第54話:デビュー
ゴゴリッ……
「わーっ! 出来ました! 動きましたよ! ドコウさん!」
ここは魔機研の裏手。
俺の前には、指令を遂行したゴーレムと、喜ぶレティ。
レティはゴーレムを見ながら、踊るように、全身で喜びを表現している。
もちろん、それは良いことだ。
しかし——
「……マジか……」
レティにゴーレムの動かし方を教え始めて、まだ一時間も経っていない。
このほとんどは、母と確立したゴーレム頭部への指令の出し方……つまり魔力プログラミングについての説明に費やした。
一通り理解したと言うレティが、初めての魔力プログラミングに挑戦したところだ。
……もう一度言うが、初めて、挑戦したところだ。
「お、おお……上手くいったようだね……」
「はい! ドコウさんの言う通り、魔力を溜める時と似てました!」
いや……そうなんだけどね……。
魔力プログラミングは、結局のところ指令のイメージを魔力で組み込む作業だ。
魔法をイメージした魔力を魔岩に込める作業と似ているはずだ、とは思った。
それにしても一発とは。
「どうやらレティは、これまでの魔力を溜める訓練のお陰で、魔力プログラミングが上手みたいだね」
「本当ですか! 嬉しいですっ!」
「うーん……よし。じゃあ、早速ちょっと応用を一つやってみようか」
「応用……?」
今レティにやってもらったのは、とにかく何でも良いからゴーレムを動かす、という練習だ。
ゴーレムに何か意味のある動作をさせるには『どのように』動かすかをよく考える必要がある。
……歩くのは意外と難しいので、最初は何かを持ち上げる、とかが良いかな……?
……と、その前に大事なことがある。
「うん。……だけど、そろそろお昼ご飯かな……?」
「あ! そうですね! ……今日は夢中になって忘れなかったですね!」
「昨日は食べ損ねたからね……。俺にとっては、マギアキジアで初めての昼ご飯だ」
「それは外せません! 行きましょっか!」
俺とレティは、すぐ隣の家に向かって歩き出した。
風に乗って、何かを焼いている香りが鼻をかすめる。
期待で歩調が早くなった。
◇
俺とレティが家の玄関に近づくと、扉が勝手に開いた。
中から出てきたのは、ヴァルさんだ。
「おお、ドコウ殿。それとレティ。これから昼食か?」
「うん。ヴァルさんは違うの?」
ヴァルさんは少し慌てた様子だ。
これからゆっくりお昼ご飯、という雰囲気ではない。
「うむ……。そのつもりだったのだが、問題が生じてしまってな。セバス殿に昼食は不要だと伝えたところだ」
「問題?」
「正門の工事が遅れているのだ。門が高くなるにつれて石材を運ぶ手間が増えるのだが、これが予想以上らしい」
「……つまり、重い石を高い所まで運ぶのが大変ってこと?」
「そうだな」
……ふーむ……。
これは丁度いい機会かもしれない。
少し予定は変更になるが、実践から学ぶか!
「……よし、その件は俺とレティが手伝えると思うよ。とりあえずご飯は食べよう!」
「なに!? ……うむ。ドコウ殿がそう言うなら、信じるとしよう。少し連絡してくる」
そう言ってヴァルさんは走っていった。
作業員に伝えたらすぐに戻って来るだろう。
セバスさんには、俺から伝えておこう。
「……あの、ドコウさん。もしかして……?」
「ああ、その『もしかして』だ。ゴーレム……いや、『機人』の最初の出番だぞ!」
レティはちょっと緊張したようだが、大丈夫そうだ。
俺達は、たくさんの声がする食堂に向かった。
今日の昼ご飯は、誰も忘れなかったみたいだな。
◇
マギアキジアの正門。
それを街の外から眺めながら、俺は口を開けていた。
ポカンと。
……すんごい立派!
