祝勝会の終わりに
どうもシファニーです! 休日も終わりかぁ、と思ったら3連休だった! 得した気分です!
第52部、第2章第6話『祝勝会の終わりに』です。どうぞ!
リーヴァが去った後、程なくしてリアサがグラスを片手にやって来た。
その中身は葡萄酒らしい。上の部分を覆うように持ちながら、向かってくる。
どうにもその足取りは揺れていて、見ているこっちが不安になるほど。
「リ、リアサ? 酔ってるのか?」
「あぁ? 悪いん? あーしだって酒くらい飲むっての」
「いや、それはそうなのかもしれないが……」
目を凝らさなくても分かるくらい頬を赤くし、よろめきながらのリアサは不満っぽく唇を尖らせた。
それから近くの机に寄り掛かり、置いてあった食事の皿を押しのけて腰を預けた。
「ちょ、そこ座ったらダメだろ」
「んっさいな、いーのよ。あーしはねぇ、今自由時間なの。あーゆーあんだすたん?」
「あ、はい」
か、絡み難い……。リアサには元々そんな気質はあったが、酒のせいで更に強調されてしまっている。気怠さと唯我独尊さがましましになったリアサは、グラスの酒を一気に煽った。
「あーまたそんな飲んで……」
「んあ? リネルっちも飲みたいんかぁ?」
「いや、俺は遠慮しとく」
「そ? まあ楽しめてんならそれでいーけど。んじゃ」
グラスの中身をすべて飲み干したリアサは、お代わりを取りに行くためか去っていった。
あれ以上飲んで大丈夫なのか? 少し心配に思いながらも、まあリアサなら自己管理くらいできるだろうかと気にしないことにする。
それからライラ、ローラ、リチャードなんかが、挨拶巡りのような感じでやって来た。みんな一言二言交わすだけではあったが、わざわざ声をかけてくれることがどこか嬉しくもある。避けられて、見て見ぬふりをされる人生もあった。
そう言うのをくぐって来たからか、ここで感じる温もりは、やっぱり心地いいんだ。
そうこうするうちに、段々と夜明けが近づく。本当に時間が流れるのはあっという間だった。いつの間にか料理は全部なくなり、ただただ穏やかな時間が流れるようになっていた。飲み物片手にはしゃぐ者たちがいれば、ふたりっきりで話し込む人もいて、誰からともなくかくし芸大会が始まり、森の中は、楽しげな声で満ち溢れるようになっていた。
そんな喧噪を縫うように、リネルに声をかける者がいた。
「リネル様、今、よろしいでしょうか」
「レイカ? ああ、もちろん」
祝勝会を、少し端の方で遠くから眺めていたリネルの下にレイカがやって来た。いつも通りの給仕服姿で、リアサと違って酔っている様子はない。普段通りの穏やかな笑みを浮かべて、何気ない様子で歩み寄った。
「お怪我は大丈夫ですか?」
「ああ、もう大丈夫だ。痛みも随分なくなった。まだ心配かけてるみたいで、なんかごめんな」
「いえいえ、私が心配性すぎるだけですので」
レイカはそう言って苦笑いを浮かべ、恥ずかしそうに頬を掻く。
その子どもっぽさに安心してしまったのは、大人の相手ばかりしていたからだろうか。みんな、俺を可愛い子どものように扱ってくる。張りつめていた物が緩まって、ありがたくはあったのだが、それが続くとどうにもこそばゆい。
そこを、対等な目線で話してくれるレイカがいてくれると、どこか解消されるような気がする。リィナが同年代ではあるのだが……同じ目線と言うよりは、一緒にいてあげないと駄目というか、そんな感じがしている。それが嫌ってわけじゃないし、守ってあげられることを嬉しいと思っているが、喋っていて気楽かって言われると、そのプライドの高さもあって微妙だったりする。
「もうそろそろ、祝勝会も終わりますね。何だかあっという間でした」
「そうだな。ここに来て初めての行事だったけど、楽しかった」
「そう思っていただけたのなら何よりです。私も、みんなが喜んでもらえたらと思って準備しましたので」
「え? レイカが準備したのか?」
「もちろん私ひとりじゃないですけど、準備に参加させていただきましたよ。私に出来ることはそれくらいですから」
そう言って、レイカは胸に手を当てる。
