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第4話:鍛冶魔法

 転生してからの二年間を思い出しながら、誕生日祝いの肉料理を食べ終えた。

 父と母はとっくに泣き止んでいる。

 二人も満足そうだ。


 魔岩(まがん)を生成したあの後、しばらくの沈黙があっただけで特に何も起きなかった。

 このときの父いわく、私の魔力放出量が多く、次のステップに進むのは危険かもしれないので、しばらくは今まで教えた基礎を反復しよう、ということだった。

 そして次のステップに進む日に決まったのが、二歳の誕生日の今日だ。


 こうして改めて思い返すと、父と母にはとてもお世話になっていることを再確認する。

 何かお返しできないか……。

 ふと、アイデアが浮かんだ。

 私は直径10 cmほどの魔岩を生成し、母の顔に似せて変形させた。

 母に渡す。


「あぃがとう」

「……!!!」


 突然のプレゼントに驚きつつ、母は涙を堪えて震えている。

 落とさないようにしているのだろう。とにかく喜んでくれているみたいだ。

 純粋な魔力の塊である魔岩は、土魔法を使って変形させやすい。

 一年半の訓練を積んだ私にかかればこのくらいは余裕だ。

 父の分も同様に作って渡す。


「あぃがとう」

「……!!!!!」


 父はゆっくりと天井を見上げた。母と同じように涙を堪えているのだろう。


「ドコウ、大切にするわね」

「……」

「あなたも何か言って!…………あなた?」

「……」


 父は動かない。

 母は父の顔を覗き込み——


「……気絶してるわ……。」


 母は父の手から魔岩を取り上げると、自分のと一緒に大事そうにしまった。


「明日は頑張ってね」


 笑顔で母が言う。珍しい言葉だと思ったが、深い意味はないだろう。

 確かに明日が楽しみで仕方ない。

 私は机に置かれた小ぶりのハンマーを抱きかかえ、寝床に向かった。

 ハンマーをくれた父は、相変わらず固まったままだ。

 まあ、明日になれば再起動しているだろう。


 ◇


「ドコウッッ! 起きちょるかー!?」


 再起動に成功したようだ。

 まだ朝の早い時間だが、父は張り切っている。

 私もワクワクして早起きしてしまったので、準備万端だ。


「よし、工房に向かうぞ!」


 父は私を肩に乗せて歩き出した。

 そう、ついに入れる日がきたのだ! ドワーフの工房に……!

 父は鍛冶師だった。

 昨日プレゼントにもらったハンマーは、父特製の鍛冶用ハンマーである。

 赤ちゃんが使えるハンマーなんて普通あるわけない。

 二歳になるまで拳術と土魔法の基礎を鍛え、今日、次のステップとして父に鍛冶の技を見せてもらう約束になっている。

 ドワーフといえば鍛冶、鍛冶といえばドワーフだ!

 ワクワクが止まらない。


「よォし、ここだ!」


 早速工房に到着した。

 様々な机と棚、よく分からない道具に、鉄床(かなとこ)がある。

 ……ん? 炉がないけど……?


「早速やるぞ! よォく見とけよォ! まずは……こいつだ!」


 父は棚から茶色い剣のようなものを取り出し、鉄床に乗せた。

 岩を土魔法で変形させたものに見える……。

 父は腰のハンマーを手に取り、高く振りかぶった……!


 カーンッ!


 父のハンマーが剣に当たる瞬間、金色の光が弾けた。


 カーンッ! カーンッ! カーンッ!……


 父が何度もハンマーで叩くと、茶色かった剣の色が、鈍い銀色に変わっていく。

 ……鉄……?


 …カーンッッ!!


 剣の色が完全に変わると、父はハンマーを振るのをやめた。


「どうだ! アイアンソード、いっちょあがりだ!」


 父が見せてくれた剣は確実に岩製ではなかった。

 名前の通り、鉄の剣にしか見えない。

 え……? どゆこと……???


「とぉさん」

「ああ、すまねェ! 説明すんの忘れてたな! ドワーフ族の鍛冶は岩を鉄にするんだ!」


 ……少し落ち着く必要がありそうだ。……岩を鉄に?

 それは鍛冶というより、錬金術……、もしくは魔法じゃないか!


「次はこいつだな」


 そう言うと父は大事そうに何かを取り出した。

 私が昨日プレゼントした、父の顔の形の魔岩だ。

 大きな両手で包み込むように持っている。

 父はそれを慎重に慎重に鉄床に置くと、ハンマーを手に取り、振りかぶった!

 ……あっっ!


 カーンッ!


 魔岩は割れなかった。

 金色の光が弾けるたび、みるみる材質が変化していく。

 ……そこで気付いた。

 ハンマーで叩いていると思っていたが、よく見ると当たっていない!

 魔岩に当たる寸前、ハンマーは見えない何かを叩き、気持ちのいい音を鳴らしている。


 …カーンッッ!!

「よォし、できたぞ……。見てくれ!」


 魔岩の形はまったく変わっていない。

 色は今回も銀色だが、少し白っぽく輝いている。

 これはもしかして……プラチナ?


「魔岩は脆くてすぐ壊れちまうからよォ。頑丈なプラチナにしたんだ」


 完成品を見つめる父の目はとても優しく嬉しそうだった。


「ちなみにな、魔岩よりずっと時間がかかっちまうから今日は見せられねェが、ワシは岩もプラチナにできるぞ! これができるのはこの村でワシだけだ!!」


 得意げである。

 いや、実際すごい。二回とも完全に違う材質に変化した。

 しかも父の口ぶりから察するに、変化させる材質をコントロールできるようだ。

 ……間違いない……これは魔法だ……!

