第47話:移住
マギアキジアに建つ、大きな家。
仲間達と共に、俺はその入口に立っていた。
「改めて、皆ただいま」
「ただいま。」
「おかえりなさい! ドコウさん! ニナさん!」
「そしてようこそ、じゃな。妾達の新たな家に」
そう。
ここはドルフィーネではないし、掘っ立て小屋でもない。
しっかり建てられた、俺達の家だ!
「そうだね……スゥ。驚いたよ、もう出来てるなんて」
「ちょうどつい先日、完成したばかりじゃがな」
「うむ。皆、都市開発に張り切ってくれてな。計画は大幅に早まっている。あっという間に建った家に引越しを済ませたところで、リザードマン襲来の報が入ったのだ」
「なるほど……。ヴァルさん、色々ありがとう。緊急時の対応も」
「はっはっは! ……正直に言えば、かなり焦ったな! しかし、天は我々に味方したようだ。ドコウ殿、ニナ殿。戻ってきてくれて助かった」
三匹のリザードマンを倒した後、俺は父と別れを告げ、仲間達と合流した。
父はやはりというかなんというか、あまり多く語らなかった。
『ガッハッハ! やるじゃねェか!』が主な内容だ。
……たぶん、色々と見透かされていたと思う。
合流後の道中は、リザードマンとの戦闘について説明するので精一杯だった。
そもそも、皆には修行することになった経緯すら話していない。
とりあえず、ニナさんの知り合いに会いに行き、ニナさんの師匠を紹介されて稽古をつけてもらっていた……と説明した。
「我が主……。次の予定は……?」
「ん? ……ああ、多少やりたいことはあるけど、長期間出かける予定はもうないよ。マギアキジアで研究したいと思ってる」
「ほんとですね!? じゃあ、後で私の話を聞いてください!」
「む! 次は妾も頼む! ……今回は事前に決めておらんかったが、レティに先を越されたようじゃ」
「あ……レティ……スゥ……」
この様子だと、弟子三人組の研究も順調みたいだな。
バルド、オズさん、ギルさんの話も聞く必要があるだろう。
……どうしてもワクワクしてしまう。
久々の研究タイムだ!
「まずは、お部屋とマギアキジアをご案内してはいかがでしょう? ……ドコウ様のお部屋とニナ様のお部屋は、勝手ながら我々が整えさせていただきました」
セバスさんとその部下の女性が並んで頭を下げる。
「ありがとう、セバスさん。じゃあ、部屋への案内をお願いしようかな。……都市の方も是非頼みたい」
「……では、都市の案内は妾に任せてもらっても良いかの? ついでに、前に話した料理屋も見て欲しい」
「おお! それもか! うん、じゃあそうしよ——」
「ニャーッ! ニナ様ッ! おかえりなさいニャ! もう旅は終わりかニャ!? 街を案内するニャ! 行くニャレティ!」
「ええ。お願いします。ミミカ、レティ。」
旋風の如き勢いで、ニナさんとレティが連れ去られてしまった。
「……えっと……じゃあ、ニナさんの方はミミカとレティに任せようか」
「それ以外にないの……。……妾も支度してくる。そなたはまず、部屋を堪能するが良い」
「そうだね。……セバスさん、お願い」
「こちらへ」
さあ、まずは新しい部屋だ……!
◇
……やっぱり、でかい。
「来る時も見えたと思うが、これが研究所……魔機研じゃ」
「でかいッ!!」
「そうじゃ。立派じゃな。……中は改めて案内するとしよう。まだ内装が未完成のところもあるがの」
「でかい……」
俺とスゥの前にある、巨大な建物。
いや、大きくしようという話だったけど……。
マギアキジアに着いてすぐに、視界に入れざるを得ないサイズだったけど……。
こうして近くで見ると、本当に大きな研究所だ。
「さて、外見の感想はどうじゃ?」
「でか……え? いや、立派すぎて何と言えばいいか……」
「ふふっ、そうじゃろう? 妾達もな、初めて見た時は何も言えんかった」
「それで……? 皆は気に入ってたのかな?」
「うむ。その後は皆で笑ったのぅ……。楽しみで仕方ない、とな。家でも研究所の話を頻繁にしておるし、最近は早速使い始めた者もおる。……実は、妾もその一人じゃ」
「おお! 羨ましい!」
ヴァルさん達からは控えるように言われてたけど、まだ終わってないという内装作業を手伝えないかな……。
ジーナスさん曰く、『都市は皆で作らなければならない』ということだった。
その通りだと思う。
他の住民にとっても『自分の都市」でなければ、今後の発展に支障が出そうだ。
やっぱり、手伝うのは止めておこう。
◇
「ここが街の中心じゃ」
「おお! 広場になってるんだね!」
スゥが次に案内してくれたのは、魔機研の正面の道を少し進んだ先。
複数の道が交わる広場だった。
スゥの言う通り、位置的にはこの辺りがマギアキジアの中心だ。
「クレアの提案での、魔機研を中心にはしなかった。騒がしくなりすぎる、ということじゃ」
「おお……。全然考えてなかった……」
「流石は経験者、じゃの」
「ほんとにね」
スゥは、広場に繋がる道の中で、最も幅の広い道を指差した。
「この道が『大通り』じゃ。この先が都市の正面ということじゃな」
「あれ? さっきはもっと家の近くから入ったよね?」
「うむ。今こちらは工事が激しくての。歩きにくいのじゃ」
「なるほど」
「じゃが、今回はちとこちらに行こう」
スゥに続いて大通りを歩く。
左右には、いかにも店が入りそうな建物が並んでいる。
結構な数の店ができるようだ。
「……ん? あれは……」
「……おお! ドコウさん!」
ドルフィーネの雑貨屋の店主さんだ!
