刻まれる感触
どうもシファニーです! 今週も終わりました! 土日は何気に忙しいですが、それでも小説は書きます!
第67部、第2章第11話『刻まれる感触』です。どうぞ!
俺は、しばらく脱衣所の前で待機することにした。
というのも、リィナは正気じゃなかった。風呂場で倒れられては大変なので、物音でもしたらすぐに駆け付けようという魂胆だった。
俺はひとり旅が多かったし夜通し寝ないことはそれなりに慣れている。だが、王族として生まれ、安全な場所で過ごし続けていたリィナはそうもいかないだろう。だから眠いという気持ちはよく分かる。だからと言ってどこでも寝て言い訳ではなく、リィナの健康のためにもしっかりベッドまで運ぶ責任があると俺は思っている。
先程の事件もあったし、寝惚けたリィナが何をやらかすか分かったものではない。
扉に背を預けて待つこと10分程。扉の開く音が聞こえて来た。どうやら無事にお風呂を上がったらしい。ぴたぴたと濡れた足で床を歩く音が聞こえた。どうやら意識は覚醒しているらしいな。
「まあ大丈夫か」
そう呟いて立ち上がり、俺の部屋はどんなかなと確かめるために歩き出そうとした瞬間、背後で扉の開く音が聞こえた。
「あれ、リアサは? 私の着替えはどこ?」
それは、どこか眠たげで、呂律の周り切らないリィナの声。それは扉越しなんかではなく、はっきりと聞こえていた。そして、その言葉やお風呂を出てからわずかな時間しか経っていないことを考えれば、振り返ってはいけないとはっきり分かった。
ならどうするか、と次の手を考えるよりも早く、声が耳元まで迫った。
「リネルでもいいや。服着せて」
「は?」
両肩に手を置かれ、左耳に囁かれる。服が濡れるだろとか、そんなことはどうでもいい。生暖かい体温が湯気と共に伝わってきて、ふんわりと柔らかい感触が俺の背中に触れていた。それは、小さくつつましくも、確かに男性には存在しない膨らみ。
水で服がべっとりと背中に張り付き、その上からくっ付いてくるそれは、否応にも俺を刺激する。意識しないようにと思う度に感覚は鮮明になっていく。無駄に冴えわたった五感を今ほど恨んだことは無い。
その感触は、俺が感情を失っていないことを痛いほどに教えてくれた。確かに最近転生を繰り返す度に感情が薄くなっていて、それを心配していたりはしたが、こんな感情は求めていない。むしろそぎ落としてやりたいくらいだ。
にしてもこれはどういうことなのだろうか。スレンダーな体型が多いエルフ族、それも子どもで小柄なリィナの殻ですらここまで意識してしまうのは。俺だって伊達に長い人生を生きていない。他の女性たちが裏湯無用な肉体の持ち主はいたし、触れ合ったりしたこともあったが、ここまで意識を引かれたりはしなかった。
こんな直接的に触れるのは初めてとはいえ、以上と言わざるを得ない。
これが、転生する前から俺が幼女好きなのではなく、若いエルフに生まれ変わったからこその自然な欲望だと願うばかりだ。というかそんなことがあったらリーヴァに顔向けできない。
「ねえ、早くしてよ。寒いんだけど」
「ちょ、ちょっと待てって。まず着替えはどこなんだよ」
「さっき用意した……部屋ね」
「じゃあまず体を拭け。タオルは持ってたよな?」
「うん……拭いて」
「ぶふぉっ!?」
その吹いてじゃないことは分かっていたが、思わず吹き出しけていた。
最初に見てしまった時はすぐに目を逸らしたし、今は触れてはいるが見えていない。それでこの状態なのに、体を拭けだと? どうにか頑張れば見なくても出来るかもしれないが、出来たところで肌を、俺から触りに行かなければならない。
思わず、すぐ後ろにいるリィナを振り返る。するとちょうどあくびをするところで、目を閉じて口を手で覆っていた。そんな何気ない仕草ですら、状況を考えれば普段と違う印象を抱かざるを得ない。口元を覆う腕、そこから伝肩を見れば、何ひとつ覆うものの無い肌色。
男違って角ばった骨格ではなく、細く、瑞々しい。水が照って輝いていて、見ているだけで頭がくらくらしていく。どうにかそれ以上視線を下げないようにして、リィナを中心に回ることで脱衣所の方を見て、足元に落ちていたタオルを拾い上げる。
