後方注意
どうもシファニーです! なんだかタイトルから内容を察せてしまいそうな……まさかネタバレ!?
まあ正直こういう連載系だと1話単位のネタバレくらい許容範囲な気がします。こんなことを言っておきながら皆さんの予想を裏切れたら私の実力は高いと言えるのではないでしょうか。度肝抜いてやります。自信はありません。
第69部、第2章第23話『後方注意』です。どうぞ!
すでに周囲の状況は確認済みだ。見える範囲で俺たちの他にアークバイソンを狙っている魔物はいない。
と言っても、多くの魔物は俺たちよりも目が良いうえに速い。安心は出来ないだろう。
俺とリィナは岩陰に体を隠した。
アークバイソンまでの距離は、現時点で50メートルほど。弓を使えば何とか狙撃できる距離ではある。魔法も使えば一撃で仕留めることも難しくはないはずだ。
「リネル、どうする? ここから狙う?」
「それが一番手っ取り早いとは思う。ただ、一匹仕留めると同時に前みたいに他の魔物たちが寄ってくるはずだ。アークバイソンたちが逃げ出す音を聞いてな。それをどう対処するか……」
「事前に度の魔物が来るか予想は出来ないの? そうすれば警戒のしようもあるんだけど」
と、リィナは周囲を見渡しながら言う。
確かにそうだ。来る魔物の様を付けられれば空を見るべきか、それとも地表を見るべきかが分かる。いや、ここだと地面も注意しなくてはならないかもしれない。
「……いや、難しいな。流石の俺でも分からない」
「そりゃそうよねぇ。まあ、リネルがここから1匹仕留めて。来る魔物は私が倒すわ」
「大丈夫か? 1匹とは限らないぞ」
前回は1匹で済んだ。だが、俺が初めてこの辺で狩りをした時にはかなりの魔物に追い回された。
特にポイズンパラソルなんかはリィナひとりではどうしようもないはずだ。
そう思って聞いてみる。
リィナは俺の言葉を聞いて、考え込むように目を閉じた。
それから数秒時間が経って、覚悟を決めたようにゆっくりと瞼を開けた。
「ええ、大丈夫よ。私は、もうただの弱い私じゃない」
「そうか……いや、そうだな。今回はリィナに任せる。だけど、危なくなったら言えよ」
言うと、リィナは少しだけ恥ずかしそうに微笑みながら、安心させるような口調でいった。
「ええ、頼りにしてるわよ」
こんな荒れ果てた大地の上でも、白い花は可憐に咲き誇る。それはひとえに、リィナが荒れ地に潤いをもたらすオアシスのような存在で、見るものを魅了するような笑顔を浮かべられるエルフだから。
思わず泣か鳴った胸の鼓動を自覚した時、やっぱり、自分はだいぶリィナを大切に思っているらしいと知る。
いつか、1度失ってからは仲間なんて作らないと思っていた俺だけど。
エルフとして、生活し始めてからだよな。やっぱり、誰かと一緒に過ごすのは、家族がいるということは、心地よいと思い直したのは。
やっぱり失うのは怖い。だったら深入りしなければいいなんて、そんな風に思う俺もまだどこかにいる。だけど、それ以上にリィナが俺を安心させてくれる。一緒にいたいと思わせる。
憎まれ口が多くて、いっつも文句ばっかりで、偉そうで気が利かないところもあるけど、面倒を見てなければ危なっかしいところとか、浮かべる笑顔とか、優しさとか。短所を打ち消して余りある長所があるから。
俺はこの子を、守りたい。これからも一緒にいるために。
絶対に、死なせたくない。
「……ああ、任せろ。何があっても、リィナを守り抜く」
少し返事を迷う間、いろいろな思いが頭を巡った。そして放った決意の一言に、リィナは驚くように目を見開いた。それから頬を少しだけ赤くして、でも、それを誤魔化すように目を逸らした。
「ま、まあ当然のことよ。エルフの王女である私を守るのは、王子の役目だもの……さ、やるわよ」
そしてちょっと無理やり話を切り替える。でも、正しい判断だ。出来ると判断した時にすぐに行動に起こすべき。判断力が付いて来たんじゃなかろうか。
いや、ただの照れ隠しだろうな。
「だな。それじゃあ、警戒頼むぞ」
「ええ」
神林弓を背中から降ろす。
矢を1本を矢筒から取り出して、引く。狙いを定める傍ら、矢を引く右手に魔力を籠める。
