第28話:再会
マーマンの群れを退治したその日の晩、俺達はトニトルモンテの城に招待されていた。
祝勝会である。
「英雄ヴァレンティン様とお仲間の方々に最上級の感謝を!!!」
司会の方が場を盛り上げてくれている。
ヴァルさんに代表してもらうことは、事前に相談して決めておいた。
決め手となったのは、
『ドコウ殿はただでさえ目立つからの。これ以上目立ってしまっては、身動き出来なくなるじゃろう』
という、ドコウ自重せよ意見だ。
もちろん俺も異論はない。
政治的なやり取りはいつもヴァルさんが請け負ってくれている。
この国を救った事実は、きっと今後の助けになるだろう。
「ニナ殿。初めてそなたの戦いを見たが、あれは獣人族の動きかの?」
「ええ。私の師は獣人族でした。」
「しかし、そなたは剣術を使うんじゃの」
「はい。それも師の教えです。」
「なるほどのぅ……」
ニナさんとスゥの会話に聞き耳を立ててしまった。
どうやら二人には共通点が多いようだ。
二人で話しているところも、よく見る気がする。
「お、旦那。どうした? べっぴんさん二人を眺めてよ」
「ああ、バルド。いや、そういう訳じゃないんだけど」
「隠すことはないぜ! 旦那くらいの歳の男なら当たり前のことだ!」
確かに二人は綺麗だ。
この祝勝会には上流階級っぽい御婦人も多いが、その中でも目立っている。
服装が普段通りだから何事もないが、ドレスでも着ていたらちょっとした騒ぎになっただろう。
「それよりよ。今日のマーマンは、倒したら消えちまったんだって?」
「そうなんだよ。きらきらーっと光って魔力になっちゃった」
「うーむ。あんだけ強力なモンスターだから、すげえ素材になると思ったんだがな……」
バルドはヒト族で最上級の鍛冶師でありながら、モンスターの素材を使った武具も扱える。
普段は討伐したモンスターをバルドがせっせと解体し、管理してくれている。
……他のメンバーは、食べられなければスルーだ。
恐らく、皆それぞれ今の装備に満足している、というのが大きい。
「倒す前に鱗とか剥いどいたら残ったかな……。ごめん、まだ分からない」
「いや、いいんだ。俺も調べてみるぜ」
そう言って酒を取りに行ったバルドと入れ替わるように、ヴァルさんが近づいてきた。
「おお、ヴァルさん。悪いね。面倒な役を任せてしまって」
「問題ない。私は多少、慣れているしな。……それよりもドコウ殿」
さらに近づいて声を落とす。
「今日のマーマンについて、何か思うことはあるか? あんな群れの発生は聞いたこともないのだ」
「……あの群れには、明らかに他の個体とは違うリーダーがいた」
「なに!?」
ヴァルさんのボリュームが上がる。
「……すまない。それで、どんなリーダーだった?」
「そうだね……正直よく分かってないけど……。俺が気づいたのは二つ。まず、他の個体に指示を出しているように見えた。次に、他の個体より身体が大きく、戦闘技術に優れていた」
「……ううむ……」
モンスターは本能的に人間を襲う。
一般的にはそう認識されている。
しかし、あのボスマーマンには、知性があったのではないか……?
「ドコウ殿が居なければ、どうなっていたか分からんな……」
「いや、きっとヴァルさんは倒せたと思う」
そう、騎士の国レグナムグラディで最強と言われる、ヴァレンティンであれば、なんとか。
「まあまだ情報が足りなすぎる。考えるのは良いことだけど、考え込むのは良くないかもしれない」
「……そうだな。心得た。では、また少し回ってくる」
そう言ってまた人混みの中へ消えていった。
ああいった人付き合いも必要なこととは理解しているが、俺には真似できない。
本当にありがたい存在だ。
「ドコウさん。」
「ああ、ニナさん、それにスゥ」
べっぴんさん二人が、いつの間にか近くまで来ていた。
「今日のゴーレム……と言っていた技は何ですか?」
「おお、妾も気になっておる」
「ああ、あれは……うーん」
「なんじゃ? 弟子にも教えられぬものなのか?」
弟子になってからのスゥは、本当に活き活きしている。
「見せながらの方が圧倒的に分かりやすいと思うから、詳しくは明日説明するよ。とりあえず、ちょっと自動で動く土人形ってところかな……」
「動く人形……。」
「ますます気になるのぅ……。明日絶対じゃぞ」
遠くでは、レティとミミカがスイーツを手に楽しそうにしている。
同い年の二人はもう、かなりの仲良しさんだ
今回の戦いは、俺達の団結力を一層高めてくれたらしい。
◇
翌日の朝。
俺達はトニトルモンテの東門に来ていた。
元々ここに長居する予定はなかったが、昨晩は期せずして最上級のご飯と寝床にありつけた。
満足して出発しよう、ということだ。
……その前に、昨晩の約束を果たそうと思う。
「じゃ、ちょっとその辺りでゴーレムについて説明するよ」
「ごぉれむ? なんだ? そりゃ?」
「妾にも分からぬ。まあ見ておれ」
バルド達には遠すぎてよく見えなかっただろう。
では、地面に魔力を流し——
「あ、あの……っ」
不意に声をかけられた。
全員が警戒する。
声の主は、ローブを深く被っていて顔がよく見えない。
背は低く、レティより少し高い程度か。
何やら細長いものを布で包み、抱えるようにして持っている。
「そこの……人……ドワーフ……?」
「そうだけど……?」
「……これ……」
ローブの人は持っていた細長いものの布を取る。
ナイフでブスリ! とかじゃないよな……?
