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第14話:水魔法

「ごめんなさい!!」


 金髪の少女が、びしょ濡れの男に頭を下げている。

 びしょ濡れの男……つまり俺に。


「まさかいつもの練習場所に人がいるなんて思わなくって! ほんとにごめんなさい!!」

「はは、大丈夫ですよ、濡れただけですし……」


 魔法を放つ大きな声と共に、突然、俺の頭上から水が降ってきたのだ。

 さすがのニナさんも驚いていたが、今は焚き火をたき、さらに風魔法でそよ風まで当ててくれている。


「さっきの魔法は……水魔法ですか?」

「はい! ウォーターブラストって言って、高威力の水弾をぶつける魔法です!」

「高威力……?」

「あ、あの! さっきのは中途半端というか、練習中で……。時間をかけて発動すれば、ちゃんとした威力になります!」


 ……むむ? 気になることを言ったぞ?


 目の前にいる緊張した様子の女性は、金色の髪をしたヒト族の美少女だ。

 品の良い白いローブを羽織っていて、どこかお嬢様感がある。

 そういえば、門にいた魔法師も白いローブを着ていた。

 こう見えて軍の偉い魔法師とか……?

 ……確かめてみよう。


「では、もしよかったら、ちゃんとした方を見せてもらえませんか? 俺は魔法学を学んでいるんですが、本格的な水魔法は見たことがなくて」

「あ、いいですよ!」


 少女は少し離れ、砂浜に向かって両手を突き出した。


「……では!」


 ニナさんもじっと見つめている。興味あるみたいだ。

 少女が集中すると、両手の先に水弾が現れ、徐々に大きくなっていく。


「ウォーターブラスト!!!」

 バシュッッッ!!!……ドォンッ……!


 勢いよく放たれた水弾は砂浜に結構でかい穴を開けた……!

 ……これさっき食らったの? こわっ……

 やはり、かなり高威力の水魔法を難なく使いこなしている。

 若いのに相当な使い手のようだ……でも、さっきはなんであんな威力に?


「おお……! 凄い威力ですね。なんでさっきのと違うんでしょう?」

「えっと……。あ、見ててください」


 少女はもう一度、砂浜に両手を突き出した。


「ウォーターブラスト!!!」

 パシャァッ……


「……な、なんだか可愛くなっちゃいましたね」

「かわいく……っ」


 少女は少しがっくりしている。


「あ、すみません。つまり、素早く発動しても、勢い良く飛ばせるように練習してた、ということですか?」

「そうなんです……。毎日練習してるのにダメで……」


 ……なるほど……これは……ジーナスさん! ビンゴかも!

 さすが俺達のジーナスさん!


 飛ばなかったウォーターブラストの時も、そこそこの水弾はできていた。

 それが飛ばなかった……というより、その場で前方に向かって弾けた感じだった。

 ここからは推測だが、恐らく凝集(ぎょうしゅう)させた水の塊に、魔力が行き渡る前に放とうとしたため、弾けたのではないだろうか?

 例えば、水の前方だけが発射されたとすると、弾けるようになるだろう。

 もしそうだとすると、この、魔力を行き渡らせる工程……これはまさに俺が探していた『魔力を貯める』工程に似ている。


 かなり楽観的な仮説だが、調べる価値はあるかもしれない。


「ちなみに、ちゃんと打つ時、発射のタイミングは調整できるんですか?」

「はい! 待てます!」


 おお、維持できるとは! 良い情報!


