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第29話:研究構想

 トニトルモンテ東門を出てすぐの(ひら)けた場所。

 俺が作った岩の椅子に全員が腰かけている。

 作っている最中にクレアさんの息が荒くなったことは、これ以上触れないでおこう。


 クレアさん。

 スゥが『娘』と表現したことから、女性で間違いなさそうだ。

 魔岩を使って、人間の魔力伝達機能を回復させることに成功した研究者……。

 スゥの話によれば、論文を見たのが5年前ということだったので、研究を成功させたのはそれ以前。

 恐らくかなり若い頃に、偉業を成し遂げている……。

 聞きたいことがありすぎて、どこから手を付けたものやら……。


「……さて、じゃあ、クレアさん、どうして俺を待ってたの?」

「あ、あの、畏れ多いです……。クレア、でお願いします……」


 レティとスゥの視線が厳しくなる。

 呼び捨て問題は、つい最近揉めたばかりだ。


「……いや、初対面だし、クレアさんと呼ばせてほしい。それで、待っていた理由を教えてもらえるかな?」

「……はい……。あの、この素晴らしい装置、作った人は何に使おうとしたのかなって……訊いてみたくって……」


 なるほど……。

 確かに、装置を作った時はこれしか作れなかったので、想定しているシステム全体の話は一切しなかった。

 ……にしても、知的好奇心だけで待っていたというのか。


「それでずっとトニトルモンテに?」

「は、はい。この国は3つの国に繋がってるから……可能性が高いと思って……」


 ふむ……。

 いつ装置を見つけ、いつから待っていたのかは分からないが、そこまでしてくれた人を邪険にする訳にはいかない。

 ……さっきは中断されちゃったし、丁度いいか。


「よし、せっかく待っててくれたんだ。説明するよ。……そのためには、さっき途中になったゴーレムの説明をするのが都合がいい」

「その装置もゴーレムと関係するのかの?」

「まあ、今は直接関係しないんだけどね。いい機会だし、その先も話そうかなって」

「それはますます楽しみじゃ」


 全員興味を持ってくれているようだ。

 ……なんか……プレゼンするみたいで懐かしいな……。

 俺は地面に魔力を送り、一体のゴーレムを作った。

 今回は足もある二足歩行タイプだ。


「「「「「おお……っ!」」」」」

「まず、これが基本のゴーレム。土魔法の高度な技術らしいんだけど、このままじゃ使えない」

「……昨日は大半のマーマンを撃破しましたが。」

「そう、ニナさんの言うように、昨日は実績を上げた。それは工夫したからだ」

「工夫。」

「その説明をする前に、この基本のゴーレムを、普通に動かしてみせよう」


 その後、俺は母にそうしてもらったように、ゴーレムの動作を皆に見せた。

 ゴーレムは俺の指示に応え、ちょっとだけ関節を動かし、止まった。


「なんだか……ゴーレムさんが可哀想に見えてきました……」

「ど、同意です……。こんな……」


 優しいレティ。

 それに呼応するクレアさんは、なぜか涙目だ。

 無生物に対する思い入れが強いタイプかな?

 前世にもそんな知り合いが居た。

 ……元気にしてるかな。


「そう、それで昨日は、こんな風に工夫して、活躍させた」


 俺は新しいゴーレムを一体作る。

 今度は昨日と同じく、上半身だけのタイプだ。


「まず、腕の関節の部分に、魔岩を埋め込んだ。これはボレアリスの模擬戦でやった壁と同じような感じだね」

「炎魔法を消し去ったやつかの」

「そうそう。さらにここで、レティとずっと研究中の魔力の貯蔵をヒントにした。……岩を操作する時の魔力を、レティの真似をして魔岩に込めたんだ。それで、腕を飛ばした。この勢いでゴーレム自身が逆方向に吹っ飛んだら危ないし、魔力も勿体ないので、下半身は大地とくっつけた……って伝わってるかな?」

「私と魔蔵(まぞう)ブレスレットを作ったのが、昨日のマーマン討伐に役立ってたんですね……!」

「そそ」


 ヴァルさんは少し大変そうだが、懸命に理解しようとしている。

 他の皆も熱心に話を聞いてくれているようだ。


「あ、あの……」

「はいどうぞ、クレアさん」


 クレアさんが恐る恐る手を挙げたので、質疑応答のノリで指名する。

 質問内容は、そんなに魔岩を簡単に作れるのか、といった趣旨だった。

 これはレティとスゥの、弟子二人組が解説してくれた。

 表現は大げさな気がしたが。


 その説明を聞くクレアさんは驚いていたが、それ以上に、後ろで聞いていたバルドの顎が外れそうになっていた。

 ……あれ……話してなかったっけ……?

 バルドは流石に鍛冶関係の知識が豊富だ。

 魔岩生成については知っていたが……という表情だった。


「……で、ここからがこれからの話になるんだけど。……俺はこのゴーレムをベースにして、ロボット、というものを作りたい」

「ろぼっと……? なんなのじゃ、それは?」

「もっと人間みたいに動いて、人を助けるゴーレムって感じかな。……見ての通り、ゴーレムは岩で出来ていたり力持ちだったり、人間とは違う特徴をたくさん持ってる。これを活かして、人の役に立つ。そんなのを作りたいんだよね。……例えば、男手が足りない現場で力仕事を担当したり、頑丈な身体を活かして危険な場所の仕事を代わりにやったり……イメージできる?」

「……素敵ですね。」


 ニナさんの一言に頷く一同。

 ……俺はちょっと目頭が熱くなった。

 こんなにすぐに賛同してくれるとは思っていなかったので、不意を突かれたのだ。


「素晴らしい考えだ! ドコウ殿! 人手不足が解消されれば、より多くの都市を作ることができる! 危険なため、未開の地となっている土地もあるのだ! そういった問題の解決にも役立つのだな!?」

