祝勝会の始まり
どうもシファニーです! 今日はまた一段と寒くて、学校には電車も車も使わないんですけど、もう途中で行くの諦めそうになりましたよね。今日も行った私は偉い。
第49部、第2章第3話『祝勝会の始まり』です。どうぞ!
「リネル様、もう大丈夫ですか?」
「まあ、何とか。そろそろ時間だろうし、行くか」
「あまり無茶はなさらないでくださいね?」
窓の外を見ると、もう日暮れが近かった。
リィナが立ち去ってからはレイカに紅茶を淹れてもらったりしながらくつろいでいた。
先日までの慌しさが無くなり、以前あった穏やかな時間が帰って来たのだと実感できた。この時間を守り抜けたことを誇りに思うとともに、この時間が好きだった自分に気付かされる。俺も存外、こういう平和が大好きらしい。
そんな時間がしばらく流れれば、すでに夜。レイカによればそろそろ祝勝会が始まる頃で、俺の出番もじきにやってくるだろうとのこと。そういうわけでベッドから立ち上がり、体の調子を確かめる。
「まだ痛いけど……まあ何とか。歩いて行けると思う」
「それはよかったです。それじゃあ参りましょうか。案内しますね」
「よろしく頼む」
レイカの背について、部屋を出た。
それからシンラ・カクの広場に向かうまでの間、考えていたのはレイカのこと。
正直に言えば、もっと怒られると思っていた。無茶したこととか、色々。けど、小言のひとつを言われることもなかった。心配をたくさんかけただろうし、謝りたい気持ちもあるのだが、気にしていなさそうなレイカを見ていると謝ることが憚られた。
普段通りに接してくれているのだし、こちらも普段通りで返した方がいいかとこうしているのだが、果たして正解なのだろうか。
まあ、ひとりで考えても答えが出るわけでもない。結局分からず仕舞いのまま、俺は広場にたどり着いた。
「これは……凄いな」
「はい。私たち自慢の伝統行事ですから」
シンラ・カクが、輝いていた。
普段は見えないものがたくさんあった。
それぞれのツリーハウスの屋根には明るく光を放つ結晶がつるされていて、色とりどりに輝いている。開けた空間に並べられた机の上にも、まるでシャンデリアのように豪華な照明が浮かんでいる。まさか飾りつけにまで風魔法を応用するなんて、流石エルフだ。
料理の支度も進んでいるらしく、普段はシンラ・プライドの厨房で忙しくしているエルフたちが広場中を駆けまわっていた。
他にもエルフたちが集まり出していて、楽し気な雰囲気で談笑をしているようだった。人間の国で国王の誕生祭を開く時でさえ、ここまで華やかな空間ではなかったように思う。それとも、エルフの生み出す暖かい空気が、俺にそう見せているのだろうか。
「伝統行事、って、祝勝会がか?」
「いえ、もちろんそうではありませんよ。私たちエルフは数十年に1度、必ずこうして宴を開くんです。そこに周期は無いんですけど、ただ、決まって何かめでたいことがあれば開くんです。以前開いたのは、リィナ殿下が生まれた時でした」
「なるほどな」
エルフにとっての一大イベント、ということだ。それならここまで力が入っているのも頷ける。
俺が会場の雰囲気に飲み込まれそうになっていると、背後から複数人分の足音が近づいてきた。
「あら寝坊助、やっと来たのね」
「お元気そうで何よりです」
「無事でよかったわ、リネル君」
聞き覚えのある声たちに振り返ると、リィナ、リアサ、リーヴァがそこに立っていた。
並んで歩くと、仲のいい姉妹のように見えてしまうのだから、本当に驚きだよな。
リィナは先程あったばかりだからいいとして、俺と同様戦いに参加したはずのリアサはなんともなさそうだし、ニケロイアの攻撃を受けたリーヴァも、元気そうにしていた。
「あら~、もう歩けるんですか~。若い子は回復が早くていいですね~」
と、遅れて聞こえてきた声は、視線の少し下から放たれていた。
その間延びした声の正体はローラ。両手を頬の隣で重ね、柔らかい笑みを浮かべていた。
