第30話:拠点
「さて……これからどうする? ドコウ殿」
「うーん、目的地がこっち来ちゃったもんね」
「そうじゃのぅ……」
俺達はまだトニトルモンテ東門を出た場所に居る。
元々は魔岩を用いた魔力伝達の研究者、つまりクレアを訪ねるためにゼフィリアを目指すつもりだった。
しかし、クレアは既に、俺達の仲間になってしまっている。
そのことをクレアに話したら、
「ぼ、ボクに会うためにゼフィリアへ!? ……あぅ」
と言って倒れてしまったので、今はニナさん達が休ませてくれている。
……ちなみに、クレアも弟子ということになり、公平を期すために呼び捨てとなった。
弟子が一気に三人になってしまった訳だ。
なお、バルドのことは弟子だと思っていない。
彼の職人技は俺の遥か上をいっていると、俺は思っている。
なぜかバルドも、俺に対して同じように思っているのだから不思議だ。
「ゼフィリア自体のことはあまり調べてなかったんだけど、どんな国なんだろう?」
「うむ。山々に囲まれた立地ゆえ、あまり行きやすい国ではなく、他国との交流は少なめだ。だが、そのせいか、腰を据えて何かに打ち込むことを好む者……研究者や芸術家が多い国として発展しているな」
「え、もう凄い惹かれる」
「そうだろうな。この点ではドコウ殿の好きそうな国だ。……しかし、それ故に内部の競争が激化していると噂に聞いている。生き馬の目を抜くような状況だ、とも聞いたことがある」
「それは……本末転倒だね……」
「うむ。詳しいことは当事者であるクレア殿にも聞くべきだが、私はあまり長く滞在する国ではない、と考えている」
最近、ヴァルさんの頼もしさが振り切れているのは気のせいだろうか?
色々と知った上で、ズバッと言ってくれる。
もしかすると、俺達と一緒に旅をすることで、それまで蓄積していた知識や能力が開花しているのかもしれない。
……それはちょっと自惚れすぎか?
「となると、これでだいたい主要な都市は見て回ったことになるのかな……」
「そうなのか? ……そういえば、ドコウ殿の拠点はどこだ? これまでは聞く機会がなかったが……」
「拠点と言える拠点は、実はないんだよね。生まれはドワーフ族の村だけど実家があるだけだし、育ったドルフィーネでも居候をしてた」
「……ふむ。それでも、その地域がドコウ殿に縁のある地なのだな」
「あの! ドコウさん! ヴァル兄様!」
レティが声をかけてきた。
さっきまでニナさんと一緒に、クレアの様子を見ていたはずだ。
……レティの後ろにはスゥと、いつの間にか復活したクレアが居る。
「クレアさんが気がついて、スゥさんも一緒に3人で少し話したんですけど……。……ド、ドコウさんの研究所を建てませんかっ!?」
……おお? ……いや……確かにそろそろ必要か……?
「ちょっと考えたくなる提案だね……。どうしてそう考えたんだろう?」
「はい! その、さっきのドコウさんの話を聞いて、私……私たちも、もっとじっくり技術の改良……研究したくなったんです! 何ていうのか……ムズムズ?」
「ウズウズ、じゃな」
「そう! ウズウズする感じで……」
「妾も同意じゃ。旅をしながらでは、夜中に没頭しにくいしの」
「いや、スゥは早寝しなさい」
「む」
炎が出た日、スゥが俺を呼びにきたのは深夜だった。
つまり、いつもあの時間まで研究していたということだ。
それはお肌に良くない。
「あ、あの……。それで、やっぱり、じっくり研究するなら……拠点を用意した方がいいかもって……。設備も必要になると思うし……」
「なるほど……。そういえば、クレアは自分の研究所って持ってるの?」
「は、はい。一応……ゼフィリアに。あ! でも我が主の研究には全然不十分です! 設備の一部は、使い回せるかも……だけど」
クレアの研究所……設備……めっちゃ見たい。
しかし、ここで暴走オタクモードになってはいけない。
「みんなはどう思う? 特にニナさんとヴァルさんは、俺と旅をすることが、一緒にいる理由だった気がするけど……」
「私は問題ない。それどころか大賛成だ。私もレティと同様、さっきの話に衝撃を受けた。まだ整理中で説明はできんが。……それに、拠点を作ったからといって、出れない訳では無いだろう? ロボットと共に未開の地にも行こうではないか!」
「おお、良いこと言ってくれるね。ヴァルさん。ありがとう」
「……私は、約束があるので。」
「そうだね。どっちも必ず守るよ、ニナさん。少しのんびりになっちゃうかも、だけど」
「……!……ええ。構いません。」
「俺は前にも言ったが、旦那が居るとこならどこでも構わねえ!」
「ウチもニャ! というか、そろそろ機織りがしたいニャ。ニナ様の着物アイデア帳がもうギッシリニャ」
ほんとに、ありがたいことだ。
何の障害もない。
「よし! じゃ、建てようか! 俺達の研究所!! ……レティ、提案ありがとね」
「は、 はい!」
◇
トニトルモンテの酒場。
そこに俺達は居た。
「……話し込みすぎたね」
「そうじゃの」
「夜になっちゃいましたね」
「あ、あの、ボクが色々訊いたから……?」
「気にすることはないぞ。なにせ行き先が決まっていない」
そう、トニトルモンテを意気揚々と出発し、東門を出たところで延々と話し続け、日が暮れて戻ってきたのだ。
なんか格好悪い。
「まあいいじゃねえか! またここの野菜を食えるんだしよ!」
「お! 流石はバルド君! 良いこと言うね!」
「そうだろう?」
「ええ。」
バルドの言う通りだ。ポジティブに行こう。
ニナさんも昨日よりご飯を楽しんでいるようだし。
……しかし本当に、行き先はどこにしようか?
