家族
どうもシファニーです! 明日は建国記念日らしい? いえ、違います。建国記念の日です。のが入るのでご注意ください。
第80部、第2章第34話『家族』です。どうぞ!
温かいお布団の中で目覚めた。
もう何年も見上げ続けている天井を見ながら、どこか覚えた違和感の正体を探すべくとっさに体を起こす。
なんか、もぞもぞとする気配を感じる。布団の中で何かに触られているような。
そう言えば、いつだったか寝ぼけたリィナが布団に入り込んできていたことがあった気がする。まさか、と思って布団をめくると――
「ん……寒い」
「ヒセ?」
丸まったヒセがいた。
昨日は確かにリィナと一緒に眠っていたはずなのだが……どうしたここにいるのだろうか。
なんて思うのも束の間、ドタドタと騒がしい音が廊下の方から聞こえだし、程なくして部屋の扉が勢い良く開かれた。
「やっぱりいた! ちょっとヒセ! あんたいつの間に抜け出したのよ」
飛び出してきたリィナは、寝癖も直しておらず、起きてすぐヒセがいないのに気付き、慌ててやってきたのであろうことが容易に分かった。
そして、そんなリィナの声によって目が覚めたらしい。ヒセが小さく頭を上げた。
「んぁ? ……おはよう?」
「ええおはよう! じゃなくて!」
「リィナ、俺は別に気にしないぞ」
「いや、そう言う問題じゃ……はあ、まあいいわ。ほらヒセ、起きたなら顔洗うわよ。リネルも後で洗いなさいよ」
「分かってる」
「むぅ、めんどくさい」
「いいから! 朝ご飯抜きにするわよ!」
「ん! やだ! 行く!」
リィナが朝ご飯を人質に取ると、ヒセは眠そうだった表情を一変させてベッドから飛び降り、リィナの脇を通って洗面所の方に向かう。どうやらリィナもヒセの扱い方を覚えてきてしまったようだ。
ヒセもヒセで、何時までも食べ物に釣られるのはどうかと思うが、微笑ましいと思えるうちは問題ないだろう。
ふと思い出す。
昔の俺なら、寝ている最中に誰かに近づかれて、そのまま変わらず寝続けることは出来ただろうか。もしかすると、眠気を一瞬で振り払って体を起こし、戦闘態勢を取っていたかもしれない。
そんな、常に緊張し続けた張りつめた日々を送っていたかもしれない。そう思うと本当に、今の俺には心の余裕が出来たものだと思う。それが良いことかどうかは分からない。
でも、こういう休憩も、きっと必要なんだ。ノエルに後で怒られそうだけどな。
それからの朝の支度は特に何が起こるでもなく終わった。
リィナがヒセの扱いに慣れてきたというのもあるし、ヒセが獣人の割には従順だと言うのもある。
おかげですんなり出かける支度が整った。
「って、リィナ一晩で2着も作ってたのかよ」
「だって、あの恰好じゃ危なすぎるもの。もうちょっと着込んだほうがいいわ。その分、熱くないように通気性もよくしてるつもりだから」
「ん……着てる感じ、しない」
ヒセが広げたのはマントと服。剥がしい戦闘でも邪魔にならないようにパンツルックスで、剣を背負えるように肩から掛けるベルトも用意したらしい。何なら鞘も付いている。驚きだ。
マントは脱着可能らしい。戦闘時はパッと外し、すぐに剣に手を伸ばせるようにする。そんな設計になっている。見たい目も可愛らしいし、才色兼備な服と言える。これを一晩で作り上げたのもそうだが、利便性をここまで追求する優しさと徹底ぶり。
流石はリィナ。色々言いつつ、妥協は許さない性格だ。完成度が高いこと。
「早速、出かける!」
「あら、もう帰っちゃうの? もうちょっといてもいいのに」
「ん? 帰る?」
「え、違うの?」
家に誘い、一晩経って出かける。それは当然お別れの知らせだと俺も思っていたのだが、ヒセは首を捻った。
「帰る場所、ない」
「じゃあ、旅に出るとか?」
「???」
ヒセは何も言わなかったが、ますます不思議そうに首を傾げた。
「ヒセ、まだ美味しいもの食べてない」
