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森の外

 どうもシファニーです! さっきちょうど新しいキーボードを買って試しにタイピング中です。若干押す感覚が違って慣れなかったりするので誤字脱字があったりするかもしれません。確認はしましたが、もしあっても見逃すがご報告いただけると幸いです。


 第43話、第1章第43話『森の外』です。どうぞ!

「どこ行ったんだ?」


 森の中を駆け抜ける雷の残像を追いながら、俺は焦燥を抑えきれなかった。紫電をまとい、まるで嵐のように駆け抜けたニケロイアの姿は完全に見失った。それでもわずかに漂う魔力の流れだけを頼りに、俺は木々の間を縫うように進む。


 ニケロイアの俊敏さには驚かされたが、あの魔法には限界があるはずだ。魔力の消費が大きいか、あるいは持続時間に制約があるか。だからこそ、逃走に全力を注いだのだろう。だが、こちらが追いつく前に魔力を回復されてしまえば、戦局は振り出しに戻る。それだけは避けたい。


「くそっ……隠れてないで出てこい!」


 なんて叫びは、森の中を木霊して静かに消えて行った。


 それからどれくらい移動を続けていただろうか。リィナの魔法で明るいものの、密集した木々の中では方向感覚も狂う。魔力の流れにも確信が持てなくなり、迷子になりかけているかと思った瞬間、一気に視界が開けた気がした。


「ここは……」


 俺は、シンラシンラの外に出た。

 

 急に暗くなったことで感覚が狂った。どうやらリィナの魔法は、本当に森の中限定らしい。1歩森から出ただけで、俺の視界は夜の暗闇に包まれた。

 そこまで冷え込んでいないということは魔の荒野側か、人間の国のある方か。


「流石に人間の国がある方向ではなかったと思うけど――」


 と呟いた瞬間。

 背後に向けられた殺気にとっさに反応し、身をよじって大きく動く。


「ほう……やはり、侮れんな」


 俺に対して放たれたのは、紫電の塊。

 振り返り、確認してみればそれを放ったのはニケロイアだった。

 ニケロイアはほとんど変わらぬ姿だったが、所々フードが傷つき、黒色の外骨格が露になっている。魔族の特徴であるそれは、夜の暗闇でも怪しい光を放っていた。


 つい先ほどまでの高揚した様子を無くし、落ち着き払った態度でそう言ったニケロイアは、煌々とした瞳をフードの奥に宿して俺を見ていた。


「シンラシンラの影響で力を増しているかとも思ったが、そうではないらしいな。しかし、こうして暗闇に引きずり出した以上我の領域だ」


 暗闇に溶け込み、その場を圧倒するようなニケロイアの雰囲気に、俺は自然と神林弓の弦を撫でた。

 

「どうした。魔族ともあろうものが、有利な状況に連れ出して戦うってのか?」

「戯言を。戦とは勝つためにあるものだ。掴める有利は掴む。それこそが強者と言うものだ」


 その声は冷静で苛烈さはない。隙が無く、落ち着き払った態度がその不気味さを増していた。今はただ、争いの前の余興として雑談を楽しんでいるだけのよう。


「小僧、気付いているか? シンラシンラから争いの気配が消えたことに」

「そうだな。俺たちの勝ちだ」


 長髪に応じると、ニケロイアは愉快そうに肩を揺らした。


「くくっ、認めざるを得ないな。今回は貴様らの勝利としてやる。我が配下のひとりを失い、我もこうして消耗した。今回ばかりは撤退を余儀なくされている」

「また懲りずに攻めてくるみたいな口振りだな?」

「当然だ。我らが悲願は世界を魔族の、魔王様の手中に収めること! それを叶えるために必要とあれば、何度でも攻め込んでやる。……だが、我らとて無限の兵力を持つわけではない」

「何が言いたい?」


 神林弓をしっかりと握り、一瞬たりとも見逃さないようにニケロイアの一挙一動を注視しながら問えば、ニケロイアは不吉に笑った。


「我が軍門に下る気はないか?」

「……なに?」

「貴様にはそれに十分なだけの力がある。その上、他のエルフとは違うと見た。力を欲し、戦うことに魅了された眼をしている。……貴様が軍門に下ると約束するのなら、この地の襲撃を取りやめても良い。何、大陸の内にひとつくらい部族が残っていようが、寛容な魔族は気にも留めないさ。長命なうえ長い歴史を持つ種族、エルフ。その知恵と技術が完全に消滅すのは、しばしば惜しいと考えていたからな」


