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強さを示して

 どうもシファニーです! 今度は別の新年の集まりのせいで今日全然書けなかった!


 第42部、第1章第42話『強さを示して』です。どうぞ!

「リアサ、パイセン?」


 激痛がどこかに消えてなくなり、輝かしい青色の宝石が飛び出てきたと思ったら、リアサだった。

 金色の髪を大きくはためかせ、戦闘服を着こなす抜群のスタイル、気だるげな雰囲気の中に漂う頼もしさ。その雰囲気だけで誰かわかるその人が、知らない顔をしていた。


「そーよ、見て分からん?」

「いや、目……」

「目? ……あー、ほんとだ外れてる。急いできたからどっかで引っかけたかな、こりゃ。あとで新しいの作んなきゃ」

「大丈夫、なんすか?」

「ん? あー、別に」


 と言いつつ目を閉じ、リアサは両手に魔力を籠め始める。


「疲れるけど、こういう時ならよく見えてむしろあり寄りのあり」


 魔力を練り上げ、意識を集中させたリアサは、そう言って目を開く。


 その薄水色の瞳に、辺り一面の景色が鮮明に浮かび上がり、その空間を掌握する。既にスピアーモンキーたちは支配から解放され、狂化も魔力供給が断たれたことで解消されようとしている。そうすれば普段通り、エルフの集団を見れば恐怖心を抱いて逃げていくはず。

 だから今はただ、エルフたちが襲われないようにすればいいだけ。


 なら、あの魔法が相応しい。


「あーも、マジ怠い。結局魔力足りないんよね、あーし」


 魔力ってのは生まれつきその総量がある程度決まってる。エルフだと王家の血を引くものは多いけど、それ以外は誤差になる。実際リアサも庶民の生まれなので魔力量はそれなりだ。そのくせ魔力に精通していて魔法の習得は人一倍早い。

 扱える魔法の種類が多く、扱う制度も誰よりも高いのに魔力が少ないから連発できない。


「ほんと、リィナが羨ましい」


(そう言えばリネルも魔力が多いけど、あれは何でなんだろ。外に出ればあーしも魔力増えるんかな)


 そんなことを考えながら練り上げるのは、リヴェラル・ノヴァにも匹敵する魔力量。

 リィナみたいに森の力を借りられたら楽だろうが、そこまでの規模は必要ない。最後の力のすべてを振り絞り、視界一面を埋め尽くせるだけの準備をする。

 そして、歌声が響く。


「《リヴェラル・ボイス》


 木々の合間を抜けるような、優しい風が吹き抜けた。木々がリアサの歌声に合わせるように枝を揺らし、森全体で曲を奏でる。辺り一帯が一心同体となって流れる協奏曲を、ランドは目を見開いて聞いていた。


「痛みが、なくなるっす……」


 全身に走っていた激痛が、溜まっていた疲労がすっと抜けて行き、戦場に似合わない心地よさに包まれて行く。そんな感触に驚きながらリアサを見れば、片手を空に向け、もう片手を胸元に添えて可憐な歌声を奏でている。

 その歌声は、魔力に乗って戦場を覆いつくした。


「この歌声は……」

「なんか、凄い温かいな」

「それに、スピアーモンキーたちの様子が変わってくぞ!」


 戦場にいたエルフたちは、リアサの歌声に引き込まれるように動きを止めた。そしてスピアーモンキーも同様に、赤く獰猛だった瞳の色が正常に戻り、逆立って毛並みも落ち着きを取り戻して行く。やがてその場にいるすべての生命が心地よさそうに耳を傾け、心を休めていった。

 心休まるハーモニーは、リアサが最後の楽章を歌いきったことで終幕となる。大きく息をついてお辞儀をし、満足そうな表情を浮かべて顔を上げた。


 目を閉じ、一安心した様子のリアサに向かって、ランドが勢いよく駆け寄った。


「な、ななななんすか今の! ほんと凄かったっす!」

「あーもーうっさい、台無しっしょ? そこは拍手とかするもんじゃん」

「それどころじゃないっすよ!」


 目を輝かせ、両手を握り締めて興奮気味なランドを振り返ってリアサは溜息を吐く。

 そんなリアサを見ながらも、ランドは興奮冷めやらぬ様子だ。


「今のも魔法っすか!? 俺も使いたいっす!」

「あんたじゃ無理。あれの魔力制御はほんとに難しいんだから。あーしだって最大まで効率よくして、1日に1,2回使えればいい方。あんたじゃろくに使えない」

「そんなぁ!? お、お願いっす! ちょっとだけ、ちょっとだけ教えて欲しいっす!」

「あーあー分かった分かった、いいから治療受けてきなって、足、血出てるよ」

「そんなのいいっす! 今すぐ!」

「よかない。てかあーしも怪我してんの、見えない?」

「うっ、ご、ごめんなさいっす……と、取り合えずローラさんとこ行くっすか?」

「そーね……」


 言いながら振り返る。戦闘音はもう聞こえない。スピアーモンキーたちは正気を取り戻し、武器を構えたエルフたちを前に森の中へと逃げていく。この戦いの1番の被害者は彼らだけど、どう謝罪が出来たものか。

