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第51話:魔岩布

「……ひとまず、私からは以上です!」


 レティからの膨大な研究成果を聞いた俺は、ギリギリで意識を保っていた。

 弟子三人組からの進捗報告はまだ始まったばかりだ。


「凄いよ……! 一つ一つ、丁寧に考えて、着実に進めたことがよく分かる」

「えへへ……嬉しいです! ……何だかやる気が出ちゃって……」


 レティは髪飾りをそっと触る。

 俺が弟子の証としてプレゼントした、大きめのヘアピン。

 あれ以来、常に身に付けてくれているようだ。


「この魔力保存の成果があったことも、食堂での話に関係してるのかな?」

「そういうことです! ……じゃあ、次に行きましょうか?」

「そうだね。次は、スゥだったよね?」


 事前の話だと、レティ、スゥ、クレアの順に決まったようだった。

 しかしスゥは、クレアの背中を軽く押してから話し始めた。


「そうなのじゃが……妾は昨晩に時間をもらってしまったしの。先にクレアに譲ろうと思う」

「良いの……? 嬉しい。……ありがとう……スゥ……様」

「『様』は止めよ!」


 嬉しそうな顔をしたクレアは、懐から何かを取り出した。

 ……布?

 やっぱり魔岩糸(まがんし)に関連する成果で来たか……!


「我が主……ちょっと失礼……します」


 クレアが、取り出した布を俺の肩にかける。

 ……?


「レティ、スゥ……やる?」

「スゥさんが良いかもです!」

「そうじゃな……。では、妾に任せてもらおうかの。クレアは説明じゃな」

「うん。ありがとう……」


 スゥが布の端に手を触れ、魔力を通わせ始めた。

 ……こ、これは……!


「温かい……」

「うん。我が主……ボクは、スゥと一緒に、発熱する魔岩糸を作り……ました」

「……はぁー……」


 俺の口からつい、息が漏れてしまった。


「えっ……ダ、ダメだった……?」

「いや、ごめん。……クレアも……なんでこんな凄いアイデアを簡単に報告するんだ……」

「じゃ、じゃあ……」

「ああ、これもまた凄いぞクレア!」

「へへ……へへへへへ……」


 魔力で温かくなる魔岩糸……それを編んで作る布……。

 これは、防寒着の大革命になるぞ!!

 今すぐにでも衣服の作製を……!


「スゥも、また協力して……凄いな!」

「ふふっ、仲間に恵まれたようじゃ」

「クレア、これはすぐにでも衣服に展開しよう! もうすぐ寒くなる時期だし……」

「今頃、ミミカが試作品を作ってるはず……」


 目眩(めまい)がしてきた。

 肩にかけられた布をスゥに渡しておく。


「お、おお。そうか、流石だね。……じゃあ、住民に販売する準備のために、前に紹介した雑貨屋の店主さんに……」

「もう話してある……。今は急いで開店準備するって言ってた……。奥さんはまだ手伝えないみたい」


 俺はついに倒れた。

 ……どこまで優秀なんだ。

 この弟子達に、師匠……要る??


「わ、我が主!?」

「うわわ! ドコウさん!?」

「ど、どうした! 大丈夫かの!?」

「……ああ、ごめん。研究成果の供給過多で……感情と身体が追いつかないな……」


 魔機研の床は、冷たかった。

 こうすると、天井がよく見える。

 他と同様に綺麗に作られていて、高さも十分。

 広い空間と、床のひんやりした感触に変な落ち着きを覚えるが、ここで寝るのは厳しそうだ。

 ……恐らく、セバスさんが床材を選んだのだろう。


「そういえば……店主さんは昨日も頑張ってたね……」

「そうじゃな。あの時はこの話にならなかったがの」


 床の冷たさのお陰で、頭も冷えてきた。

 よしよし、落ち着いてきたぞ。

 立ち上がってクレアを見る。


「改めて、凄い成果だよ。クレア。……クレアが報告したってことは、このアイデアはクレアが?」

「はい、ボクが……。でも、皆と話してて思い付いたから……一人でとは……思ってない」

「なるほど……。でも、研究アイデアってそんなもんじゃないかな? 議論してる時もそうだけど、案外雑談してる時なんかに、急にズバッと(ひらめ)いたりするんだよね」

「ま、まさにそれです……! 皆でお風呂に入ってて、これから寒くなるねって話してて、それなら服が温まればと思った時に魔岩糸の特性がほぼ魔岩のままだったことを思い出しムグッ!」

「……クレア、徐々に加速しておったぞ……」

「お、おお……。グッジョブ」


 いつもの急に始まるパターンと違ったので、油断していた。

 ……内容もいつもとちょっと違ったな。

 これまでは技術的な内容に興奮していたと思ったけど、今のは……。


「ぷはっ……。スゥ、ありがとう……。あの時の気持ちが、我が主も分かるんだって思ったら……」

「今回ばかりは、妾にも気持ちが分かるぞ。皆との話からアイデアが浮かんだ時の興奮は、何とも言い表せぬものじゃな。……クレア、落ち着くんじゃぞ?」

「や、やっぱり……スゥ様って呼ぶ……」

「ダメじゃ!」

「あの時のクレアさん、凄かったですもんね! 私達まで盛り上がっちゃって」


 そうか……。

 クレアは、対等な仲間と一緒に研究する楽しさを、ちゃんと体験できてるんだな。

 ……師匠、泣きそう。


「……なんか、皆を見てると、師として嬉しくなっちゃうね……。クレアからは、以上かな?」

「あと……」


 あと!?

