砂の王
どうもシファニーです! そういえば、暦の上ではすでに春らしいですよ。ですがまだまだ寒い日が続きますので、みなさま、防寒対策はもちろんのこと乾燥にも気を付けて感染症を予防し、健康的な生活を送っていきたいと思います(宣言)。
第75部、第2章第28話『砂の王』です。どうぞ!
ヒセを加えてシンラシンラに帰る中、俺は一瞬も目を離せないでいた。
と言うのも、圧があるのだ。
「じゃあ、ヒセはちょっと前まで獣人の国にいたのね?」
「ん。でも、つまらないから」
「それで出てきたってこと?」
リィナの問いに、ヒセは首を縦に振ってこたえる。
そんな姿を見ていれば、別におかしなところも危険な雰囲気もない。それなのに、完全に警戒を解くことが出来ないでいた。リィナは何も感じていないのだろうか。だとすれば、魔力的な何かではないということになる。
何度も死を経験したからこそ分かる、俺独自の感性なのかもしれない。この子は危険だと、心が警鐘を鳴らしているような気がする。
荒野をひとりで旅する少女。実力者なのは容易に想像できるが、それ以上の何かを抱えているような気がするのだ。
「そういえば、さっきから全然魔物を見ないわね」
「ん。夜ご飯、ない」
……こんな呑気なことを言ってる子が、そんな危険とは考えたくもないのだが。
先程の動きもある。こちらを見て、すぐに武装解除を要求する徹底ぶりだ。それとのギャップがどうしても埋めきれないでいる。
でも、だからと言って今更引き離したくもないんだよなぁ。どういうわけかリィナと打ち解けてしまっているし。
リィナはエルフだからもっと他種族に用心深いと思っていた。ここ数年で柔らかくなったはいいが、にしても警戒を緩め過ぎではなかろうか。俺と出会った頃なんて顔を合わせただけげ睨んできていたんだぞ?
あの頃の警戒心マシマシのリィナを恋しく思うことがあるとは。
でも、最悪相手できない強さでもない気がする。
さっき、ヒセは真っ先に俺を狙った。俺よりも早く反応し、魔力を構えていたリィナではなく、だ。
それを外見や武装だけで俺の方が強いと考えたからなのだとしたら、観察眼は大したことない。それに、剣を突き付ける時の間合いを間違っている。刀身が長すぎるというのもあるのだろうが、ヒセは剣を向ける時、握った柄よりも前に出ていた。
手が届くかどうかギリギリの間合いまで詰めてきて、その上で剣を引き剣先を合わせたのだ。
純粋な腕のリーチならこちらの方が上。きっと、剣の扱いになれていないのだろう。力の入れ方だって素人同然だった。
あれでも魔物には通用するだろう。けど、対人戦には向かない。
魔法は使えないだろうし、最悪逃げのびることくらいは――
「リネル? どうかしたの? さっきからなんか考え込んで」
「え?」
顔を上げると、リィナが目の前に立っていた。俺は考え込むあまり、いつの間にか俯いてしまっていたらしい。まさかヒセから目を離すなんて。
ヒセの方を見ると、相変わらず平坦な顔をしていたが、不思議そうにこちらを見上げているのが伝わって来た。
思わず、苦笑いが出る。
「いや、何でもない」
「何よ、急に笑って。言いたいことがあるなら言いなさいって」
「別に大したことじゃない。ちょっと気にしすぎただけだ」
きっと、俺は昔を思い出そうとしてしまっているんだ。
最近どこか幸せで、生死の狭間を行き来して、実際に何度か死んで。そんな殺伐とした頃のことを思い出して、ああじゃないといけないと考えてヒセを警戒しすぎた。
その実大して警戒なんてしてないから目を逸らしてしまっていて。
面白くもない話だ。
天性のことを抜きにしたって話したくなんてない。だからリィナにはそう言ってごまかそうとしたのだが、食い下がってくる。
1度気になり出したら止まらないからなぁ、リィナは。どうやって誤魔化すか。
そんなことを考えていた、その時。
ヒセが、右手を背中にかけた剣に伸ばした。
「来る」
「え? 来るって、何――」
リィナがヒセを振り返った瞬間、地面が揺れた。
俺も遅れて弓に手を伸ばして視線を巡らす。だが、それは無駄なことだった。