「みんな……その、ご心配をおかけしました。おかげさまで、こうして元気です」
「何改まってんだか」
「こちらこそ、おかげさまでこうして祝勝会など開けておりますので」
「ええ。全部リネル君のおかげ」
「元気なら、それだけで十分です~」
思わずうるっ、と来てしまった。
リィナはともかくとして、こんなにも温かい言葉をかけてもらえるのは、いつぶりだろうか。もしかすると初めてかもしれないくらいだ。
今までどんな試練を克服したって、その先に待っているのは別の試練だった。もちろんひとつの試練を乗り越えただけで満足する気は無かったのだが、こうやって温かく迎え入れてもらえるのは、やはり嬉しいものらしい。
俺がそんな感動に浸っていると、周囲が騒めきだした。何事かと思って周りを見ると、エルフたちがみなこちらを見ているようす。それも、何か期待というか、興奮気味な視線を向けてきていた。
そんな様子に唖然としていると、小さく背中を押された。
振り返るとそこにはしかめっ面のリィナが立っている。
「何ぼーっとしてんのよ。ほら、あんたの出番よ。私に恥かかせたらただじゃ置かないからね」
「え、えーっと……」
リィナの言葉を受けてもわけが分からずにいると、リーヴァから説明が入った。
「みんな、祝勝会が始まるの待っているのよ? つまり、今回もっと頑張ったリネル君の言葉を、ね」
言われて、改めて見渡した。
みんな、俺を見ていた。リィナやリーヴァではない。この国の王族を差し置いて、俺を。
準備を進めていた料理人たちも、先程まで作業をしていたはずの戦士たちも、みんながこちらを見ている。そこに込められた期待と興奮、そして憧れのようなもの。その眼差しを一身に浴びて、俺の体は固まった。
金縛りにあったかのような感覚が緊張だと分かった時、俺は自分の未熟さを呪った。
英雄として何人もの前であれこれ言ってきたはずなのに、どうして足が竦むんだろうか。
その理由は、なんとなく分かっていた。みんな、本気で俺を信頼しているんだ。俺に託そうとしているんだ。この森の未来を、希望を。
もちろんその全部を俺が背負うわけではないのだろう。でも、ここにいる全員の、その少しでも俺が持たなきゃいけないとなれば、それだけで十分重責だ。
俺に、務まるのだろうか。俺は本当に、そんな器なのだろうか。
声が詰まり、何も言い出せない。何度喉を開こうとしても駄目で、深呼吸を繰り返す。それがどれだけの時間だったかは分からない。みんなを退屈させているんじゃないか、失望させてしまうんじゃないかと思う度に呼吸が荒くなって、さらに喋れなくなっていく。
そんな自分が情けなくて、俺は思わず拳を握った。
そんな俺の手を、優しく包み込むものがあった。
思わずそちらを向くと、リィナが、両手で俺の右手を包み込み、恥ずかしそうに頬を染め、唇を尖らせ、視線を地面に向けていた。
「リィナ?」
ようやく出たか細い声で名前を呼ぶと、リィナは驚いたように肩を大きく振るわせた。それから少しずつ視線をこちらに向け、恥ずかしそうに頬を赤くしたまま、鋭い目つきで睨み上げてきた。
「恥かかせたら、許さないって言ったわよ」
その、決して声援とは思えない言葉。でもその言葉に、不思議と俺の心は落ち着いて言った。呼吸が整い、足の震えが止まり、次第に全身の力抜けていく。そして軽くなった体で、改めて周囲を見渡した。
たくさんのエルフがいた。レイカがいた、リーヴァやリアサ、ローラ、ライラ、リチャード、ランド、レオン、ロイア。他にもたくさんのエルフたちが。
これから支え、支えられながら共に生きていく仲間たち。俺の大切な居場所たち。
最後に大きく息を吐いて、吸う。右手にリィナを感じながら、言い放つ。
「俺の名前はリネル! リィナの婚約者だ!」
年末年始の感覚が抜けきっていないのか、学校に行くのが大変になってきました今日この頃。学校でも小説ばっかり書いてます。いる場所が変わっただけですね。
というわけで、学校で書いた第2章第3話でした。
それでは!