「え? 昨日散々食べたじゃない」
「足りない」
「えぇ……」
つまり、まだ美味しいものを食べ終わってないから、ここを離れるつもりはない、と言うことだろうか。
「狩りに行って、もっと美味しいもの、作ってもらう。駄目?」
「駄目なんてことは、全然ないわよ。ね、リネル」
「そうだな。好きなだけいてくれていい。それに、俺もまだ用意した分が出来上がってなかったところだ」
それに、個人的には神器に興味がある。ヒセがどれだけ使いこなし、どれだけの力を付けているのか。足りない部分があるのなら、俺が補ってあげられるのか。
今までにも何度か神器を託してきたが、託した本人と出会うのは初めてだ。でも、神器を持つ人物をより鍛え、魔族に対抗する力を付けさせることも俺の使命の一部と言えるはずだ。
特に、ヒセは剣の扱いなんかはまだまだ素人に見える。教えられることは沢山あるから、ヒセがいいようなら教えてあげたい。
そんな思いも込めながら見つめれば、ヒセは表情こそ変えなかったが、嬉しそうに手を突き上げる。
「ん! 楽しみ!」
「そうと決まれば材料調達だな。狩りもいいが、今日は採集をメインにしよう。ある程度集め終わったら、修行にしようか」
「修行?」
「ああ、もっと強くなるために鍛えるんだ。そうやって体力を使えば、もっと美味しくご飯を食べられると思わないか?」
「ん! ヒセ、しゅぎょう、やる!」
ヒセの食欲は本当に凄いらしい。勢いよくそう宣言し、目を輝かせている。
「その意気や良し。リィナも、久しぶりに稽古をつけるか? 弓とか体術でもいいけど」
「えぇ……リネルの修業、大変なんだもの。私は魔法だけで十分よ」
「そうか? なら、美味しいものは俺とヒセのものだな」
「ん! リィナの分、食べる!」
「ちょ、それはおかしいじゃない! 私もやるわよ! やればいいんでしょ!」
慌ててそう言うリィナを見て、思わず笑ってしまう。子どもっぽくて、可愛らしかったから。
それを見てリィナが頬を赤くして照れ、ヒセがよく分かっていない様子で小首を傾げる。
見慣れた光景ではないはずなのに、いつも通りな気がする。それはきっと、俺が安心感に浸っているせいなんじゃないだろうか。
ずっと殺伐とした世界で生きてきたから。戦うことしか知らなかったから。
それから身を引いて、こんなに楽しく過ごせる日々があるんだってことを、全然知らなかったから。
知らなかった家族の温もりを、知れたから。正確には、思い出したってことにはなるんだろうな。だって、元々は家族と幸せに暮らす平凡な子どもでしかなかったはずだ。当時のことは、もうほとんど思い出せないけど。
結局、どれだけ戦いの中に生きたって、こういう温もりに一番の幸せを感じてしまうのだから、俺と言う存在は弱いのかもしれないな。
「じゃあ、出発するか」
「ん」
「ええ。さっさと終わらせちゃいましょ」
1歩踏み出して振り返れば、リィナとヒセの顔が見える。
今の俺はひとりじゃない。助け合える仲間が、守りたいと思える人がいる。戦う目的を忘れたわけじゃない。使命を忘れたわけじゃない。
それでも、今ここにいる大切な存在を守るために必死で生きるのは、悪いことじゃないはずだ。
そうなりたくて、勇者になったはずだから。
なあノエル、と心の中で問いかける。
お前が知りたかった生物の成長っていうのは、こういうことを言っていたのか? それとも――
お前はこれを、退化と呼ぶだろうか。
Nola経過報告。変動なし、以上。
そう言えば最近プロセカって言うソシャゲの映画が出たらしいじゃないですか。私も昔やっていた音ゲーなんですが、昨日知りました。初音ミク、と言う特大コンテンツを保有しているとはいえ、1ゲームが映画化ってすごいですね。それとも時代ってやつなんでしょうか。
まあ、今月はお小遣いがピンチすぎて映画に行く余裕すらないんですが。
それでは!