 まだあるの?


「魔岩に伸縮性……厳密には弾性だけど……これを持たせる方法は、もう少しで出来そう……。今はそれだけ……です」

「そっちも進んでるのか……。凄いな……。うん、じゃあそれも、程良い時に報告して欲しい。いつでも良いよ」

「は、はい……!」


 ……ん?

 魔岩の物性を変化させるクレアの技術……。

 その仕組みは、魔岩を構成する分子の結合を、魔力でちょっと変える……みたいなことを言ってたよな……。


「では、最後は妾じゃな……」

「……あっ!!!」

「な、なんじゃ!?」


 まだ足りない。

 まだ足りないけど、もしかして、この弟子達なら……?


「ごめんスゥ、その前に、クレアの話を聞いて思い付いたことがあるんだ」

「む! 構わぬぞ!」

「わ、我が主……ボクにも教えて欲しい……!」

「もちろん。……でも、たぶんまだ実現は難しい。皆の協力が必要だと思う」

「私にも何か出来ますか!?」


 出来るとも。

 ここで特に重要になるのは、レティとクレアかな……?


「うん。……まず、レティ。さっき魔力を込めた魔岩に魔岩糸を接続して、行使できたって言ってたよね?」

「はい!」

「さっきのは純粋な魔力の話だったけど、今までのような魔法のイメージを込めた魔力の場合は、何も起きないんだっけ?」

「そうですね……。うーん……やったことないですけど、これまでの魔蔵ブレスレットで勝手に発動することはなかったので、魔岩糸でも繋いだだけで何か起きることはないんじゃないかなって……思います!」

「おお……鋭い……。なるほど。……ってことは、やっぱりゴーレムの頭部も要るか……」


 ということは、レティがゴーレムの操作を習得できるかどうかも重要になってくるな。

 次はクレアにも確認しないと。


「クレアにも訊きたいことが。……クレアは、電子や分子に魔力で作用するのが得意だよね?」

「はい……! 雷魔法では電子……魔岩の物性変化では分子に作用することをイメージ……してます……」

「じゃあ、分子の運動を、抑制するような魔法って出来るかな? 完全に止める必要はない」

「……! 我が主、それって物の温度を……!」

「そう! クレアに10ポイント!」

「……ポイント……?」


 物体の温度は、分子運動の激しさで説明ができる。

 ざっくり言えば、激しく運動させるほど、温度は高くなる。

 電子レンジで物が温まるのは、この理屈だ。

 分子に直接作用できるかもしれないクレアの技術を使えば、電子レンジの逆の要領で、温度を下げることが出来るかもしれない。

 これだけでも、実現できれば凄いことだが……。


「そして、レティ。もしクレアが温度を下げる魔法を開発できたら、それを魔岩に込めて、使いたい。……出来れば、魔岩糸の表面からジワジワと放ちたい」

「……えっと……?」

「……もしや、先程の布の逆かの……?」

「スゥ、大正解! 10ポイントゲット!」

「……ポイントとは何じゃ?」


 スゥの察した通りだ。

 俺が思い付いたのは、さっきの温かくなる布の逆バージョン。

 包んだ物を冷たくする布の開発だ!


「クリアすべき課題は少なくないけど、もし出来れば、包んだ物を冷やせる布が作れるかもしれない。もしこれが出来れば……!」

「……あ! もしかして!」

「お、レティには分かっちゃった?」

「分かっちゃったかもしれません! それは……ニナ姉様も喜ぶことですよね……?」

「御名答! レティに10ポイント!」

「……は、はぁ……」


 ふっふっふ……。

 鮮度を保って運ばれる、魚や野菜……。

 マギアキジアの立地では調達しにくい食材を、昨晩の料理屋で調理する……。

 ……あ、お腹空いてきた。


「そういう訳だ……。もし物を冷やせる布が出来れば、これを使って食材の鮮度を保ったまま運べるかもしれない。……そうなれば、マギアキジアで色んな物を食べられるようになるかも……! さらに、スゥが協力している料理屋で調理すれば……!」

「……そ、それは魅力的じゃな……」

「ボクも……お腹空いてきた……」

「絶対やってみましょう!」


 俺達は大いなる目標に向かって共に歩むことを、固く誓った。

 美味しい物を皆で食べる、その日を想像しながら。

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