狼少女
どうもシファニーです! 私、明日卒業式らしいですよ!
第98部、第3章第6話『狼少女』です。どうぞ!
「……なあヒセ、何やってるんだ?」
「リネルの足の上に乗ってる」
「何で?」
「くっ付いてると、温かいから」
「まあ、そうだな?」
火の前に座った俺が胡坐をかいていたら、その上にヒセが乗っかって来た。俺の胸に頭を預け、そのままウトウトとし始めてしまった。
恐らく、吹雪を避けるために洞窟に入ってから1日が経とうとしているはずだ。もしかしたらすでに経っているかもしれない。雪のせいで昼夜の違いすらろくに分からないので、正確な時間はまったく分からない。
それでも体感それくらいの時間が過ぎていて、すでに何度かヒセと交代で睡眠もとっていたし、食料も少しずつ消費していた。
水だけは魔法で出せるので問題はないが、食料は確保しなくてはそのうち無くなってしまう。
少しずつ追い込まれて行く状況がヒセの心を不安にさせたのだろうか。
俺に身を寄せ、甘えているようにも見える。
「……なあ、ヒセは今までどんな冒険をして来たんだ? 今回みたいのは初めてか?」
そんな話題を口にしてしまったのは、少しでも不安を和らげてあげたかったというのもあるし、実際気になっていたというのもある。
あの日、俺と出会った約20年前。魔剣を託した、生まれたばかりの少女はどうやって生きて来たのか。
強く逞しく、そしてしたたかに成長したのは間違いない。けれど、どんな苦労を背負い、困難に立ち向かってきたのかは計り知れない。
俺が魔剣を預けたことで、どんな苦難を歩んで来たのか。
俺のそんな問いに、ヒセは眠そうながらも口を開いた。
その眼は、洞窟の入り口の、どこか遠いところを見ているように見えた。
「ヒセは……ヒセは、ずっと戦ってきたよ。砂いっぱいの乾いた場所をずっと歩いてた。それで、それでね。…………」
「ヒセ?」
「……んにゃんにゃ……」
「寝ちゃったのか?」
どうやら遠い場所を見ていたんじゃなくて、眠くて虚ろだっただけらしい。ヒセはすぐに眠たげに目を閉じ、寝息を立て始めてしまった。
砂いっぱいの乾いた場所をずっと歩いていた、か。
魔の荒野をひとりで生き抜く、それは過酷なことだろう。ヒセが獣人だと言うのが生き残れた理由ではないはずだ。ただ、だからと言って魔剣だけが理由でもないだろう。
生まれながらに強く、強い生存本能を持つ獣人が魔剣を持った。それこそがヒセが良き抜けた理由に違いない。
外見は酷く幼い10歳ほど。だが、実年齢はその倍近く。それだけの長い年月を、ほとんどひとりで生きて来た。魔剣がもたらす試練に巻き込まないために、ずっとひとりを選んできた。
生まれながらにひとりだった少女は、生まれて程なく手渡された魔剣のために、長らくひとりを強いられてきた。
それは寂しく、悲しいだけの日々ではなかったはずだ。それでも、辛いことは何度もあったはずだ。
「申し訳なく思ってしまうのは、違うのだろうか。……なあヒセ、お前は魔剣を手にしたこと、後悔してたりしないか?」
寝静まり、小さく肩を揺らすだけになったヒセの頭を優しく撫でながら聞く。起きてる時には、聞きたくても聞ける気がしない。ヒセが寝ている時にしかこんなことを聞けないのは、ずるいのかもしれない。
けど、今の俺はリネルだから。
生まれたてのヒセに魔剣を渡した、冒険者のニグルではないから。
そんなことを聞いては、いけないから。
「……でも、いつか聞かせてくれよ。出来れば、俺が後悔しない答えをくれるといいな」
ずっと続けて来た、神器を相応しい人間に届ける任務。
届けた相手に出会ったのは、ヒセが初めてだった。そのヒセがこうして生きて、強くなっているのを知れたのは、達成感のある事だった、気がする。
少なくとも、ヒセが生きてくれていて一安心している俺がいる。
あんな幼い少女に悪魔の武器のような魔剣を渡してしまったこと、まったく後悔していないわけではなかったのだ。
「なあ、ヒセ。……また今度美味しいもの食べさせてやるからな」
せめて、今日まで頑張ってきたヒセのことを、俺だけでも労ってやらないとな。
というか明日卒業式ってことは2月終わりじゃないですか。なんかすごいあっという間だった気がしますね。毎日投稿を続けていたので2月も全28話分を更新したわけですが、いかがだったでしょうか。少しでもお楽しみいただけたのならしわいです。
まだまだこれからも頑張ってまいりますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです。
それでは!