初めての夜
どうもシファニーです! 1月も後半戦。頑張っていきますよ!
第56部、第2章第10話『初めての夜』です。どうぞ!
「へえ! 美味しいじゃない!」
リィナの作った家の中は、かなり立派だった。
ダイニングとキッチン、リビングが併設されていて、玄関から入ってすぐのスペースが主な生活スペースになっていた。
そして、正面から見て横並びになったそのスペース、その中央には廊下が続いていた。少しだけ覗いてみたのだが、廊下の両方向に扉がいくつか付いていて、恐らくはそのうちのふたつが俺とリィナの部屋なのだろうと思う。他は物置とかだろうか。
家としては必要最低限だが、ただ生活するには十分すぎる造りになっていて、俺は食事なんてそっちのけで感嘆していた。
対して、リィナはハンバーグにお熱だった。
「これ、すっごく美味しいわ! どうしてシンラ・プライドのシェフたちはこの料理を作ってこなかったのかしら! リネル、これはあなたにも責任があるのよ? こんなに美味しいものがあるなら、どうして早く伝えないのよ」
「いや、シンラ・プライドで出る料理も美味しかったから、特段気にならなくて……」
「言い訳は聞きたくないわ! これからしっかり私の料理を作ることで罪を償うのね!」
「罪って……」
どうしてそこまで言われなきゃならないんだと思うのが半分、それくらい喜んでくれている分かって嬉しいのが半分。
それに、リィナの嬉しそうな笑顔を見れたという点も含めれば、文句くらい甘んじて受けてやるのもやぶさかではない。
結局、リィナは笑っている時が1番可愛くてリィナらしい。
「何? さっきから私の顔ばっかり見て。食べないならもらうわよ」
「別になんでもない。あと、お代わりならあるから俺からとるのはやめろ。それなりにお腹が減ってるんだよ」
「ならそれをさっさと寄越しなさい」
フォークを握り締めて言うリィナの為に、キッチンへ向かう。
棚を開き、魔法で凍結させておいたハンバーグを取り出し、火属性魔法でいい感じに解凍する。それを持ってダイニングに戻れば、リィナはなおも美味しそうにハンバーグを食べていた。
先程、リィナに用意した分はすべて食べ終えていたはずなのに。
見れば、俺の皿の上にあったはずのものが無くなっていた。
「おい」
「だって1度冷凍すると味が落ちるんでしょう?」
「いやそうだけど……はあ、まあいいか。それで? もう満足したのか?」
持ってきたのをそのまま手元に置いて、席に座り直しながら聞けば、リィナは腕を組んで頷いた。
「まあ及第点と行ったところね。明日からも期待しておくわ」
「失格点じゃなくてよかったよ」
さっきあれだけ美味しそうに笑顔を浮かべていたくせによく言う。でもまあ、これでリィナなりに褒めてくれているのだろう。気難しい性格をどう受け止めるかは、今後の課題だな。
食器を片付けにキッチンに向かったリィナの背中を見ながら、ハンバーグを口に運ぶ。1度冷凍しているが、それでも噛めば肉汁と甘みが溢れてくる。
「我ながら上手いな。と言っても、食材が良いんだが」
リィナが満足してくれた味。今度はこれを越えて行けるように、頑張ってみるとするか。
そして食事を終えると、いよいよ夜中だった。睡魔の侵略はすでに始まっていて、特に、リィナなんかはもういつ寝てもおかしく無さそうだった。
リビングのソファで、何度か首を落としそうになっては起きてを繰り返していた。
「リィナ、寝室は用意したのか? あるならそっちに移動しようぜ」
「い、いえ、お風呂も入ってないのに、寝るなんて……」
「今日は疲れただろうから、また明日の朝にすればいいさ。どうせ、俺以外誰にも見られたりしないぞ」
「……駄目よ、絶対、入るんだから。お湯、入れといて。着替え、出すから」
リィナはそう言って立ち上がり、自分の頬を小さく叩く。そして廊下の方に向かのを、俺も後ろから付いて行く。1番手前、右手側がリィナの部屋らしい。リィナがそこに入ると、すぐに光が漏れて来た。ランタンを付けたのだろう。
一応倒れたりはしていないようなので、俺は言われた通りお湯を入れるためにお風呂を探す。
