第10話:ゴーレム
本日は晴天。
「「ドコウーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」」
太陽よりも明るい笑顔と、嵐よりも猛烈な涙と、雷鳴より激しい声の中に俺はいた。
「…ッ父さん…!…母さん…ッ!……久し……ッぶり! 元気そうでッ……良かったッッ!!」
もみくちゃにされながらも、どうにか一番言いたかったことを言い切った。
予定通り、ドルフィーネからドワーフの村までは数日で到着した。
道中でモンスターと何回か遭遇したが、タイムロスはゼロだ。
村に近づいたところ、遠くの方から土煙と共にやってきた父と母に再会し、今に至る。
父と母は何も変わっていなかった。何も変わらず、元気で最高の親バカだ。
◇
落ち着いた後、俺と父、母、ジーナスさんは族長の家、つまり俺の実家に移動した。
「いいんじゃねェか!」
「ええ、お母さんも応援するわ」
この家を出てから六年間のこと、そしてこれから、あちこち見て回りたいことを時間をかけて丁寧に説明した。
ここは端折るところではない。
やはり父と母はとうに覚悟ができていたようで、あっさり賛成してくれた。
そして最後に、今の目標、ロボットの構想について話した。
母の表情を気にしながら。
「……それで母さん、ジーナスさんから、ゴーレムという、ロボットと似た土魔法の技術があるって聞いたんだけど、本当?」
「え? ゴーレム……? ああ、そうねえ。確かに似てるかもしれないわね……」
……? なんか変な反応だ。
「見たほうが早いわね。ちょっと待ってて頂戴」
そう言うと奥の部屋に行ってしまった。
何か準備がいるのか? というか、室内で待ってていいの?
「……お待たせ」
母は、身長の半分ほど長さの杖を持って戻ってきた。
片方の端に丸い宝玉……? のようなものが付いている。
「ゴーレムを使うには高度な魔力コントロールが要るんだけど、母さんはコレがないと上手くできないの」
なるほど……鍛冶魔法でのハンマーのように、他の魔法も道具で補助することがあるのか……。
この世界では大抵、素手で魔法を使う。
前世の知識があったのに、すっかり慣れてしまっていた。
いつか俺も高度な魔法を使うときに必要になるかもしれない。
「それじゃ、いくわね」
母は少し開けたところで目を閉じ、集中を始めた。
え?ここで?
と、思ったその時、岩で出来た床の一部が盛り上がり、徐々に人の形をとり始めた。
父とジーナスさんもジッと様子を窺っている。
変形はすぐに終わった。
出来上がったのは、俺の腰くらいの身長をした、やや上半身の大きな人形だった。
「……ふぅ。じゃ、動かすわね。よーく見てて頂戴」
どうやら魔岩生成ほどの時間は必要なく、瞬間的な集中力が重要だったようだ。
……さぁ、いよいよ動く……。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「ゴーレムよ、右腕を上げなさい」
母が命令を下すと、ゴーレムの眼に光が灯り、指示の通りに右腕が動き出した!
ゴリッ……
肘がだいたい5度くらい曲がって止まった。
……ん?
「よし、ゴーレム。次は左腕を上げなさい」
ゴリッ……
5度くらい。
……んん?
「どう? これがゴーレムよ」
「えっと……母さん、もう少し腕動かない?」
「無理よ。一回ずつしか動かないの。足ならまだ動くわ。……ゴーレム、右足を上げなさい」
ゴリッ……ガシャンッ!!
ゴーレムは右足を3 cmほど上げ、バランスを崩してこの世を去った。
……わけではなさそうだ。眼の光はまだ消えていない。
これはつまり……?