「こりゃ凄いね……。ヴァルさん……」
「正門だからな。それで、どうだろうか?」
俺は周囲を確認する。
……うん、まだ道も敷いてないし、草木も少ない。
大きなゴーレムを作っても問題なさそうだ。
「大丈夫そう。じゃあレティ、さっき説明した通りに……出来るかな?」
「は、はい!」
よし。
俺は地面に魔力を作用させ、一体の巨大なゴーレムを生成した。
今回のボディは魔岩製ではなく、大地を利用している。
それだけではなく、重さに耐えられるように要所要所は強化済み。
さらに、ゴーレムの形状も特殊だ。
前世の人間がこれを見れば、『ロボットアーム』か、『ショベルカー』と表現するだろう。
普段の人型ゴーレムの片腕だけを大きくし、肘を天高く上げたような形状だ。
先端の手の部分は、手のひらを上にして地面につけた状態にしている。
そして何より説明すべきなのは、その大きさ。
「ド、ドコウ殿!! これはゴーレムなのか!? 正門より大きいぞ!」
「うん。でもちょっと惜しいな、ヴァルさん」
「はい! ヴァル兄様、これは『機人』です!」
そう、大衆向けには『機人』と呼ばなければならない。
厳密な区別は不要だが、『ゴーレム』は土魔法の技術の名だ。
そして『ロボット』……これはこの世界の人間には通じない。
これから、魔工機人研究所を代表する機械の名として、『機人』を定着させなければ。
「……ああ、なるほど……」
「ヴァルさんにもちょっと手伝って欲しいことがあるんだ」
俺はヴァルさんに、作業員を指揮して行って欲しい作業を告げる。
手のひらを上にして開かれた機人の手中に、石材を可能な限り乗せてもらう作業だ。
移動距離が少ないのですぐに済むだろう。
さて、こちらは動かす準備だ。
アーム型機人の肩にあたる部分は全体の土台になる。
今回、この土台は地面と一体化させた。
実は、機人を生成するのと同時に、使用した地面の中に魔岩を生成しておいた。
機人を動かすための魔力は注入済みである。
アーム型機人を大地と接続したことで、溜めておいた魔力を供給できるはずだ。
操作はレティに任せる。
「じゃあレティ、準備して!」
「はい!!」
レティは機人に走り寄る。
肩の横にチョコンと付けた頭部に、魔力プログラミングを行うためだ。
……うん、『書き込み』は問題なく終わったようだな。
「レティ! 動かす時は離れとくんだよ! 危ないから!」
「はい!!」
少し距離はあるが、ちゃんと聞こえたようだ。
レティはアーム型機人から少し距離を置いて、立ち止まった。
石材の積み込み作業も終わったようだ。
作業員も全員、機人から離れている。
準備は整った。
「では、機人さん! 上げてっ!」
アーム型機人は指令に応え、予めプログラムされた通りの動き方で、手のひらを上昇させる。
レティの言葉はかなりシンプルだったが、ちゃんと手のひらの向きを維持したまま、門の最上部と同じ高さまで持ち上げるようにしてあるようだ。
計算もバッチリ。
流石だ。
「おおお……っ」
ヴァルさんが感嘆の声を漏らす。
他の作業員も同様の反応だ。
かなり大きなゴーレムが動いているのは、迫力がある。
俺も同じリアクションをしたいのだが、ここは格好付けるために我慢しておこう。
アーム型機人の手のひらが門の最上部付近に到着し、静止した。
門の上に待機していた作業員達によって、手のひらから石材が運び出される。
すべて自動化というのは難しいが、作業員の負担はかなり減ったんじゃないかな?
「うおおおっ! レティ様! ありがとうございますッッ!!」
「何往復もしてた石材が一気に! これなら予定より早く完成です! レティ様ーッッ!」
作業員達からレティへの声が上がる。
……ここでも変なファンクラブが出来そうだな……。
レティは恥ずかしそうにしながらも、手を振って応えている。
その可愛らしい仕草に、作業員達はさらに沸き立った。
作業員とのやり取りが落ち着いたところで、レティはこちらに走ってきた。
「ドコウさん! 上手く出来てましたか!?」
「レティ……満点だ。初めての実践なのに、全く問題なしだよ!」
「やった! ヴァル兄様! 見てましたか?……あ……」
レティの視線の先を見ると……涙を流す男が居た。
すぐにこちらに気づき、サッと顔を背ける。
……うん、妹に直接見せる顔ではないな。
しかし今回ばかりは……
「こりゃどう見ても一人前、だね」
俺はヴァルさんの顔を見ずに横に立って言った。
「……ああ……っ!」
レティは再び機人の近くに戻り、腕を下げさせていた。
もう一度同じ作業をするようだ。
作業員への指示もスムーズに通っている。
結局、アーム型機人が手のひらを二回上下させたことで、この日の石材運びは完了した。
時間にして数十分。
大幅な短縮だ。
俺は慎重に機人を地面に戻しながら、レティ、ヴァルさん、作業員達の様子を遠くから見る。
会話の中心はレティ。
頼られているのだ。
一人の実力者として。
この日生まれた若き魔工機人研究者は、後に誰もが知る偉大な研究者となる。