足元が大きくひび割れた。
「へ?」
「っ、危ない!」
とっさにリィナの体を抱き抱えて跳ぶ。気になって目を向けると、ヒセも同様に跳び退っていた。
そして着地すると同時にひび割れた個所を見る。
地面に、穴が開いた。
「な、なんなのよ! こいつ!」
爆音とともに姿を現せ、岩の雨を降らすのは巨大な魔物だった。
全長10メートルは優に超えるような巨体の、モグラ系の魔物。先端がとがったらせん状の爪を両手に持ち、額にも土を掘り進めるための固い外骨格を備えている。
どうやら、それが足元から飛び出してきたらしい。
と言うか、こいつは――
「砂の王……それが何でこんなところにいるんだよ!」
魔の荒野に生息する、強力な魔物の1体だ。今まで何千と言う人間を殺してきたであろう、災害級の魔物だ。
本来ならここからは遠く離れた、もっと岩肌が大人しく、砂っぽい地域で暮らしているはず。
ドラゴンにも匹敵するような化け物が、なんでこんなタイミングでここにいるんだよ。
「リィナ! ここは逃げ――」
「行く」
「ちょ、ヒセ!?」
未だ状況が呑み込めていないらしいリィナに言おうとすると同時、背中から剣を下ろしたヒセが飛び出した。剣に巻いた布さえ外すのを忘れていることから、とっさの判断だったことが分かる。
砂の王はどんな地面だろうと容易に掘り進めることが出来る。逃げれないと考えたわけか。
「クソッ! リィナ、倒すとは言わない。せめて足を止めるくらいのダメージを与えるぞ!」
「え? え、ええ! 分かったわ! 《リヴェラル・ノヴァ》ッ!」
リィナは焦った様子ながらもすぐに魔法を放つ。
放たれた防風は駆けるヒセの頭を越えて、地表に出された砂の王の頭へと一直線に向かい、外骨格に直撃する。
わずかに破片が飛び散ったが、あの巨体から考えれば微々たるダメージだ。むしろ、こちらへの敵意が明確になった。
「っ!?」
巨体に備えられた目は、応じて大きかった。黒く塗りつぶされ穴のような瞳は、俺を飲み込むような渦となって殺意を放つ。
向けられた純粋すぎる殺意の塊に、体が固まる。
そして、脳に焼き付いて離れない、初めての死を思い出す。
一寸先も見えないような激しい砂嵐の中、全身砂で出来たかのような肌を持つ巨大なドラゴンが、赤い瞳だけを煌々と輝かせて佇んでいた。砂の厚さと質量が体を蝕み、体力をどんどんと奪っていく中必死に戦った。
それでも敵わなかったあの日の光景が、俺を死の恐怖へと沈ませる。
「ちょっとリネル、何やってるのよ!」
リィナの声が遠くから聞こえる。それでも、俺の体は弓を手に取ったまま固まっている。
弓を掴んだ手からじんわりと伝わってくる温かさも、安心感でさえ、恐怖を振り払うほどではなかった。
砂の王が、動き出す。
その右手を高く掲げ、金属質な鋭い爪を俺の頭上へと向けた。
それが、目にも止まらぬ速さで迫ってくる。
今から動いてかわせる速度じゃない。孫女装子らの弓が放つ矢よりもよっぽど速かった。あの巨体でどうやったこの速さで動くのかだなんて考えている余裕はない。
一瞬で鼓動が最高速度に達して、鼓膜を突き破りそうなほどの心音を鳴らす。
空気を切り裂く鋭い音が聞こえ、大きな影が俺の視界を覆いつくした。
その時、甲高い金属の音が鳴り響いた。
少し遅れて、リィナが抱き着いて来たのが分かった。左半身が温かく、柔らかい感触が包み込む。
でも、俺の視線はある一点に釘付けになっていた。きっと、リィナも同じはずだ。
それは、漆黒の剣だった。見るものを引き込む、あの砂の王の目よりも黒い黒。全てを飲み込む暗黒の剣が、砂の王の爪を受け止めている。
甲高い音を響かせ続け、耐え忍んでいる。
ヒセだった。俺よりも小さく、ひ弱そうな少女が砂の王に立ち向かっているのだ。
先日Nolaと言うサイトを見つけまして。
何でも小説を書きやすくしてくれるサイトだとか。現在お試し中ではあるのですが、若干の課金要素があるのは貧乏高校生にはキツイところ。それでも無料版だけで十二分に機能は発揮できるらしいので、これから何日かかけて使いながら後書きのネタにしたいと思います。
それでは!