第55話:探し物
ゴーレム改め、機人の初披露となった日の翌朝。
俺は、マギアキジア正門前でアーム型機人を作り直していた。
……そりゃそうだ……。
まだ正門は完成してないのだから、石材を運ぶ作業も残っている。
昨日そのままにしておけば、もっとゆっくり朝食を食べれたのに……。
「ごめんなさいドコウさん! 私が作製も出来たら良いんですけど……」
「いやいや、レティはこれから大忙しなんだから。適材適所ってやつだよ。……本当に、一人で大丈夫そう?」
「はい! 基本的に昨日の作業の繰り返しらしいので!」
昨日の作業時間短縮の成果を受け、工事スケジュールが大幅に変更された。
他の現場を担当していた作業員の一部を正門に回し、一気に正門を完成させることになったのだ。
機人の操作は、レティが全て引き受けてくれた。
ちょっと心配ではあるが、これも経験だ。
過保護すぎるのも良くないだろう。
この間に、俺は岩バイクでドルフィーネに行かせてもらうことにした。
岩バイクなら、ギリギリで日帰り出来る。
……昼ご飯は食べ損ねることになるが……。
このことは、朝食の際に皆に伝えてある。
今日は一人旅だ。
「それじゃ、くれぐれも事故のないように!」
「はいっ! いってらっしゃい!」
レティに見送られて、俺は岩バイクを走らせた。
◇
ジーナス邸の門が見える。
マギアキジアとドルフィーネの間は平原なので、岩バイクの速度を上げやすい。
かなり早く着くことが出来た。
……今日は門が閉まっているようだ……。
事前に連絡していないので、当たり前か。
よく見ると、外に護衛が二人立っている。
手を振ってみた。
近づいて見ると、どちらもよく知る顔だった。
事情を説明し、通してもらう。
護衛の一人は先に走って、ジーナスさんに知らせてくれるそうだ。
……そこまでしなくても良い気がするが……。
ま、驚かせたい訳じゃないし、任せるとしよう。
「おお! ドコウくん! どうしました?」
「あれ、ジーナスさん。わざわざ……」
玄関に近づくと、中からジーナスさんが出てきてくれた。
すぐ後ろにはアリアナさんが居るようだ。
「アリアナさんも、こんにちは」
「こんにちはドコウくん。随分急じゃない」
「そうですね。すみません、事前の連絡もせず……。ジーナスさん、ちょっと調べたいことがあるんですけど、書斎の本を見てもいいですか?」
「書斎の……? もちろん、構いませんよ」
「助かります」
ジーナスさんに導かれて中に入る。
書斎に行くのは久々だ。
目当てのものがすぐに見つかればいいが……。
「飲み物はどうかしら?」
「ありがとうございます。アリアナさん。……うーん、でも、とりあえず遠慮しようかな」
「欲しくなったらいつでも言ってね」
本当に自分の家のような温かさだ。
ジーナスさんとアリアナさんは、並んで奥の部屋に入っていった。
ティータイムだったのかもしれない。
お茶が冷めてないといいけど……。
俺は書斎がある二階に向かうため、階段を昇り始めた。
心臓が脈打つ速度が、いつもよりちょっと早い。
今日ここに来たのは、ある物について書かれた本を探すため。
そのある物とは……日本刀だ。
ジンロウさんに日本刀を渡した際に聞いた話……。
この世界にかつて居たという、日本刀を操る初代剣聖、サイトウ。
どうしても、前世と関係があるとしか思えない。
あの時はデマカセで、ジーナスさんの家で情報を仕入れたと言ったが、ここなら本当に何かが見つかるかもしれない。
以前ここに住んでいた時に一通りは目を通したつもりだが……もう一度探してみる価値はあるだろう。
書斎に着いた俺は、膨大な書物を一冊一冊、確認し始めた。
◇
「……ドコウくん、入りますよ」
「あ、ジーナスさん」
書斎に、灯りを手にしたジーナスさんが入ってきた。
……あれ? 気がつけばだいぶ暗くなっている。
「探し物は見つかりましたか?」
「うーん……ダメそうですね……」
ちょっとした記述でも……と思い、中身にも目を通しているが、未だにこれというものは見つからない。
ジンロウさんの口振りからすると、知っているだけで相当に珍しいようだったし……やはり簡単には見つからないか……。
「武具に関する本を調べているようですね……。もし良ければ、どんなものを探しているか教えてもらえませんか? これでも専門ですので」
「……」
さて、どうする。
この質問はもちろん、想定していた。
しかし、回答を用意できないままでいた。
出来れば、訊かれる前に見つけたかった。
日本刀に関する話題は、前世と繋がりが深い。
もしかするとそのまま、俺が転生者だと伝えざるを得ない流れに、なるかもしれない。
……もしそうなった時、俺はどうするべきだろうか。
いつかは、伝えたいと思っている。
しかしそれは、今なのか?
