騒々しい目覚め
どうもシファニーです! 気付いたら週末が終わってました! テスト三昧の休日を人は休日とは呼びたくありません!(個人の意見)
第59部、第2章第13話『騒々しい目覚め』です。どうぞ!
「きゃあああああああーーーっ!?」
「何事だ!?」
翌朝。
どうやら俺は想像以上に深く眠りについていたらしい。リィナの悲鳴が聞こえて一気に意識が覚醒するまで、夢さえ見ていなかった。
体を起こし、まず視界に映ったのは明るい日差し。それは布製の窓から漏れる早朝の光で、斜光が眩しく差していた。
続いて部屋の中を見渡す。昨日の夜は暗くてよく見えなかったが、床壁天井、そのすべてが木だけで作られた個室。シンラ・プライドの部屋を比べれば狭いが、個人で使うには十分すぎる広さがある。
そして寝ているベッド。リィナが手作りしたと思われる掛布団とマットレスは上質で、俺を深い眠りへといざなってくれたことからもそれが伝わってくる。
そして最後に、赤面したリィナだった。
悲鳴が聞こえるにしてもやけに近いなと思っていたのだが、すぐ隣、それも、ベッドから体を起こした直後のような姿勢で、リィナはそこにいた。
普段の不機嫌面を忘れ去り、恥ずかしそうに顔を赤くするリィナの顔を見て、そして、俺とリィナが同じベッドにいたらしいということに気付いて、俺はなんとなくリィナが悲鳴を上げた理由を察した。
さて、どう言い訳しようか。
「よしちょっと状況を整理――」
「ど、どうしてリネルが私のベッドにいるのよ! ちゃんとあんたの部屋は用意したわよ!? こ、怖いならせめて一言許可をくれれば同じ部屋の床にくらい寝かせてあげたわよ! そ、それをベッドに忍び込むだなんて!」
「――させて……欲しかったな」
する間もなく罵られ、ちょっとぴり傷心。俺は一緒に寝たいって言っても床で寝かされるらしい。いやまあ、そんなことを言いだす俺ではないと思うが。
なんて、呑気に考えている場合ではなかったらしい。
リィナは、掛布団を引いて体を隠し、ベッドから降りて距離を取った。その行動に少し驚いた隙に、リィナはこちらに掌を向け、魔力を籠め始めた。
「ゆ、遺言くらいなら聞いておいてあげるわ! 今のうちにシンラ・カクにいるレイカに別れを告げておくのね!」
「やめろ!? 俺は濡れ衣で殺されたくなんてない!」
せっかくこの前ニケロイアを倒して転生を回避したのに、こんなところでエルフ生を失ってたまるものか。
「ぬ、濡れ衣? 濡れ衣も何も、あんたは寝込みを襲った変態で……あれ? この部屋の間取り、この向きだったかしら?」
そう呟いた直後、リィナはバツが悪そうに目線を下げ、魔力を霧散させる。
どうやら、自分用に用意した部屋と間取りが逆であることに気付いたらしい。
それから恐る恐ると言った様子でこちらを見上げて、控えめな様子で尋ねてくる。
「も、もしかして、私がリネルの部屋で寝てた?」
「まあ、一応そう言うことになるな」
「っー!? い、今のは忘れなさい!」
掛布団を放り投げたリィナは、逃げるように部屋を去っていく。勢いよく開け放たれ、音を立てて壁にぶつかった扉は、独りでにゆっくりと閉じて行く。その向こう側で、リィナの扉が勢いよく閉じられた。
「……朝風呂でも入るか」
そう言えば着替えすらしていなかったことを思い出した俺は、リィナが気付けるように脱衣所の壁に使用中、と刻まれた掛札を掛けてから朝からどっと沸いて来た疲れをいやすため、しばらく湯船につかるのだった。
それから、1時間くらいが経っただろうか。
風呂場にリィナが現れる、なんてアクシデントは怒らず、俺はキッチンで朝食の支度をしていた。
リィナはまだ部屋から出ていないらしい。何をしているのかも分からないが、どうにかプライドを築き直してくれるのを待つしかない。今俺が声をかけると、逆高価な気がする。