廊下を更に進むと、部屋は3つ。リィナが入った部屋の正面にも扉があったが、あそこは俺の部屋だろうと予想する。
まずリィナの部屋の隣を開ける。すると、そこはお手洗いだった。ちゃんと水流式らしい。いや、エルフの建築技術凄いな。魔法ひとつでここまで出来るとは。
その反対側はもぬけの殻だった。物置、だろうか。作ったばかりだから置くものも無いし、何もないのは当然だ。
「ということは、ここか」
廊下の突き当り、正面に置かれている扉を開くと、脱衣所だった。右手を見ると扉があり、そこがお風呂場だと予想する。
実際に開いてみればその通りで、シンラ・プライドで見慣れた木製の湯舟があった。が、まだ中は空だ。
「えっと、お湯を出すのは……あれ、待てよ? 火鋼石無くないか?」
水道はまだ分かる。が、リィナひとりで火鋼石を準備するのは無理だろう。
物は試しと蛇口を捻ると、水が出て来た。触ってみると、冷たかった。
「こりゃ……仕方ない、俺が温めるか」
蛇口から出る分だけでは貯まるのに時間がかかるので、俺の水魔法も合わせてすぐにいっぱいにする。そして、火属性魔法を唱える。
「《フレア・ゲージ》」
ちょうど湯舟を覆う程度に膨らんだ赤色の魔法陣は、しばらく留まった後、湯舟にしみこむように消えて行く。それから数秒も経たずに、湯舟にたまった自ら湯気が出始めた。
一定範囲内の温度を上昇させ、魔法の続く限り保つ魔法。温度をしっかり調整してやればこんな風にお風呂くらい湧かせるが、入っている間魔法を維持し続けなければいけないのであまり使わない。でも、今はリィナのためもあるし、あとは寝るだけで魔力を取っておく必要も無いので、これで凌ぐとしよう。
湯加減を確かめるために手を付けてみる。熱すぎず、温すぎないちょうどいい温度だった。
と、それと同時、近くから扉を開く音が聞こえて来た。リィナが来たらしい。
「リィナか? 準備で来たぞ。すぐ出るから、ちょっと待って――」
「ああ、ありがとう。悪かったわね」
「――っ!?」
俺が振り返ると同時、風呂場の扉が開け開かれる。
それと同時にリィナが現れ、俺の言葉を遮った。それだけなら、いつものことだ。お礼を言うなんて珍しいくらいは考えたかもしれないが、それでもいつも通りの範疇だろう。
リィナが一糸まとわぬ生まれたままの姿である、ということを除けば。
立ち上る蒸気では多い覚醒ないくらいに美しい体の曲線と白く瑞々しい肌を露にし、幾度と人生を繰り返しても滅多に見る機会の無かった隠される部分までさらけ出したリィナを見て、俺は言葉を失って固まった。
正気か!? と内心叫びながら顔を見ると、どうやら寝惚けているらしい。リィナは目を擦りながら、眠そうな顔をしていた。そして、そのままこちらに歩いてくる。
「っ!? あ、熱いから気を付けろよ!」
「ええ、そうするわ……」
返事する声はどこかうつろで、呂律も回っているか怪しかった。ひとりでお風呂に入らせるのも心配なくらいだが、俺はとっさにお風呂場から出て、勢いよく扉を閉めていた。
そして、お風呂の湯気だけでは説明が付かないくらい熱くなった顔を、両手で覆う。
鮮明に焼き付いてしまった、リィナの体。幼く、決して女性らしいとは言えなかった。だけど、今まで1度だって注視したことのなかった女性の体は、俺に十分すぎる動揺を与えた。
「……これは、油断ならないな……」
ひとつ暁光と言えたのは、初日にリィナの新たな一面を知れたこと。
不幸だと断言できるのは、理性を保ち続ける覚悟を決めざるを得なくなったことだった。
崩壊スターレイルなるゲームがあるのですが。
先日の大型アップデートを経て、ストーリーの新章が開幕しました。
がっつりやり込んでしまった私ですが、シナリオライターーってすごいんだよなぁと感服してしまいます。
ただ小説を書くのとは違う。ゲームという映像や音楽付きでの演出に合わせてシナリオを描く。それこそ、アニメの脚本に近しいものなのでしょう。自分の小説がアニメになったら嬉しいなぁ、というのはweb小説家のほとんどが望むことかとも思うのですが、目指す先が壮大すぎて自信なくなってきますよね。
それでも頑張ります!
それでは!