表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/77

第54話:デビュー

 ゴゴリッ……

「わーっ! 出来ました! 動きましたよ! ドコウさん!」


 ここは魔機研の裏手。

 俺の前には、指令を遂行したゴーレムと、喜ぶレティ。

 レティはゴーレムを見ながら、踊るように、全身で喜びを表現している。

 もちろん、それは良いことだ。

 しかし——


「……マジか……」


 レティにゴーレムの動かし方を教え始めて、まだ一時間も経っていない。

 このほとんどは、母と確立したゴーレム頭部への指令の出し方……つまり魔力プログラミングについての説明に費やした。

 一通り理解したと言うレティが、初めての魔力プログラミングに挑戦したところだ。

 ……もう一度言うが、初めて、挑戦したところだ。


「お、おお……上手くいったようだね……」

「はい! ドコウさんの言う通り、魔力を溜める時と似てました!」


 いや……そうなんだけどね……。

 魔力プログラミングは、結局のところ指令のイメージを魔力で組み込む作業だ。

 魔法をイメージした魔力を魔岩に込める作業と似ているはずだ、とは思った。

 それにしても一発とは。


「どうやらレティは、これまでの魔力を溜める訓練のお陰で、魔力プログラミングが上手みたいだね」

「本当ですか! 嬉しいですっ!」

「うーん……よし。じゃあ、早速ちょっと応用を一つやってみようか」

「応用……?」


 今レティにやってもらったのは、とにかく何でも良いからゴーレムを動かす、という練習だ。

 ゴーレムに何か意味のある動作をさせるには『どのように』動かすかをよく考える必要がある。

 ……歩くのは意外と難しいので、最初は何かを持ち上げる、とかが良いかな……?

 ……と、その前に大事なことがある。


「うん。……だけど、そろそろお昼ご飯かな……?」

「あ! そうですね! ……今日は夢中になって忘れなかったですね!」

「昨日は食べ損ねたからね……。俺にとっては、マギアキジアで初めての昼ご飯だ」

「それは外せません! 行きましょっか!」


 俺とレティは、すぐ隣の家に向かって歩き出した。

 風に乗って、何かを焼いている香りが鼻をかすめる。

 期待で歩調が早くなった。


 ◇


 俺とレティが家の玄関に近づくと、扉が勝手に開いた。

 中から出てきたのは、ヴァルさんだ。


「おお、ドコウ殿。それとレティ。これから昼食か?」

「うん。ヴァルさんは違うの?」


 ヴァルさんは少し慌てた様子だ。

 これからゆっくりお昼ご飯、という雰囲気ではない。


「うむ……。そのつもりだったのだが、問題が生じてしまってな。セバス殿に昼食は不要だと伝えたところだ」

「問題?」

「正門の工事が遅れているのだ。門が高くなるにつれて石材を運ぶ手間が増えるのだが、これが予想以上らしい」

「……つまり、重い石を高い所まで運ぶのが大変ってこと?」

「そうだな」


 ……ふーむ……。

 これは丁度いい機会かもしれない。

 少し予定は変更になるが、実践から学ぶか!


「……よし、その件は俺とレティが手伝えると思うよ。とりあえずご飯は食べよう!」

「なに!? ……うむ。ドコウ殿がそう言うなら、信じるとしよう。少し連絡してくる」


 そう言ってヴァルさんは走っていった。

 作業員に伝えたらすぐに戻って来るだろう。

 セバスさんには、俺から伝えておこう。


「……あの、ドコウさん。もしかして……?」

「ああ、その『もしかして』だ。ゴーレム……いや、『機人』の最初の出番だぞ!」


 レティはちょっと緊張したようだが、大丈夫そうだ。

 俺達は、たくさんの声がする食堂に向かった。

 今日の昼ご飯は、誰も忘れなかったみたいだな。


 ◇


 マギアキジアの正門。

 それを街の外から眺めながら、俺は口を開けていた。

 ポカンと。


 ……すんごい立派!


