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第60話:転生者

「あら! ドコウとニナさん! 奇遇ね!」


 ニナさんに誘われるまま正門に向かうと、そこには非常によく知る人物が居た。

 母だ。


「いや、ニナさんに誘われて来たから、奇遇って訳じゃないかな……?」

「じゃあ、ニナさんが迎えに来てくれたってことね! ありがと!」

「いえ。」


 明らかにニナさんは、母が来ていることを分かっていたようだ。

 うーん、これも魔力の感知能力の応用なんだろうな……。

 俺のことも分かるって言ってたし。

 俺と母の共通点は、ドワーフとエルフの混血だということ。

 その辺りが関係しているのかもしれない。


 ま、今はそんなことより、母だ。


「えっと……急にどうしたの? 事前に連絡してくれれば迎えに行ったのに」

「そんなの悪いわよ。ドコウは今、とっても忙しいでしょ? ……用事はね、これをニナさんに届けること」


 母が懐から取り出した物は、イヤーカフだった。

 小さなアクセサリであるにも関わらず、凝ったデザインが施されている。

 俺が昔、誕生日プレゼントとしてもらったブレスレットに似た意匠だ。


「ありがとうございます。」

「……これで用事は完了なのかな?」

「そうね。あとはこの都市を見ていきたいと思ってるわ」


 なるほど。

 それでわざわざ自分で来たのか。


「……と言ってもまだ工事中みたいね……」

「うん……。完成したらまた見てもらうとして、今あるとこだけなら案内は出来るけど……、父さんは?」

「お父さんはお留守番。今頃は南の平原を一人、あっちこっちに走り回ってると思うわ」

「え!? また何か来たの!?」

「あ、そうじゃないの。お父さんは感知が出来ない代わりに、とにかく走ったり、岩を飛ばしたりして、あの広い平野を護るのよ。私と協力するまでは、そうやってお父さんだけで護ってたの」


 そうだったのか。

 あの広い平野を一人で……。

 やはり父は、凄い人物だ。

 感知もなしでよく護り切れるな……。


「ちょっとおかしいな? って思ったら、とりあえず大きな石柱を地面から出して、それを殴って飛ばすんですって!」

「え?」

「それでもしモンスターが居れば、相手の方から向かってくるし、誰も来ないならまた気になった時に岩を飛ばせばいいんだ、って前に言ってたわ。……なんだか笑っちゃうでしょ?」

「無茶苦茶な……」

「ドコウさんは他人のことを言えないと思います。」

「あら! ふふふっ」


 ニナさんの一言に、母は嬉しそうに笑った。

 どうもこの二人は波長が合うというか、やけに息ぴったりというか……。


 二人のペースになる前に、大事な話をしなければ。

 俺達はこれから昼ご飯なのだから。


「母さん。俺達はこれからお昼なんだけど、もしまだだったら一緒にどうかな?」

「まぁ! いいのかしら?」

「もちろん! たぶん量も大丈夫だと思う。それに今日はちょうど、昼の後の時間が空いたから、そのまま都市を案内するよ」

「もし良ければ私も。」

「嬉しいわぁ! じゃあそうさせてもらおうかしら!」


 ◇


 この日の昼ご飯は、ちょっとしたパーティになった。

 元々オズさん、ギルさんとも一緒に食べる約束をしていたのでいつもより大人数だったのだが、そこにスペシャルゲストの母が加わった。

 セバスさんにはまた後日お礼をしたい。


 食事の間、特に話に花を咲かせていたのは女性陣。

 母、レティ、スゥ、クレア、ミミカ、そしてニナさんだ。

 特に、レティとミミカのスイーツ話には母もかなり興味津々の様子だった。

 レティとミミカ曰く、最近マギアキジアに新しいスイーツ店がオープンしたんだそうだ。


 まだ店数も多くないのに嗜好品のお店が出来るなんて、ちょっと不思議だな……と俺が考えている間、ヴァルさんは一言も言葉を発さなかった。


 そんな会話をしながらの食事はあっという間に終わり、今は食後のお茶を楽しんでいる。

 皆、母と話したいらしく、全員が部屋に残ったままだった。


「それにしてもドコウ様の知識、着想の鋭さには驚くばかりです!」


 とオズさん。

 午前中に色々見たばかりなので、やや興奮しているようだ。


「魔法学だけでなく、機械や人体についてもお詳しい。ドワーフ族ゆえにお若く見えますが、さぞ長い研究経験を積んでおられるんでしょうな……。そのご提案に何度衝撃を受けたことか」