「こんな感じでね、ゴーレムに実用性はないの。私も土魔法の卒業試験のためにしか使ったことがないわ。言葉に応じることはできるし、身体を動かすこともできるんだけど、すぐに止まってしまうの。……だからドコウ、あなたがさっき話してくれた、ろぼっと? というのはゴーレムではできないわ」
「眼の光は消えてないみたいだけど……これは?」
「ああ、そこはすぐには消えないわ。動けなくなっても光り続けるものだから、なんだか可哀想になっちゃうの。それもあって、あまり使いたい技術ではないわね」
ふむ……。よく分かった。
このゴーレム、一番大事なのは頭部だ。
そしてこの頭部の機能は……制御器だ!
前の世界のロボットだったらCPUがこの頭部にあたる。
……この技術、今のままだと全然ダメだが、凄いポテンシャルを秘めてるぞ……!
「母さん! この技術、後で教えてほしい!」
「え? もちろんいいけど……。……ふふっ、相変わらずなのね。懐かしいわ」
ロボット実現に向けて一気に活路が開けた気がした。
腕を動かす原理、あれは恐らく土魔法で岩を操作するのと同じだ。
ただ、今のゴーレムでは岩に込められた分の魔力をすぐに使い果たし、さっきのように止まってしまうのだろう。
十分に動かすためには、そのための魔力をどう供給するか、が課題というわけだ。
一つの解決策は、可動部すべてに魔力を貯める仕組みをつける方法。
小さなタンクをいっぱい付けるイメージだ。
もう一つの解決策は大きなタンクを一つ付け、そこから各部位に魔力を伝達する方法。
前世の知識で考えれば後者の方が筋が良いと思うが、この世界ではどうだろうか……。
どちらにしろ、魔力を貯める仕組みは必須か。
「……ジーナスさん」
「はい?」
「どこかの都市で、魔力を貯めて保存するような技術が開発されている、という話を聞いたことはありませんか?」
「魔力を貯める……。うーん、そうですねぇ……。少なくとも、魔法学の基礎からは外れた技術になりますね……」
そうなのだ。
基盤学校で習った魔法学の基礎には、魔法の行使には三つの段階が必要とあった。
まず、『魔力採集』。
なんでも、この世界の空間には、あらゆるところに魔力が満ちているらしい。
人は魔法を使うその度に、全身で空間から魔力を集めているそうだ。
次が、『魔力伝達』。
これはまさに、さっきロボットで考えたように、使う場所に魔力を移動させることだ。
人はこれを無意識にやっているらしい。
最後が、『魔動変換』。
魔力を使って何かしらの物理現象を起こす。
身体から少し離れたところでも魔力を作用させることができるらしい。
実際、俺が土魔法や鍛冶魔法を使うときも、触れていない岩を整形させたり変質させたり出来る。
さて、問題なのは、この三つに魔力を貯めて保存するような機能がないことである。
このことから、人は魔力をその身に貯めることはできない、というのが魔法学の基本的な考え方だ。
「いや、ひょっとすると……」
ジーナスさんもしや!?
「ここから東にあるステラマーレに行ってみるのが良いかもしれません。あの都市では水魔法の研究が盛んなのですが、水魔法には魔力を貯めるというイメージに近い特徴があります」
「特徴?」
「はい。実戦における水魔法使いの得意戦術は、強大な一撃での殲滅です。これはもしかすると、魔力を、放つ寸前で貯めているから成せる業なのではないでしょうか?」
凄いなジーナスさん!!
さすがは武具売買のために各国の軍事的な特徴を把握している専門家!
ジーナスさんの仮説は、行き先を決めるには十分過ぎるものだった。
「納得です! ジーナスさん! ありがとうございます、ステラマーレに行ってみようと思います!」
「いえいえ……、しかしなぜ魔力を貯めるという話に?」
「うーん、まだはっきりしないので、もう少し分かったらお話しする、ということでいいでしょうか?」
「そうですか……。ええ、構いませんよ」
ジーナスさんはもはや第二の父と言える存在だ。
長い目で見たやり取りが自然にできる。
「決まったみてェだな」
「はい、父さん。ステラマーレに向かい、そこから東にぐるっと各地を見てこようと思います」
「おう!」
父はガッハッハと笑った。
どこにだって豪快に行ってこい! と言っているようだった。




