甘いもの
どうもシファニーです! 今日は久々に体を動かしに外出したのですが、はしゃぎすぎたせいで昼寝がはかどりました。おかげで更新が遅れてます。
第78部、第2章第32話『甘いもの』です。どうぞ!
どれくらいの時間が経っただろうか。
料理が終わってしばらく経ってもリィナたちは出てこなかった。もしかしたら、ヒセが入ってみたら心地よくて出たくなくなっているのかもしれない。
時間が出来てしまったので弓の手入れでもするか、と腰を上げたタイミングで、脱衣所の方から扉を開く音が聞こえて来た。
「ちょ、ヒセ! 待ちなさい!」
「ん? どうしたんだ?」
リィナの声が聞こえてきて、気になって廊下の方を見る。
すると、濡れたままのヒセが、もちろん――と言うのもおかしいが――服を着ていない状態でこちらに向かって走って来ていた。
思わずぎょっとして仰け反った頃には、俺の足元へと駆け寄ってキラキラとした視線で見上げて来た。
「美味しいもの! 美味しいもの!」
「わ、分かった。分かったからいったん体を拭いて、服を着せてもらってこい!」
「えー? だって、ちゃんと入ったよ?」
「そこまで全部やって完了なんだ!」
ヒセから目を逸らしながら言うと、不満げな声を漏らしたが、足音が遠ざかって行った安心して視線を開けると、脱衣所の扉に体を隠し、顔だけ覗かせるリィナが見えた。きっと、リィナも服を着ていないのだろう。
なんだかいけないものを見ている気がして、とっさに目を逸らす。
「あー、えっと、廊下は俺が拭いておくから」
「ええ、頼むわ。ほらヒセ、服も用意しておいたから」
それから扉が閉まる音が聞こえたのを確認して、タオルを取ってから廊下を拭く作業に入った。
そして廊下を拭き終わる頃、リィナたちが服を着て出て来た。
「美味しいもの!」
「ああ、今度こそやるぞ。って、へえ、似合ってるじゃないか」
「ん? ……服?」
「そうそう」
リィナが用意したのだろう。
日中着ていた、本当に申し訳程度に身を隠した服ではなく、青っぽい色を基調にした緩いワンピースを纏っていた。子どもっぽい容姿と合わさって可愛らしく仕上がっている。
「ん……なんか、邪魔」
「ちょ、ちょっと脱ごうとしてるんじゃないわよ! 作るのも着せるのも大変だったんだから!」
「むぅ」
スカートの裾を掴んで脱ごうとしたのを、リィナが慌てて止めに入る。それにヒセは不満げな視線を浮かべ、頬を膨らませてリィナを見上げたが、大人しく従った。
なんか、すでに上下関係が構築されてないか? 姉妹か親子にしか見えない。
思わず苦笑いが出る。
「あはは……ヒセ、ちょっと嫌かもしれないが、慣れれば気にならなくなる。その吹くの方が温かいし、気に入ると思う」
「ん。リネルがそう言うなら」
「ああ、頼む。……それじゃあ、約束通り美味しいもの、食べような」
「んっ!」
目を輝かせ、拳を握ったヒセは足早にキッチンの方へと向かう。
その背中を追おうとして、肩に手を置かれた。
「ちょっとリネル、あんたなんか扱いに慣れ過ぎてない? 小さい子の面倒を見たことあるとは言ってたけど」
「ん? まあ、ある程度はな」
「……ねえ、もしかして何だけど」
「どうした?」
リィナは、責めるような目線を向けて気ながら、ほんのり頬を染めて恥ずかしそうにする。
「私のことも、あんなふうに扱ってたんじゃないでしょうね」
「え? どういう意味だ?」
「昔の私もあんな風に体よく扱ってたんじゃないでしょうね、って。それで心を開いてたんだとしたら、なんかムカつくわ」
「それは……」
どう、だろうか。
自分ではそんなつもりはないが、癖としていた可能性がないとは言い切れない。
そもそも、10歳を相手にしている時点で子どもの対応をしている認識ではあったわけで……。
「そ、そんなことないぞ」
「嘘仰い、目が泳いでるわよ」
「ま、まさか……」
目を逸らせば、頬に鋭い視線が突き刺さって来るのが分かる。
「……ま、まあ、ちょっと複雑だけど……。今は、対等に思ってくれているのよね? 当時の私が子どもっぽかったのは、自覚あるし……」
「リィナ?」
てっきり罵られでもするのかと思っていれば、しおらしい言葉が聞こえて来た。
思わず視線を向ければ、落ち着かない様子で身を捩らせ、恥ずかし気に頬を染め、リィナは俯きがちに呟く。
