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第46話:焦燥

 ニナさんに伸びる一筋の剣閃。

 ——瞬間、ニナさんの姿が消えた。


 キィンッ!!

「……。」


 ニナさんの杖を剣で受け止めた。

 再びニナさんの姿が消え、間合いの外に現れる。


「ホッホッホ……。だいぶ様になってきたようじゃのぅ」

「……師匠。」

「あ、ジンロウさん。……そうですね。お陰様で」

「ニナも動きが良くなったようじゃな」

「ええ。」


 ジンロウさんの家の裏手にある訓練場で、俺とニナさんは手合わせをしていた。

 修行開始からどれだけ経っただろうか……?

 昼夜問わず集中していた時もあったので、正確な日数は覚えていない。

 たぶん、数週間は経過したと思う。


 この間に、大きな変化がいくつもあった。

 まずは目下の目的である、俺の刃舞(ばぶ)習得に関するものから。


 一つ目の変化は、土魔法による操作技術の習得。

 ……実は、ほとんどの時間を、コレに費やしてしまった。

 正直に言おう。

 めちゃくちゃ難しかった。


 我々は日頃、何も意識しなくても、手で物を掴める。

 では、足で掴めるだろうか?

 ……簡単だって?

 そうですか。

 前世の俺は、簡単に足を()ってましたけどね。


 しかし、肩ではどうだろう? 腰では? 背中では?

 そもそも、『肩で掴む』の意味が分からない。

 そういう感覚だった。

 なんとか要領を得たのが一週間ほど前。

 これが一つ目の大きな変化だ。


 二つ目は、操る剣の形状を考え直したこと。

 最初は、ジンロウさんに作ったイメージもあり、日本刀を操ろうとした。

 カッコいいと思った。

 ……しかし、これはダメだった。


 日本刀は片刃なのだ。

 つまり、操作する際に刃の向きまで考えなければならない。

 すぐに俺の頭はパンクした。


 ということで次に操ろうと思ったのは、この世界で一般的な両刃の剣。

 ヴァルさんも使っているものだ。

 ……しかし、これもダメだった。

 剣には刃が付いている方と、柄の方があるのだ。

 つまり、操作する際には……もういいだろう。


 そして更に改良した案が、柄にも両刃を付けた剣。

 双刃剣などの様々な呼び名があるようだが、あまり詳しくない。

 これはなかなか良かった。

 どこで当たってもいいのだから、操作は楽だ。


 しかし、ここでふと気づいた。

 ……魔力で操る剣に、持ち手って……要る??

 という訳で、現在の形に至る。

 両刃に両刃がくっついた形。

 ひし形の何かだ。

 この変遷が、二つ目の変化だった。


 三つ目の変化は、操れる剣の数。

 最初は一つだったが、二つでも同程度に操れるようになった。

 さっきのニナさんとの手合わせでも二つを操作し、一つで攻撃、一つで防御を行った……ということだ。

 数を増やすこと自体はそれほど大変ではなかった。

 もう少しすれば、三つに出来ると思う。


 この三段階の変化によって、俺の刃舞(ばぶ)は少し形になった。

 ただ、刃舞(ばぶ)の原型を留めているか? と言われるとちょっと苦しい。

 ……そうだ! 新たに名付けよう!

 岩を使った刃舞(ばぶ)だから……岩刃舞(ガンバブ)

 そして操る剣は、(ガン)ビッ……いや、止めておこう。


 冗談はこれくらいにして……。

 まだまだ、舞うような動きとは言い難い。

 これからもニナさんの動きをよく見て、学んでいく必要がある。


 そして、最後の変化はニナさんだ。

 ……速くなっちゃった。

 元々、ニナさんは姿が見えないほど速く動くことがあった。

 しかしそれは、ここぞ!という時だけだったはずだ。

 ジンロウさんと稽古を積んだニナさんは、デフォルトで消える。

 はっきり言って、俺には全てを目で追うことは出来ない。


 だが、そのお陰で俺は、素早い相手への対処に慣れてきた。

 勘というのだろうか……。

 見えなくても、『あ、ここに来るな』というのが予想できるようになってきた。

 必ず当たる未来予知ではない。

 しかし、ある程度予想できるだけで、随分と違うものだ。


「この稽古も、今日で一区切りとするかの」

「あ、やっぱりそうですか?」

「そうじゃの。……基本は掴めておる。後は日々の鍛錬次第じゃが、それはここでなくても出来よう。……これだけ育てば、儂がジゼルに怒られることもなかろうて」

「……え?」

「ジゼルに紹介されて来た者を、無碍に扱える訳がないわい」

「じゃあ最初から……」

「ホッホッホ! 良い相棒をもらった! ではの!」


 そう言ってジンロウさんは刀を掲げながら、家に帰っていってしまった。

 突然の修行終了。


「……」

「……。」

「……もしかして、最初から騙されてた?」

「そうですね。」

「……帰ろっか」

「はい。」


 俺は岩バイクを生成する。

 元々大した荷物は持ってきていない。


「……いい師匠だね」

「はい。」


 鍛えてもらった俺とニナさんは、空を駆けて一路、マギアキジアに向かった。


 ◇◇◇


「……ドコウさん。このまま直進してください。」

「え?」

「平野にモンスターが居ます。」


 俺達が走っているのは、恵みの森の上空。

 岩を操作する技術の向上により、岩バイクはもはやバイクではなくなった。

 空を飛んでも余裕でコントロール出来る。

 素晴らしい副産物だ。

 ……とてつもなく寒いので、ニナさんの風魔法によるサポートが必須だけど。


 とにかく、急ぐ必要があるようだ。

 直進した先にあるのは、ドワーフ村の南にある平野。

 リザードマンと戦った平野だ。

 ギリギリ間に合ったか、それとも……。


 俺は岩バイクの速度を最大まで上げた。


 ◇


 ——見えた!