俺は、手を振る店主さんの元に駆け寄った。
スゥも後に続く。
「もう移転してくれたんだね!」
「そりゃそうだぜ! こんな時は、色々なものが必要になるだろう?」
「商売のチャンスってことだね……?」
「そういうことだな!」
他の店の準備が始まる前に、営業を開始するつもりのようだ。
確かに、雑貨屋が一つあるだけで各店のオープンは早まるだろう。
店には店主さん一人。
「奥さんはまだご実家に?」
「いや、引越してきてる。……実は、家を別に建てさせてもらったんだ……。今は子供と一緒にそっちに居るよ」
「おお……!」
「こないだの話が、ヴァレンティン様とジーナス様に認められてな。それなら店の拡張を考慮した設計に、ってことらしい」
この店主さんには、魔機研で開発した装置を一般の人に販売する役目をお願いした。
店主さんが作業している建物は二階建てで、幅も少し広め。
かなり優遇された店構えのようだ。
住居を別にすれば、いずれは二階も商品陳列に使えるということか。
「ドコウ殿、この者と知り合いなのかの?」
「あ! あんたはスゥ様か!?」
「そ、そうじゃが……」
「やっぱり……! 妻がファンなんだ! 今度店に居るときに是非会ってやってくれ!」
「ファ、ファン……?」
店主さんはスゥに気づくなり、興奮して話し始めた。
面白くなってきたので、俺はバレないように一歩下がる。
「ああ! 新しくできた料理屋によく通ってるだろ? 妻はそれを見かけたそうなんだ。……妻の言ってた通りだな……。気品があって美しく、それでいて住民と身近に接する姿に憧れる……って言ってたぜ!」
「妾は自分に出来ることをしておるだけで……大袈裟ではないかの……?」
「かーっ! さらにその謙虚さ! ……決めたぜ! 俺も今からスゥ様のファンだ! ってことはうちは一家丸ごとスゥ様ファンってことだな!」
「……ド、ドコウ殿……、一体どうすれば……?」
ついにスゥはこちらを振り返った。
恥ずかしいような困ったような、複雑な表情だ。
スゥは元々皇族なので、人から敬われること自体に不慣れではない。
しかしそれは皇女として。
生まれとは関係なく、人に認められることには慣れていない。
「どうもしなくていいんだよ。店主さんの言う通りなんだし!」
「だよな!」
「おぬしら……」
とりわけ、今日のスゥは普段よりも、綺麗な装いだ。
そりゃ研究で作業する時と、出かける時で服が違っても不思議ではない。
俺があげた髪留めも、目立つ位置に付けてくれている。
「……まあ真面目に言えば、働きを見て尊敬してくれることほど、ありがたいことはないよ。その気持ちを、大切に受け取ったら良い」
「……そうじゃな。うむ。……店主よ、ありがとう。この道は今後も時折通る故、都合が良い時に声をかけてくれると助かる。……それと、出来れば『様』ではなく……」
「流石スゥ様だ! 妻に言っとかねえと……」
「あの……『様』ではなく……」
「スゥ。……今回はこれまでと違うんじゃないかな?」
店主さんはスゥが皇族であることを知らない。
これもやはり、皇女だから『様』を付けて呼んでいる訳ではないのだ。
「……違う……そうか……。そうじゃな。形にとらわれておったようじゃの」
「そゆこと。……じゃ、店主さん、また」
「おうよ!」
店主さんと別れを告げ、スゥと共に再び大通りを進む。
スゥは少し落ち着かない様子だったが、歩くうちに元の調子に戻ってきた。
そのまま進むと、前方に一際にぎやかな店が見えてきた。
もうすぐ夕飯時。
マギアキジアはまだそこそこの人口らしいが、その店は人で溢れている。
「ここじゃ」
「おお……!」
マギアキジアの料理屋。
魔工学を使った、最初の店だ。
見たいこと、訊きたいことが山程ある。
山程あるが……しかし……。
強烈な良い匂いに胃袋が刺激され、俺の思考力は低下の一途を辿っていた。