この世界における転生がどういうものなのか、まだ全く分かっていない。
皆がどう受け止めるかが、想像できないのだ。
特に、この世界での父と母は、どう思うのだろうか。
第二の親とも言えるジーナスさんとアリアナさんは、どう感じるのだろうか。
……しかし俺は結局、ここに来た。
訊かれることが分かっていても、調べない訳にはいかなかった。
だったら、今更悩んだところで遅い。
半端に避けて、何になるというのか。
「……うん。じゃあ、お言葉に甘えて……」
「ええ。どうぞ?」
「ジーナスさんは、刀、という武器を知ってるかな……?」
「カタナ……ですか……」
ジーナスさんは顎を手で擦り始めた。
考え事をしているようだ。
……
…………
……長い。
いや、実際にはほとんど一瞬のはずだ。
しかし、とてつもなく長い時間を待っているように感じる。
ジーナスさんは、次にどんな言葉を発するのか……それが気になって仕方がない。
「……思い出しました。少し待ってください」
「……はい」
ジーナスさんは書斎の隅にある棚の扉を開け、中を探し始めた。
何かが見つかることに期待すれば良いのか、この後のジーナスさんとの会話に緊張すれば良いのか、分からなくなってきた。
「……お、ありましたありました。……ドコウくん、これを読んでみてください」
「……かなり薄い本ですね……」
「はい。……それは、古い御伽噺が何話か記された本です。……私の子供の頃の本でしてね……。内容が少なく、あまり人気ではなかったのですが、不思議と私のお気に入りでした」
「……御伽噺……」
俺は慎重にページをめくった。
古い本で、作りもあまりしっかりしていない。
しかし、字はちゃんと読めそうだ。
挿絵は……少しある。
俺は挿絵を頼りにしながら、斜め読みで目当ての話を探す。
カタナ……サイトウ……剣聖……。
……あった……。
そこに書かれていた話は、実にさっぱりした内容だった。
部族間の縄張り争い。
巻き込まれる姫。
窮地に突如現れた、見知らぬ剣士……。
とても在り来りな、昔話だ。
しかしその剣士の見事な剣さばきについては、ちゃんと書かれている。
他の文章に比べて、やけにリアルな描写に、違和感を覚えた。
曰く、その剣士が持つ剣は、誰も見たことがないほど細く、薄く、美しかった。
曰く、その剣士が振るう剣は、誰も見切れぬほどに速く、鋭かった。
曰く、その剣士は自らの剣をカタナと呼び、片時も肌身から離さず、何人にも触れさせなかった。
……おおよそ、知っていることばかりだ。
しかしそれは、俺が知る刀とこの本に書かれたカタナが、同一のものであることを示唆する。
そして、刀に対する思い入れ……この剣士は、刀をたまたま手に入れたのではない。
その様子から連想されるのは、侍。
「……目当ての情報は、見つかりましたか?」
「……ええ……」
「……その話には、確か挿絵があったはずです。めくってみてください」
ジーナスさんに促されてページをめくると、確かに挿絵があった。
鮮明な絵ではない。
……が、鞘に収めた刀を左腰に差した男が描かれていることは、十分に分かった。
その横には、助けられた姫だろう……髪の長い女性も描かれている。
……ん?
「……あれ、これは……耳……?」
「そうですね。どうやら、この話のお姫様とは、獣人族の姫のようです」
ジンロウさんも獣人族……。
薄っすらとした線だが、何か繋がったような気がした。
「……目的は達成できたようですね」
「はい。ありがとうございます。ジーナスさん」
「その本は差し上げます。他のお話も面白いですよ」
「え!? 貴重なものなんじゃ?」
「そうですね……。ですが、気に入ったようですので。……では、調べ物も落ち着いたようですし、晩ご飯はどうですか?」
「……ありがとうございます。……あ、日帰りのつもりだったんでした」
ジーナスさんと少し話し合った結果、皆に余計な心配をかけないように、急いで帰ることにした。
アリアナさんは昼ご飯も食べていない俺にクッキーを渡してくれた。
今まで言う機会がなかったが、俺はクッキーが大好きである。
結局、ジーナスさんからは何も訊かれなかった。
たぶん、色々と勘付かれたと思うし、色々と疑問に思われたはずだ。
しかしそれでも何も訊かず、助け舟を出し、送り出してくれた。
改めて、器の大きさを感じる。
俺は懐にしまった本を確かめ、岩バイクを走らせた。




