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第31話:未開の地

 トニトルモンテから東に進んでゼフィリアに至る道。

 この途中には、大きな橋がかかっている。

 霊峰モンテ・セレストリアから流れる、セレスト川を渡るためのものだ。

 この橋から見るモンテ・セレストリアは、とても美しかった。


「どうしたドコウ殿? ああ、モンテ・セレストリアか」

「うん、ヴァルさん。綺麗な山だな、と思って」

「そうだな、あのように峰に雪が積もっている様を描いた絵画は数知れずある。絶景として有名だ。……しかし、その魅力に反して、大部分は調査できていない。未開の地だ」

「あ、そうなの? 確かに険しそうだけど……」

「そうだ。氷室(ひむろ)があるのはごく手前だけに限られている。ロボットが完成すれば、もっと色々な魅力が見つかるだろうな」

「そうだね。……そういえば、未開の地ってのは他にどのくらいあるんだろう?」

「うーむ……モンテ・セレストリアのように、一部が未調査である場所はあちこちに存在する。……だが何よりも、南半球全体だな」


「……え?」

「この星の南半球全体が、未開の地なのだ」

「………南半球?」

「そうだ」

「……………え?」

「……ドコウ殿?」

「もしやそなた、これまで行った場所が、この星の全てと思っておった訳ではあるまいな?」

「……ハ、ハハハ。ソンナワケナイダロ、スゥ……。…………え?」


 確かに、この旅の間、暑い地域はなかった。

 温暖な地域から旅が始まり、今は寒い地域を歩いている。

 赤道を越えてない……?

 いや! そんなはずはない! だって——


「い、いやいや、ほら、この地図にはくっきりと真ん中に赤道が……」

「折り目だな」

「折り目じゃな」

「…………ほんとだ……」


 ……思い出せ……思い出すのだドコウよ。

 基盤学校で習ったはずではないか。

 天文学では何を学んだ……?

 ……この星の他にも、宇宙にはたくさんの星があり、太陽系や銀河系を成して支え合っていること……自転と公転のこと……。

 ……いや、違うな。今、必要なのは地理の知識だ。

 …………この地図しか、見たことがない。


「……な、なぜ……」

「南半球はモンスターが支配する危険な場所だ。人が立ち入ること自体、禁止している国も多い。一般人の中には南半球のことなど知らなくても良い、むしろ知らない方が不安にならず、幸せな者も多いだろう」

「……だ、誰も……」

「誰か、この地図が『世界』じゃと言ったのかの?」


 ……確かに、この地図をくれた雑貨屋の奥さんからも、何も説明されていない。

 俺の『世界を回る』という発言に、明確に同意してくれたのは誰だっけ……?

 父と……ニナさん?


「えっと……ニナさんは知ってて……?」

「ええ……。」


 ニナさんもちょっと戸惑ってる。

 なんてこった……。

 驚きが収まり、俺の中に抑えきれない高揚感が湧き上がってきた。

 なんて調べ甲斐のある、なんて探究心くすぐる世界なんだ……!


「世界って広くて、不思議で……まだまだ楽しめそうだ」

「そうですね。」

「やること山積みだ」

「ええ。」

「改めて、長い付き合いになりそうだね」

「はい。」


 俺は、俺の認識する世界が広がったことに、むしろ感謝した。

 その時——


「ドコウさん。モンスターのようです。」

「お?」


 前方にトカゲっぽいモンスターと、スライムっぽいモンスターが見える。


「……セレストリザードと……リバースライム……。ボクにやらせてほしい」

「え? クレア一人で?」

「はい。かっこいいとこ……見せたい」


 戦闘まで出来るのか?

 よく考えると、一人でトニトルモンテに居たってことは、一人旅できる能力があるってことだ。

 今後のためにも、お手並み拝見しといた方が良いかもしれない。


「分かった。想定外なことが起きたらすぐに合図して」

「はい。……じゃあ、皆、少し離れて」


 皆は一歩下がり、クレアはモンスターに向かって歩いていく。


「……サンダーウォール」


 クレアがそう言うと、全身の毛がゾワゾワっとした。

 静電気?

