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第9話 女子高生の誤解を解く

顧客との打ち合わせが終わって、昼はそのまま外食することにした。

大通りにあるMAG(マッグ)を見つけて、俺はその中に入った。

MAGはリーズナブルが売りだ。

金欠で外食する時はMAGに限る。

毎日のように近藤さんに昼食を誘われるが、毎回外食は正直キツイ。

仕事が忙しいことを理由に誘いを断って、カロリーメイツにし、沖田の机の中に大量に保管しているプロテインバーで腹を満たすことも少なくない。

俺がもっと若い時は昼飯以外にも、会社帰りに飲みに誘われることも多かったが、最近ではめっきり減った。

その時に比べたら金欠具合はだいぶマシになったけれど、昼食の外食より家に帰った時のお疲れさんビールの方が大事だ。

俺が今、何のために生きているのかと聞かれたら、間違えなく答えられる。

帰宅後のこの一杯の為に生きていると。

辛い仕事から解放された一杯は格別なのだ。

そんなことを考えていたら、今すぐコンビニへ行ってビールを買いに行きたくなってきた。

しかし、まだ仕事中だ。

これは仕事終わりにとっておくことにして、俺はとりあえずBIGMAG(ビッグマッグ)セットを頼んで、席を探した。

平日、13時過ぎでもMAGには人が多くいた。

ここにはそこそこの年配から若者まで老若男女問わず集まる。

友達同士で集うように来る奴から、俺みたいな一人で細々と腹を満たす奴も少なくない。

俺は窓際のカウンター席が空いていることに気が付き、そこに座ることにした。

鞄を床に置いて、お盆をテーブルに乗せる。

ポケットに入れていた携帯を取り出して、ひとまずテーブルの上に置く。

ビッグマックの箱を開けて、大口で頬張ろうとした時、携帯がぶるぶると震え、着信を知らせた。

俺はそれを確認しようとして、つい隣の人の手に当たってしまった。

どうやら向こうもテーブルに置いてあった携帯に反応したらしい。


「あ、すいません」

「こちらこそ」


お互いに何気なく謝って、顔を合わせる。

そこには見覚えのある姿があった。

長い黒髪にくりくりとした目、顔の小さい色白の女子高生。

そう、あの時、俺を盛大に振った女子高生だ。

女子高生の方も俺に気が付いたようで、真っ赤な顔をして驚いていた。

そして、俺に向かって叫ぶ。


「変態!!」


何でだよ!

俺は周りからの視線が気になって、必死で辺りを見回した。

何人かの客が俺の方を不審な目で見ていたので、俺は必死で訂正する。


「勘違いされるような発言をするな! 俺はお前に何もしてねぇだろう!!」

「したじゃない! 付き合ってくれって!!」


また、この女子高生は大きな声で恥ずかしい事を叫ぶ。

周りの客が更に疑うような視線を向けてきた。

もう、俺はどうしたらいいかわからなくなってきた。


「だから、あれは誤解なんだって。お前に言ったつもりはないんだよ。あれはお前の後ろにいた同僚の女性に言ったの!」


俺は必死過ぎて、ぜいぜいと息を切らしながら訴える。

それが余計に危ない人物に思わせたのか、周りからの凝視する視線が解かれることはなかった。

しかも、その女子高生がなかなかの美少女だから、疑わしさを助長させているのかもしれない。


「は? 勘違い?」


まだ信じられない様子だったが、ひとまず冷静に話を聞く気になったのか、騒ぐのをやめて疑念に満ちた眼差しだけを向けてきた。


「そうだよ。なんで俺が、見ず知らずの女子高生なんかに告白せにゃならんのだよ。少しは疑えよ」

「だって、いきなりあんなこと言われて、私は……」


彼女は真っ赤な顔をして黙る。

あんだけはっきりと『キショイ』と言っておいて、今更恥ずかしがるのもおかしいだろう。

彼女が不満そうな顔をしてこちらを睨んでいる間に、彼女の後ろから新たな女子高生が顔を覗かせた。

なんだか、懐かしさを感じる女子高生だった。

脱色した傷んだ髪、健康的に焼けた肌、化粧の濃い顔、スカートの丈も短め、俺たちの学生時代にもいたような典型的なギャルだ。

不思議とほっとさせられるのはなぜだろうか?