つまりそれは、どこに研究所を建てようか、という問いと同義だ。
そもそも、研究所に良い立地条件って何だ?
前世だと……交通の便がそこそこ良い、とか?
それは学会やセミナーの時に出張しやすいからなので、この世界では無意味か……。
……そういえば、この世界に学会とかあるのかな?
あるとすればゼフィリアだが……さっきの話だと期待できない。
学会とは特定の団体の利益ではなく、社会全体の学術的な発展を目指すもの……実際はどうか分からないが、少なくとも理念はそういうものだ。
競争相手を出し抜こうとするような国で設立するのは難しいだろう。
……俺の夢は学会の理念に近い。
誰かの役に立つ技術で終わらずに、誰の役にも立つ技術を創出する。
……だとすればやはり、この理想を最も理解してくれそうな——
「ドルフィーネ、もしくはその近くはどうかな? 研究所を建てる場所」
頷く一同。
……あれ?
「え? なんかこう、意見とか、質問とか、ないの?」
「ないです! 希望があるとすれば、ドコウさんが決めたところが良いです!」
「……よし、質問して欲しいようだから、弟子ではない私が訊いてやろう。なぜドルフィーネなのだ?」
「な、なんかすまんねヴァルさん。気を遣わせちゃって……」
俺は研究に対する俺の考え方、そして、ドルフィーネが基盤学校で教えている都市発展の考え方を説明した。
どちらも、特定の誰かのためではなく、皆が皆のために、という考え方だ。
俺の話を聞いた仲間達は、賛同してくれているようだった。
さっきのロボットの話もそんな感じだったので、受け入れやすかったかもしれない。
……とはいえ、きっと本当に腑に落ちるところまでは行っていないだろう。
ゆっくり考えてもらえれば良い。
「あ、あの……もし良かったら、ゼフィリアにあるボクの研究所も引越しして、統合してほしい、です……」
「え? いいの? 大事な研究所なんじゃ……?」
「ボクはもうドコウ様の弟子です!! あ、……設備とか、人手とか、きっと要ると思うし……」
「それはありがたい! ……研究所では、クレアの他にどのくらいの人が働いてるの?」
「20人くらい……」
……マジか……。
こんなに若いのに、そんな数の研究員を統率していたってことか……。
俺より経験豊富なのでは?
「皆、ゼフィリアの人では珍しく……本当に技術が好きな人達で……信頼できると思い、ます……」
「おお……それなら、何人かは付いてきてくれるかもな……。設備もかなり助かる!」
「……へ……へへへ……へへへへムグッ!」
「……む。早かったかの」
なんか手慣れてきたなスゥ。
「……じゃ、じゃあ、とりあえず目的地は変わらず、ゼフィリアってことで……。そこでクレアの研究所を見てから、ドルフィーネに行こう。俺達の研究所をどんな施設にするか、イメージも膨らむと思うし」
「では、ゼフィリアからドルフィーネは、恵みの森を通ることになりそうだな」
「そうだねヴァルさん。あの辺りの地理はちょっと詳しいから任せてくれ」
こうして、次の目標も決まり、無事に目的地も決まった。
研究所……。
ついに、この世界での研究活動を本格的に始める時が、近づいてきたようだ。




