夜ご飯
どうもシファニーです! 1月ももう半分って本当ですか!?
第55話、第2章第9話『夜ご飯』です。どうぞ!
家が建っていた。
いや、本当に。もしこれが人間の国に立っていたら、立派な一軒家だ、という評価を下せるくらいの、普通の家。何なら少し豪華かもしれない。
どうやらすべてが木造らしい。それこそ、シンラ・カクで一般的に見るツリーハウスをそのまま大きくしたような感じ。建築技術なんかには詳しくないのでよく分からないが、センスのいい造りだと思う。一階建てで、壁は丸太を積み重ねている。装飾としてつるを使っていたり、所々花のアクセントも見える。玄関前には横長のベランダがあって、窓も付いている。窓はガラスではないようで、微かに風になびいている。シンラ・プライドの部屋にあった、カーテンのさらに薄い物だろうか。
そんな立派な家を前に、俺は思わずアークバイソンを落としてしまった。
大きく鈍い音が響く中、家の扉が開いてリィナが顔を見せた。
「あら、帰って来たわね。思ったより早かったじゃない。……って、それなに? そんな大きい猪? 初めて見たわ」
「あ、いやこれは牛の仲間で……」
「まあいいから、それを捌いてさっさと食べちゃいましょ。焼くなら外でね、家が燃えたら大変だから」
「え? あ、ああ……あ、料理は俺の仕事だったか」
出かける前に言ってたな、と思いつつ落としてしまったアークバイソンを振り返る。何も考えず狩って来たけど、こいつの解体、ちょっと面倒なんだよなあ。それに今ナイフ持ってないし。
「とりあえず風魔法で何とかするか。《エア・カッター》」
風の斬撃はかなりあっさりアークバイソンを切り裂いた。
そのことを確認してからは、前世での経験があったおかげで結構簡単に解体が終わる。1度その身1つで生きた経験と言うのは活きるものだな。こんな泥臭い作業、2度目の人生までなら考えられなかっただろう。
と、気付けば作業に没頭し、そろそろ終わりが見えてくるかという頃、不意に手元が明るくなった。
「へぇ、上手いのね」
光の出所を追って顔を上げると、ランタンを持ったリィナがいた。それは、シンラ・プライドでも良く見た魔法の淡い明かり。確か自然属性魔法の1つ、リヴェラル・ライトと言ったはず。自然属性魔法の中では1番扱いやすく、エルフたちのほとんどが扱えるんだとか。
ただ、その光を閉じ込めているランタンには見覚えがなかった。
「まあ、こういうのは慣れてるから。リィナこそ、器用というかなんというか……この家だって、どうやって建てたんだよ」
「ああ、リヴェラル・クラフトって魔法があるのよ。それで植物をある程度自由に操れるわ。ちなみに、この家生きてるから傷つけないようにね」
「生きてるって、どういうことだ?」
家が他の植物、なんてことはないだろうけど。
「あー、なんて言えばいいのかしら。この辺の植物たちが、私の魔法で形を変えて家になってるのよ。つるとか花とか見えるでしょ? ほんとは木だけでよかったのを、頼んでもないのに手伝ってくれてるの。その代わりにお手入れや子孫を残す手伝いをしてあげる、って約束でね。だから1日1回の水やりと、繁殖時期には適度に種や趣旨を飛ばす手伝いをするの。分かった?」
「家の手入れってなんだよ……まあ、分かったけど」
エルフたちの常識にも多少慣れてきたと思っていたが、まだまだだったようだ。
いや、聞いたことも無い魔法だし、もしかするとリィナがおかしいのかもしれない。
なんて思っても今は手元の作業だ。早く調理してしまわないと鮮度が落ちる。
しっかりと解体を終え、食べられる部分だけを風魔法で浮遊させておく。一応皮は取っておいて、食べられない部分は一か所に固めて置く。
さて、調理方法はどうしようか。適当に焼くだけでもいいが、どうせならしばらく食べていない料理を作ってみるのもいいだろう。
