戦い続けて
どうもシファニーです! 明日から学校です! 行きたくない!
第44部、第1章第44話『戦い続けて』です。どうぞ!
シンラシンラの外。夜の暗闇の中での戦闘は激しさを増す一方だった。
次々と放たれる紫電を躱される、風魔法を帰しては躱されることの繰り返し。しかし互いにその速度は高まり合い、一瞬でも気を抜けば次は直撃する。そんな緊迫感が張り詰めていた。
近くを紫電が通るたびに体がピリピリと麻痺する。魔力の絶対量も限界が近い。
かれこれ3、4時間近く戦い続けているが一向に戦況が傾くことはなく、拮抗し続けていた。
「想像以上に粘るな、小僧!」
「あんまり舐めてもらっちゃ困るんだよ!」
弦を引き、矢を放つ。ニケロイアはそれに反応し、紫電に姿を変えた。それは紫色に輝く人影。光速に近いんじゃないかと錯覚させるような動きでの回避行動。
ソニックウェーブを纏った1発は、ニケロイアの右頬を掠めるに留まる。今のが最後の矢だった。
先程から連発しているあの移動方法。魔力消耗が多いだろうという予想はしている。ただ、こちらが矢を放つタイミングで決まって使ってくる。あれこそがこちらにとっての最速の1撃で、有効打だということを理解しているのだろう。
それに途中から気付いて出し渋っていたが、ついに矢が尽きた。
それを見てか、ニケロイアは足を止め肩の力を抜いた。
俺はそれに思わず眉をひそめ、同様に足を止める。
「どうやら頼みの綱の矢も切れたらしいな」
「舐めてもらっちゃ困ると言ったはずだ。矢が無くなったからなんだ。その程度で負けを認めるとでも?」
「勇ましいのは良いがな、小僧。世の中には引き際と言うものがあるのだよ」
大仰に手を広げ、上から目線で告げてくるニケロイア。思わず苛立ちを覚えるも、頭を振って冷静になるよう心掛ける。ただ、それだけで冷静になれるほど今の状況に余裕はない。
ニケロイアには虚勢を張ったが、こちらは攻撃手段も体力も尽きかけている。魔力はあと数回魔法を使える程度。それも上位の魔法は無理だ。リヴェラル・ノヴァでも使おうものなら1発で空になる。体術で戦おうにも魔族相手に魔法の強化無しは厳しいし、繰り返すようだが矢は尽きた。
足だって、こうして立っているだけでも辛いくらいだ。俺の意識が定着する前も、冒険好きの両親の子どもとして鍛えていたようだが、足りない。その程度の鍛え方でまっとうに抗えるほど魔族は弱くない。
本当ならもっと色々な属性の魔法を使って圧倒してやりたかったんだけどな。前々から分かってはいたが、エルフとなったせいか風属性以外の魔法をあまりうまく使えなくなっている。使えても魔力効率が悪かったり、威力が下がったり。
ただどれも、諦める理由には、負けていい言い訳にはならないんだと再度自分を鼓舞する。
そして、鋭い視線でニケロイアを睨みつける。弓を仕舞い、両手を握りしめる。魔力効率が一番いいのは、結局これだよな。
「ほう……肉弾戦で勝負するつもりか? その幼い体で魔族に敵うとでも?」
「1回殴りつけてやっただろうが。……行くぞ」
両手に練り上げた魔力を握り締めて、俺は最後の攻防に臨む。
ここで勝ち切らなければ、俺に待つのは死だろう。全身が震え、気持ち悪いほどの鳥肌が立つ。ぞわぞわとした感覚が足先から込み上げてきて、無理やりにでも抑えつける。
恐怖に凍えた背筋を伸ばして、足のすくみをバネに変える。全身の魔力を集中させて、体全体で勝負する。
俺は強く地面を蹴り上げ、空中で佇むニケロイアに直進する。
「《ライトニング・オーブ》」
真っ向から放たれた電撃を右手で殴りつけ、弾けさせる。
バチバチと音を立てて破裂した電撃が漂うが、無視してそのままニケロイアに迫る。
振るった左手がニケロイアを覆う紫電に触れると同時、電撃を殴った時以上の反動が俺の肩を押し返す。
「っ、らああぁぁ!」
負けじと押し返す。
