で挑むべきではないと判断した。
道具の性能、特にその限界を感覚で覚えていなければ、道具を正しく信用することは出来ない。
俺は岩バイクを少し動かし、皆から距離を取った。
レティに目で合図を送る。
それを受けたレティは頷くと、
「では、行きます! 機人さん、進んで!」
レティの命を受けた車型機人は、徐々にスピードを上げ、南西へと消えていった。
本当にぶっつけ本番でちゃんと動かしている。
……俺も急ごう。
ここからは岩バイクで空を飛んでも、一日は確実にかかる。
出来れば二日は欲しい距離だが、今回は我慢だ。
俺は岩バイクと魔岩糸製のローブに魔力を込め、全速力で北西に向かった。