「全くじゃ! 妾もボレアリスで出会った時から、その思慮深さに感銘を受け続けておる」

「そうですね! ……あ、そういえばドコウさんは、いつから魔法学などの勉強を始めたんですか? 私とヴァル兄様は、ニナ姉様の次に仲間になったので早い方ですけど、クレアさんが持ってた装置はその前に作ったんですよね?」


 ここで俺が素早く回答しておけば良かったかもしれない。


「あら、ドコウが基盤学校を出たのはまだ数年前のことだし、そんなに長くはないんじゃないかしら?」

「……え? 基盤学校って……確か卒業するのは12歳くらいでしたよね……」

「普通はレティちゃんの言う通りだけど、ドコウは早く入学して、9歳で卒業したのよ!」


 母がどこか誇らしげに言い放ったと同時に、周囲が数段、静かになった。


「えっと……あれ……もしかしてドコウさんの年齢って……」

「レティちゃんは見たところもうすぐ成人よね? ならドコウの方が歳下ね!」


 母のトドメの一言により、食堂の空気は、完全に息をしなくなった。


 ……いや、ニナさんは普通にお茶を飲んでいるし、ミミカも普段通りだ。

 ヴァルさん、バルド、セバスさん、クレアもすぐに再起動を終えた。

 少しぎこちないが、元の動作を再開している。

 クレアに至っては、むしろ納得したように『やはり我が主……』などと信仰を深めている。

 オズさんとギルさんは苦笑いしたまま、お茶を飲めない程度には動揺しているようだ。


 深刻なのは、レティとスゥだった。


「え……ドコウさんが私より……歳下……? あれ……? 歳下ってどういう意味でしたっけ……? あれ……?」


 レティはずっと繰り返し、『歳下』という言葉の意味を思い出そうとしている。


「は、ははは……。え……? ははっ……。え……? 夢かの……?」


 スゥはもはや意識があるのか怪しい。

 ……かと思うと、ヌゥっとゆっくり立ち上がった。


「すまぬ。リリーナ殿。妾はそろそろ研究を再開せねばならぬので、失礼する。話せてとても楽しかった。…………あ、レティ、クレア。すまぬが、今日の研究は休ませてもらうぞ。予定してた作業はまた後日頼みたい」


 支離滅裂なことを言い、ゆらりゆらりと自室の方へ歩いて行ってしまった。

 それに続いて、レティも似たようなことを言いながら自室に消えた。


「もしかして私、まずいこと言っちゃったかしら……」

「うーん、これは俺の責任だね。……むしろ良いきっかけになったよ。ありがとう」

「そ、そう……?」


 そう。

 これは今まで黙っていた俺の責任だ。

 ずっと探っていた機会。


「それにしても、皆はあまり驚かないんだね」

「我々は少なくともドコウ殿より歳上だと自認していたからな。驚いてはいるが」


 ヴァルさんの言葉に、バルドとセバスさんが頷いた。

 ミミカはたぶん、そもそもあまり興味がないのだろう。

 ……ニナさんは何となく気づいていたのかもしれない。


「ヴァルさん、今日の夕飯の前に、改めて皆に話をしたいと思う。俺が動くと刺激になっちゃいそうだから、悪いけど伝達、お願いできないかな?」

「任せておけ。レティはもちろん、スゥ殿とも付き合いは長いしな」

「助かるよ」


 とりあえずこの問題は夜に解決しよう。

 俺とニナさんは約束通りマギアキジアを案内するため、母を連れて外に出た。


 ◇


 母との街巡りは、普通に楽しめた。

 ニナさんのお陰かもしれない。

 俺は母に、もう少しゆっくりしていくことを勧めたが、父のためにもすぐに帰るとのことだった。

 若い頃のやり方を長時間続けるのは大変だろう、という読みだった。

 これに俺も納得し、正門で素直に見送った。


 そして今は、食堂に居る。

 オズさんとギルさんを含めた全員が集合済みだ。

 レティはヴァルさんの後ろに、スゥはニナさんの後ろにやや隠れるような形で立っている。

 どういう顔をすれば良いのか分からない、といった感じだ。

 それ以外の面々は、いつも食事をする時の椅子に座っている。


 ……さて、話を始めよう。

 俺はゆっくり息を吸い、言葉を発した。


「俺は前世の記憶を持つ、転生者なんだ」

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