「あれぇ、お市どうしたの? 知り合い?」


ギャルは彼女の様子の変化に気が付いて声をかける。

その彼女の奥の俺の姿に気が付いたようだ。

俺を見た瞬間、ギャルは指をさして叫んだ。


「もしかして、お市に告白したキモイおっさん!?」

「だぁかぁらぁ」


何処までその話は浸透しているのかと落胆とする。

なんだか説明するのも面倒になってきた。


「それはそこにいる小野市子さんの誤解! 別の人に話しているつもりがいつの間にか彼女が後ろにいただけで……」


俺が話していると、彼女たちは無表情で俺の顔を見て来た。

何か言いたげな表情だったが、俺にはわからない。

ここまで説明してもまだ誤解し続けるつもりなのか?


「ねぇ、お市。あんた、このおっさんに自己紹介した?」

「全然」


二人の目が完全に血走っている。

最初は何のことを話しているのかわからなかったが、やっと理解した。

俺はまだ、この目の前の女子高生のフルネームなど知らないはずなのだ。

それなのにどうしてこのタイミングで口から飛び出してきたのか……。


「やっぱり、変態!! ストーカーじゃない!!」

「違う、違うから!!」


俺は必死に否定したが、もう後の祭りだ。

なぜ知っているのかと言われて、女神様から聞いたといっても信じてはくれないだろう。

それこそ、ヤバい目で俺の事を見ることに間違いない。

俺はどうにかして言い訳を考えようと必死で何か名前を知るようなものを探した。

しかし、小学生じゃないんだから、持ち物にフルネームなんて書いているはずがない。


「キモイ、キモイ、キモイ! なんで人のフルネーム知ってんのよ! さっき見ず知らずの女子高生って言ってたのに、嘘じゃない!」


市子は更に真っ赤な顔をして怒鳴り散らしていた。

隣にいた女子も軽蔑したような眼差しで見つめてくる。

更に周りの客からの視線も痛かった。


「あ、あの時、君の知り合いの人で俺の知り合いでもある人にばったり出くわして、事情を話したら、君の学校と名前を教えてもらって、その、もし次会ったら誤解だって伝えてくれって頼んだんだよ……」


かなり苦し紛れの言い訳だった。

こんな話で信じてもらえるとは思えなかったが、市子はひとまず息を整えて、もう一度質問してきた。


「で、その知り合いって誰よ?」


そうきたかぁと俺は心の中で叫ぶ。

誰って、実際そんな人物はいないんだから知るわけがない。

ここはどこでもいそうな人の苗字でも言って誤魔化そうとした。


「こ、小林さんだよ。小林さん!」


俺は笑顔で答える。

絶対、嘘ってバレると思った。

そんな偶然に小林なんて知り合いがいるとは思わないし、その人物が彼女の個人情報をもらすとは思えない。

しかし、これ以外にいい訳が思いつかなかったのだ。

このままじゃ、本気でストーカーとして通報される。


「小林ぃ? あいつかぁ。今度会ったら絶対絞める!」


だが、意外に反応は違った。

どうやら本当に小林と言う知り合いがいるらしい。

何処のどなたかは知りませんが、小林さん、ごめんなさい。

俺の為に犠牲になってください。


「まぁ、お市の周り、バカばっかだもんね。小林ならばらしそうだわぁ」


ギャルも納得したように答えた。

小林さんってどんな人なの?

女子高生に馬鹿呼ばわりされるような人物なの?

とりあえず、苦肉の策で考えた言い訳が通って良かった。

俺がほっと胸を撫で下ろしていると、更に市子から質問された。


「おじさん、まさか小林から金借りてるわけじゃないわよね?」


なんで急に金の話になったのかわからないが、しっかり否定しておく。


「借りてねぇよ。俺はそこまで金に困ってないし!」

「ならなんで、小林なんかと付き合ってんのよ。あいつが金貸す以外に人付き合いなんてするかしら?」


市子は不思議そうな顔をする。

女子高生が馬鹿にするぐらいだ。

小林とは年齢の近い学生かと思ったが、大人に金を貸す高校生なんて聞いたことがない。

つまり、俺と同じ『大人』と言うことらしい。

なら、付き合いと言えばあれしかない。


「仕事の付き合いでちょっとな」


こう言っておけば、だいたいの事は誤魔化せるだろうと思った。

しかし、市子は少し驚いた様子で俺を見てくる。


「あんた、カタギの人間に見えたけど、そっち系の人間だったのね。まあ、いいわ。告白の疑いとストーカーの疑いはひとまず解いてあげる。けど、今度変な真似したら、あんた命ないわよ?」

「はい?」


俺は市子の言っている言葉の意味が全く理解できなかった。

『カタギ』とか『命がない』とか物騒過ぎませんか?

市子は少し誇らしげな顔で笑っていた。

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