 クレアはそのままモンスターに向かってゆっくり歩いていく。

 一番近くにいたリバースライムが、クレアに飛びかかった!


 バチッ!!


 リバースライムはクレアに触れることなく、電撃を浴びて焦げてしまった。

 ……なるほど。自分の周囲に雷魔法の膜を張る技か。

 クレアはそのまま歩くだけで、全てのリバースライムを焦がした。

 セレストリザードに近づくと、スッと指を指し、


「ショック」

 バチッ!!!


 クレアの指から放たれた電撃にセレストリザードは痺れ、全身から煙を出して倒れた。

 ……なんか、静かなのが凄く怖いんですけど……?


「……終わった」

「おお! クレア殿は雷魔法を使うのだな! 見事なコントロールだ!」

「ほんとに! 無駄がなかったです!」

「……へへへ」


 俺はこれまで、実戦で雷魔法を見たことがなかった。

 しかしヴァルさんとレティの反応で、クレアのレベルの高さがよく分かる。


 魔法学の研究をするには、当然、その魔法をよく理解しなければならない。

 クレアはその理解の深さを戦闘に活かすタイプのようだ。


「……どうでした? 我が主……。足手まといにはならないと……思う」

「凄かったよ! 雷魔法、しっかり見るのは初めてだ。どんな特徴があるのかな?」

「……は、はい! 雷魔法は威力が出にくいし遠距離も難しいけど速いのと死角がないのが特徴で……あ。……ご、ごめんなさい……。その……電子を操作してます……」

「なるほど……。ありがとう! そうか、やっぱりね……」


 クレアの挙動にもだいぶ慣れてきた。

 本人も制御しようと努力しているようだ。


「ところで……その『我が主』ってのは、どうにかならないのかな……?」

「我が主は……我が主……。……そうじゃなければ、神?」

「あ、そのままでいいです」


 ◇


 その日の晩。


「では、今日は私の番ですね。」

「うん……。というか、本当に皆は俺とニナさんの交互でいいの? 俺は明らかにニナさんの方が上位だと思ってるんだけど……」

「私はどちらも捨てがたいな」

「ウチもニャ! 岩製も新鮮で楽しいニャ」


 寝床の話だ。

 俺はニナさんの木製が最高だと思っているのだが、意外にも俺の岩小屋も評判が良い。

 両方作るとややこしくなるので、日替わり、ということで落ち着いている。


 ズォォッ!!


 ニナさんはあっという間に立派な木小屋を作った。


「……す……すご……凄い! ニナ様はこんなにも木を操ることが出来るのですね!」

「え、ええ……。」

「木は生物それを生み出せるということはつまり生命を操れるということですかやはり神のお傍におられムグッ!」

「……おぬし、ニナ殿にも手を出し始めおったか」


 そのままクレアはスゥに連行されていった。

 ……確かにクレアの言う通り、木魔法は異質だと思う。

 俺の土魔法と鍛冶魔法の特異さは、ニナさんにも指摘された通りだ。

 しかし、それとも違う木魔法の異質さ。

 ニナさんが生み出した植物は、その後も生き続けることが出来る。


 魔法学で基礎とされている、風、水、炎、雷と、治癒の魔法。

 それらと異なり、使い手が限られる土、木、そして鍛冶魔法……。

 恐らく、魔法学で明らかになっていることはごく一部なのだろう。

 ロボットの構想において、魔法はあくまで実現のための一つの手段。

 しかし、本格的な魔法学の研究は、ロボットのためにも、ニナさんのためにも、必要になりそうだ。


 俺達の研究所。

 ロボティクスと、魔法学を研究する拠点。

 その構想を練りながら、俺はふかふかのベッドで眠りについた。

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