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魔剣の使命

 どうもシファニーです! 明日はバレンタインらしいですね。ちなみに私は部屋から出る予定がないです。特に深い意味はないです。決してイベントに参加できない言い訳ではありません。


 第83部、第2章第38話『魔剣の使命』です。どうぞ!

 リィナはヒセを連れて家に向かった。

 ヒセとリィナは戻ってくるつもりでいるらしいが、戻ってくる前に終わらせる。


「久しぶりだな魔剣。ちょっとだけでいい、力を貸せ」


 かつての相棒は、相変わらず無口だった。

 元々、こいつにしてみれば俺に使われるのは不本意なことのはずだ。俺は真に選ばれた者ではない。だが、文句は言わせない。


 前を見据える。

 木々を倒しながら、蛇が俺の周囲を回る。隙を探し、いつ飛びかかろうかと様子を伺っている。

 地ならしが響き続け、緊張感が包囲してくる。


 この魔剣が引き寄せる。越えられない、高い壁を。

 そしてこの魔剣が流し込む。壁を越えるための力を。


「最高級のディナーを用意してやる。さあ! 血肉を引き裂く力をよこせ!」


 どっ、と右腕に流れ込む。赤く、濃い魔力。血にまみれた悪感情の塊。それはただ、強さを求め続ける欲求の権化。

 全身を奮い立たせる力の流れが、全身に行き渡る。


 同時、背後に回り込んだ蛇の頭が地面を這うように迫ってくる。

 音が、気配が伝えてくる。高速で迫ってくる巨大な敵を。そんな敵を前にして、どうすればいいのかを。


 右足を引く。剣を両手で握りしめ、左に構える。

 そして、蛇が飛びかかってくるkその瞬間。


 全力で体を捻った一撃を放つ。


 空気が重圧な音とともに揺れる。草木が揺れ、擦れた。

 背負った森のすべてを乗せるかのごとく一撃は、たがわず蛇の頭へと放たれる。

 腕に衝撃が走る。剣が蛇を切り裂くことは無く、また、蛇が剣を押し返すことも無い。均衡が生まれ、じりじりとぶつかり合い続ける。


「……確かに力は増してるはずなのにこれか」


 俺も魔剣とはそこそこ長い付き合いをしていたから分かる。

 ヒセに預けてからの18年のうちに、間違いなく強くなっている。

 命を狩り続けることで己と使用者の力量を増すのが魔剣の特徴だ。それは時に剣の強度で、鋭さで、扱いやすさだし、時に使用者の力量で、感覚で、技術だ。

 今振ってみて、魔剣は明らかに強くなっていた。俺に与えられた力だってそうだ。放った一撃の重みは増し、蛇の動きを感じ取る感覚は冴えわたっている。

 それなのに、拮抗している。勝てないでいるのだ。


「ヒセなら勝ってたんだろうな、これは」


 真に選ばれし者なら全力を引き出せる。

 だとすれば、ヒセは俺よりもずっと魔剣を上手く扱えるはずだ。だからこそ砂の王だって切り裂けた。

 思わず悔しさが込み上げる。俺には出来ないことをやっている。同じ武器を使っているはずなのに覆しようのない実力差がある。それが武器に選ばれているかどうか? 正直、ふざけている。ノエルに文句を言ってやりたい。

