第61話:全て話そう
「俺は前世の記憶を持つ、転生者なんだ」
集まってくれた皆に向かって、俺は結論を述べた。
少しの間、食堂が沈黙に包まれる。
「転生という言葉は私にも分かる。別の生を受けていた者が生まれ変わった存在。……しかし神話や御伽噺の話だ。ドコウ殿が今言ったのは、そういう意味……なのか?」
誰も口を開かなかったからだろう。
ヴァルさんが反応してくれた。
「そういう意味で間違いないよ」
「……信じられん……」
今のヴァルさんの反応を見て、一つ分かった。
俺が転生してきたこの世界は、少なくとも、転生者がたくさん居る世界ではなさそうだ。
となれば、もっと丁寧な説明が必要だろう。
俺はそれから、俺についての全てを話した。
こことは違う世界で、研究者をやっていたこと。
ロボットの知識は、その頃に得たものであること。
ドワーフ村に生まれ、拳術や鍛冶、土魔法を習得したこと。
その後、ドルフィーネの基盤学校で魔法学を学んだこと。
前に話したロボット実現を夢見て、世界を巡り始めたこと。
そして……皆に出会ったこと。
ここまで一気に話し、俺は立ち上がった。
皆に深く、頭を下げる。
「今まで黙っていたことを詫びたい。皆が尊敬してくれた俺の知識は、多くが前世で得たものだ。フェアじゃない。……特にレティ、スゥ、クレアは失望しただろう。……皆もう立派な研究者だ。これからは——」
「待ってください!!」
「違うのじゃ!」
「我が主!」
弟子三人が同時に声を上げた。
俺が顔を上げると、必死な三人の顔が目に入った。
三人は互いに視線を交わし、頷きあった。
クレアが一歩、前に出る。
その瞳には、これまで見たことがないほど、強い意思がこもっていた。
「我が主は、一つ間違えてる。……ボク達は、我が主の表面的な知識に惹かれたんじゃない。考えに惹かれた。……だから転生なんて関係ない。ボクは我が主に付いていく」
普段とは違う強い語気に圧倒されていると、続けてスゥが口を開いた。
「一つ、訊きたいのじゃが。前の世界とやらでは、どのくらい研究しておったのじゃ?」
「三十六歳までだから……十五年くらいかな」
「……それに加えて、こちらでも十数年続けているのじゃな。……妾が言いたいこともクレアと変わらぬ。妾は、炎魔法の一件で垣間見たそなたの洞察力、思考の深さに惹かれたのじゃ。それが数年で成されたと聞いたときは驚いてしまったが、三十年ほどの経験に基づいておるのなら納得じゃ」
「……かなりショックを与えちゃったようだけど……」
「も、もう問題ないので気にするでない!」
スゥはニナさんの後ろに隠れるのをやめ、並んで立っている。
表情もいつも通りのようだ。
「えと……もう二人に言われちゃいましたけど……。私、ドコウさんの弟子をやめるつもりないです!」
「レティ……。分かった。……えっと……、皆も気にせず言って欲しい。……不信感とか」
……
「元々規格外の旦那が、ちょっと世界を飛び出しただけニャ」
ミミカの身も蓋もない一言。
一拍の間が空き……その後、皆は笑い出した。
「ああ、ミミカの言う通りだぜ。むしろその理由が少し分かって安心したくらいだ!」
「バルド殿の言う通りだな! ……しかし先程の話では、実際の最年長はドコウ殿だったということか。……いや、ニナ殿か……?」
「ヴァル兄様!!」
「ニャーッ!!」
それはいかんよヴァルさん。
……しかしヴァルさんには悪いが、この話題は俺も気になる。
犠牲になってもらおう。
「女性に対してなんてことを! レグナムグラディの王子が聞いて呆れます!!」
「その通りニャ!」
「そ! そうだな! 私としたことが……。ニナ殿! 本当に申し訳ない!」
皆の視線が、これまで一言も喋っていなかったニナさんに集まる。
エルフはドワーフと同じ長命種。
外見から年齢を推し量ることはほぼ不可能だ。
特に、ニナさんは無口なので予想がつかない。
当のニナさんはいつも通りの無表情で、落ち着いた様子だ。
「いえ。……それに、ドコウさんの方が長い経験があるようです。」
そうなのか!