 最初に見えたのは、騎士団の最後尾。

 ドルフィーネの旗を掲げている。

 ……ということは、これを率いているのは——


「ヴァルさん!!」

「む!?」


 ヴァルさんは周囲をキョロキョロ探している。

 ……そりゃそうか。


「ごめん、上!」

「……! ドコウ殿か!?」


 岩バイクを着陸させる。

 ヴァルさんの周囲には、レティ、スゥ、クレアの姿。

 ……戦える者、全員で来たということか。


「状況を教えて。モンスターが来ていることはニナさんに聞いてる」

「正直冷静ではないが、分かった。……リザードマンだ。武装したものが三体」

「なるほど。被害は?」

「まだない。最前線にはドーム様が出てくれている。今まさに戦闘が始まる頃だ」

「ありがとう!」


 父の強さは未だに不明だが、三体は流石に厳しいはずだ。


 俺は再び岩バイクを浮上させる。

 はっきり言って、ヴァルさん達と一緒に行く理由はない。

 危険すぎる。


「レティ、スゥ、クレア! 急ぐからごめん! また後で!」


 三人は頷いて応えた。

 余計な言葉は発さない。


 俺は岩バイクを全速力で飛ばした。


 ◇


「どうしますか?」

「俺がやってみるよ! ニナさんにあの技は使わせない!」

「……分かりました。」

「見えた!」


 前方に父と、三体のリザードマンが見える。

 周辺の地面はまだ平ら。

 ちょうど接敵したところのようだ。


 俺は剣の生成を始める。

 四本だ。

 練習してきた数の倍だが、三体を相手にするなら減らせない。


「父さん! 俺がやる!」

「ドコウかッ!」

「ギエッ!」


 リザードマンもこちらに気づいたようだ。

 俺とニナさんは岩バイクから飛び降りた!


 ズバッ!


 制御を失った岩バイクは、そのままの勢いで中央のリザードマンに突撃した。

 が、これはあっさり両断されてしまった。

 ……映画なんかじゃ、これで一匹倒せるんだけどな……。

 岩バイクの強度はほとんど上げていないので仕方ない。

 ……しかし、これは違うぞ。


 岩バイクを両断したリザードマンの斜め後方から二本の剣。

 正面から俺が突っ込む。

 ちょうど三方からの攻撃だ。


「ギッ!?」

 ドンッ!!


 リザードマンは有効な行動を何も取れないまま、俺の拳を鳩尾(みぞおち)に受けた。

 そのまま立ち上がらない。


「「ギエエッ!!」」


 残り二体のリザードマンが左右から剣を振り下ろす。

 俺の攻撃の隙を付く、基本に忠実な良い攻撃だ。

 それゆえに、読みやすい。


 ギギィンッ!!


 リザードマンの剣は、残り二本の俺の剣で阻まれた。

 左のリザードマンはすぐに飛び退いたが、右は一瞬遅れたようだ。

 ……こいつだな。


 俺は最初のリザードマンを倒す時に使った二本を操り、再び右のリザードマンの後方から攻撃を仕掛ける。

 当然、飛び退きそうな方向は塞いだ。


 ガッ! ズバッ!!

「——ッッ!!」


 結局そのリザードマンは、剣を防ぎきれずに首を失った。

 ……鎧の隙間を狙うコントロールには成功したようだ。


 ……さて。

 俺は残りの一体に向けて四本の剣を飛ばす。

 あまり離れすぎるとコントロールを失うので、俺も接近しつつ。


 ドスドスドスッ!!!

「……ガッ……!」


 拳の間合いに入る前に、最後のリザードマンは動かなくなった。

 複数の剣に貫かれて。

 ……終わりだ。


「……ドコウさん。落ち着いて。」


 ……え?

 声が上手く出なかった。

 そこで初めて、俺は息をしていないことに気がついた。

 深呼吸する。


「被害はありません。」


 被害……?

 そうか……。


 すぐ後ろには父。

 さらに後方には仲間達。

 そして(そば)には、ニナさん。


「……隣に立たせてください。ドコウさん。」

「……そうだね。ごめん」


 失う恐怖を感じた。

 そこから生まれる焦りに、俺は負けていたようだ。


 修行を経て、俺はちゃんと強くなれた。

 これは客観的に見て、間違いない。

 しかし心は、まだ鍛える必要がありそうだ。

 全て自分で背負い込もうとした。


 自分の実力を過小にも過大にも評価せず、仲間と適切に分担して最善を求める……。

 俺自身が弟子に教えようとしていたこと。

 実践するのは、やはり簡単ではない。


「……ニナさん、ありがとう。皆のところに帰ろうか」

「はい。」


 俺とニナさんは、並んで歩き出した。

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