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支え合って

 どうもシファニーです! どうして私は日曜日から学校に行ってたんでしょうね。ほんと意味分かりません。


 第45話、第1章第45話『支え合って』です。どうぞ!

 風林車が俺の上をすれすれで通過し、迫っていたニケロイアを吹き飛ばした。

 そんな光景を茫然と眺め、風林車の行く末を追っていると、後ろから足音が聞こえて来た。

 それがリィナだと思いだすよりも早く、背中に勢いよく抱き着かれた。


 そしてようやく、自分が体を起こしていたことに気付く。


「リネル!」


 力いっぱいに抱き着かれ、痛々しいほどに悲痛な声で俺を呼んだのは、やはりリィナの声だった。上擦り、震えた声に返す言葉を探した。どうしてここに、とか、九に抱き着くなんてどうした、とか。聞きたいことは色々あったけど、それよりも先に爆音が響く。


 何事かと音のする方に目を向ければ、風林車が木片となって散り散りになっていた。夜闇の中でも分かったのは、風林車を瞬く紫の光が包み込んでいたから。ニケロイアの紫電だった。


 その紫電の中心から、ひときわ輝く紫電が飛び出し、雷のように折れ曲がって俺たちの上空に移動した。


「くくっ、くはははははははっ! 面白いことをするじゃないか小娘! この私を吹き飛ばすとは、その根性だけは認めてやるが、ただではおかんぞ!」


 見るからに怒りに支配されていた。

 風林車による激突は俺の想像以上に効いたらしい。

 見てみれば、ニケロイアの足元からはべたべたとした液体が滴り、身を覆っていたローブが傷だらけになっていた。特に右の腹部には大きな穴が開き、黒い魔力が停滞し、紫電が溜まっていた。


 俺がそんな観察を終えるや否や、耳元で大声が上げられる。


「それはこっちのセリフよ! リネルをこんな傷だらけにして、その代償はとっても割るわよこのクソ魔族!」


 俺は思わずぎょっとした。別にリィナがニケロイアを挑発したことにではない。その言葉の中に、クソ、なんて言葉が入っていたことだ。リィナはこれでも言葉遣いはそこまで悪くなかった。可愛らしい高い声から放たれたクソなんて単語は新鮮で、それでいて可笑しくて思わず全身の緊張が解けたような気がした。

  

 なんとなく直感がした。

 足や手を動かしてみれば、思う通りに動く。もちろん未だ全身が痛むが、まだ戦える。


 俺の右肩から顔を覗かせるリィナの顔を見上げる。

 きめ細やかな金髪に彩られた、黄金比を築く究極の美形。幼さの残る童顔でこそあるが、そこには美術品めいた美しさと自然な可愛らしさの共存があった。

 深い青色に輝く瞳の中には空より広い理想と力強さが浮かんでいる。どこから見ても可愛いとか、反則だよな。 


 

 視線に気づいたらしいリィナと目が合い、それと同時にリィナの顔が一層不機嫌そうに歪む。

 そしていきなり告げてくる


「リネル! 約束しなさい! これ以上ひとりで無茶しないって!」

「無茶って……どっちがだよ。魔族に乗り物を突っ込ませるとか、聞いたことないぞ」

「うっさいわよ。いいでしょ助かったんだから。それより!」


 目を吊り上げ、声を張り上げたリィナが訴えかけてくる。前のめりになって両肩を掴まれて、強く握りしめられる。見るからに怒っていた。


 今窮地に立たされてるってことを、忘れそうになっていた。

 その理由はよく分からなかったけど、婚約者との約束くらい、ちゃんと結んでおいたほうがいいよな。


「ああ、分かった。もうしない」

「それでいいのよ、それで。……で、傷はどうなのよ」

「大したことない」

「嘘言わないで。ボロボロじゃない」

「あんまり軽く見るなよな、このくらいじゃ問題にもならないんだよ」


 そう言って、立ち上がる。

 行けた。立てた。不思議な感覚だ。立ち上がるのなんて到底不可能な傷だったはずだ。もう動く力なんて残っていなかったはずだ。

 それが、立ち上がることが出来た。


(見え張るためだけに、どんだけ頑張れるんだよ、この体)


 思わず笑みが込み上げてくる。

 リィナを安心させたいから。そんな理由でこんなにも力が湧いてくるのは、なんでだろうな。

 

