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疲れた夜に

 どうもシファニーです! 地元の温泉行ってたら更新遅れました! 気持ち良かったです!


 第79部、第2章第33話『疲れた夜に』です。どうぞ!

「ちょっと、食べ過ぎよ。寝る前にそんなに食べたら太っちゃうんだから」

「んっ! んんっ!」

「駄目ったら駄目。また明日ね」


 なんか、リィナが母親みたいだ。


 果物の蜂蜜漬けを予想以上に気に入ったらしいヒセは、明日以降に取っておこうと思った分にまで手を出そうとした。

 それをリィナが止めに入り、ヒセが抗っている状況だ。

 リィナが高く手を掲げて皿を届かないようにし、ヒセが足元で飛び跳ねて取ろうとしている。本気でジャンプすれば届くだろうから、これまた加減しているみたいだ。申し訳程度の抗議と言うわけだろう。

 そう言う関係なのも、何だか微笑ましい。


 出会って間もないふたりだが、本当に家族みたいだ。

 互いに警戒心が強いから、なのかもしれない。1度大丈夫だと分かってしまえば、とことんまで気を許す。リィナは俺にだって最初は警戒心丸出しだったが、今ではだいぶ信頼してくれている。

 きっと、心を許していい悪いの匙加減を覚えたのだろう。それをヒセに発揮した、ってところか。


 ヒセの方は、元々人懐っこい性格なのかもしれない。

 初めて会った時も、子どもとは言え大人しかった。傷だらけで倒れていた俺のことを、心配してくれるような素振りさえ見せたんだ。獣人にしては珍しい、んだと思う。気性が荒いことで有名で、食べ物も選り好みはしない。全員が弱肉強食を座右の銘にするような連中だ、って聞いたことがあるほど。


 まあ何であれ、ふたりが仲良くしてくれるならそれに越したことは無い。他種族同士、互いにいい刺激になるだろうし。

 

 なんて考えていると、ふたりの争いに決着がついたらしい。

 リィナがお皿を冷蔵庫に片付け、ヒセが不満そうに頬を膨らませた。

 そんな状態で俺の前にやってきて、リィナが言う。


「さて、あとはちゃんと歯を磨いて寝るだけね」

「歯を、磨くの?」

「……待って、まだひと悶着ある感じ? 私疲れたんだけど」

「まあ、頑張ってくれ」

「ちょっと! 何で全部私に任せきりなのよ! リネルも手伝いなさい!」


 さっさと寝室に逃げようとした俺の襟首を掴み、リィナは洗面所へと向かう。

 ヒセは右手、俺は左手で握られて引きずられる。隣を見れば、何を考えているのかよく分からない無表情で、ヒセがされるがままになっていた。どうやら少しずつ慣れてきたらしい。

 この様子なら、歯磨きも大人しく熟してくれるのではないだろうか。


 なんて思っていた時期が俺にもあったらしい。


「ああもう、暴れないで! ちょっと奥歯を磨くだけ!」

「んんんっ!」

「ヒ、ヒセ、落ち着いてくれ。歯を磨かないと、菌が増えて歯が弱くなっちゃうんだ。そしたら美味しいものも食べられなくなるぞ」

「ん……それは困る」

「おお、落ち着いてくれた」


 結局、ヒセは口の中にものを入れられるのが嫌だったのか暴れてしまった。

 まあ、固いものを突っ込むのが嫌だって言うのは分からなくもない。少し時間がかかるし、薬草で調合した歯磨き液はちょっと苦いしな。

 でも、有用性を説明してやれば、ヒセは賢いらしく大人しくなってくれた。リィナの足の上に座って、隅から隅まで磨いてもらっている。と言うか、ますます親子だな。リィナは思いの外面倒見がいいらしい。あまりそんな印象が無かったので、少し驚きだ。