 俺が俺である限り、どの神器も使いこなすことが出来ない。魔族に対抗するための唯一の力を使いこなすことが出来ないんだ。


 だけど――


「それがどうした! 俺はどの神器も使いこなせない代わりに、どの神器でも使うことが出来る。卑怯だとか、言ってくれるなよ!」


 剣を強く押し付け、反動を使って跳び退る。剣を左手に持ち直し、右手を背中の神林弓に伸ばした。


「食らいやがれ!」


 神林弓の弦に、魔剣をかける。

 最強の弓で最強の剣を放つ。無理やりすぎるかもしれないが、間違いなく俺が今出せる最高威力だ。

 どちらの武器も致命傷を与えられないのなら、ふたつ同時に使えばいい。威力は倍を優に超え、あの硬いうろこだってもろともしないはずだ。


「《エア・シュート》ッ!」


 黒い剣が、空気を切って放たれる。

 狙い違わず脳天に向かった一撃は、蛇が躱そうと体を動かすよりも早く突き刺さる。

 金属を切り裂くような甲高い音が鳴り響くと同時、剣の突き刺さった部分から血しぶきが上がる。蛇は苦痛に悶え、体を木々に打ち付け、森を赤色に染めていく。鉄の生臭さが一瞬で充満し、風景は一変する。


「無駄にでかいだけあって、死ぬのもいちいち大袈裟だな! さあ、止めだ!」


 強く地面を蹴り上げる。

 体は勢い良く飛び上がり、暴れる蛇の頭上へと向かう。神林弓を背中に戻し、蛇に着地する度同時に剣を引き抜く。更なる血しぶきが吹き上がり、べっとりとした感覚が頬に張り付く。

 それを拭うのも忘れて、残る力のすべてを、右手に握る剣に加えた。


「久しぶりにやるぞ、魔剣!」


 剣を逆手に持ち直し、両手で握る。そして剣が突き刺さっていた傷口目掛けて、突き刺した。


「《イグニッション・エンブレム》ッ!」


 突き刺さった剣が炎に包まれ、剣と傷口の隙間から火柱が登る。

 蛇が苦痛に体を強く唸らせる。とっさに剣を引く抜いて飛び降りる。

 地面に戻ると同時、雷が落ちたような轟音が鳴り響き、砂埃が舞い上がる。地面さえ震わせる質量をもつ蛇の巨体が、ピクリとも動かなくなる。


 剣についた血を振り払い、背中に掛けようとして何かに引っかかった。見てみれば、どうやら神林弓にぶつかったらしい。


「そう言えば、今はお前も背負ってたな……よくやってくれた、お前たち」


 まさか、神器ふたつを同時に使うことになるなんて。

 力が反発し合う可能性もあったのに、とっさに使ってしまった。上手くいってよかったと思うばかりだ。


「さて、これをどうするか……」


 砂埃が散り、蛇の巨体が露になる。ぐったりと動かなくなったそれを、このまま放置してもいいのだろうか。


「ヒセが食べるなんて言ってたが、どこまでが本気なのか……って、来たみたいだな」


 魔剣の影響だろうか。

 普段なら分からないような距離の魔力を感じた。あれはリィナのエア・フライトだ。


「どうにか間に合った、ってところか」


 背中に掛けようとした剣を握り直し、リィナを感じたほうを見る。

 きっとヒセも一緒にいるはずだ。どうするか、聞いてみればいいだろう。


 そんなことを考えながら、魔剣を見下ろす。

 かつて俺を殺したこの剣が、今度は俺を生かした。運命ってのは、本当に分からないものだな。


「これからは、ちゃんとヒセを守ってやれよ」


 相応しい主を見つけたこいつは、もう俺の手元にいる必要はない。きっと、もう使うことも無いだろう。最後に強敵を倒すことが出来て良かった。


 そう息を零した時、魔剣がわずかに輝いたように見えた。まるで、喜びを表すように楽し気な光に見えた。


「報われたなんて、言うなよな」


 ああそうだ。お前の仕事はこれからだ。だから、1度死なせてしまった主を救えたから満足、だなんて言うんじゃないぞ。

 これから先、もっとずっと強くなっていくヒセを想いながら、思わず呟いた。


「お前は、立派に役目を果たせるさ」

 盛り上がる戦闘イベントを書くのって難しくないですか? 今回それなりに頑張ったつもりなんですけど、もっと何とかなったような気がしてしまって……。少しでも面白いと思ってもらえたなら幸いです。


 それでは!

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