「リネル様やリィナ殿下が穏やかに、そして健康に育ってくださることが私の望みです。そのために出来ることなら、身を削ってでもしたいと思っていますので」
「そこまでの覚悟じゃなくても……でも、ありがとな。素直に嬉しいよ」
「へへっ、そう思っていただけるのなら、頑張りがいがあるというものです。……改めて、これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
この場所にいる限り、俺はどうしたってレイカを頼ってしまうんだろうな。改めてお願いするのも、やっておいては損は無いというものだ。
「私は、楽しみなんです」
突然、レイカは空を見上げて言った。
まあ、森の中では空と言うよりは木々や葉っぱしか見えないが。それでも葉の隙間から星空は見えていたし、浮かぶ淡い魔法の輝きが綺麗で、揺れる葉っぱも雲を演出しているようだった。
そんな夜空の下で、レイカは目を輝かせている。
「いつかおふたりが、このシンラ・カクを、シンラシンラをより良い場所にしている未来が。きっとおふたりならその未来をもたらしてくれる。叶えてくれると、そう信じています。そのお手伝いをすることが私の最大の目標で、それが叶ってくれたのなら、これ以上ない喜びだと、そう確信しています」
それは、誕生にお願いをするあどけない少女のような、期待に胸を躍らせる少女のような笑顔。優しく頬を撫でた夜風を伝わって聞こえてきたのは、レイカの弾んだ声だった。
「リネル様。私のお願いを、叶えてくれますか?」
「なんか、質問されている気がしないな。そうしろ、って言われてる」
「ふふっ、そんなことないですよ? でも、リネル様なら断らないでくださいますよね」
その物言いはどこか積極的で、普段のレイカらしからないようだった。でもとても楽し気で、浮かれているようで。その楽しそうな顔を見ているとこちらまで笑顔になれるのだが、どこか違和感を感じる。
その違和感の原因を究明するよりも早く、レイカが顔を寄せてくる。
「ふへへ、リネル様、お慕いしてますよ」
「あ、ありがとう……?」
ふやけたように口元をと緩め、ふにゃふにゃとした目元で顔を寄せて来たレイカ。明らかに様子がおかしいレイカの口からは、薄っすらとアルコール臭が……。
暗くてよく見えなかったが、近づいてから改めて視ると、レイカの頬は赤く染まっていた。
……レイカも酔ってやがる。
でも、さっきまでそんな様子は見せていなかった。今更になって酔いが回って来たということだろうか。リアサほど酒癖が悪いわけではないみたいだが、普段とは違う様子に戸惑ってしまう。やけに距離感が近いというか、甘えてくるような感じ。
「リネルしゃま~、しゅき~」
「レ、レイカ!?」
呂律の回っていないままで言いながら、レイカは俺の背中に手を回して抱き着いて来た。身長差のせいもあって俺の顔はレイカの胸元と接近し……言葉を選ばなければ、当たっていた。
これまでの人生でこのような状況がまったくなかったとは言わない。言わないが、俺は決して女性慣れしていなかった。それになんかこう、純粋な好意みたいなのは浴びせられたことがなかった。
要するに、俺は動揺していた。思考が止まり、何も考えられなくなっている。この状況をどうにかしようと思っても、思考がまとまらなくてレイカを引き離すことすら出来ない。
背中に回された手は温かく、耳元を撫でる吐息は甘い。頭がくらくらするような、アルコールだけではないその香り。
そんなものに包まれて、俺はどうにかなってしまいそうで――
俺を正気に戻したのは、背中に突き刺さった冷ややかな、というよりは凍えるような殺意だった。
レイカも感づいたのだろう、一瞬動きが固まり、息を止めた。
そのままの姿勢で恐る恐る振り返ると、そこに腕を組み、不機嫌そうな顔を浮かべたリィナがいた。
「お楽しみのようね?」
そして、皮肉っぽくそう言った。
今日は家族の誕生日で、外食に出ていたら今日の文を書くのを忘れていたという。
しかし何とか間に合わせました。学校が再開してからは時間が減り、共テも近づく中小説を書く余裕も少しずつなくなって……それでも、小説を書くことが私の勉強だと思い、時間を捻出して書いてます。
嘘です、暇人です。
それでは!