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第45話:刃舞

 ジンロウさんの家の前に、旅支度を済ませた父が立っている。


「それじゃ、ワシは帰るぜ!」


 父の目的は、ジンロウさんに俺の稽古を付けさせること。

 それが達成されたので、もう帰ってしまうらしい。

 南をモンスターから守る役目もあるし、仕方ないことだ。


 昨晩は俺、ニナさん、父、ジンロウさんの四人で過ごした。

 ジンロウさんの家は小さいが、俺とニナさんが居れば大した問題ではない。

 しばらく滞在することを考慮し、俺とニナさんの合作で、個室を備える家を建てた。


 父とニナさんは初対面だった。

 父はニナさんに色々訊いていたが、短いニナさんの回答に『ガッハッハ! そうか!』しか返さない。

 深い話には繋がらず、賑やかな時間になった。


「父さん、俺のためにわざわざありがとね。……ところで、急いで帰りたい?」

「あァそうだな! 早く母さんの飯が食いてェ!」

「……父さんは凄く頑丈なんだよね?」

「おォよ! ドワーフだからな!!」

「それならアイデアがあるんだけど……」


 俺は父に、ぶっ飛んだアイデアを説明する。


「面白そうじゃねェか! やってくれ!」

「よし分かった! んじゃ、早速行くよ?」

「おゥ! じゃ、ジンロウ、ニナさん、またな!」

「ええ。」

「ホッホッホ……」


 挨拶が済んだのを確認し、俺は父の背中に合わせて岩の壁を作る。

 父は事前の俺の説明に従って、壁に身体を預けた。

 ……よし、行くよ父さん!!


 俺は壁を思いっきり加速させた!


「うォッ——!?」


 岩の壁に押されて、父の身体も加速する。


(……ガッハッハッハ……)


 父はそのまま、ドワーフ村の方へぶっ飛んでいった。

 岩のカタパルト………名付けて、(いわ)パルトだ!

 ……どこかに、ネーミングの師匠は居ないのだろうか。


 もちろん、着地のケアはしていない。

 父なら大丈夫。

 本人もそう言っていた。


「……今のは、土魔法の一種かの? 昨日は無から岩を作っておったようじゃが」

「はい。俺が出来ることを改めて説明しますね……」


 俺はジンロウさんに、魔岩の生成や岩の操作、鍛冶魔法を使った変質などを説明した。

 拳術についての説明は、不要だろう。


「……ふむ。良い案が浮かんできそうじゃ。……その変質とやら、昨日もやっておったのぅ」

「そうですね。効果はなかったんですけど」

「昨日は躱したが、あの程度では盾にはならんのぅ」

「……以前、モンスターと戦った時もそうでした」


 そう。

 岩の盾はすでにリザードマンに破られている。

 正直言って、悪あがきにもなっていない。


「……じゃが、恐らく時間と共に強度が急速に上がっておったの?」

「その通りです。昨日は棒が当たるまでに目一杯強化しようとしました」

「つまり、時間をかければ良いということじゃな。……一度、どの程度か見せてくれんか?」

「分かりました。……あ、じゃあ、ちょうど良いので、今から武器を作りましょう」

「おお! ホッホッホ!」


 俺の鍛冶魔法は、バルドとの新物質開発を経て進化している。

 以前は現存する物質に変質するだけだった。

 しかし今は、オリジナルの物質を作り出せる。

 その成果の一つが、バルドに渡した物だ。


 今回はバルドの加工がないので、やや強度重視の材質にする必要がある。

 ……うん、材質のイメージは固まった。

 あとは形だ。

 ジンロウさんに似合う武器……流れるような剣閃……素早い斬撃……。

 ……やっぱり、アレしかない。


 俺は早速、魔岩を生成し、形を整える。


「ホッホッ……ほぅ……?」


 ジーナス邸の書斎には、武具の本がたくさんある。

 そこから得た知識も活用しながら、何とかそれっぽい形に出来た。

 次に変質させていく。

 このサイズならハンマーは不要だろう。


「……出来ました」


 整形も変質も不慣れな物だったので、少し時間はかかった。

 しかしそれでも、だいたい20秒か30秒くらいだったと思う。

 練習すればもう少し縮められる気がする。


「……ふむ。手に取っても良いのかの?」

「あ、もう少し待ってください」


 武器に合わせて、もう一つ生成する。


「これで完成です。持ってみてください」

「……軽いの」

「ええ。ジンロウさんの戦闘スタイルに、重い剣は似合わないと思いまして……」


 ジンロウさんが持つのは、鞘に収まった刃。

 細い片刃の、刀だ。

 ……予想以上に、めちゃくちゃよく似合う。

 やっぱりジンロウさんの渋さには、日本刀だよね!