 どうだ? と言う視線を込めてリィナを見下ろすと、膝立ちだったリィナも立ち上がろうとする。手を差し出せば、逡巡するように視線を逸らされた後、恥ずかし気に口を尖らせて手を取ってくれた。重さを分け合って、リィナが立ち上がる。


「礼は言わないわよ」

「求めるわけないだろ。当然のことだ」

「……あっそう」


 俺が言えば、リィナはぷいと視線を逸らす。そんないじらしい態度が可愛くて、俺の体はその可愛さに包まれる。繋がれた右手に温かい体温が広がってきて、慌ただしかった鼓動を落ち着けて行く。


 そんな俺の耳に、怒りに満ちた声がこだまする。


「くくっ、よくもまあ我の前でそんな茶番が出来たものだ! こちらが手を出さずにいれば、好き勝手いちゃつきやがって!」

「いいだろ? これ、俺の婚約者なんだぞ」

「調子のいいことを!」


 ニケロイアの正体を包み隠していたローブはすでに傷だらけ。フードもそのほとんどが破けていて、顔が見え隠れしていた。

 漆黒の面だった。仮面のように見えるそれは、一般的な魔族の顔。黒光りする外骨格は、昆虫のそれのように固い。その詳細こそ固体に寄るが、魔族は基本的にそんな外骨格に全身を包まれている。常に体内から溢れる魔力が結晶化したもの、と俺は考えているが実際は分からない。

 そんな恐ろしい顔が浮かべる怒りの形相。目を吊り上げ、全身から悍ましい魔力を放ち続ける姿は確かに恐ろしかったが、今の俺にはなんてことがないような気がした。


 俺の左手が、背中の弓を取り出した。

 繋いだ右手を伝わって、魔力が流れ込んでくる。

 神林弓の温かさと、リィナの温かさが俺の中で混ざり合う。


 生き、生かすために戦う力、だったか。


 お前は、守りたい人がそばにいれば強くなれる。そうなんだな。

 神林弓に問いかける。すると、右手を握る力が強くなった。気になってリィナを見れば、不機嫌そうに唇を尖らせ、じろり、といぶし気な視線を向けてきていた。


「リネル。あんた今私がいるのに別のこと考えてたでしょ」

「いや、別にそんなことは……ただ神林弓に念じてただけで」

「何? 私よりそんな無機物が良いって言うの?」

「そう言うんじゃないって。というか急にどうしたんだよ……」


 いつまでも握られた右手、いつにもまして不機嫌そうな顔。どうにも様子がおかしいことに気付いて考えていると、思い至った言葉が口から零れた。


「嫉妬か?」

「しっ……ッ!? そんなわけないでしょうが! 人がわざわざ来てやったのに、私を無視するのは可笑しいでしょって言ってるのよ!」

「無視なんてするわけないだろ。ちゃんとリィナのこと、感じてる」

「っ……いいわ、その気持ち悪いい方に免じて許してあげる」

「なんか嬉しくないな……」


 再びぷいと視線を逸らし、素っ気なさそうに言ったリィナ。ただ、少し見えたその横顔に笑みが浮かんでいたのは、見間違いではないはずだ。


 俺は、ゆっくりと視線を正面へと戻す。そこにはなおも律儀に待ち続けるニケロイアの姿。いや、きっと動けずにいるんだ。

 神林弓が放つ力を警戒した。実際、ニケロイアの視線は俺の左手に注がれている。


「気に食わないな」

「……何がだ」

「その、俺もリィナも眼中にないみたいな態度だよ」

「くくっ、愚か者が。端から見てなどいないよ。我の目的はその神器の破壊。貴様らのような子どもに構ってなどおれんのだよ!」

「じゃあ、見せつけてやらないとな。だろ、リィナ」


 俺は問いかける。

 その子は、可愛く可憐。誰もが憧れる王女様で、プライドが高い独りぼっちだった女の子。

 その子は、誰よりも思いやりがあって周りと違うことに悩み、少しずつ答えを見つけようとしている成長過程の女の子。

 そして、俺が守ると約束した女の子。


 リィナは逸らしていた視線を正面に戻し、ニケロイアを鋭い眼差しで見上げる。そして右手の指先で捉え、堂々と宣言した。


「エルフの王女を侮ったこと。その婚約者のリネルを侮ったこと! その不格好な外骨格に後悔として刻み込んであげるわよ!」

 第1章もそろそろ終わりが近づいてきた感じがしますね。まあ、1章が終わってもまだまだリィナの可愛さを描き続けるつもりでいます。このまま駆け抜けて行きたいですね!


 それでは!

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