今の答えだと、どのくらいの差なのかは分からない。
なんとなく、近そうだな、と思ってるけど……。
いつかもう少し教えてもらえるだろうか。
……ただ、今はそれより。
「えっと……皆、受け入れてくれるのかな……?」
「……皆、驚いただけです。ドコウさん。」
「……うむ。ミミカが言うように、そなたが普通でないのは最初からじゃ」
「……そうか……ありがとう」
俺はもう一度、頭を下げた。
胸のつかえが取れ、ホッとする。
「ドコウ様が元いた世界では、様々な学問が発達していたんですね……。人体についても深く理解されているお話を聞いた時は、本当に驚きました」
「はは……ごめんね。オズさん」
「その知識も我が主が身に付けたことに変わりない。……オズ、後で話す必要がありそう」
「えっ! あ、しまったぁ……」
今日のクレアはいつもより一言一言が強い。
もしかすると、俺の信用が失われないように気を張っているのかもしれない。
……後でフォローしよう。
「今の転生のお話は、師匠に渡していた刀という武器、その使い手と言われるサイトウという人物と関係がありますか?」
ニナさんが放った問いに、食堂は再び静かになった。
俺は、核心を突いたその問いに、驚きを隠せない。
……あの時、ジンロウさんの質問に言い淀んだ俺を、ニナさんがフォローしてくれた。
ずっと気にしていたのかもしれない。
「刀だと……? 知ってるぜ。旦那。マイナーな御伽噺に出てくる空想上の武器だ」
「……ドコウさんはそれを作りました。」
「なんだって!?」
流石バルドだ。
刀も知ってたのか……。
それに、前にも何かの話題で御伽噺に触れていた気がする。
そっち方面も詳しいのかもしれない。
「……うん。そうなんだ。……実はあれから少し調べて、たぶんバルドが言っている御伽噺も読んだ。……俺は、サイトウも、転生者じゃないかと思ってる」
「おいおい旦那……。……しかし、納得しちまうな。刀なんて武器、空想だとしてもどんなやつが考えついたのか不思議だったんだ。……つまり、旦那が居た世界には、あるんだろ?」
「うん。……昔の話で、俺も実物はほとんど見たことないけどね」
今日の目的は俺のことを説明することだったが、話に流れが出来ている。
……言ってみるか。
「……それで……実はサイトウのことをもっと調べてみようかと思ってる。転生者のこと……やっぱり気になるからね。もし何か知ってたら、教えて欲しい」
この話は誰にもしていない。
マギアキジアのこと、ニナさんのこと……他にも考えたいことがたくさんあるので、増やすべきではないかもしれない。
しかし……どうしても気になる。
なぜかそれが、この世界にずっと覚えている違和感の正体に、繋がっている気がする。
「……知ってるニャ」
小さく、しかしハッキリした声。
ある程度の予想はしていた。
……期待、というべきかもしれない。
ミミカは続ける。
「サイトウの墓の場所を知ってるニャ。本当は秘密だけどニャ」
「墓を!?」
予想を遥かに超えた有力情報に、つい声が大きくなる。
「そうだニャ。……ウチの実家は代々、墓守りをしてきたのニャ」
「そ、それは驚くほどの有力情報だな……」
「……でも、ミミカちゃんは、話したくないんじゃないの?」
レティの言葉に、ハッとした。
確かに、ミミカの様子はいつもと全然違う。
とても話しづらそうだ。
「……ウチは昔、そんな家が退屈で、嫌で、飛び出して来たんだニャ。それ以来帰ってニャイけど……。でも、きっと手がかりになるニャ」
「……無理はしなくていいんだよ、ミミカ。探し始めれば、他にも手がかりは見つかると思うし」
「でも、墓は一つしかないニャ」
……確かに。
墓から得られる情報は多いだろうし、匹敵する他の手がかりは、多くないだろう。
「旦那には世話になってるニャ。ウチに任せて欲しいニャ」
「……何かしたっけ?」
「ニナ様や皆との夢の同居生活ニャ! 幸せな毎日のお返しがしたいと思ってたんだニャ!」
それは俺だけで出来たものじゃないんだけどな……。
とは思ったが、これ以上はクドいな。
「分かった。ありがとうミミカ。……じゃあ、いずれサイトウの墓に行くってことになるかな?」
「そうだニャ! グリムホルドの近くニャから、長旅になるニャ」
「なるほど。マギアキジアが落ち着いてからが良さそうだ。……だよね? ヴァルさん」
「うむ。式典も近づいているしな」
正門完成後、と予定されていたマギアキジア初の式典の用意は、正門の完成が早まったことを受け、急ピッチで進められている。
「では、お話も落ち着いたようですので、夕食にいたしましょうか」
「おお! セバスさん、お願いします!」
その時、玄関の戸を叩く大きな音が聞こえた。
普通の様子ではない。
慌てた音だった。
セバスさんが素早く玄関に向かい、対応してくれる。
しかし全員が、その様子を気にして、ただじっと待っていた。
戻ってきたセバスさんは部屋に入るなり、告げた。
「ヴァル様に御用の方です」
「む。私か」
「はい。緊急のご様子です」
いつも通り冷静なはずのセバスさんの声は、確かに、緊張していた。




