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第109話 山南に呼び出される

俺の担当部署は日に日に増えていき、次第には錦糸町にあるうちの組の管轄の店は全て俺が見ることになっていた。

意外とこういった仕事は忙しく、始終あちこちから電話がかかって来ていた。


「しっかし、すごいなぁ、土方君は。この短期間でこんなに盛り上げちゃうなんて」


吉村は事務所の中でパソコン画面を見ながら俺に言った。

そこには、以前訪問したスナックのママが経営しているインスタグラムのページが開かれていた。

実はあれから、ママの店のコンセプトを変え、占いとメイクレッスンができるスナックとなっていた。

そんなスナックは前代未聞だが、おかげで客は一気に増えた。

今までは定年退職後のおっさんばかりだったと聞いていたが、今はほとんど若い女性客だ。

開店時からすでに満席で、あの外国人従業員の特殊メイクレッスンが開かれているらしい。

それ目的に行った女性客が、レッスン後、ママさんの占いやら恋愛相談、時には人生相談までしている。

ど素人のママさんが急に占いなんてできるとは思わないが、占いの当たりはずれよりもママさん自身の話が若い子に響いたようだった。

年上のこう言った女性の話を聞くのはまた貴重なのだろう。

ちゃっかりしているのは、来店時には必ずドリンクを1オーダーすること。

メイクレッスンはオプションで別料金、占いも別料金。

酒の数よりも断然そちらの売り上げの方が良かった。

こうなってしまうと今までの常連が減ってしまう気もするが、案外そうでもないらしく、この店に来れば若い女の子たちを愛でられると並んででもおっさんたちも一緒になって並ぶらしかった。

どこまで行ってもしょうもない客だとは思うが、これも大事な収入源の一つだ。

会社帰りにすぐ来る女性客もいれば、飲み屋に行った帰りに寄る客もいる。

おかげで閉店までお客が絶えない繁盛店となっていた。



実は繁盛しているのはこの店だけではない。

以前話を聞きに行ったメンズキャバクラの店も今はぶっちぎりの売り上げを誇っている。

やはりここも店のコンセプトを若干変え、メンズキャバクラとは名乗らず、ホストハウスと呼び、まるでシェアハウスのような雰囲気を醸し出していた。

店の中は土足厳禁。

待合室には足湯が用意され、靴を脱いだ後はそこで日頃の足の疲れを癒すらしい。

こうすれば足の異臭を気にして素足で上がりたがらない女性客の抵抗も減るということだ。

そして、席は基本フラットですべてがクッションのように柔らかい。

そこに足を延ばしながら、女性客たちはキャストを囲む。

キャストも堅苦しいスーツなどは着ず、カジュアルでしかし清潔感のある服装になっていた。

その方が、家飲み感が出て、親近感が湧くそうだ。

中にはカクテルシェイカーの使い方までマスターし、バーテンダー並みのパフォーマンスをするキャストまで現れた。

キャストそれぞれのパフォーマンスが増えることで、その都度指名が増え、各々が儲かるというシステムだ。

顔のいいナンバーだけがおいしい思いをするのではなく、ヘルプにもチャンスを与えられるということだろう。

中には売り込みに来るキャストまでいるらしい。

そのホストハウスの噂がお客たちによってSNSで拡散され、今では予約が一番取れないホストキャバクラになったという話だ。



そして、最後に例の風俗店だが裏家業として繁盛しているということはないが、スタッフの人員不足は少し解消されたらしい。

往診をすることで女の子たちの健康が維持されるだけでなく、精神的負担も減っている。

お金がないことや見えない未来に対して漠然と不安を抱えていた女の子たちが多かった中、薬によるホルモンの安定と定期的なカウンセリングによって、彼女たちも少しずつだが前向きに取り組めるようになったと聞く。