「えっと、本当に拭かないと駄目か?」
「眠いのよ、早くしなさい」
「……後悔しても知らないぞ」
もし明日の朝、リィナがすべてを覚えていたとしよう。そうしたらリィナはどんな態度をとるだろうか。怒るだろうか、照れるだろうか、恥ずかしがるだろうか。
どうだったとしても、リィナはきっといい思い出は無いに違いない。ただ、このまま裸で寝られたり、濡れたままで寝たりして風邪をひかれるよりはそっちのほうがいいかもしれない。
俺はそう決心して振り返り、それと同時にタオルでリィナの体を覆う。見えては、いない。
「と、とりあえず髪は魔法で乾かすから、動くなよ」
「ん~」
風魔法と火魔法を合わせ、暖かい風を作り出してリィナの髪を浮かす。出来るだけこの地獄と天国を混ぜて割ったみたいな状況を少しでも早く脱するための効率化だが、お湯の温度を保つ以上に神経をすり減らす。何ならニケロイアとの戦闘よりも疲れるかもしれない。主に精神的に。
「へぇ、これいいわねぇ。気持ちいいわ」
リィナは目を閉じ、心地よさそうに微笑む。どうやら暖かい風が気に入ったらしい。
それは別にいいのだが、問題は体だ。
タオルで隠しているとはいえ、拭くとなれば布越しとはいえリィナの体に障ってしまうわけで……。
だが、拭かないなら拭かないで問題があり、最終的には拭かなければならないのだろう。そのことが分かっているからこそ、俺は覚悟を決めた。
「……俺よ、意識を殺せ」
全身の感覚を自ら麻痺させ、何を差あっているのか分からないようにする。そうすることで俺は無心で作業をすることが可能で、容易にリィナの体を拭き終え――
ぷにっ、と、ちょうど胸部の辺りにある膨らみに触れた瞬間、思わず悶絶しそうになったのを、必死にこらえる。
あと一瞬判断が遅れたら、触れているものを勢いよく揉んでいたかもしれない。良くて終身刑。エルフの場合寿命が長いので、800年くらい牢屋行きになるところだった。まさに間一髪だ。
ではない。そんなことでせっかくのエルフ生を無駄にしたくはない。いや、別にリィナの体に触れることはそんなこと、と言っていいことではないが。王族だし、女の子だし。
というか、さっきから俺の思考が幼稚すぎる。
これまで女性経験を全くしてこなかったことが悔やまれる。どの人生でも結局戦い尽くしで、女性と知り合うことがあっても深い仲を築くことはほとんどなかった。それこそ、最初の人生の時の幼馴染や、二度目の人生の時のライバルくらい。
どちらとも、恋仲になったりはしていない。
その後も何度も試練を乗り越えた。
想像以上に筋肉質ながらも、それでも柔らかかったお腹。
他のどの部位と比べても弾力のあったお尻や太ももの感触は、もしかしたら一生記憶に刻まれ続けるかもしれない。リーヴァ、機会があったら俺を殺してくれても構わないぞ。
そんなこんなで何とか苦境を乗り越え、髪も乾かし終わった。そして一息つくのも束の間、いよいよ限界そうなリィナは、うつらうつらと首を揺らす。
「リネルぅ~、着替えさせてぇ~」
「っ!?!?!?!?!?」
よろめいたリィナが、正面から抱き着いて来た。タオルがはらりと床に落ちて、ダイレクトに伝わってくる温もり。湿り気が無くなった分更に生々しくなった感触は、俺の頭を真っ白にして埋め尽くす。
が、俺はすべての意識を奪われる最寄り先に、自分の頬を強く殴りつけた。
「よし、部屋に連れて行くからな!」
「へっ? きゃっ」
今この時の恥ずかしさやその他の高ぶる感情のすべてを抑えつけ、リィナの体を抱き抱える。そのままリィナの部屋に連れて行き、ベッドの上に投げ捨てる。そこから着替えを探し、初めて触れる女性用の下着だとかそんなこと気にすることさえなくリィナを着替えさせる。
その間わずか数瞬、俺の今までの人生をかけた全力だった。
ノリと勢いでごり押してます。正直このお話を書きながら私は無心になっていました。じゃないと書けない。少しでもリィナちゃんの魅力が伝わったらならと!
それでは!