表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/78

第36話:母

 ドワーフ村の入口には、母が立っていた。


「ご苦労さま、ドコウ」


 武装したリザードマンと戦った場所からは岩バイクで数刻。

 俺達より早く報せが来ることはない。

 やはり、感知していたようだ。


「ただいま、母さん。ずっと待ってたの?」

「いいえ。到着に合わせたのよ。……どうやって移動しているのかと思ったら……。ドコウは、いくつになってもお母さんをビックリさせるのね」


 ……なんだろう。

 優しい母らしさはそのままだが、少し違う雰囲気を感じる。

 何か隠すのをやめたような。


「……貴女が、ニナさんね。私はリリーナ。ドコウの母よ」

「はい。ニナです。よろしくお願いします。」


 母はニナさんを見つめる。

 優しい目だ。


「えっと、母さん。前にも話したと思うけど、ニナさんはエルフで……」

「大丈夫よ。……立ち話は悪いわ。お家に来て頂戴」

「あ、その前にドルフィーネに報せを送らないと」

「それも大丈夫。もう送ってあるわ」


 ……それはそうか。

 討伐したことを感知してすぐに、報告してくれたのだろう。


 ◇


「改めて、リザードマンの討伐、ご苦労さま。お父さんが留守だから困っちゃったわ」

「なんとか倒せて良かったよ。倒したのはニナさんだけど」

「そう……」

「……。」


 母は、俺とニナさんにお茶を出してくれた。

 温かいお茶をすすりながらのお喋りタイムだ。


「そういえば母さん。母さんは広範囲を感知できるんだよね?」

「ええ、そうよ」

「その技って俺にも使えるかな?」


 土魔法はマスターしたと思っていた。

 これからマギアキジアを守るためにも役立ちそうだし、是非習得したい。


「ごめんなさい。こればっかりはドコウにも教えられないわ。私だけの特別なの」

「うーん、それは残念——」

「——それは……。」


 ニナさんが被せるように言葉を発したが、一瞬言い淀む。

 母はニナさんに優しく頷いた。


「……貴女が、ドワーフとエルフのハーフだからですか?」

「……ええ。そうよ」


 ……え?

 ……あれ、確かにばっちり特徴ある……。

 ……でも、ドワーフとエルフが仲悪いって言ってたのは母のはずじゃ……?


「えっ……と……初耳なんだけど……」

「ふふっ、言ってないもの」


 母は口を手で隠して笑っている。


「……。」

「ニナさん、貴女……本当は髪が黒いのよね?」

「「!?」」


 今、ニナさんの髪は一時的に茶色くなっている。


「母さん、黒い髪のこと知ってるんだね!?」

「ええ」

「……教えてもらえませんか? なぜ、私だけ黒いのか……知りたいのです。」


 ニナさんの言葉に力がこもっている。


「……本当にごめんなさいね。私から教えることは出来ないわ」

「……そうですか……。」


 ニナさんが椅子に座り直す。


「何か理由があるってこと?」

「そうよ。ニナさんは、私のことがすぐ分かったんでしょう?」

「はい。」

「ね。だから話したの。……でも、出来る限り貴方達自身で、知ってほしいの。……ドコウ。お母さんは、今でも貴方に色々なことを知ってほしいと思っているわ」


 ……前にも聞いた言葉だ。

 随分昔……村を出るよりも前に。


「お詫びになるかは分からないけど……ニナさん、イヤーカフを作って今度届けるわね。一つ足りないでしょう?」

「……そのようです。ありがとうございます。お話も。」

「ドコウが出会ったエルフが、貴女で良かったわ。……ドコウのこと、よろしくね」

「……はい。」


 女性同士の会話のテンポに置いてかれてしまった。

 どういうことだ?

 確かにニナさんがいつも着けているイヤーカフが、一つ無くなっている。

 なぜそれを母が分かる?


 分からないことだらけだが、恐らくこれ以上訊いても教えてくれないだろう。


「ドコウ、数日休んでいきなさい。ニナさんの髪が戻るまで」

「……数日で戻るの?」

「たぶんね。……どうかしら? ニナさん」

「はい。私もそう思います。」


 もうダメだ! この母、謎すぎる!

 俺は諦めて母の指示に従うことにした。

 母は、強かった。

 ……この場合、母かどうかはあまり関係ない気もするが。


 それから、母はニナさんに旅のことを尋ね、ニナさんはそれに答えている。

 ……仲良さそうだし、もう何でもいっか!


