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第37話:進捗報告

「それじゃ母さん、また来るよ」

「ええ。その乗り物に感謝ね」


 俺とニナさんは岩バイクに跨り、ドルフィーネに向けて発つところだ。

 ドワーフ村では、だいぶゆっくりさせてもらった。

 ニナさんの髪はもう黒く戻っている。


「リリーナさん、ありがとうございました。」

「ふふ、良いのよ。ニナさんもまたいらっしゃいね」

「はい。」


 母はニナさんのことを気に入ったようだ。

 ……というか、最初から優しい態度だった。

 俺が予め話していたからだろうか?


 他の村人達にも見送られながら、俺は岩バイクの速度を徐々に上げた。


 ◇


 岩バイクであれば、ドワーフ村からドルフィーネまであっという間だ。

 俺とニナさんは、マギアキジア都市開発組合、ドルフィーネ支部……別名ジーナス邸に到着した。

 ……ほんと、ジーナスさんには頭が上がらない。


「ドコウ殿! 待っていたぞ!」

「あ、ヴァルさん! わざわざ出迎えありがとう」

「当然だろう。それに、待っているのは私だけではないぞ。……早く中に入ろう。私だけが話していると後で何を言われるか分からん」


 岩バイクに乗ってきたのはドルフィーネの少し手前までだ。

 ちょっと目立ちすぎる。

 ジーナス邸の門で待っていたヴァルさんと合流し、三人で並んで歩き出す。


「しかし、本当に早かったな。マギアキジアを発つ時に出したあの乗り物か?」

「そうそう。前傾姿勢で乗るから速度を出しても耐えやすい。二人が限界だけどね」

「そうか……私が乗る機会はなさそうだな。……ところで、リザードマンはどうだった?」

「……凄く強かったよ。それについては、関連して話したいことが色々あるから、また後で時間が欲しい」

「承知した。是非頼む」


 ジーナス邸の玄関に到着した。

 ……さて、ヴァルさんの口振りだと他にも待ってくれている人が居る。

 久々に皆に会えるといいな……。

 俺は期待しつつ、大きな扉を開けた。


「ああ我が主よくぞご無事で是非聞いてほしい成果があるのムグッ!」

「おぬし! 最初はレティだと話し合ったじゃろうが!?」

「ぷはっ!……ご、ごめんレティ……ボク、御姿を見たら我を忘れちゃって……」

「い、いいんですよ! 嬉しいし話したい気持ちはよく分かります!」


 ……君たち、レティが最年少なんだよね?

 弟子三人組以外にも、たくさんの仲間が集まってくれていた。

 マギアキジアに出発してからなので、一週間ほど空けることになってしまったが、皆も元気そうで何よりだ。

 ……一人、普段に比べて元気なさそうなのが居るけど……。

 ともかく、最初はレティと言ってたな。


「ドコウさん! ニナさん! お帰りなさい! 手紙で無事なことは知っていましたが、こうして会えるとホッとします」

「ただいま。そうだね、俺も皆に会えてホッとしてるよ」

「ええ。ただいま、レティ。」

「それで……何か俺に話したいことがあるの?」

「は、はい! その……魔蔵ブレスレットに溜められる魔力の量が、倍増しました……」

「え!? すごッ!」


 自信なさげに報告していたレティの顔が、パッと明るくなる。


「ありがとうございます! 一回溜めれば、今までのウォーターブラストを二回か三回は打てるようになりました!」

「凄い効率アップじゃないか……凄いぞ……。何か工夫したのかな?」

「はい。スゥさんにも手伝ってもらって……。魔蔵ブレスレットの表面の抵抗を、一部だけ除いて上げてもらったんです」

「……ふむ。どうしてそうしたのかな?」

「えっと……これまで、魔力をある程度まで溜めると、それ以降は込めた分だけ抜けているような……中に溜まっていかない感覚がありました。それで、もしかして表面から抜けてるんじゃないかなって考えて……」

「レティから、抜けにくいように出来ないか相談を受けたのじゃ」

「なるほど……」


 詳細は分からないが、魔力の内圧のようなものが高まるのだろうか?