例の店員の男は、最近、女の子たちから「サル」と叫ばれなくなったのが嬉しいと話していた。

以前の彼女たちは機嫌を悪くすると男に八つ当たりすることが多かったようなのだ。

そして何よりも嬉しいのは、その従業員の福利厚生の良さが噂になり、他の事業所からうちに転職する子も増えているという。

当面の間は人員不足に悩まずにすむだろう。

それに表向きはマッサージ店なのだから、特殊なサービスは部分マッサージのオプションとして別料金をもらい、基本の施術代を下げた。

最初はそのせいで客足が遠のくと考えられていたが、案外そうでもなく、施術代を下げたことで来店回数が増えたケースもある。

つまり、プレイ以上に女の子に会いたいらしい。

女の子たちにプロフィールも見た目ばかりに重点を置かず、各々の特技について十分に理解できるようにいろんな情報を詰め込んだプロフィール帳も作ったそうだ。

作る方も楽しいのか各々が工夫してアピールしていた。

まぁ、店全体が明るくなるのはいいことだ。

そうすることによって、俺の実績は上がり、共益費及び管理費、そしてコンサル料として十分な金額を回収することが出来た。

それは組織にとって喜ばしいことなのだが、ある一部にとっては都合の悪い事態だ。

俺は早速山南に、彼の管理している銀座の高級クラブに呼び出された。



どこを見ても豪華な装飾、高級なインテリア。

俺が担当してきた店とは全く違う世界だった。

店の中は静かで、聞こえるのは生演奏のクラシック音楽ばかりだ。

客を相手にするホステスも芸能人かと思うほど美人ぞろいで、その装いも一級品だ。

何よりも違うのは、どこを見ても、羽振りのいい金持ちの客層だった。

さすが政財界にも通じているという、紹介なしでは入れない高級クラブだ。

その中の一番奥の個室に俺は案内された。

中に入るとタブレットを片手に持って立っていた原田とソファーに座って葉巻を吸っていた山南がいた。

山南は俺の顔を見るなりにやりと笑って、手招きをする。

俺が山南のおつきの男たちに席を案内されている間に、山南が葉巻を灰皿に押し付けた。

そして、軽快に話し始める。


「聞きましたでぇ、土方はん。随分儲けてはるんやってなぁ。正直、うちもあんたはんのこと、見くびってましたわぁ」


山南は何とも言えない関西弁でべらべらと話す。

そこに微かな敵意が混じっているのを感じていた。


「カタギの方じゃ、たいして実績残せんへんかったって聞いてましたんで、ここまでやるとは思ってもみませんでしたわ。さすが、土方はんやわぁ。総長が認めるだけある」


山南のそういった時の目はとても冷め切っていた。


「そいでな、ぜひ、土方はんにお願いがあるんです。今後は飲食経営の方ではなく、金融業の方にお力を借りたいと思ってましてなぁ。どうです?」


山南は俺に選択権を与えているように話しているが、そんな雰囲気は一つもない。

実際は、うまくいっている飲食経営の担当を辞めさせ、俺が苦手と思われている金貸しという、シノギらしい仕事に就かせようとしているのだ。

こんな状態で嫌だなどと言えるはずがない。


「わかりました」


俺の返事を聞くと山南の表情はぱぁと明るくなった。


「ほんまに?助かりますわぁ。最近、こっちの方の業績が落ちてますねん。うちも原田も困ってましてなぁ。もし、土方はんが来てくれはったら、そりゃ心強い。きっと総長も喜んでくれます」


俺がここで断るなんてことは考えていなかったくせに、山南は飄々とそんなことを口にした。

さらに言えば、実績が全くない時の扱いとは随分と違っている。

山南はぱんぱんと手を叩いて、店の者を呼んだ。

すると、テーブルには酒や高級な食材で並べられたつまみなどが置かれ、次第にはホステスの女の子まで現れた。

みんなとても奇麗だった。


「うち、一度、土方はんとこうして酒酌み交わしてみたかったんです。今夜はじっくり話しましょうや」


山南はそう言って、作り笑顔を見せた。

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