 ただ、この場は一件落着と言ってもよさそうだ。


 リヴェラル・ボイス。強力な鎮静効果のある魔法を歌声に乗せて放つ魔法。リィナから教えてもらったエルフの王家直伝の魔法らしい。風属性の最上位であるリヴェラル系、その1つであるリヴェラル・ボイスを扱えるのは、本当に限られた存在だけ。

 本当なら自慢したくて仕方ないが、今はそれどころではないので自制する。


 そんな魔法で静まり返った戦場に、もうこれ以上の戦力は必要ないだろう。


「ま、あとはリチャードがなんとかするっしょ」

「それもそうっすね。それじゃ行きましょう、パイセン!」

「なんでそんなに元気何だか……」


 両足刺され、何時間も戦い続けたくせに元気すぎる後輩は、ニコニコとした笑顔を浮かべて先に進んで行く。その背中を追って空を飛びながら考えるのは、リネルのこと。


「がんば、リネル。リィナが待ってるよ」


 今なお頑張る未来の王に向けたエールは、森の静けさに溶けて行った。


 そんな戦場の裏側で、リアサですら見逃すような場所にリィナはいた。


「あった! やっと見つけたわ! まったくレオン達、使ったらちゃんと戻しなさいって毎回言われてるのにどうして家の近くに停めたままにするのかしら。こういう時面倒だからルールがあるっていうのに……」


 まあ、私も言いつけを破ろうとしているわけだけど。

 

 静まり返ったシンラ・カク。レオンの住むツリーハウスの下にやってきたリィナは目的のものを見つけ、ひとり喜びの笑みを浮かべていた。普段不機嫌そうな顔を緩めたリィナには、普段の張りつめた雰囲気はなく、生き生きと、自分の気持ちに素直に行動している様子だった。

 

「こんな私を見たら、リアサとかレイカは驚くでしょうね」

「私が、なんですって?」

「っ!?」


 いないはずの人の声が聞こえ、思わず肩を震わせてしまう。

 それからゆっくりと、恐る恐る振り返る。


「こ、こ、で、何をしているんですか?」


 目と目が合った。そこにはおっとりとした目元とおおらかな雰囲気を纏う給仕服姿のエルフ、レイカがいた。ちょっと怒った様子で頬を膨らませて腕組し、こちらを覗き込んできていた。


「えっと……わ、私が何しようと私の自由でしょ!?」

「そう言うわけにはいきません! 今すぐそこで戦闘が行われているんですよ? この魔法、リィナ殿下のものですよね?」

「うっ、そ、それは……だって! 暗いとみんなが戦い辛いでしょ? だから頑張って明るくしたんじゃない!」

「それはいいです! きっとみんな感謝してますよ! でも、これ以上何をしようって言うんですか? そんなもの見つけて……」


 レイカはじとーっとした目つきで私の後ろにあるもの、風林車を見つめた。


「どこに行くんですか? まさか、この混乱に乗じてシンラシンラを出ようだなんて思ってないですよね?」

「お、思うわけないじゃない! 私だってそんなことはしないわよ!」

「じゃあなんなんですか!?」

「な、なにって、そりゃ……」


 思わず目を逸らす。

 普段、こんな風にはならないんだ。レイカを前にして何かしようとした時。それが例え我が儘でも、こんな風に胸が苦しくなったりはしない。でも今は、どうしようもない罪悪感に包まれている。どうしたって言うんだろう、私の心は。

 ……ううん、やっぱり違う。こんなの私らしくない。誰かの痛みも苦しさも、ずっと知りたいって思ってきたけど、そうじゃないんだ。分かった上で、誰よりも私らしくありたい。そう願って来たんじゃないか。その願いを、叶えるときなんじゃないか。


 両手の拳に力を籠め、覚悟を伝えるためにレイカを見上げる。私の目力に押されてか、レイカが一瞬怯む。その隙を見逃さず、私は言いたいことだけ言った。


「私はただ! リネルの闇を照らしたいだけ! リネルが、私を照らしてくれたみたいに!」

「それって……って、リィナ殿下!?」

「邪魔よ! 怪我したくないなら退きなさい!」


 こっそりと起動していた風林車。魔力で遠隔操作しながら出発させ、私もレイカに背を向けて走り出し、乗り込む。とっさに出遅れたレイカとの距離はどんどん開き、レイカが怒りと焦りの混じった声で叫んでくる。


「危ないんですよ!? 死んじゃうかもしれないんですよ!? 戻ってきてください!」

「馬鹿言ってんじゃないわよ! リネルも頑張ってるのに、その婚約者の私が指くわえて見てるわけにはいかないわ! それに!」


 それに、レイカが言ったんでしょ。教えてくれたんでしょ。


「信じて待つことも、強さなのよ!」

「リィナ殿下あああぁぁぁぁーー!」


 悲痛なレイカの叫びを置き去りに、風林車は木々の入り乱れる森の中へと突入する。


「リネル、待ってなさい。私があなたを照らして見せる!」


 私はもっと多くの魔力を注ぎ、風林車の速度をぐんぐん上げた。

 来年度から地元を離れるという話をしたら親戚からえらく悲しまれてしまって。どうせすぐ帰ってくるからと言って宥めはしたものの、私にもこんな風に思ってくれる人がいたんだなぁ、と。年下の従姉なんかもいて、大学が終わるまでの4年、その間にどれくらい大きくなるのかと想像してみたり。

 いやぁ、私も年を取りましたね。(18歳)


 それでは!

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