「……これはカタナ、と言うのではないかの?」

「そうそう! やっぱりよく似合って……え?」

「ドコウよ。おぬしはこれをどこで知ったのじゃ?」


 心臓が大きく鼓動した。


 ……冷や汗が流れる。

 この世界で、刀を見たことはなかった。

 少なくともこれまでは。

 もし見たことがあれば、もっと簡単に作れただろう。


「おぬしは、どこから来たのじゃ?」

「……」


 これまでにも、前世の知識を使ったことはある。

 ロボットに関しては、ほとんどがそうだ。

 皆は、特に疑問を抱くことなく、受け入れてくれた。


 しかし、ジンロウさんはなぜか……刀を知っている。

 そしてたぶん、普通は知らないはずなのだ。


「ドコウさんはドワーフ村で生まれ、ドルフィーネで育ったそうです。」


 ニナさんが代わりに答えてくれた。


「ドルフィーネ……もしやジーナスの知り合いか?」

「……! ジーナスさんは、俺の第二の親のような人です」

「……ふむ。あやつならあるいは……」


 ギリギリの活路が見えた気がした。

 慎重にその糸を手繰る。


「俺は自分で武器を使わないので、あまり詳しくないんですが……。ジーナスさんの家にある本は一通り読みました」

「……ふむ。……カタナという武器はの、サイトウと言う男が使っておった……とされる武器じゃ」


 鼓動が早まる。

 サイトウ……斎藤?

 ……しかしダメだ。

 今そこを尋ねてはいけない。

 藪蛇、というやつだ。


「これまで実物を見れなかったんですが……やはり珍しいのですか?」

「うむ。サイトウが使っていた一振りを除いて、存在しないのぅ」

「……」

「サイトウは初代剣聖じゃった。誰もその剣に触れることは許されなかったのじゃ」

「では、死後に……?」

「……いや、サイトウの死後、カタナは所在不明と聞いておる」


 ということは、複製も出来なかったということで……。


「おぬしは、僅かな情報とドワーフの技術力を以って、初の再現に成功したのかもしれぬ」

「はは……。しかしまだ上手く作れたかどうか……」

「ホッホッホ……そうじゃの。試してみるとしよう」


 ジンロウさんは、ゆっくり歩き出した。

 すぐにニナさんが続く。

 俺は足が震えないように注意しつつ、二人を追った。


 ◇


 ジンロウさんが向かった先は、やはり家の裏手の訓練場。

 恐らく父が作ったであろう、巨大な石柱の前で足を止めた。


「これがちょうど良さそうじゃ」


 ジンロウさんは、刀を収めた鞘を左手に持っている。

 柄に手を近づけ——


 ……キンッ


 鍔の音を鳴らした。

 言うまでもない……居合いだ。

 目の前の石柱は横一直線に切断されている。


 ……初めて手にした刀で……やっぱり達人って凄いわ……。


「……ホッホッホ……。よく手に馴染む……。良い武器じゃ。もう返さぬぞ?」

「……よ、喜んでいただけたようで何よりです……」

「ホホッ!」

「……。」


 俺は汗を拭う。

 ジンロウさんが持つ刀と俺を見つめる、ニナさんの視線には気づくことが出来なかった。


「それで……俺の稽古の方は……」

「おお! そうじゃった! ……コレほどの物が作れるなら、何とかなるやもしれぬぞ」

「……すみません。訊いてもいいでしょうか?」

「うむ」


 ジンロウさんはまず、刃舞(ばぶ)について教えてくれた。

 刃舞(ばぶ)とは技ではなく、戦闘スタイルを示す名前らしい。

 これまでもずっと見てきた、ニナさんの戦い方がそれだった。

 まるで刃が舞うように戦う……だから刃舞(ばぶ)だ。

 ……言われてみれば、そのまんまだな……。


 この刃舞(ばぶ)には、洗練された身のこなしと、無駄のない太刀筋、正確な魔力コントロールが必要になる。

 どれも一朝一夕で習得できるものではない。


「そこでのぅ……。おぬし、作った剣を土魔法で操り、舞うのはどうじゃ?」

「剣を操って舞う……。なるほど!」

「昨日の手合わせを見るに、剣筋は見えておるようじゃしの。これなら魔力面の鍛錬に集中できるじゃろうて」

「おお……! なんで思いつかなかったんだろう……。経験の差ですかね?」

「そうじゃ。経験の差を活かして後進を導くのが、師というものじゃろう?」

「……仰る通り」


 本当に、仰る通り。

 自分が研究者として、研究指導する時にも忘れちゃいけない指針だ。


 ……それにしても……そうか……予め作り、鍛えておいたものを操って戦う。

 上達した鍛冶魔法が活きるし、たぶん……土魔法の整形を組み合わせることも出来る。


「課題は、全身から放出する際の魔力コントロールを鍛え、離れた生成物を操れるようになること……どうじゃ?」

「同意です。……いや、本当に凄い」


 どこまで本質を理解されてるんだ?

 ジンロウさんの指摘の通り。

 俺が自在に操作できるのは、俺と触れている物だけだ。

 ロックダッシュ拳法では足に付けた岩を操作しているし、乗り物も俺が乗って触れている。

 身体から離れた物に対しては、射出することしか出来なかった。


 ……俺は空中に生成した物を、乱暴な土魔法で操作していた……と言えるのか。

 この操作技術を鍛えれば良い。

 目標が綺麗に整理された。


「では早速始めるかの。まずは、儂とニナの手合わせを観察し、剣筋を盗むが()い。ニナも()いな?」

「はい。」

「ジンロウさん、ありがとうございます。ニナさんも。」

「いえ。出来ることがあって良かったです。」

「ホッホッホ……ニナも油断しておれんぞ?」

「……!」


 すぐにニナさんとジンロウさんの手合わせが始まった。

 ジンロウさんは、どこから出してきたのか、昨日と同じような木の棒を使っている。

 ……相棒ですらなかったのかよ……。

 そんなことを考えてる場合じゃない。


 俺は(まばた)きすらせず、二人の剣筋を見続けた。

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