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戦場の動乱

 どうもシファニーです! 明日はいよいよ元旦。まあ何もないのですが。


 第39部、第1章第39話『戦場の動乱』です。どうぞ!

 戦場に2度目の変化が起こったのは、森が明るくなり、エルフたちに有利な戦闘が始まってから、本当にすぐのことだった。


「みんな、このまま魔物を包囲して抑え込むっすよ! リアサパイセンの作戦が成功すれば、スピアーモンキーたちは大人しくなって森に帰っていくはずっす!」


 仲間たちとの合流を果たしたランドは、自らについてきていたスピアーモンキーたちに反撃を仕掛けていた。視界が晴れたことで視認性がよくなり、連携も取りやすくなったことで戦場は好転。弓や魔法によって行動を制限し、スピアーモンキーたちを包囲することに成功していた。

 この前の戦闘の経験もあり、だいぶスムーズに行っていたことでランドは半ば戦勝ムードだった。


「これなら、しっかりリアサパイセンに褒めてもらそうっすね!」


 とは言いつつも気は抜かない。誰かに操られ、恐怖心がないとのことだ。いつ牙をむいて襲ってくるか分からない。命さえなげうつ勢いで来られたら、こちらも殺すしか手段がなくなる。そこで躊躇えば死ぬのはこちら。それが分かっているからこそ、気は抜けない。


「ランド! こっちはどうだ?」

「あ、リチャード顧問! 順調っすよ!」

「おお、そのようだな」


 流れでこの場の指揮を取り、まとめていたランドに声をかけたのはリチャードだった。

 千年近い時を生き、戦い続けてもなお若々しいその姿に憧れる戦士は多く、ランドもそのひとりだ。相変わらず色落ちしない金髪や男気のある顔つきにほれぼれしながら、浮かれ調子で報告する。

 リチャードも現場を実際に見て、真剣な顔つきながらもそう返事した。


「ならこのままここは任せる。私は他の場所も見て回――」

「な、何だ⁉ 急にスピアーモンキーたちが凶暴になったぞ!」


 ――ってくる、と言おうとしたリチャードの言葉を遮ったのは、スピアーモンキーを負い立てていたエルフのひとり。その悲鳴に慌ててランドとリチャードがそちらを向けば、戦士のひとりがスピアーモンキーに飛び掛かられているところだった。


「危ないっす! 《エア・アサルト》!」


 ランドはとっさに矢を引き、風魔法で加速をかけて放つ。揺れることなく一直線に向かった矢はスピアーモンキーの腕を貫いた。


「やりぃっ!」

「いや、まだだ!」

「え?」


 正確な遠距離射撃という高等技術を成功させ、ガッツポーズを作ったランドに、リチャードは喝を入れる。

 ランドが慌てて視線を戻すと、そこでは、腕を射抜かれたスピアーモンキーが、痛みなど知らないかのように腕を伸ばし、その爪を戦士に突き立てるところだった。


「な、なんで⁉」

「驚いている場合か! 行くぞランド!」

「は、はいっす!」


 慌ててスピアーモンキーが暴れ出した方に向かう。

 その間も、ランドは違和感の答えを探す。

 だって今までのスピアーモンキーたちはあれで怯み、勢いを落としていた。実際少し攻撃すれば委縮し、距離を取っていた。確かに命を顧みない行動をみえたが、本能的に仰け反ったり顔を背けたりしていたのだ。

 それが、急にまったく怯まなくなった。それは、なぜ?


 その答えが出ないうちに、現場にたどり着く。


「ぐっ、あああぁぁっ⁉ だ、誰か助けてくれぇ!」

「ま、待たせたっす! 《エア・スラッシュ》ッ!」


 肩に爪を突き立てられ、身動きが取れなくなった戦士にとどめを刺そうとするスピアーモンキー。そのスピアーモンキーの手、爪を突き立てていた右手を風の斬撃で切り取り、戦士との間に入ってもう1度魔法を唱える。


「《エア・ブラスト》ッ!」


 スピアーモンキーの体は吹き飛ばされ、木に激突して血を流す。

 殺さないように、なんて言っている暇は無かった。これくらいやらなければ、仲間が殺されそうだった。だから仕方ない、仕方ないんだ。悪いのは俺じゃない。

 そんな思考の渦を断ち切ったのは、すぐ後ろから聞こえてきた声。


「ラ、ランド、助かった……」

「っ、い、いいっすよこれくらい。それより早く退いてくださいっす。ローラさんのところまで!」

「あ、ああ!」


 その戦士は肩に爪を指し、切り落とされた腕をそのままにして戦場から退いていく。

 そこに、リチャードが遅れて到着した。


「ランド、速くなったな」

「いえ、これくらいは……それより、今のは何だったんすか?」


 普段なら褒められたことに対して真っ先に喜ぶところだったが、それどころではない。リチャードもそれが分かっているからか、聞かれて思案気に俯いた。


「……私にも分からない。だが、狂化と言う症状に似ていた気がする」

「何すか、それ?」


 リチャードは深く考え込み、やがて口を開く。


「体内の魔力量が許容量を超え、暴走している状態だ。だがこんな突然発症するものではないし、そもそも一般の魔物で起こることなのかどうかすら……とにかく、警戒が必要だ。魔族どもの作戦かもしれない」