 この世界の鍛冶は、前の世界にあった金属の性質を利用する加工法とは、まったく異なるもののようだ。

 ……さながら鍛冶魔法。

 だとすると、このハンマーは魔法を補助する道具、いわゆる魔道具というやつだろう。

 ……うーん、魔岩の件もあったし、自重せねばと思うけど……これは我慢できない!


「とぉさん、ぼくも……」

「ああ! やってみろ! まずはこれからだ!」


 二歳にしてはちょっと上手く発音しすぎた気がするが、父は気にせずに小さな岩のプレートを鉄床に置いた。

 キレイに整形されている。

 なるほど、叩きやすそうで最初の課題にぴったりだ。

 ……しかしどうすればいいんだ……?

 岩を鉄に変える感覚がさっぱり分からない。


「……説明してやりてェが、鍛冶はドワーフ族だけに伝わる技術。理屈がよく分かってねェ。とにかくハンマーを振って、自分で感覚を掴むしかねェんだ。最初は上手くいかねェだろうが、何度も何度もハンマーを振るんだ」


 拳術のときとは違うようだ。

 さすがの父もすぐに出来るとは思っていないらしい。

 昨晩の母がなぜ珍しく『頑張って』と言ったのかも分かった。

 根気がいりそうだが、とにかく頑張ってみよう! 新技術のためならなんのその、だ!


 コンッ……ゴッ……コンッ…


 父のように豪快にハンマーを振る筋力はない。

 しかし拳術の経験を考えると、たぶん物理的な力の強さは必須じゃない。

 魔力の強さと使い方だ。

 岩のプレートにはまだ何の変化もなさそうだが、いつかきっとできる。

 ……そう信じて毎日、ハンマーを振り続けた。


 ◇◇◇


 鍛冶の訓練を開始してから一年半以上が過ぎた。

 私は三歳。四歳の誕生日も近づいている。


「父さん、これを見てくれませんか?」

「お? どれ……。おォ、プレートの質がかなり均一になってきたな! コツは掴めてきたか?」

「はい!」


 拳術や土魔法に比べるとかなり時間がかかったが、私はようやく鍛冶魔法のコツを掴んできていた。

 拳術はインパクトの瞬間に魔力をボンッと鋭く放出するイメージだ。

 拳を勢いよくぶつけると、この放出のイメージが自然にできる。

 土魔法の変形は、対象の表面に魔力を這わせ、それを操作するイメージだ。

 魔岩生成もやはり同様で、魔力全体を固めるというより、(かく)でキュッとまとめるイメージの方が上手くいく。


 一方で鍛冶魔法は、対象のもっと深いところに魔力を押し込むようにイメージすると、上手くいくことが分かった。

 魔力をハンマーに込め、叩く瞬間にギュッ、だ。

 拳術の要領で叩き込もうとすると、対象は砕け散ってしまう。

 拳術ではこうして岩なんかを砕いているのだから、当たり前だ。

 つい数週間前、ようやくこのイメージの違いに気づくことが出来た。


「これなら、アレに挑戦してもいいかもしれねェ」


 そう言った父は工房に向かって歩き出した。

 アレがなんなのか、おおよその見当はつくが、とりあえず黙って付いていく。


「こいつを鉄に変えてみろ」


 父が最初に鍛冶を見せてくれたときに使ったのと同じ、岩製の剣だ。


「おお、いよいよ……! 分かりました!」


 ちなみに、幼児っぽい喋り方はしばらく前にやめた。

 意思疎通しにくいし、もう今さら天才だと騒がれたところで五十歩百歩だ。


 カーンッ! カーンッ! カーンッ! ……


 私はハンマーを振り始めた。

 いい感じだ。手応えはプレートと大差ない。


 ……カーンッッ!!


 しばらくハンマーを振った後、私は手を止めた。

 それまで私をじっと見つめていた父が、完成品を手に取る。

 真剣な表情で出来栄えを確認しているその後ろには、いつの間にか母が立っていた。

 それどころか他の村人も数人、真剣な表情で工房を覗き込んでいる。


「……ふむ……上出来だ! 店に出しても問題ねェ。正真正銘、ドワーフ族のアイアンソードだ!」


 母と村人たちの顔がぱっと明るくなった。


「よくやったなドコウ、これでおめェは一人前のドワーフだ! ……四歳にもならねェうちにやっちまうとはな……本当に、よく頑張ったな……!」


 ガッ!と父が肩を掴む。


「父さん、ありがとう……!」

「……それとなドコウ……一人前のドワーフの男はな、自分のことは『俺』、だ! 100歳を超えたら『ワシ』になる! ドワーフ族の力強さの表れだ! おめェもドワーフらしく、もっと豪快にいけ!」


 豪快に……。

 確かに転生してからずっと、どこかで自分を世界の異物のように感じ、遠慮していたかもしれない。

 今ひとつ、実感が湧かないまま、生きていたかもしれない。

 前世の個性をなしにはできないが、せっかくのドワーフライフ、父の言うように豪快に生きた方が楽しそうだ!


「……分かった!!!」


 その晩、村人総出で盛大な宴会が開かれた。

 ……俺は、村人たちと思いっきり宴会を楽しみ、思いっきり、笑った。

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