「うん、もし上手く実現できれば、そうだと思ってる」

「な、何か問題があるのか……?」

「これが結構、山積みで……」


 興奮してくれたヴァルさんの勢いを削ぐようで、申し訳ない気持ちになるが、過度な期待は禁物だ。

 後の失望に繋がる。


「全部を今説明するのは難しいけど、分かりやすい問題として……今のゴーレムは複雑な動きができない」

「……どういうことじゃ? そなたは先程、ゴーレムの頭部が指示に応じて魔力を行使する、と言っていたではないか?」

「うん。これの原因は2つだと思ってる。……まず、ゴーレムの操作技術がほとんど発展していないこと。ゴーレムは今まで、役に立たない技術だと思われてきたようだからね……あまり成熟していないみたいだ」

「こんなに……可愛いのに……」


 クレアさんはゴーレムを気に入ったようだな。


「そう、悲しいことに。……色々試したけど、現時点では、『指示された部位の魔力を一気に全部使う!』くらいのことしか出来ない。……次に、魔岩に魔力を溜めた時点で、その魔力の使い方が決まってしまっていること。……これはレティが詳しいんじゃないかな?」


 ちょっと振るのが急だったかもしれない。

 しかし、レティはスッ! と立ち上がり、


「は、はい! ……えと、私は魔蔵(まぞう)ブレスレットと呼んでいる魔岩製の腕輪に、水魔法を使う時の魔力の一部を溜めて、即時発動に使ってます。……そ、それでっ、使える魔法は溜める時にイメージした魔法だけなんです! 例えば私は、ウォーターブラストっていう魔法用として溜めてます。急に他の魔法に使ったりはできません」

「ありがとう、レティ。とってもいい説明だった」


 レティの額に汗が見える。

 人前で発表すると、緊張するよね。

 でも立派だった。


「ってことは、今のゴーレムに出来んのは、良くても、決まった動きを繰り返すくらい、か……?」

「おお、流石バルド君!」

「へへっ!」

「バルドの言う通りで、この点だけでも、まだまだ人の頼みに応じて役立つロボットの実現には程遠いってのが現状だ。そこで、ヒントになるかもしれないと思っている技術が色々ある。……スゥが考案した魔岩の抵抗を変える技術もその一つだ。色々考えられるけど、単純なものでは、ゴーレムが一気に魔力を使い果たさないように、調整できるかもしれない」

「……なるほどのぅ……」

「そ、そんなことが……できるん……ですか?」

「うむ。つい先日、出来るようになったばかりじゃが……」


 やはり魔力伝達オタクのクレアさん、そこに食いつくと思ったよ。


「さっきの遊星歯車機構ゆうせいはぐるまきこうもその一つだ」


 俺はクレアさんが抱きかかえている装置を指差す。


「この装置は、回すスピードを犠牲にして、力を増強することができる。高速に回している側では小さな力でも、ゆっくり回る側では大きな力が出るってことだ」

「皆さんも……触っても良い……」


 クレアさんが持つ装置を、順々に触る面々。


「ありがとう、クレアさん。……触りながら聞いてもらおうかな。……この効果を逆に見ると、ゆっくり回る側にかかっている力を、高速に回る側では感じにくいってことなんだ。これを活かして、例えば、力には脆いけど操作しやすい魔岩、これを高速回転させて、力強くロボットを動かす……なんてことが出来るかもしれない」


 ……。

 静かになった。

 あれ、最後のは伝わらなかったかも……?


「分かりにくかったかな……? 俺は出来れば、皆にも協力してもらえたらって思ってるんだけど……」

「……ぼ……」


 クレアさんがバッ! と立ち上がって俺の手を掴んだ!

 ヴァルさん、スゥ、レティがそれに応じて立ち上がる。


「ぼ! ……ボクも配下にくわっ! ……加わらせてもらえませんか?」


 必死に自分を抑えて、丁寧に喋ろうとしているようだ。

 皆もそれを感じたようで、見守ってくれている。


「今のお話、ボクにとっては天啓のようで……した。ボクのことは、まだ分かってもらえないと思うけどそれでも! ……ボクは貴方様を見失いたくないです……!」


 言葉のチョイスがいちいち大げさだが、気持ちはちゃんと理解できた。


「確かにまだクレアさんと出会ったばかりなのは不安だ。……ただ、怪しんでいる人にこんな話をするかな?」


 俺はクレアさんが皆に預けた装置を見る。


「その装置。俺が作った時よりピカピカに磨かれてる。自分の作品をこんなに大事にされて、嫌な印象は持ちにくいな。……それに、ドルフィーネでは見ず知らずの夫婦を祝福してくれたんだよね。俺からも礼を言いたい」


 やはりクレアさんに関する情報不足は否めないが、事前に聞いていたクレアさんの研究、ここまでの言動などからも、悪意は感じられなかった。


「……ということで、是非協力してもらいたい。実は、クレアさんの技術も、ロボット実現の鍵の一つになり得ると期待してる」


 クレアさんの表情が輝いた!


「ありがとうございます我が主よ! ああボクはなんて恵まれているんだろうこのために産まれてきたに違いない我が主のためとあらばなんでムグッ!」

「……ひとまず、手を離すのじゃ」

「……お、おお、グッジョブ」


 ……こうして、俺のプレゼンは終わった。

 得られたものは、新たに加わったクレアさんを含めた、仲間達からの理解。

 夢の実現にあたって、一番大事な宝だ。

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