「そうっすね。ここは任せてくださいっす、今まで以上に距離を取りつつ、対応するっす」

「ああ、任せた。私はみなに注意を促して回る。……死ぬなよ」

「もちろんっす!」


 ランドが原曲返事すると、リチャードは朗らかな微笑みを浮かべた後、すぐに真剣な表情を作り直して飛び去った。

 その背を見送った後、ランドの顔に出来ていた笑みも、ゆっくりと消え去った。


「これは、まずそうっすね。……みんな、話は聞いたっすね! 距離を取って対処するっすよ! 反撃されたら油断せず、確実に殺すっす! 自分の命最優先っすよ!」


 虚勢を張って声を上げれば、エルフたちは各々返事を返す。いったい何人が、今の言葉の意味を正確に捉えられただろうか。

 

「これ以上、危ないことにならなければいいんすけどね」


 ランドがそう零し、仲間を助けるために下げていた高度を上げ直そうとした、その瞬間。

 後ろの首を撫でる風の音が聞こえた。


「え?」


 普段なら気にしないような些細な事。それに反応できたのは、極限状態の中で普段より意識が集中していたからかもしれないし、ただのまぐれかもしれない。ただ、そうして振り返ったのがランドにとって幸運だったのか不運だったのかは、定かではない。


 ランドの目の前に、巨大な爪が迫っていた。


「うおぉっ⁉」


 とっさに手に持っていた弓を掲げて防御する。鋭い爪は弓に切れ込みを入れるが、そこで止まる。

 見てみればその爪の持ち主はスピアーモンキーで、赤い目を血走らせてランドを見つめていた。まるで、獲物を捕らえる捕食者のように。


 それからすぐ、飛びかかっていたスピアーモンキーの体がランドにぶつかる。防御姿勢に入っていたせいで、上手く躱せなかったのだ。


「お、も……っ!」


 普段から自分ひとりを運べれば十分だと思って練習していた浮遊魔法は、自分以上に重いスピアーモンキーの体を支えなければいけなくなったことで不安定になる。

 そしてますます体重がかかる。左手の爪は未だ弓に刺さっているが、右手が伸び、弓を退けようとつかんで離さない。


「や、やめるっす、よっ! っ、ぐ、あああぁぁぁぁっ⁉」


 直後、両足に鋭い痛みが走った。見ればスピアーモンキーの足の爪が、それぞれ両足に突き刺さり、出血していた。

 自分よりもずっと大柄で、力も強い。その上全身凶器の凶悪な魔物。今まで距離を取っていたからこそ感じなかった恐怖が、取っ組み合いになったことで全身を包み込む。


(痛い痛い痛い痛いっす! 腕も震えてきたし、いよいよ本気でやばいっすよ!)


 スピアーモンキーの顔から視線を逸らせば、こちらに向かってきている仲間が見える。だが、ランドだけが遠くにいすぎた。助けに来るまで、もう少し時間がかかる。

 ランドにはすでに、そのもう少しの間堪えられる自信がなかった。


(終わったっす……自分の人生、短かったすね……)


 段々と力負けし始め、弓が引き離されていく。左手の小指から始まり、薬指、中指、人差し指と力が抜けていき、やがて完全に引き離される。そのまま、右手も同様に。そうして、ランドの身を守るものは無くなった。


 ランドの足に自らの爪を突き刺して固定、挟まっていた左手の爪も器用に外し、両手が自由になったスピアーモンキーの顔に、笑みが浮かんだような気がした。

 涙で濁った視界の中でそれを確認して、ランドは心の中で力なく呟く。


(あーあ……リアサパイセンの作った手料理、食べたかったすね……)


 それと同時に、幼いころの記憶が蘇る。未熟で何も出来なかった自分に、リアサパイセンは浮遊魔法を見せてくれた。それに憧れ、自分も飛べるようになりたいと願ったのが懐かしい。あの頃の自分が今の自分を見たらどう思うだろう。


「格好いいなら、いいんすけどね」


 スピアーモンキーの両手の爪が容赦なく振り下ろされた。


 刹那、鋭く吹き抜けた風がスピアーモンキーの両腕を切り落とし、その痛みに声を上げるより早く、その首までもが切り落とされた。


「え?」


 その現状を理解できず、ランドの口から零れ落ちたその声。それに応えるように、気だるげな声が小さく空気を揺らす。

 それはまるで澄んだ空のように青々しく、そよ風のように透き通っていた。


「勝手に死なれても困るんよね。ほら、まだ動けるっしょ?」


 いつの間にか足に突き刺さっていた爪も無くなり、それどころかスピアーモンキーなどいなかったんじゃないかと思うくらいに、綺麗さっぱりその痕跡か消え去っていた。でも、夢を見ていたわけではないはずだ。なら、何が起こった?

 そんな疑問を抱くよりも早く、ランドの視界に、宝石よりも青く光り輝く2つの目が移り込んだ。

 私この作品は毎話3000字くらいで書いてるんですよ。これ自体もちょっと多めな気はするんですよね。大体2000字くらいが皆さん読みやすいかなと思いつつ、こうしないと区切りが悪いから、でそうなってるんですけど……今回4000字。駄目だこりゃ。

 これからはもっとみなさんが読みやすいように短めに出来るように頑張ります。


 それでは!

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