矢に乗せるのは加速と威力増加。ただ一点、狙い定めた1匹の脳天に矢先を向けて、限界まで引き絞る。
そして、詠唱と同時に撃ち放つ。
「《エア・ブースト》」
物体に風を纏わせ、勢い良く押し出す魔法。エア・フライトと合わせて加速や急な方向転換を行ったりする際にも使う魔法だ。
今回は、矢を勢い良く押し出すために使った。
神林弓の力を受けた魔法は、普段の3割増しで効力を発揮する。
音速にも匹敵する速度で放たれた矢は迷いなく直進し、確かにアークバイソンの脳天を貫いた。
「よしっ!」
思わず小さく声を出す。
以前までならこの距離の狙撃には不安があったのだが、今となれば完璧だ。
誇りたくなってリィナをちらと伺うが、その眼は俺どころかアークバイソンすら見ておらず、油断なく周囲に巡らされている。
浮かべた真剣な表情に淀みは無くて、乾いた風に揺れる髪すら気にも留めない。
それを見て、俺も気を引き締め直す。
視線を正面に戻して、アークバイソンの群れを見た。
俺が射抜いた1体は、砂埃を立てながら地面に倒れた。そしてそれを合図にしたように群れが波打つように動き出す。倒れた仲間など既に気にも留めていない様子で、我先にと逃げだした。巻き込まれれば即死しそうなほどの迫力があるが、そんな流れはちょうど俺たちがいるのと逆の方へと向かって行った。
こちらに向かってこられると面倒だったので、これは助かる。
一息つきながら、俺は2本目の矢を弓に掛ける。そして空を警戒しようと見上げようとした時、背後から膨れ上がる魔力を感じた。
慌てて振り返る。リィナが俺の背後に立っていた。いつの間に移動した? 分からない。リィナは俺に背を向け、右手を正面に向けていた。
目を向ける。
「っ、あいつはマズイ!」
とっさに声を上げ、隠れ潜んでいた岩に手をかけ、上に跳んで矢を引き絞る。
狙い定めたそいつは、全長3メートルを超える巨大トカゲ。首元から顔を覆うようなえらを生やした4足歩行の魔物で、荒れ地を統べるように移動する。
それも、3体。
この前見たのが特別大きい固体だと思っていたが、ここだと普通なのか!?
「リィナ、そいつは!」
「《リヴェラル・ノヴァ》ッ!」
俺が危険を促すよりも早く、リィナは魔法を発動していた。
吹き荒れた防風は乾いた地面を抉って突き進む。3体すべてを覆いつくす範囲で放たれた強烈な一撃だったが、並んで迫って来ていた3体の内、2体はとっさに横に避け、残る1体は小さな岩陰に身を隠した。
突風が過ぎ去った後、岩陰に隠れた1体の皮膚が剥がれ、崩れた岩の下敷きにされている以外、ポイズンパラソルたちに被害は無かった。
「クソッ! リィナ、下がれ!」
「ええ! 《エア・フライト》ッ」
リィナは背後を確認することも無いまま魔法を唱え、一気に後ろに飛び跳ねる。俺さえも跳び越えて岩を越え、そのまま真っすぐ距離を取ったようだ。風を切る音が遠ざかる。
それを聞いて安心してから、背中に傷を負い、岩の下敷きになって動けなくなったポイズンパラソルに狙いを定める。
瞬間、目が合ったような気がする。その、大きく獰猛な瞳に見つめられて思わず息をのむ。
ここからは10メートル程度の距離があったが、巨大な個体だからか、迫力があった。
そうして臆した一瞬。その隙に口元に何かを溜める動作をするのを見て、俺は慌てて矢を放つ。
「《エア・ブースト》ッ!」
パンッ、と言う乾いた音が矢を吐き出すと同時、ポイズンパラソルが口を開く。
紫に染まったドロドロの液体が吐き出されるも、俺の矢はそれを貫通してポイズンパラソルの頭を貫く。爆発するような音と共に弾けたのは、とっさのことで矢に込める魔力量を間違ったから。矢はポイズンパラソルを貫いた後に地面に直撃し、その部分を少しだけ抉った。
それを確認するのも束の間、俺は岩の上から後方に跳ぶ。散ったとはいえ毒が飛んできていたし、何より、横に避けた2体のポイズンパラソルがすでに距離を詰めてきていた。
どうでした? 内容は想像通りでしたか? 想像通りだったとしても楽しめてもらえたなら何よりですが、的中しすぎて詰まらなかったという人いましたら教えてください。次は必ず驚かせて見せます。
それでは!