 それで魔岩を構成する殻では、閉じ込めきれなくなるのかもしれない……。

 魔蔵ブレスレットの仕組みを良く考えた上での、鋭い洞察だ。


「うん、よく考えたと思う。凄いよレティ!」

「で、でも抵抗を上げてくれたのはスゥさんで……」

「いや、確かにスゥも手伝ったんだろうけど、それはレティの提案を手伝ったんだ。この改良のアイデアは、レティの成果だよ。もっと自信を持っていい!」

「そうじゃ。妾は実現を手伝ったに過ぎぬ」

「あ、ありがとうございます!」


 レティは輝くような笑顔を見せ、そのままの明るさでニナさんと話を始めた。

 俺の背後からは鼻をすする音が聞こえるが、後が(つっか)えているので今回も無視だ。

 すまんな、お兄ちゃん。


「えっと……最初はレティ、ってことは、他にも何かあるのかな」

「うむ、次は妾じゃ。まず、無事で何よりじゃ……何も出来ず申し訳ない」

「いやいや、俺が勝手に判断したんだから、スゥが気にすることはないよ」

「そうか……ふむ。……妾はな、この(かん)にマギアキジア移住希望者と話をしておった。結果、ボレアリスで共に作ったあの炎を出す仕掛けを使って、料理屋を開いてみることになったのじゃ」


 ボレアリスで俺とスゥが作った装置。

 まず俺がガスコンロのゴトクのような形の魔岩を生成し、それをスゥが追加工して作る。

 スゥが編み出した新技術によって、集まる爪の先端だけ、魔力伝達抵抗を上げるのだ。

 出来たものに魔力を通わせることで、爪の中央に高熱を帯びた光球を発生させることが出来る。

 熱を生み出して料理か……本当にゴトクっぽくなってきたな。


 魔工学を使って何かを営みたい人が居る話は、ヴァルさんから聞いていた。

 スゥが早速、具体的に進めてくれたってことか……凄すぎる。


「それは……魔工学が実際に社会の役に立つ、最初の一歩じゃないか!」

「そうじゃな……」

「もっと誇らしげにしてくれよ! これは凄い一歩なんだぞ!」

「う、うむ! 妾もやり甲斐を感じておるぞ!」


 ……あえて言わないが、それだけじゃない。

 これは、スゥにとって大事な経験になる。

 スゥはこれまでの経緯から、自己肯定感が非常に低い。

 実際のスゥは本当に凄いのだ。

 増長するのも良くないが、卑下するのも良くない。

 自分の凄さを適切に把握し、健全にその先を目指せるようになってほしい。


「何か手伝えることはある?」

「うむ。あの魔岩を少しずつ違う形状で、いくつか生成してくれぬだろうか? 色々試してみたい。……具体的には、爪の密集具合を変えてみたいのじゃ。爪同士の距離で、火力が変わるじゃろう?」

「確かに。お安い御用だ。後でまた声をかけてもらえる? 出来れば作って渡すだけじゃなくて、俺も実験したいけどな……」

「感謝する。……妾もそうしたいが、そなたは多忙じゃろう? 可能な時で()い」


 スゥの言う通り。

 残念だけど、のんびり実験は難しいかも。


 さて、そうなると次は……。


「次はボク。でも……ボクだけじゃない……ミミカと、これ」


 クレアは俺に一本の糸を手渡した。

 これってまさか?


魔岩糸(まがんし)……ミミカと頑張った……!」

「こんなに短期間で……!?」

「旦那ァ……」


 ここでようやくミミカが口を開いた。

 他の皆は元気そうだが、ミミカだけ心做(こころな)しかゲッソリしている。


「ウチ頑張ったニャ……?」

「ああ、これは凄いぞ!」

「じゃあ……ご褒美を要求してもいいニャ……?」

「褒美……?」

「そうだニャ! ニナ様と一週間過ごす権利を要求するニャ! 」

「……それはニナさんに訊くべきことじゃ……?」

「つまり旦那からは許可が出たってことかニャ!?」


 俺の前で話していたはずのミミカの姿が消えた。


「ニナ様! どうかニャ!?」

「分かりました。」


 気がついたらニナさんの両手を握っている。

 ……やりおる。


「やったニャーッ!!!」


 一番元気がなかったミミカは、今、一番元気になった。


「……えっと……、ニナさんと何かするの?」

「旦那らしからぬ愚問だニャー……。着物の仕上げに決まっているニャ! 二日三日は必要だニャ。それから着物姿のニナ様とお出かけニャ! ……ニャフフ……! ……レティ! レティも研究お休みして一緒に行くニャ!」


 ……ニャフフって何?