 ふたりの様子を横目で眺め、自分を歯磨きをしながらそんなことを考えていた。


「よし、それじゃあ寝ましょうか」


 程なくして歯磨きを終え、寝る支度が終わった。

 色々あったせいで時間はそれなりに遅い。実際、ヒセなんかはあくびをかみ殺しているところだ。俺も、それなりに疲労が溜まっていて眠い。


「じゃ、ヒセは私の部屋で寝かすわ」

「いいのか? 俺がソファでネルとかでもいいが」

「そんなの駄目よ、ちゃんとベッドで寝なさい。まあ、ヒセは体が小さいし、ベッドも大きめに作ってるから大丈夫よ。そう言うわけだから、ヒセ、こっちおいで」

「ん……」


 ヒセは目元を擦りながら小さな声で答える。

 どうやら相当眠いらしい。


「お休みな、ふたりとも」

「ええ」

「ん」


 部屋に入り、ベッドの前へ。

 疲れた体をなげうつようにベッドに体からダイブする。どうやら、自分で思っていたよりずっと疲れていたようだ。でも当然と言えば当然だ。かつて俺を殺したのと同等の魔物と戦ったのだ。

 肉体と同じくらいに、心が疲れている。ヒセの相手をして何とか誤魔化していたが、ここに来て限界になった。


「強くなってる、って思っていいんだよな」


 あの日。家族を、仲間を、家を焼かれたあの日。

 俺は強くなることを誓った。そして、魔族を許さないと心に決めた。そのために剣を取り、修行を続けた。何度傷つき、苦しみ、人の負の側面を見せられて、本当の敵が誰か分からなくもなった。

 でも、それでもいつかは誰にも認められる勇者になった。国を代表し、戦った。

 結果としてドラゴンに負けたが、あれはあれで立派な俺だったと、今なら思える。


 でもそれ以上に、悔しさを覚えているんだ。

 魔族と1回も戦うことが出来ないまま死んだんだ。魔族がいる地。魔の荒野を抜けた先、不毛の大地に住まう魔族たちに挑もうとして、その手前でドラゴンと出会った。砂に覆われ、その姿を直視することすら敵わなかった巨大なドラゴンだ。

 そいつに殺されて、道半ばで死んだ悔しさは、俺の心を締め付けて、死にたくないって本年を限界まで絞り出した。

 もしかしたら、その願いが届いてノエルが俺に転生の機会を与えたのかもしれない。そう思えるくらいには執着していた自覚がある。


 そんなドラゴンと同等と語られる敵を倒した、その達成感はあまりに大きい。

 今でこそ、ノエルに与えられた使命を熟すために無茶は出来ない。だけど、許されるのなら、もう1度ドラゴンに挑みたい。そして、この手で魔王を倒したい。

 魔王を倒す手伝いだなんて言わず、この神林弓で戦いたい。それに、ヒセだっている。他にも神器を託した人たちがいる。

 今の俺なら、十分な力があるはずなんだ。


 妄想交じりの願いを込めて、仰向けになって空を見上げる。そこにいるはずのノエルに届かせるように、手を高く伸ばす。


「なあ、ノエル。俺の我が儘を、聞いてくれないか?」


 俺の声が静かに消えていって、同時にどっと睡魔がやってくる。

 どうやら、ノエルも今はひとまず休むべきだと考えているらしい。

 

 ああ、そうだな。せっかく今日まで準備を着実に進めてきたんだ。無理をする必要なんてない。俺の誓いを果たすためにも、この数十年の努力を無駄にするわけにはいかないんだ。

 我が儘は、やることをしっかりやった後に言っても遅くない。


 迫る睡魔に逆らうことなく瞼を下ろす。

 その裏に、不思議とたくさんの笑顔が浮かんだ。今までの人生で出会って来た、たくさんの人々の笑顔だ。

 その全部、守ると誓うのは今の俺には荷が重いかもしれない。それでも、それを願って戦うことくらいなら出来るはずだ。


「必ず、魔族を倒して見せる。そして、もう、誰も失わない……ああ、誰もだ」


 そう呟いた俺の意識は、少しずつ薄れていく。深い眠りに落ちていく。


 夢の中で、隣でリィナが楽しげに笑っているような気がした。

 夢の中で、それがいつまでも続けばいいだなんて、そんな願いを口にした。

 ご報告があります。

 Nolaさん、編集者限定公開になっていたので一般公開されてませんでした。そりゃPV増えるわけないですね。じゃあ一般公開にして……。

 えっと、1日経ってもPV0、ですか。あ、はい。そういうことですね。

 そういうことらしいです。


 それでは!

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