エルフの英雄
どうもシファニーです! 月曜日になりましたね! 新たな1週間の始まりです!
第87部、第2章第41話『エルフの英雄』です。どうぞ!
「かつて、エルフの里に蔓延した奇病がありました。元々は何十万、何百万といた民の多くが命を落とし、エルフの一族の血筋は途絶えるかと思われた時のことでした。英雄が、現れたのです」
俺が借りていた部屋。昼食を食べ終えたのち、レイカが喋り始めたのは御伽噺だった。俺たちについて話すと言っていたのだが、何かの例えとしてでも使うのだろうか。
「彼は背の低くやせ細っていた木々に魔力を注ぎました。民たちは彼の行いに疑念を抱きましたが、しばらく経ち、木々が徐々にたくましく育ち始めました。やがて雑木林は巨大に、広大になっていく。魔力に満たされ、生命力に溢れた土地となったのです。そして、次第に奇病は治まっていきました。エルフたちにとっての憩いの場、癒しの故郷が生まれた瞬間でした。人々は森を育てた英雄に名を与えました。それが、シンラ・ロード、でした。彼こそが、シンラ・カク初代国王なのです」
そこでいったん言葉を区切り、レイカはこちらに目線を合わせる。
淹れてもらった紅茶を挟み、正面同士に座っていた。そのレイカは、とても楽しそうに話していた。
「これは、私が幼少期に聞かされていた御伽噺です。でも、きっと本当のことなんでしょうね。シンラ・カクに住むエルフなら知らないものはいない、シンラシンラ誕生の物語です」
「そんなものが……全然知らなかった」
「リネル殿下は外から来られましたからね。知らなくても無理はありません。……私たちにとって、シンラシンラは、シンラ・カクはただの住処ではないんです。代々受け継いだ安泰の地、守るべき居場所なんです。初代国王が亡くなって以降、国王は代々世襲制で継がれてきました。みなシンラ・ロードの地を引く者たちなんです」
「じゃあ、リーヴァ殿下やリィナも?」
「いえ。リーヴァ殿下は嫁入りをしたので。血筋を引いているのは、もうリィナ殿下以外におられないはずです。前代国王には姉上がおらせられたという噂も聞いたことがありますが、リーヴァ殿下からそのようなお話は伺ったことが無く。何らかの形で広まってしまった根も葉もないうわさでしょうね」
「まあリーヴァ殿下も知らないならそう、だよな? 結婚相手の兄弟のことだし」
今更リィナに兄弟がいました、なんて言われたら俺は驚きすぎて腰を抜かすかもしれない。
「そんな、シンラ・ロードの地を引くリィナ殿下。そして、いつからか私たちの平和の象徴であった神林弓を手にしたリネル殿下。そんなおふたりが協力して魔人を撃退しシンラ・カクを守り抜く……。英雄の再来だ、って言われてるんです」
「英雄?」
「はい。エルフの希望。支え、導いてくれる存在です」
例えばレイカの話が本当だとして、シンラシンラを育てた人物がいたとして。
そんなエルフと俺が同等かと言われれば、恐れ多いにもほどがある。
そう口にしようとして、被せるようにレイカが言った。
「私もそうだと思ったんです。おふたりは、きっと希望になってくださる」
「なんか、前にも似たようなことを言われた気がするな」
「それはそうです。だって、その英雄だって外の世界からやってきて、当時エルフたちをまとめていたお姫様と結ばれたという話もあるんですよ? 信じたくもなるじゃないですか」
確かに、似通った部分はあるらしい。
「それに英雄も現れた当時は若かったんだとか」
「それは……確かに、いよいよ似てる気がしたな」
「ですよね? やっぱり、リネル殿下は英雄なんですよ」
英雄、か。
今までにも、似たような名前を与えられたことは何度かある。
勇者、大魔術師、師匠……は、ちょっと違うかも。あとは大冒険家などか。
でも正直、どれも身に余る言葉だと思えてならない。だって俺は、どんな肩書も全うしきれずに命を落としているんだから。
そして、今回も……。
「……皆がどんなことを期待しているのかは分からない。けど、俺はその期待に応えることなんて出来ないだろうし、英雄なんて名前には相応しく――」
「私たちが呼びたいから、そう呼んでいるんですよ?」
「――え?」
いつの間にか下がっていた視線をレイカに向ける。
レイカは、若干の怒りを含む、少し頬を膨らませたような表情で言った。
「私たちを守ってくれた人物のことを、私たちは英雄と呼びたい。ただそれだけの願いです。それで荷が重たいだなんて言わないでください。ただ呼び方だけですよ? そんなことを気にする器の小さな男にならないで欲しいです」
「い、いやそれは、あまりに横暴じゃ」
「と言うのは、もちろん冗談です」
「えぇ……?」
今度は茶目っ気のある笑顔を浮かべ、レイカは可笑しそうに笑い始めた。
いったい何が言いたいんだ?