 つまり、俺に仲間になれということだ。その対価としてシンラ・カクにはもう手を出さない、と。

 よくもまあこんな追い詰められた状況で言えたな。なんて、考えられないから厄介だ。

 例えニケロイアをここで倒したとして、どうせ第2第3の魔族が襲撃にやってくる。魔族を完全に滅ぼすまで、それは続いてしまうのだ。ならばいっそここで我が身を売り、シンラ・カクに永遠の安泰を約束させるのも、選択肢としては十分に魅力的だった。

 俺がいるうちは守ってやると約束できる。だが、俺が死んだら? この神林弓を使いこなす人を見つけ、役目を終えた俺はこの場に残り続けられるのだろうか。答えは否だ。また死に、転生して新たな神器を探す旅が始まるだろう。


 いつだって、そうだった。


「……」

「考える時間をやろう。我らには時間がある。魔王様の復活までに可能な限り領土を広げたいが、それもまだ数十年は先のこと。数年待ってくれと言われても、そうするだけの余裕がある」


 ニケロイアは、恐らく笑みを浮かべている。それは余裕のある笑みだ。

 こちらの一時の平和をあざ笑い、平和が絶望に塗り替えられる瞬間を楽しみにしている笑みだ。


 ……俺が死ねば、すべてが解決するのだろうか。

 ここでニケロイアの軍門に下ることを約束し、シンラ・カクの安全を保障させる。そのうえで神林弓を誰かに託し、自ら命を断てばいいんじゃないか? そうすればシンラ・カクは安全。神林弓も役目を果たし、俺も次の旅に出ることが出来る。そんな上手く行くとも思えないが、それが成功すれば、最善なんじゃないか。

 そんな風に、思えてしまう。

 

 その時ふと、この前の人生の最後に自分が口にした言葉を思い出す。まだ幼く、非力な獣人な少女にかけた言葉。それは思わず出た言葉だったけど、俺にとっての本音だったはずだ。祈りと、願いを込めた言葉だったはずだ。


「生きろよ、か」

「む?」


 自分に言い聞かせるように呟いた言葉に、ニケロイアは反応を示した。わずかに肩を震わせ、魔力を練り始めたのが伝わってくる。

 まだ断ったつもりはないのにどうして、と考えようとして、神林弓から伝わってくる大量の魔力に気付いた。


「これは……」


 温もりと優しさ、心地よさと喜び。大切なものに送る、愛。自然の中に包まれたような安心感が流れ込んできて、俺の中で膨れ上がっていく。


「これが、神林弓の力……そうだったんだな。お前が司っている、力は」


 神器にはそれぞれ司る力がある。

 例えば、前世で獣人の少女に託した神器、魔剣。あの剣が司るのは試練を乗り越える力だった。絶望的な試練を運命的に引き寄せ、それを乗り越える力を与えるというもの。俺は上手く扱いきれずに死んでしまったが、本当の選ばれし者であるあの少女なら、きっと使いこなしているだろう。

 そして、神林弓。この弓の持つ温もりと優しさ、自然に包まれたかのような心地よさこそが、この武器の司る力だった。それは――


「生き、生かすために戦う力。……そうだな。守りたい人がいるんなら、まず俺が生きてなきゃいけない。こんなところで死ぬわけには、行かないよな」


 どれだけの努力を重ねたって敵わないものはたくさんある。何度だってそいつらに絶望し、膝をつき、殺されてきた。魔物の王ドラゴン、圧倒的物量、武闘を極めた者、絶望的な試練。

 でも、諦める理由にはならないんだ。頑張らない理由にはならないんだ。生きることを、投げ出す理由にはならないんだ。


 それに、端から受け入れる選択肢はないじゃないか。


「ニケロイア、答えが出たぞ」

「……そのようだな。聞かせてもらおうか」


 そこに生まれた間は、ニケロイアの躊躇だろうか。

 確かな迷いと、戸惑いが見えた。


 そんなニケロイアに、俺は堂々と告げてやる。


「誰がお前の配下になんてなるか馬鹿野郎! 俺にはやらなきゃいけないことがたくさんあるんだよ!」


 俺を信頼し、悩みを打ち明けてくれたリィナを悲しませないために。俺自身が、その笑顔を奪ってしまわないように。

 お年玉を数えてみたらそこそこありまして。うわぁ嬉しいと思っていたんですがここで重大な事実に気付く。私がお年玉もらえるの、今年で最後なんじゃね? と。だって成人しちゃいましたから。これには成人年齢を下げた政府に文句を言いたくなりますね。

 なので政府さん、私に2年分のお年玉をください。


 それでは!

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