 ◇


 その晩、母は張り切った。

 そう……ご馳走だ!


「この肉三昧も、凄く懐かしいなあ」

「どんどん食べなさいね!」

「……リリーナさん、こんなに食べきれません。」

「あら? ちゃんと食べないとダメよ?」

「いや、その量は多いでしょ……」


 例え魚だったとしても、食べきれないだろう。

 ニナさんは手元の飲み物を飲む。

 ……あ! それってもしかして!


「……母さん、ニナさんが飲んでるのって……」

「水よ?」


 ドワーフ族にとっての『水』。


「ニナさんに確認したんだよね?」

「もちろん!」

「……ニナさん、大丈夫?」

「はい。美味しいです。」


 確かにニナさんは、イケる方だ。

 しかし、『水』は飲みやすく、強めだ。


「それは良かった……。でも、その一杯だけにしとこう」

「……? はい。」


 ◇


 夕食を食べ終えた俺は、村の丘に登っていた。

 初めてドルフィーネを見た、あの丘だ。

 食後、母とニナさんがまた楽しそうに話し始めたので、少し抜けてきたのだ。

 あの頃は随分遠いと思っていた丘だが、実際は家からそんなに離れていなかった。

 大きくなったものだ。


 俺は木の根本に座り、遠くに見えるドルフィーネの灯りを眺める。

 マギアキジアはここから見えないが、まだ何もないので真っ暗だろう。

 ドルフィーネの灯りの中には、俺の仲間達が居る。

 不思議な気持ちだ。


「……ここに居たんですね。ドコウさん。」

「あ、ニナさん。よく分かったね?」

「リリーナさんから、ここじゃないかって。」

「なるほど」


 ニナさんが俺の隣に座り、(もた)れ掛かってくる。

 鼓動が早くなるが、紳士ドコウ、冷静な対処。


「ニ、ニナさん?」

「ドコウさん、私、楽しいです。」

「……それは何よりだけど……酔ってる?」

「そうですね……少し、勇気が出せそうです。」


 ニナさんはリラックスしている様子だ。

 せっかくだし、ゆっくり話そう。


「風が気持ち良い……。」

「そうだね」

「……ドコウさん、まだまだ分からないことが一杯ですね。」

「うん……。でも、少し進展があったと思ってるよ」

「私もです。……時間がかかっても私は大丈夫です。ドコウさん。」


 ニナさんの言う通り。

 まだまだ謎だらけ。

 これからもコツコツ調べていくことになるのだろう。


「確かに時間はかかりそうだ。……これからもよろしくね、ニナさん」


 今日は星が綺麗な夜だ。

 ここからの景色は本当に壮大で、美しい。


「……ドコウさん、私……分かりません。」

「ん? ……そうだね。でも、焦ることはないよ。……マギアキジアにあったような遺跡が、他にもあるかも知れない。それこそ、未開の地と呼ばれている場所なんか怪しいよね。……ロボットが出来て、探索が進んで、遺跡が見つかったりしたら、凄く順調って感じで…………ニナさん?」


 ニナさんは、俺に(もた)れたまま眠ってしまったらしい。

 人前で眠る姿を見るのは初めてだ。

 心地良さそうな表情で、静かに寝息をたてている。


「……綺麗だな……」


 ……透き通るような夜に包まれた、穏やかな世界。

 そよ風の音だけが聞こえる。


 俺は、そのまま少しの間、美しいこの世界を眺めた。


 ◇


「あら、ちゃんと眠ったようね」

「……もしかして、これが母さんの狙い?」

「ふふっ、バレちゃったわね。……よく眠ったほうが良いわ」


 俺はニナさんを抱えて戻った。

 そのまま、寝床にそっと置く。


「……ところで、父さんがどこ行ったかって、やっぱり教えてもらえない?」

「そうね……。私は教えてもいいと思うんだけど、お父さんが内緒だって言ったのよ」

「……内緒の多い両親だなあ」

「ふふふっ、ミステリアスでしょ?」


 全くだ。


 ……今日は岩バイクで走り、リザードマンと戦い、またここまで岩バイクで走った。

 流石に、ドワーフの俺もヘトヘトだ。


 久々の実家で、ゆっくり、寝ることにしよう……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