にしても、どうしてリィナは俺のベッドで寝ていたのだろうか。昨日の夜はちゃんとリィナのベッドに寝かしつけたはずだし、眠りに落ちるまでは間違いなくひとりだった。
寝ている最中も気は張っているはずだが……昨日はだいぶ深い眠りについていたらしいし、何があっても気付いていなかったかもしれない。だとすれば、本当に謎は深まるばかりだった。悪戯好きなアンデットの仕業だ、と言われても信じてしまいそうなくらい。
まあことの顛末は、何も覚えていないらしいリィナも分からないだろうから、お蔵入りだろうな。
寝ぼけたリィナがベッドに入って来たのが最有力だが、言わないでおこう。
なんて考えつつハンバーグの解凍を終え、同じ味では飽きるかもしれないと、さっき積んで来たばかりの薬草を添える。ちょっとの苦みと酸味が良いアクセントになるんだよなぁ。ついでに効能として疲労解消を持っているので、一石二鳥だ。
しかし、主食が無いな。肉ばかりでは栄養が偏ってしまうし、パンくらい焼きたいが、小麦はこの辺じゃ取れないよなぁ。シンラ・アースの中では育てていたが、それを持ってくるわけにもいかない。と言うか、あれだけの量でエルフ全員の分をまかなえているとは思えない。
もしかすると、一般的なエルフの食事は肉と植物だけだったりするのだろうか。
なんて考えながらふたり分の朝食を机の上に並べる。
そろそろ日も高くなり、朝ご飯を食べるには遅い時間になってしまう。いい加減リィナに声をかけようかと思っていると、廊下の方から扉の開く音がした。
ダイニングで椅子に座り、そのままで廊下の方に視線を向ける。すると、廊下の角から控えめに顔を覗かせていたリィナと目が合う。
「っ!?」
その瞬間リィナは驚いた様子で顔を引っ込めてしまった。一瞬のことでよく分からなかったが、まだ頬が赤かった気もするし、気まずさを覚えているのかもしれない。
これは、こちらから声をかけたほうがいいだろうか。
「リィナ、朝ご飯出来てるぞ。食べないか?」
「っ、た、食べるわ」
咳払いひとつ。
その後で顔を見せたリィナは、すでにいつもの服に着替えている。選択は水属性の魔法で一瞬なので、すでに済ませた後なのだろう。
朝には乱れていた髪も綺麗にセットされ、頭の上に花が咲いている。そう言えば、あれはなんて花なんだろうか。
リィナは、頬を少し赤らめながらも、普段と同じ様子で俺の正面に腰掛けた。
「改めて、おはよう、リィナ」
「お、おはよう。その、今朝は悪かったわね。私、寝癖が悪いから、たぶん私のせいだわ。八つ当たりしてごめんなさい」
思わず、少し驚いてしまった。
頭を下げたりはしなかったし、思いっきり目は背けられていた。それでもここまで素直に謝罪してくれるということは、俺に誠意を持ってくれていることの表れだろう。
ここで揶揄うのも面白そうではあるが……せっかく反省して謝ってくれたんだ。俺も大人の対応をしなければ。
「気にしないでくれ。これから一緒に暮らすことになるんだ、何があってもお互い様、助け合っていこうぜ。この家も部屋も寝具も、用意してくれたのはリィナだ。むしろ俺がお礼を言うべきなくらいだしな」
「リネル……え、ええ、そうよね! 素直に感謝してくれていいのよ!」
先程までとは少し違う様子で頬を赤くし、腕を組んで鼻高々にそう言うリィナは、完全に普段通りのリィナだった。
それから食べたハンバーグに、リィナは美味しいと笑みを零す。
そんな姿を素直に見せてくれるようになったのも、嬉しいことだ。これから少しずつ、より信頼し合えるような関係を築けたらいいよな。
寝相悪い人って本当にとことん悪いですよね。どうしてその姿勢で!? ってことが頻発します。そういう人には抱き枕がおススメだったりします。ちょっと寝方を間違えると寝違えますが、大きく動くことは無くなるのでハイリスクハイリターンですね。
ちなみにリィナちゃんレベルの寝相の悪さは最早夢遊病なので、あー私もそうなるー、って人は病院に行ってみてもいいかもしれません。
それでは!