表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/152

獣人の少女

 どうもシファニーです! 新キャラ登場ですよ!


 第73部、第2章第27話『獣人の少女』です。どうぞ!

 布に包まれたままの剣が目の前に迫り、思わず仰け反る。

 が、剣はそこで止まり、それ以上は動かなかった。


 向けられた剣先から柄の方へ向かい、やがてそれを握る少女を見た。

 灰色の髪と猫の耳を持つ、小柄な少女だ。ボロボロのマントと肌の露出する衣服からは獣人の荒々しさが伝わってくる。こんな幼い少女でもこんなところにひとりで出向き狩りをする、過酷な生活をしているということが容易に分かった。


「ちょ、ちょっと待て! 何もしない!」

「……じゃ、手、離して」


 視線が、背中の弓に伸びていた右手に向けれた。

 俺はその手をゆっくりと上げ、抵抗するつもりはないことを示す。

 隣で魔法を構えようとしていたリィナにも視線を向けて構えを解かせ、改めて少女を見る。


 俺たちに敵意が無いのを分かってくれたのか、少女は剣を下ろして剣先を地面にぶつけた。

 よく見ると、かなり長い剣だ。こんな小さな女の子が持っているようなものではないように見える。


 少女の顔からは警戒の色が消え、代わりに平坦な表情が浮かび上がった。


「ふたりは……耳が長い」

「ああ、エルフだからな。聞いたことないか?」

「エルフ……森の人」

「そう、それだ」


 どうにも言葉が拙い様子だ。活舌も曖昧だし、喋ることに慣れていないということだろうか。


「それで? あなたは獣人であっているのよね?」

「ん。ヒセ」

「ヒセ? どういう意味?」

「違う、名前」

「名前って、あなたの名前?」

「ん」


 リィナは、ヒセと名乗った少女の前で屈んで視線を合わせた。


「あなたみたいな小さい子がこんなところでどうしたのよ。ひとり?」

「ん。ご飯」

「狩りしてたのね」

「ん」


 短く返事をする癖でも付いているのか、ヒセはそれだけ言って先程倒していたらしい魔物を指差す。

 見たところ、馬系の魔物らしいが、遠いこともあってよく見えなかった。


「ふたりは?」

「え? 私たちの名前ってこと?」

「ん」


 リィナはすでにヒセと打ち解けているらしい。普通に会話している。


「私がリィナ、あっちがリネルよ」

「リィナと、リネル。ん、覚えた」

「そう。それは良かったわ。私たちは、あそこに見えるシンラシンラ、って森で暮らしているのよ」

「行ったことない」

「まあ、そうでしょうね。近づくなって言われてるんじゃないかしら。ほら、親からとか」


 ふたりが話をするのを、俺は少し遠巻きに見守っていた。

 獣人と言えば、気性が荒いのが特徴だと思っていた。だが、この少女はだいぶおとなしいらしい。最初こそ、警戒していたからか殺意を向けられたが、それだけだ。こちらが危害を加えるつもりはないと示せば、すぐに剣を下ろした。もう力を入れてすらない。

 それに、リィナもリィナだ。一応殺意を向けられたというのに順応が早すぎないか? それとも、互いに俺には見えていないものでも見えているのだろうか。この人は信じられる、と確信を抱くに足る何かが。


 そんなことは分からなかったが、争いに発展しないならそれが1番だ。

 正直、さっきの動きを見るにかなり腕が経つ。外見的にステージ2がせいぜいだろうが、3やそれ以上でも不思議はない。

 そう言えば、リィナに獣人のことを説明したことはあっただろうか。ステージについてなんかも、また今度話してみるのもいいかもしれない。


 なんてこと考えていた俺を、ヒセの声が現実に引き戻した。


「ヒセ、親いない」

「へ?」

「気が付いたら、ひとりだったから」


 酷く平坦な声だったはずだ。

 無感情で、それでも幼くて可愛らしい声。そのはずなのに、何か引き込むような雰囲気を纏っていた。愁いを帯び、孤独を引きずった金属の触れ合う音みたいな、そんな声。

 もしかしたら気のせいかもしれなかったが、何気ない口調で放たれたその言葉に、俺は思わずヒセを見つめていた。


 驚いたのはリィナも同じらしく、慌てた様子で動揺し始めた。


「え、えっと、それはその、ごめんなさい」

「ん、いい」

「そう? ……その、ありがとう」


 慣れている、のだろうか。

 ヒセは、気付けば先程までの雰囲気に戻っていた。本当に気にした素振りは見せていない。

 今の感覚は、なんだったのだろうか。


「じゃあもしかして、ずっとひとり?」


 リィナが聞くと、ヒセは静かに首を横に振る。どうやらそうではないらしい。


「ちょっと前まで、いた。赤いの」

「赤いの? えっと、友達?」

「獣人、キツネの。ちっこいの」

「へえ。じゃあ、どうして今はひとりなの?」

「おいてきた。赤いの、強くないから」


 強くないから。なるほど、確かにヒセくらいの実力者なら下手に弱い仲間を連れれば足手まといになりかねない。きっと、苦渋の決断だったのではなかろうか。

 なんて納得しかけていると、リィナが心底不思議そうに尋ねた。


「え? 弱いと、おいてくの?」

「ん」


 リィナの問いに、ヒセは短く答える。その通り、それ以外にないと断言するように、酷くあっさりと。

 そんな態度を見てか、リィナは少し悩む素振りを見せた後、そっか、と口にした。ヒセも、ん、と返す。

 その返事を聞いたリィナの横顔は、どこか悲し気に陰って見えた。


「あっ、それはそうと、あなたはこれからどうするの? まだひとりでこの辺を回る?」

「どうせなら、森の方、行く。行ったことない」

「本当? シンラシンラに来るなら、案内するわよ」


 言うと、ヒセは再び首を振る。


「中はやめとく。外見るだけでいい」

「そう? まあ、どっちにしろ私たちはこれからシンラシンラに帰るところよ。もしすぐに行くなら、一緒にどうかしら」

「……じゃ、行く」


 ヒセは少し考えるように目を閉じた後、そう言った。

 俺に確認もせずに勝手に決めるな、とリィナにやってやりたかったが、特に問題があるわけではないし、それに、こんな小さな子をひとりにすると思うと少しの罪悪感が湧いてくる。

 短い間かもしれないが、面倒を見ても罰は当たらないだろう。


「そういうことなら、よろしくな」

「ん……よろしく、リネル」


 ヒセは、こちらを見上げながらそんな挨拶を返してくれた。

 新キャラのヒセちゃんです! 灰色の髪と耳、大人しい性格の狼獣人。身の丈に合わない剣を振るう、孤独の戦士でもあります。リィナちゃんが成長してしまったのでロリ枠交代と言ったところでしょうか。私は決してロリコンではありません。ええ、断じて違いますとも。


 それでは!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