第15話:誘拐騒動
「ありがとうございます!!」
金髪の少女が、頭を下げている。
今回、俺は濡れていないが、少女の頬が濡れていた。
「ほんとにほんとにありがとうございます!」
また泣きそうになるレティシアさん。
「いやいや、レティシアさんの頑張りだよ。……それに、まだ仕上げが残ってる」
「仕上げ……?」
「そう。でもその前に、どうして出来るようになったのかって気になる?」
「はい! 凄く気になります!」
単に水魔法を使いたいだけじゃなく、魔法学的な興味もあるのかもしれない。
「そっか。じゃあ簡単に……。今のところの仮説でしかないけど、たぶん魔岩には殻みたいなものがあって、魔力を固めた物質としての状態を保ってる。この殻の中に、水魔法を使う時の感覚で魔力を閉じ込めてもらった、って感じかな」
「えっと……その閉じ込めた水魔法の魔力を、放つ時に使った、ってことですか?」
「そうそう」
少し補足しよう。
ドワーフ村でコツを掴んだときから変わらず、俺が魔岩を生成するときは魔力全体ではなく、それをギュッと閉じる殻をイメージしている。
こんな殻が本当にあるかは分からない。
しかしなんにせよ、この殻のようなもので魔力を閉じ込めている、と解釈しても良さそうだ。
ただ、魔岩から魔力への還元は難しい。圧縮されすぎているのかもしれないが、これを考えるのはまた今度だ。
ここで水魔法の出番。
元々、水弾に魔力を込めるイメージが出来ている水魔法の使い手なら、既に形を持った魔岩に魔力を注ぐことができるかもしれない、と考えた。
これが見事に成功した。
つまり今回の方法は、俺だけでも無理、レティシアさんだけでも無理、という問題を、共同で解決した成果ということだ。
「……なるほど……」
「まあ、まだこれが真実だと分かった訳じゃないけどね。同じ現象になるけど原理は違う……ということもあるかもしれない。それを今調べるのはちょっと難しいので、一旦保留かな。……じゃ、説明はこのくらいにして、仕上げに移ろうか」
「はい!」
俺は懐から、さっき使った輪っか状の魔岩を取り出した。
「さっきの丸い魔岩は水弾をイメージしやすい形だけど、携帯に不便だと思う。だから次は、またこれを使ってやってみよう。やり方はさっきと同じで」
「……は、はい!」
これはすんなり上手くいった。
最初は木の台座に乗せて魔力を込め、装着してから放つ練習。
次に装着したまま魔力を込め、そのまま放つ練習。
レティシアさんは疲れてきているはずだが、弱音を吐くことなく、何度も繰り返した。
感覚を忘れないうちに覚えた方がいい。
「ウォーターブラスト!!!」
バシュッ……ドンッ!
魔岩ブレスレットが小さいせいか、威力も同じ、という訳にはいかなかった。
「いい感じだね。ちょっと威力が落ちちゃってるけど」
「威力はこれでも十分です! ……それよりも、打てる回数を増やせるように練習しようと思います!」
「なるほど。……何回分あるといいのかな……」
俺は懐から魔岩ブレスレットを一個、ニ個、三個……と取り出す。
こんなこともあろうかと、たくさん作っておいたのだ!
「ちょちょちょっ!? ええ!?」
慌てるレティシアさんは結局、三つ身につけることにした。
◇
その晩の帰り道……今日は俺、レティシアさん、ニナさんで並んで歩いていた。
レティシアさんは俺とニナさんに随分と心を開いてくれたようで、なんてことない会話を楽しんでいる。
……今なら教えてくれるかな?
「……ところで、一ついいかな、レティシアさん」
「なんでしょう?」
「どうして水魔法の発動を早くしたかったのかな? 凄く努力していたようだけど……」
「えっと、それは……」
レティシアさんは困った顔で考え始めた。
……早かったか。
何か別の話題を考えよう、と前を向くと、門で会った隊長さんの姿が見えた。
夜間の見回りだろうか?
あの隊長さんは、ニナさんを髪だけで判断しなかったので、好印象だ。
隊長さんはこちらに気づくと、カッ! と目を見開き、剣に手をかけた。
……え?
「あの、実は——」
「キサマッッ!!!」
ギィンッ!!!
俺は隊長の剣を、咄嗟に生成した岩の盾で受けた。
何か言いかけたレティシアさんに反応する余裕はない。
「くっ!」
「ニナさんちょっと待った!」
「……!」
俺は、今にも隊長に斬りかかろうと近接していたニナさんを制止した。
隊長は俺とニナさんから距離を取る。
髪の件もあるし、ニナさんが手を出すのは避けた方が良い気がする。
「ヴァル兄様!?」
「貴様らッ! 忠告を守らぬばかりか、レティを攫おうとするとは! 断じて許せんッ!!」
「兄様ちょっと待って——」
「レティ! 早く逃げなさいッッ!」
……兄妹だったの? 言われてみれば、金髪と青い瞳がよく似ている。
しかし、隊長さんは何を言ってるんだ?
いや、正直びっくりしているが、この状況はすぐ理解できた。勘違いだ。
このパターンは、俺たちがどう弁明しても上手くいかない、と相場が決まっている。
まずは無力化する必要があるが、上手い加減で出来るだろうか……。
隊長さんは全身を上等な鎧で包み、右手には立派な剣、左手には立派な盾を構えている。
結構な重装備に見えるが、さっきの切込みは凄まじいスピードだった。
かなり強い……!
手を抜けばこちらが危なそうだし、かといって全力は、またやりすぎるだろう。
隊長さんはザッ……っと俺の方に向き直る。
「見たことのない技を使うようだが、私に斬れない悪はない……! はあああぁぁぁッッッ……!!」
いや悪じゃないから斬れないってことに……ならないか。
そんな屁理屈を言っている場合じゃない。
隊長さんは魔力を剣に通わせている。
……あの剣はただの剣じゃなさそうだが……それを気にするのは後だ。
アレで斬られたら、岩の盾なんて豆腐のようにスパッ、だろう。
ロックダッシュ拳法で回避するか、最近練習中の秘策を試すか……。
「ダメ! 兄様!!」
「……覚悟しろッ! アビススラッシュ!!!」
魔力で輝く剣を構え、隊長さんが突進する!
俺は足に岩を生成して備えている。
その時——!
「ウォーターブラスト!!!」
ゴンッ!!
「ぐぉっ……!?」
レティシアさんの放った水弾が盾に命中し、隊長さんは吹っ飛んだ。
……たぶん狙って当てたんだと思うけど……勢いよく突進してる人の盾に当てるって……?
やはりレティシアさんも只者じゃないな……。
「く……! 今のは……? まさかレティ……!?」
「ヴァル兄様! この人たちは私の恩人です!」
「なッ!?」
「早く謝ってくださいっ!!!!!」
騒動に気づいて集まってきた住民と警備兵。
謝るうちにパニック状態になり、泣きながらごめんなさいマシーンと化したレティシアさん。
妹の様子におろおろし、俺とニナさんに話を聞くことも、住民と兵に説明することも出来なくなってしまった隊長さん。
混沌を極める状況を前に、俺は、明日改めて落ち合うことを提案した。