そう思った途端、レイカが答え合わせです、と口にする。
「きっとリネル殿下はこう思っているはずです。結局何が言いたいんだろう、と」
「お、おお……。当たってる」
「それはそうですよね。私だって、ここまで脈略の無い話を、ただつらつらと語っていただけですから。ですが、最後に伝えたいお言葉は、最初から用意してあったんです」
ちょっとした寄り道でした、とレイカは言う。
「端的に申し上げますね? 私たちは、感謝を伝えたかったんです。シンラシンラを、シンラ・カクを、そして私たちを守ってくれたことを。しつこい、くどい、鬱陶しいと何度言われようとも伝えきれないくらいの感謝を、英雄、と呼んで称賛することで伝えたかった。期待してるわけでも、もてはやすつもりもないんです。ただ、頑張ってくれてありがとう、それだけを伝えたかった」
それは、何度も伝えられた言葉だ。レイカから、リーヴァから、そしてリィナから。
ありがとうと言う言葉を、何度もかけてもらった。それと同じ、と言うのだろうか。
「これから何かをして欲しいって願いじゃないんです。よく頑張ったって労いなんです。こうして欲しいって投資じゃありません、よくやってくれたって報酬なんです。……リネル殿下。私たち給仕が、何を想いながら主にお仕えしているか、分かりますか?」
「いや……考えたことも、なかった。ただ、仕事なんじゃないかって」
「本気でそんなことを思っていたのですか? だとしたら私、少し寂しいです」
「あ、違っ! 今のは言葉の綾って言うか……」
そう言い訳する途中で、レイカがおかしそうに笑うのを見た。どうやら、また揶揄われていたらしい。思わず、俺の口元も緩み、笑みをこぼしてしまった。
「私たちは、尽くさせてくれたお礼に尽くしているんです」
「尽くされてくれたお礼に? ……それって、どういうことだ?」
「尽くすことで、皆さん笑顔を見せてくれます。褒めてくれます、嬉しいお言葉をいただけます。それが好きなんです。そんな好きを与えてくれるから、もっと尽くしたいって思えるんです。まあ、中にはちょっぴり違う理由を持っていそうな先輩に、心当たりがありますが……。それでも、そう思ってこの職業を選ぶ人が多いんです」
「そう、なのか……」
本当に、考えたことも無かった。
誰かに尽くすこと、誰かのために何かをすることが、喜び?
思い出す。かつて、誰かを守ることで得られた達成感が、何よりも俺を突き上げたことを。より強くなりと願わせたことを。
恨み、怒り、後悔に駆り立てられて始めた努力が、いつからか、誰かを守るために、って目標にすり替わっていたことに。
今の今まで忘れていた。ただただ、戦うことだけが俺の使命だと思っていた。戦い、敵を倒すことだけが俺に出来ることだって。
でも、でも違うんだ。俺は、戦うことで――
「誰かを守ることで喜んでもらえて、それが嬉しくてもっと守ってあげたくなる……ってことか?」
「それはリネル殿下の心情ですよね? だから私は確かなことは言えません。けれど、リネル殿下はそうやって頑張ることのできるお方だと思いました。だからこそ、私は英雄と、呼びたいんです」
そして、とレイカは続ける。
「そのことを、リィナ殿下にもお伝えしたい。殿下もまた、英雄なのですから」
この作品は毎話3000字くらいでやってるんですけど、大抵の場合1000字くらいまでは足りないぃ! て思ってるんですよ。絶対書き切らない。あと100文字も書けない! って。でも、気付くと3000字越えてて区切り着けなきゃ! ってなるんです。
波に乗ると勢いが凄い。まるでサーフィンのようですね。ちなみに私はサーフィン未体験です。
それでは!