「……あれ? これって……?」
「……?」
「なんだこれは?」
「棒と……箱、ですか?」
ニナさん、ヴァルさん、レティでも知らないもの。
それは、俺が旅立つ前に作ったものだった。
四角い箱から両側に棒が突き出た装置。
「遊星歯車機構! なぜこれがここに? ……ああ、あの店から無事売れたってことか。いやしかし、結構な金額で売るって言ってたはずだけど……。……君、これをどこで?」
俺が尋ねると、ローブの人はブルブルと震えだした!
大丈夫か!?
バッ! とローブのフードを取る。
淡藤色のショートヘアに、淡黄色の瞳。
女性だと思うが、自信は持てない。
美少女か、美少年。
「やはり貴方様だったのですねこの装置を見てからずっと探しておりました昨日の戦いも素晴らしくやはりボクの憧れムグッ!」
急にまくし立て始めたその子の口を、スゥが手で塞いだ。
「……すまぬ。こうしなければならぬ気がしたのじゃ」
「……お、おお、グッジョブ」
俺はその子に目線を合わせ、
「えっと、落ち着いて、説明してもらえるかな?」
「……!!!」
相変わらず様子はおかしいが、頷いている。
俺はスゥに目配せする。
「……ぷはっ!……ご、ごめんなさい……」
その子は深呼吸し、目線をやや斜め下……地面に向けながら話し始めた。
「えっと……ボクはクレアって言います。……あの……この装置をドルフィーネで見つけて……それで……一目惚れしちゃって……」
さっきと喋るペースが全然違う。
同一人物か?
「この装置……本当に凄くって……ボクは魔力伝達に興味があるんだけど……この装置は……この装置は……」
そこでバッと顔を上げた!
危険を察知!
「この装置は伝達すると同時に用途に応じた適切な分配を可能としていてしかも歯車の動きが神秘そのもの——」
「待った!……深呼吸」
……スーッ!……ハーッ!
よく分かった。俺はこの種族を知っている。
オタク族だ。
何を隠そう、俺も前世ではこの種族の血を引いていた。
自身のライフワークの話になると、人が変わったように喋り始めるのが特徴だ。
「ご、ごめんなさい……。それで……店員さんに訊いたら、作った人は各地を回ってるって……。だったら闇雲に探すより……一つの都市で待ってた方が良いと思って……。昨日の騒ぎ……門から見てたら……貴方様のゴーレムが見えて……」
……ん? クレアと名乗ったこの子、ゴーレムを知っている。
かなり博識のようだ。
「一つずつ確認させてほしいんだけど……。今の話からすると、この装置は、君が買ったってこと?」
「は、はい!」
「金貨10枚以上はしたはずだけど……」
「貴方様の手がかりを聞けて……嬉しかったので……20枚多く払いました……。あ、あと赤ちゃんも産まれるみたいだったから……1枚追加して……素数に……」
たまたま見かけた装置に、金貨31枚も出したってことか。
しかも最後の1枚は善意だけで。
意外な財力に驚きつつ、ちょっとした安心感を覚えた。
悪い人じゃないかもしれない。
「おぬし……先程クレアと言ったな? もしや、ゼフィリアで魔力伝達の研究をしたのはおぬしか?」
「は、はい。ボクです……」
「え!?」
「やはりか……論文に同じ名を見た。よもやこのように若い娘とは思わなんだが……」
目の前の少女は、えへへ、と照れている。
まさかゼフィリアに向かう目的が、自らやって来るとは。
……これは、話が長くなりそうだ……。