「こ、これからはちゃんと、ひとりの女性として接してくれるなら、許すことも考えてあげるわ」
「……もちろんだ。と言うか、ずっとそのつもりだ」
「っ!? そ、そう? あ、怪しいところね。まあ、今日の所はこれくらいで許してあげるわ」
ちょっと上擦った、恥ずかし気だけど嬉しそうな声。
満足気に微笑んだリィナは、落ち着きのなかった様子はどこへやら、自信に満ちた態度で腕組して胸を張る。
こう言う単純なところは、まだ子どもっぽいんだけど。それでも、リィナはもう1人前と言っていいくらいには成長している。それを子ども扱いするのはあまりにも失礼すぎて、したくたって出来はしない。
そんなことを考えていると、見えないところからヒセの声が聞こえて来た。
「リネル! 遅い! 美味しいの、どこ!?」
「ああ、ちょっと待ってくれ、今行く。……ほら、リィナも行こうぜ」
「ええ。何を作ったのか、ちょっと気になっていたの」
リィナを連れてキッチンへ。
小さくその場で跳ね、全身で期待を表現しているヒセは、扉の開いた冷蔵庫の前にいた。中を覗き込んでいるようだが目的のものがどれか分からないでいるらしい。もどかしそうにしていた。
そのすぐ後ろに立って、まずはひとつ、品を取り出す。
皿ごと取り出し、焦るヒセを躱しながらダイニングへ向かって、机の上に置く。
枝を削って作った楊枝も準備して、ひとまず準備完了だ。
「これは果物の蜂蜜漬けだ。とびっきりの甘味だな」
「甘味?」
「そう。甘いんだ」
「甘い……どんな味?」
説明するが、ヒセは不思議そうに小首を傾げた。
「え? 甘いもの、食べたことないの?」
「ん。美味しいの?」
「ええ。もちろん物にもよるけど、美味しいわよ。果物は食べたことないの?」
「ヒセが知ってるのは、酸っぱいものばっかり」
「ふーん、物によってそんな違いがあるのね」
なるほど、獣人は滅多なことでは甘味に触れることは無いらしい。なおのこと、喜ばせて上げられるかもしれない。
曰く、甘味は幸福の味らしい。どこかでそんなことを聞いた覚えがあった。
「じゃあ、早速食べてみてくれ」
「ん、食べる」
ダイニングテーブルの上に座り、ヒセは皿を引き寄せ、中を覗く。
様々な果物を蜂蜜に漬けただけのもの。料理と言うにはあまりに粗末ではあるが、これだけでも十分に甘くて美味しいはずだ。本当はもっと時間をかけて漬けたほうが美味しいが、それはまた明日以降に食べてもらえばいい。
甘いものを知らないヒセにとっては、むしろこれくらいの方がちょうどいいだろう。
ヒセは楊枝を握る。
剣を持つように握っているのが気になるが、まあ食べるのに支障はないだろう。
薄く切った果物のひとつを楊枝で刺したヒセは、恐る恐ると言った様子で口元に寄せる。
そして、一気に口の中に放った。
数秒の沈黙が流れる。
てっきりすぐにリアクションしてくれると思っていたので、少しの不安感が芽生える。
ヒセは何度かゆっくりと租借し、やがて飲み込む。
そして、何かを我慢するように肩を震わせ始め――
「美味しいっ!」
――と叫ぶ。
「なんか、ふわふわしてる味! これが甘い?」
そんな問いを呟き、俺たちが答えるよりも先に次の一口を食べている。
どうやら気に入ってくれたようだ。
「気に入ってもらえたなら何よりだ。他にも用意してるからな」
「ん!」
「リィナも食べてくれ。たぶん、普通の果物よりは美味しくなってる」
「ええ、頂くわ……って、ちょ、ヒセ待ちなさい! 私の分が無くなるじゃない!」
「んん! んんん!」
「あ、こら!」
「ふたりとも落ち着けって、まだあるから」
なんて言ってみても、すでにふたりは聞く耳を持っていない。
皿を抱え込むヒセと、それをどうにか解かせようとするリィナ。その光景が何だか微笑ましく思えて、口元が緩む。
また一段と、騒がしい日々になるような予感がした。
しばらく続けていたNolaさんの使い心地うんぬんですが、助けてください、一向にPVが付きません。
今のところ他のサイトより多少書きやすいかもしれない、くらいの感想しかありません。ポジティブポイントもネガティブポイントも見つからないままじゃまともな評価すら出来ません。それともPVが付かないのはネガティブポイント……? いえ、これは私の知名度不足ですね。
引き続き調査していく所存です。
それでは!