紫電はニケロイアに触れることを拒絶し、そこに見えない壁でもあるかのような感覚に陥る。少しずつ沈み始めていたが、勢いは完全に殺された。引き戻していた右手を再度振りかぶろうとして、至近距離で膨れ上がる魔力を感じる。
慌てて視線を下げれば、ニケロイアの両手に魔力が練り上げられていた。
「っ!?」
紫電の反発に抗うのをやめた。紫電が押し返す勢いを逆手に取って距離を取る。
それと同時、ニケロイアは魔法を叫ぶ。
「《ライトニング・オーブ》ッ!」
電撃がふたつ放たれ、押し返されて自由落下する俺に一直線に向かってくる。すでに会費が間に合う距離じゃない。両手を交差し。防御姿勢を取った。
電撃が腕にぶつかり、俺の魔力と触れ合って破裂する。そして生まれた衝撃波は俺の体にさらに勢いをつけ、地面に叩きつける。
紫電の熱が頬を焼き、服を焦がす。そして風を切る速度で落下する。何とか目線だけでも地面を捉えようとするが、暗くて距離が曖昧だ。そして地面が見えた時には、受け身が間に合う距離ではなかった。
「っ、ァっ!?」
激痛に思わず右目を閉じる。一瞬たりともニケロイアを見逃すわけにはいかなかったが、その意思を打ち砕くほどの痛みが走っていた。
背骨を固い地面に強打し、砂埃が巻き上がる。全身が金縛りにあったように硬直し、軽く跳ねあがり、再び背中から落ちる。何とか頭から落ちることだけは避けられたが、体がまともに動かない。
喉が焼けるように熱くなり、鉄の味が口を満たした。至る所が夜風に触れるだけで鋭い痛みを走らせ、起き上がろうとする俺を嘲笑うかのように膝が震えた。
体が、言うことを聞かなかった。
「やはり、その程度か!」
何とか開いていた左目に映ったのは、紫電になって姿を消したニケロイア。紫色の残像が暗闇に軌跡を描き、一直線に向かってくる。
星空すらも掻き消す紫の落雷は、幾度と繰り返してきた光景を右目のまぶたの裏に焼き付ける。
(また、死ぬんだな)
今までで1番情けない死に様だ。
最初の人生ではドラゴンと相打ちになり、その傷が災いした死に至った。
2度目では魔族の集団を一掃するも戦闘中に毒を受けていたことで死に、3度目ではようやく見つけた好敵手との互角の戦闘の中惜しくも実力を示せずに膝をついた。この前の人生だって魔の荒野を開拓し、その上幼いとはいえ獣人の少女を救って終わったのだ。
それがなんだ。今回はたった半月の人生、いや、エルフ生だった。何も成し遂げられない、情けない一生だ。
左に紫電が映り込み、フードの下の黒井外骨格が笑みを描くと同時、右に映ったのはリィナの不満げな顔。
何だよ。死ぬ時まで文句言われないといけないのか? これでも俺、結構頑張たんだけどなぁ……。
そんな俺の言い訳には耳もくれず、リィナは大きく口を開く。その声は聞こえなかったけど、ある程度なら唇を読める。それが短い単語だったのと、それっぽい言葉をつい最近口にしていたからか、リィナの言いたいことが何なのかすぐに分かった。
「約束!」
ふいに声が響いた。それは風を切るように鋭く、空気を震わすように慌ただしい、不機嫌そうと言うよりは必死そうな叫びだった。
思わず右目を開けた。ニケロイアは目の前で右手を振り上げ、そこに纏った紫電を俺に向けて叩きつけようとしている。だが、そんなことはどうでも良かった。今の叫びは、空耳でも幻聴でもなんでもない。
どこだ、どこにいる、リィナ。
「リネルに何すんのよおおおおおおぉぉぉ!」
絶叫が聞こえ、そちらに視線を向けると同時に俺の視界に映り込んだのは――
「何イイイイィィィッ!?」
――暴走した風林車にひき飛ばされるニケロイアの姿だった。
もう学校ってマジですか? 冬休み何もしてないよ~。
積んであった本もゲームも全然消化できませんでした。時間って短いですよね……ま、私は若いのでこれからたくさんありますし気長にやっていこうと思います。
それでは!