達成感
どうもシファニーです! 今日はなんだかすっごい眠い日。
第76部、第2章第30話『達成感』です。どうぞ!
「美味しいかなって……よくもまあ、さっきの今でそんなこと言えるわね」
「獣人っぽいと言えば、獣人っぽいが……」
俺とリィナが漏らした感想に、ヒセは小首を傾げた。
だが、とにかく砂の王を倒すことが出来た。到底不可能だと思っていたが、ヒセのおかげで助かってしまった。
「ヒセ、ありがとな。助かった」
「ん。お互い様」
「そうか? ならよかった」
「ん。リィナも、ありがと」
「私? いや、私は全然。それこそヒセの方が凄かったわよ。あんな大きいのを、一振りで倒しちゃうなんて。ヒセは若いのに、凄いわね」
それこそが魔剣の威力、と言うことだ。
魔剣。殺せば殺すだけ強くなる剣。強くなればなるほど使用者を成長させる剣。
殺すために強くして、強くするために戦わせる。そのための試練を呼び寄せる、悪魔のような能力を備えた武器。だから、神に作られながらも魔剣なんて呼ばれている、物騒な武器だ。
ヒセがこの幼さでここまでの強さを発揮しているのも、魔剣の影なのだろう。
「ヒセ、若い? ふたりは、何歳?」
「え? 今年で18歳ね」
「ん? ヒセ、18だよ」
「……え?」
へえ、18歳。確かに若いし、凄い――
「18歳!?」
「わっ。反応遅いわよ。リネルの声に驚いちゃったじゃない」
「わ、悪い……ああ、でもそうか」
考えてみれば、俺が生まれ変わるよりも早くから生きていたんだ。年上なのは当然だった。
でも、18歳でステージ2なのか。それとも、ひとりで暮らしていたから、だろうか。そのくらいの年になれば大抵ステージ3になるだろうと思っていたから、外見と年齢との辻褄が合わなかったようだ。紛らわしいな。
……それはエルフもそうか。何なら、1000歳のくせに若々しいエルフもいるので、エルフの方が分かりにくいかもしれない。
「まあ、とにかく危機は脱したわけだ」
「そうね。これからどうする? えっと、ヒセはそれを食べるの?」
「ん? ……少しだけとって行こ。一緒に食べる」
「……そうね、そうしましょう」
リィナが今一瞬迷ったのは、砂の王の味を気にしたからだろうか。
渋い顔をした後、頷いた。
まあ、ちょうど今日のご飯は無かったことだし、反対する理由もない。
それから、ヒセを家まで案内することにした。
ヒセは入らない、と言って聞かなかったのだが、逆に、リィナもまた連れて行くと言ってきかなかった。結果、ヒセが折れたのだ。
リィナの強情さはなおも健在らしい。逆に安心した。
だからと言ってついてくるヒセが不満げかと言えば、そんなことは無い。
慣れた道を変える俺たちの後ろを、嫌な顔ひとつせずついて来ている。
やがて家にたどり着くと、ヒセは初めて驚いたように目を見開いた。
「おっきいお家。木で出来てる」
「あら、木造建築を見るのは初めて? 聞いて驚いてね、私が作ったのよ!」
「リィナが? ひとりで?」
「ええ!」
「凄い」
ヒセが言えば、リィナは鼻高々になって胸を張る。
俺も初めて見た時は驚いたし、実際凄いと思う。ただ、ヒセの物言いはどこか大袈裟っぽく聞こえる。
「ヒセは見たことないのか?」
「ん。土の家しか見たことない」
「土……ああ、レンガか」
獣人の国と言えば魔の荒野の上になる。もちろん木々なんかの植物があまりあるわけはなく、家を建てるとなれば有り余っている土になるというのは自然なこと。実際に行ったことは無かったが、そういうことなのだろう。
となると、こういった家を見るのは初めてになるだろう。
「とにかく上がってちょうだい。もう暗いし、ご飯にしましょう」
「ん。お腹空いた」
そんな会話の後で、ふたりは家に入って行った。
ふたりの背中を見ながら考える。
どちらもあまりに警戒心が無さすぎではなかろうか。ほとんど初対面の相手を信頼しきっている。
ヒセは先程禍々しい力を扱っていたはずだし、リィナは無理やりついてこさせて家に連れ込もうとしている。もう少し警戒し合っても損はしないと思うのだが。
実際、俺はヒセの幼少期を知るということになるのだろうが、今日までの18年間何をしてきたのかは全く知らない。
どんな風に成長し、どんな風に考えるようになったのかが分からないからこそ、心を許し切ることは出来ないでいた。
そのくせ帰ってくる途中で目を離してしまったし、戦闘中は頼りにしていたと思う。もしかしたら、リィナとヒセは心で通じ合っているのかもしれないし、俺もその片鱗のようなものを感じているのかもしれない。
だとすれば、俺も本心ではヒセを信じたいと思っているということになる。
「だいぶ角が丸くなったものだな、俺も」
出会う人すべてを警戒していた頃だってあった。それがエルフに転生し、仲間を信じていいんだということを教えられた。8年もの間リィナと信頼を積み上げてきたことで、気を許しやすくもなった。
そう言った中で、直感だけで相手が信頼できるか出来ないかを判断できるようになったんだとしたら、大いに成長だ。
「ちょっとリネル! 何突っ立ってるのよ!」
「ん? ああ、悪い、今行く」
リィナに呼ばれて家を見る。扉の向こうで、リィナとヒセが待っている。
どうしてもう馴染んでいるんだよ、と思いながらも、俺は駆け足で家へと帰る。
もしかしたら、強敵と倒せたから機嫌がいいだけかもしれないと思いつつの夕食は、いつもより5割増しで美味しく感じた。
Nolaさんなんですけど、1日経ってもPV0でしたよ。泣いて良いですか? 駄目ですね。
ちなみに後悔しているのは現代ファンタジー作品です。タイトルは『ミキシス Mission File』。実は1年くらい前から書いては書き直してを繰り返している作品で、Nolaさんの使い勝手を試すために書いてみました。まだ1話だけですが、気になったらぜひ。
愚痴と見せかけて宣伝とは姑息な人間ですね。
それでは!