「なるほど……。……ちょっと手伝う……というか、どうすればいいか一緒に考えてみてもいいですか?」

「え!? いいんですか!?」

「ええ、早く打てる水魔法、興味があります」

「ありがとうございます! もう私じゃどうすればいいか分からなくて……。あ、私レティシアと言います! あと、敬語は要りません! 年上の方に言われるのが少し……」

「分かりまし……分かった。俺はドコウ、こちらはニナさん」


 無言で会釈するニナさん。

 ……俺が年上なのかはややこしいが、見た目は青年、中身はおっさんだしいいか。


「よろしくお願いします!」

「よろしく。じゃ、今日はもう遅いし、明日の夜にまたこの海岸で……いいかな?」

「はい!」


 ◇


 次の日の夜、砂浜にて。


「こんばんは、レティシアさん」

「あ! こんばんは!」

「こんばんは。」


 たぶん初めて聞いたニナさんの声に、レティシアさんは一瞬だけ驚いたが、すぐに俺に向き直った。


「あの! 私の練習を見ててもらえばいいですか?」

「いや、その前に少し試したいことがあるんだ。上手くいくかは分からないけど」

「……? なんでしょう?」


 俺は日中、ニナさんと魚を食べたり、散策したり、魚を食べたりしながら考えていた。

 一瞬で水弾に魔力を行き渡らせる方法。


 まず、昨日見た様子を整理する。

 水弾が弾けた時は、行き渡っていた魔力の絶対量が足りていなかった。

 つまり必要なことは、一瞬のうちに行き渡らせる魔力を増やすこと。

 もう少し正確に言えば、単位時間当たりの魔力放出量を上げることだ。


 そのため真っ先に浮かぶ案は、レティシアさんが一気に魔力を放出できるように特訓する、という案だ。

 しかし、レティシアさんの話では、練習は毎日続けていたらしい。

 恐らく、この『練習』の行き着くところが、魔力放出量の増加だろう。

 レティシアさんがそれを狙っているかは別として。

 その進捗が(かんば)しくない、とのこと。

 別のアプローチを試してみてもいいだろう。


 そこで次の案だが、ここに俺が探していた技術がピッタリはまる。

 そう、予め放出した魔力を『何か』の中に貯めておき、魔法の発動時にその『何か』と術者、二つの経路から水弾に魔力を送る案だ。

 そうなると次は、この『何か』はどんなものだったら良いのか? という問いになる。

 魔力を貯めて保持できる、というのは当たり前として、求めた時には貯めた魔力を素早く放出できなければならない。

 これらの条件を満たしそうな『何か』……もうピンときたかもしれない。


「……コレ」


 俺は懐から魔岩を取り出した。

 目の前で生成すると驚かれる気がしたので、予め生成し、輪っか状に整形してある。


「コレは……?」

「魔岩だよ」

「え!? こんなに大きいのが……!? それに形も……!?!?」


 ……あ、やっぱ大きいのか。

 ニナさんですら、小さな魔岩を出しただけで驚いていたことから、魔岩は身近なものではないと予想していた。

 実際、交易が盛んなドルフィーネでもあまり売られていない。

 これでも、母が最初に見せてくれたものより、だいぶ小さいんだけどな……。

 ……ん? もしかして、これで旅の資金に困らないのでは……?

 ……ちょっと黒い感情が芽生えたが話を戻そう。


 魔岩は魔力の結晶だ。

 もうこれで解決じゃん! と思ってしまいそうだが、たぶん一筋縄ではいかないだろう。

 まずは実験だ。


「ちょっとこれを身に着けながら、水魔法を試してみて」

「わわわっ! は、はい! お借りします……!」


 レティシアさんは緊張しながら魔岩に腕を通した。

 確かに割れやすいので慎重に扱ったほうがいいが、割れてもすぐ整形できる。

 あとで教えておこう。


「では……! ウォーターブラスト!!!」

 パシャァッ……


「……あれ?」

「うーん、やっぱりこれだけじゃダメか……」


 魔岩が魔力に戻って水弾に行き渡る……なんてことにはならないと思っていた。

 なんせ、俺がジーナスさんのところに居た頃、魔岩から作った像を魔力に戻すのに三年かかったのだ!

 変質させた像より魔岩の方が簡単だが、それでもいきなり出来たら泣いてしまうかもしれない。

 それに、魔力に戻す感覚は、魔岩は自分の魔力から出来たもの、というイメージが強くないと分かりにくいと思う。

 というわけで、次の実験だ。


「じゃ、次だ」


 俺はレティシアさんから魔岩ブレスレットを受け取り、代わりに懐から直径10 cmほどの魔岩を出した。

 水弾に似せて球形に整形してある。


「これも魔岩!?!?」

「そうだよ。俺は魔岩コレクターなんだ。じゃ、次はちゃんと水魔法を打つ時のイメージで……ただし、水弾の代わりがこの魔岩だと思ってやってみて」

「は、はぁ。……えっと……。なんとなく……分かった気がします! やってみます!」

「あ、もし上手くいっても、水弾を放たずに保つ感じね」

「はい! ……あ、えっと……」


 うろうろし始めるレティシアさん。

 ここらは一帯、砂浜と岩場だ。

 魔岩を置くところがない。


 ズォッ……


 突如、地面から木が生え、台座のような形になった。

 ちょうどレティシアさんが手を前に伸ばした高さになっている。

 ニナさんだ。


「え? え? こ、これもドコウさんが?」

「いや、これはニナさんだよ」

「……。」


 ペコリとするニナさん。

 ……なんかニナさん、いつもより無口じゃない?


「あ、ありがとうございますニナさん! ……では!」


 レティシアさんは球形の魔岩を木の台座に置き、両手を伸ばして集中し始めた。

 ……まだ何も変化がないようだが、レティシアさんは集中を続けている。

 何か掴めそうなのだろうか?

 すると、白っぽかった魔岩が少し黄みがかってきた。

 ……どこかで見た気がする色だ……。

 ニナさんもその様子をじっと見つめている。


「……ど、どうでしょう……!? ……少しできた気がするんですが……!」


 両手を伸ばしたままのレティシアさんがこちらを(うかが)う。


「俺にも良さそうに見える。そのまま放たずに、ゆっくり魔力の放出をやめてみて」

「は、はい……!」


 レティシアさんは魔力放出量を減らした後、ゆっくり手を下ろした。

 球形の魔岩は黄みがかった色のままだ。

 ……ここまでは成功かな?


「で、できました……!」

「お疲れ様! 上手くいったかもしれない……。じゃあ、次はこの魔岩になるべく近づいた状態で、水魔法を放ってみて」

「はい!」


 レティシアさんも、何となく分かってきたのかもしれない。

 台座に乗った球形の魔岩が鳩尾(みぞおち)辺りに来るように立ち、腕を真っ直ぐ前に伸ばした。

 そして——


「ウォーターブラスト!!!」

 バシュッッッ!!!……ドォンッ……!


 ……


「で……」


「できました!! できましたよ! ドコウさん! ニナさん! 私、できました!!」


 レティシアさんは涙を浮かべながら、笑顔で跳ね回った。

 魔岩もまた、台座の上で月明かりを浴び、白くキラキラ輝いていた。

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