 レティは俺をチラッと見る。

 ……いやいや、別に俺を窺わなくても。


「息抜きは何においても大事だと思うよ。……それと、今後も俺に許可を取る必要はないからね?」

「はい! ミミカちゃん! 私もニナ姉様とお出かけしたい!」

「盛り上がってきたニャー! レティ、こないだ一緒に下見したカフェはなかなか良かったニャ? それから……」


 ミミカとレティは、別の世界に入り込んでしまった。

 ニナさんはそんな二人を優しく見守っている。


「……クレアも、お疲れ様。この魔岩糸(まがんし)は凄い成果だ。色々応用が考えられそうだけど、今は何か挑戦中?」

「……! ありっ!……ありがたき……ありがとうございます。……魔岩糸の応用をちゃんと考えるために、まずは色々な特性を計測中……です」

「『ありがとう』で十分だよ。……情報を収集して整理……状況把握ってことだね。流石、堅実だ」

「……えへへ……」


 クレアは弟子三人の中で、最も研究経験が豊富だ。

 進め方が上手い。

 ……セバスさんの話によれば、クレアはこれまで誰かと対等に接する機会が少なかったようだ。

 確かに、オズさんやギルさんとの研究は、クレアにとっては応用の一つだ。

 誰かと真っ向から議論しながら、大好きな基礎技術を研究するチャンスをもっと与えたい。


「いやー、しかし……俺の弟子は皆凄いな……」

「そなたはどうなのじゃ?」

「あ! そうです! また何かこっそりやってたんじゃないですか!?」

「……我が主の研究は、全て理解したい……」

「いや、そんなこっそりって……」


 バレたか。

 ドワーフ村でニナさんの髪が戻るのを待つ間、俺には時間があった。

 そして近くにはゴーレムを教えてくれた母。

 となれば、やることは一つだろう!


「よーし! ではお見せしよう! 俺の成果を!」


 俺はゴーレムを一体生成する。

 今回は初のオール魔岩製。

 腰ほどの背丈の小さな二足歩行タイプだ。


「お! ゴーレムじゃな!」

「ふっふっふ……。よく見るんだな、スゥ。この手を!」

「……なんじゃ?」

「関節が細かいじゃないか!」


 そう!

 今までのゴーレムの手はちょっと簡略化されていた。

 なんと今回は、人の手と同じ関節構造になっている!

 こんな細かい構造を一瞬で作れる土魔法の凄さ!


「……そ、そうか。では、この指が動くのじゃな?」

「……」

「動くのじゃな?」

「……それは今度に取っておこうかなー……」

「動かんのじゃな」

「……そうだね」


 造形にこだわった結果、魔力を溜める体積を確保できなかった。

 さっき聞いたレティの成果やクレア達の魔岩糸を使えば、この問題は早速解決できるかもしれない。

 ……気を取り直して、今回の成果といこう。


「えっと……今回は別の成果になります……」

「ドコウさん、敬語になっちゃいました……」

「う、うむ」


 俺はゴーレムの頭部に魔力で作用する。

 母からヒントをもらいながら確立した、画期的な技術を実行するためだ。


「……よし、じゃあいくよ。……ゴーレム! パターンA!」


 ゴゴリッ……


 ゴーレムは右肘と右肩、さらに左肘と左肩を同時に動かした。

 走る時の腕のポーズに近い。


「続いてパターンB!」


 命令を受けたゴーレムは両腕を同時に大きく動かし、ガッツポーズを取った。


「……どうよ!?」


 ゴーレムの瞳は輝いたまま、次の命令を待っている。


「……あ! 分かりました! ゴーレムさんって決まった動きしか出来なかったはずです!」

「そ、そうじゃ!」

「よく分かってくれたな弟子達よ……。そう。まだ同じ岩操作の魔法に限定されてるけど、色んな動きが出来る。……しかも! 予め決めておいたパターンに従って動かせるようになった!」


 ……あれ?

 静かだ。


「……あ。理解した……かも……」


 クレアはボソッと喋った後、ブルブルっと震えた。

 ……来る!


「我が主! これはもしや異なる状況に対する命令を構築できるようになったと言う事ですか!」

「そう!」

「やはり! とすれば工夫次第で取りうる行動は無限大そういうことですね!」

「そう!」


 俺とクレアはガシッと手を握った。


「妾はまだ全てを理解出来てはおらぬが……。これはロボットの実現に一歩近づいたのじゃな?」

「そういうこと。まだまだ基礎の基礎だけど、これが出来ないと始まらない」


 母に初めて見せてもらった時の理解の通り、ゴーレムの頭部はCPU……計算機のように使えることが分かった。

 ドワーフ村で確立したのは、その計算機への指示の出し方……いわば、魔力を用いたプログラミング言語とでも言うべきものだ。

 これで、ようやくロボットの制御を考える準備が出来た。


「まあ……今はここまでだね……」


 どんな状況にどんな指示を組むのか……それはこれからだし、まだ足りない要素もある。


 さて、弟子からの研究報告は終わったし、俺からの報告も終わった。

 もう無いかな……?


「ドコウ様、続いての報告は、私からよろしいでしょうか?」

「あ、セバスさん。何でしょう?」

「はい、新しい建物のことで……。しかし、まずは中にお入りになってはいかがでしょうか? お飲み物も用意してありますし、ジーナス殿もお待ちです」

「「「あ」」」


 セバスさんの言葉で俺達は思い出した。

 ここが、玄関だと言うことを。

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