「こりゃ凄いね……。ヴァルさん……」

「正門だからな。それで、どうだろうか?」


 俺は周囲を確認する。

 ……うん、まだ道も敷いてないし、草木も少ない。

 大きなゴーレムを作っても問題なさそうだ。


「大丈夫そう。じゃあレティ、さっき説明した通りに……出来るかな?」

「は、はい!」


 よし。

 俺は地面に魔力を作用させ、一体の巨大なゴーレムを生成した。

 今回のボディは魔岩製ではなく、大地を利用している。

 それだけではなく、重さに耐えられるように要所要所は強化済み。

 さらに、ゴーレムの形状も特殊だ。


 前世の人間がこれを見れば、『ロボットアーム』か、『ショベルカー』と表現するだろう。

 普段の人型ゴーレムの片腕だけを大きくし、肘を天高く上げたような形状だ。

 先端の手の部分は、手のひらを上にして地面につけた状態にしている。


 そして何より説明すべきなのは、その大きさ。


「ド、ドコウ殿!! これはゴーレムなのか!? 正門より大きいぞ!」

「うん。でもちょっと惜しいな、ヴァルさん」

「はい! ヴァル兄様、これは『機人』です!」


 そう、大衆向けには『機人』と呼ばなければならない。

 厳密な区別は不要だが、『ゴーレム』は土魔法の技術の名だ。

 そして『ロボット』……これはこの世界の人間には通じない。

 これから、魔工機人研究所を代表する機械の名として、『機人』を定着させなければ。


「……ああ、なるほど……」

「ヴァルさんにもちょっと手伝って欲しいことがあるんだ」


 俺はヴァルさんに、作業員を指揮して行って欲しい作業を告げる。

 手のひらを上にして開かれた機人の手中に、石材を可能な限り乗せてもらう作業だ。

 移動距離が少ないのですぐに済むだろう。


 さて、こちらは動かす準備だ。

 アーム型機人の肩にあたる部分は全体の土台になる。

 今回、この土台は地面と一体化させた。


 実は、機人を生成するのと同時に、使用した地面の中に魔岩を生成しておいた。

 機人を動かすための魔力は注入済みである。

 アーム型機人を大地と接続したことで、溜めておいた魔力を供給できるはずだ。


 操作はレティに任せる。


「じゃあレティ、準備して!」

「はい!!」


 レティは機人に走り寄る。

 肩の横にチョコンと付けた頭部に、魔力プログラミングを行うためだ。


 ……うん、『書き込み』は問題なく終わったようだな。


「レティ! 動かす時は離れとくんだよ! 危ないから!」

「はい!!」


 少し距離はあるが、ちゃんと聞こえたようだ。

 レティはアーム型機人から少し距離を置いて、立ち止まった。


 石材の積み込み作業も終わったようだ。

 作業員も全員、機人から離れている。

 準備は整った。


「では、機人さん! 上げてっ!」


 アーム型機人は指令に応え、予めプログラムされた通りの動き方で、手のひらを上昇させる。

 レティの言葉はかなりシンプルだったが、ちゃんと手のひらの向きを維持したまま、門の最上部と同じ高さまで持ち上げるようにしてあるようだ。

 計算もバッチリ。

 流石だ。


「おおお……っ」


 ヴァルさんが感嘆の声を漏らす。

 他の作業員も同様の反応だ。

 かなり大きなゴーレムが動いているのは、迫力がある。

 俺も同じリアクションをしたいのだが、ここは格好付けるために我慢しておこう。


 アーム型機人の手のひらが門の最上部付近に到着し、静止した。

 門の上に待機していた作業員達によって、手のひらから石材が運び出される。

 すべて自動化というのは難しいが、作業員の負担はかなり減ったんじゃないかな?


「うおおおっ! レティ様! ありがとうございますッッ!!」

「何往復もしてた石材が一気に! これなら予定より早く完成です! レティ様ーッッ!」


 作業員達からレティへの声が上がる。

 ……ここでも変なファンクラブが出来そうだな……。

 レティは恥ずかしそうにしながらも、手を振って応えている。

 その可愛らしい仕草に、作業員達はさらに沸き立った。


 作業員とのやり取りが落ち着いたところで、レティはこちらに走ってきた。


「ドコウさん! 上手く出来てましたか!?」

「レティ……満点だ。初めての実践なのに、全く問題なしだよ!」

「やった! ヴァル兄様! 見てましたか?……あ……」


 レティの視線の先を見ると……涙を流す男が居た。

 すぐにこちらに気づき、サッと顔を背ける。

 ……うん、妹に直接見せる顔ではないな。

 しかし今回ばかりは……


「こりゃどう見ても一人前、だね」


 俺はヴァルさんの顔を見ずに横に立って言った。


「……ああ……っ!」


 レティは再び機人の近くに戻り、腕を下げさせていた。

 もう一度同じ作業をするようだ。

 作業員への指示もスムーズに通っている。


 結局、アーム型機人が手のひらを二回上下させたことで、この日の石材運びは完了した。

 時間にして数十分。

 大幅な短縮だ。


 俺は慎重に機人を地面に戻しながら、レティ、ヴァルさん、作業員達の様子を遠くから見る。

 会話の中心はレティ。


 頼られているのだ。

 一人の実力者として。


 この日生まれた若き魔工機人研究者は、後に誰もが知る偉大な研究者となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