俺は、浮かせてあった肉をそのまま風魔法で木っ端みじんにした。
「ちょ、何やってるのよ! 食材を粗末にしないで!」
「違う違う、こういう調理方法だよ」
「はあ? そんな粉々にしてどうやって食べるのよ」
「まあ見てろって」
料理においても魔法は便利だ。
魔法を使えない人が様々な道具や知恵を使って料理する中、俺みたいに色々な種類の魔法を使えればその手間のほとんどを省ける。
実際、今日は調理器具が1つもない中で、何の問題もなく料理が出来そうだった。
「調味料も何もないけど、アークバイソンの肉はそもそもが美味しい。素材の味だけで十分に戦える」
「なにと戦うの?」
「他の料理にも負けない美味しさにする、ってことだよ」
粉々、というかミンチにした肉をそのまま風魔法で固め、空気を抜きながら圧縮していく。それをそのまま火属性魔法で焼く。空中で、それも全体を覆うように焼くことで焼き加減が均等になりその上効率よく調理することが出来る。
アークバイソンを丸々使うとなると、本来は部位によって焼くためにかかる時間も若干変わってくるのだが、ここまで細かくしてしまえば関係ない。そのまま焼き目が付くまで火にかけ続ければ、人間時代に好物だったものの1つ、ハンバーグが出来上がる。
と言っても肉のみだし味付けもしていない。繋ぎも無いため少し食べづらいかもしれないが、外から見ただけでも分かるくらい肉汁が溢れており、その甘い香りも相まって食欲がそそられた。
「これ、食べ物なの? 泥団子じゃなくて?」
「違う。ちゃんと肉を固めただろ。一応人間の国の料理で、ハンバーグと言う。本来は優しを入れたり味付けの為にソースをかけたりするが、正直これだけでも十分美味しいと思う。ただ焼くのとはまた違うから、とりあえず試してみてくれ。えっと、皿とかはあるか?」
「ええ、こういうのでよければ」
リィナがランタンと逆の手に持っていたのは、木製のお皿とスプーン、そしてフォーク。ちゃんとふたり分あって安心した。
「結構量が多いから、明日の朝に取っておいてもいいな。1度焼いてしまえばある程度長持ちするし、凍結させて保存しておけば、味は落ちるかもしれないがさらに長期保存が出来る」
「ふぅん、そうなの? それも野宿の知恵ってやつかしら」
「野宿、って言うか、まあ食事は大事だからな。色々な工夫の仕方を知っておいて損はないよな」
実際、俺は乾燥させたり凍結させたり、いろいろな方法を使って食料の長期保存を行っていた。どうやらシンラ・カクではその日に取った食材をその日のうちに食べる、という生活をしているらしいから、食材や料理を保存する、という発想は無いらしい。
ワインなどの飲み物は別として、発酵させた食料も見たことは無い。特に、肉や魚と言った生物を保管しておく習慣は無いらしいから、リィナからしてみれば外の世界と同じくらい目新しいのだろう。
「まあ、とにかく食べてみてくれよ。俺はこの辺片付けちゃうから。……中で食べるか?」
「そうしましょう。リネルの分も運んでおくわ」
「ああ、頼んだ」
風魔法で浮かべたハンバーグを、リィナの風魔法に渡す。そのままリィナが家の中にはいったのを確認して、後片付けを始める。
「にしてもまさか、野宿と言いながら家を作るとは。テントみたいのは考えもしなかったんだろうな」
そうは言っても王族の生まれ。過酷すぎる環境は耐えられないかもしれない。
こんなのは野宿じゃない、というのは言わぬが花なのだろうなと、決して口にしないことを誓うのだった。
私も1度ソロキャンプとかやってみたいですねぇ……え? ソロじゃ私”も”にならない、って? いいんです。とにかくキャンプがしてみたいって話です!
そりゃもちろん、出来ることなら恋人と一緒に夜空でも眺めてみたいですよ……。たぶん1人で行ったら一生スマホ見てます。自信があります。
それでは!