木の中のお姫様
どうもシファニーです! 最近寝つきが悪すぎて休日なのに疲れてます。暖房がない部屋寒すぎるんですよね……。
第38部、第1章第38話『木の中のお姫様』です。どうぞ!
リネルやリアサ、他の戦士たちが戦闘に赴く中、リィナは自分の憤る気持ちを抑えようとしていた。
「どうして誰も彼も私を置いていくのよ!」
「お、落ち着いてくださいリィナ殿下! 皆、リィナ殿下やリーヴァ殿下を守るために――」
「そんなの分かってるわよ! でもね、そのために誰かが怪我したり死んじゃうって思ったら居ても立ってもいられないっていうこの気持ち、分かるでしょ⁉」
悔しい。そう、悔しいのだ。守られることしか出来ない自分が、戦うことが出来ない自分が。
エルフの王族として生まれ、多くの魔力を身に秘めている。魔法の知識だって人並み以上に学んだし、魔力が多いおかげで実際に扱える魔法もたくさんある。それでも、自分はただ、自室に籠って勝利を祈ることしか出来ない。
「ああもうどうしてよ! どうしてリネルはよくて私は駄目なの⁉ リネルだって同い年じゃない!」
「それはその……リネル様が、神器に選ばれた方だからで――」
「それだけの理由⁉ それだけの理由でどうして、リネルは戦わなきゃいけないのよ! リネルだって守られるべきでしょ⁉ なんでリネルだけ、危険な目に遭ってるのよ!」
神器がそんなに特別? それとも外から来たから? 私とリネル、何がそんなに違うっていうの? 同じエルフで同じ年で、婚約を決めた以上身分だってほとんど一緒。それなのに、どうして……!
頭を抱えて答えを探していると、レイカが静かになったことに気付く。
リネルが出陣したことで仕事が無くなり、リアサの代わりに私のそばにいるレイカ。普段から臆病でどこか抜けてる、いつも全力だけどどこか心配になるそんな子。だからいつだっておどおどしていて控えめに声をかけることしか出来ない。
そんな風に思っていた。
顔を上げ、静かになったレイカを見た時。そこに浮かんだ真剣な眼差しに、私は驚かされた。そんな表情が出来るだなんて、まったく知らなかった。
「リィナ殿下」
「な、何よ」
「私だって、こんなところにいたいわけじゃありません。今すぐリネル様のところに行って、手を引いて逃げ出していくらいです」
「……」
声が出なくなった。レイカとの付き合いもそこそこ長いが、ここまではっきりとものを言われたことなんて無かった。
「でもそれをしないのは、リネル様を信じているからです。必ず生きて帰って来てくれると、分かっているからです。……いざという時、戦う力が無いことは確かにもどかしいです。自分ばかり守られて、罪悪感が湧いてくるかもしれません。ですが、その罪悪感に負けてしまったら、守るために戦ってくれている人たちに失礼だと思います。その覚悟を、裏切る行為だと思います。信じて待つことが出来る、それも強さなんです」
いつだって弱弱しい子に、まさか強さを語られるなんて。おどおどした姿しか見せていなかったのが嘘みたいだった。
私の頭の中はそんな考えでいっぱいになっていた。けれどそれを少しずつ租借して、飲み込んで、理解したときになって、私は確かにそうかもしれない、そう思えた。
何も戦うだけが強さじゃない。守られることは弱さじゃない。
なるほど、確かにその通りだ。守られることがもどかしくて、それを堪えると言うのは確かに強さなんだろう。
「……そうね。その通りだわ、レイカ」
「分かってくださったんですね! リィナ殿下!」
「ええ、ちゃんと分かったわ。誰かに心配をかけることも、誰かを心配することも悪にはなりえない。それぞれがそれぞれの役割をまっとうし、仲間を信じることこそが強さなんだ、って」
私の言葉を聞いて、レイカは嬉しそうに笑ってくれた。
「でしたら一緒に祈っていましょう。リネル様たちの帰還を」
「いえ? そんなことはしないわよ?」
「……はい?」
両手を胸の前で握り、目を閉じていたレイカが、豆鉄砲食らったような顔になって小首を傾げた。
そんな間抜けな顔に思わず笑いながら、私は宣言する。
「私は私なりに戦うわ! 誰に心配をかけたって気にしない! 私は私のために、私に出来る戦いをする!」
私にはエルフの王族として生まれたことで備わった大量の魔力があるし、森のことだって熟知してる。何も出来ないなんてそんなこと、あるわけがない!
「えええぇぇっ⁉ い、今そういう流れでしたか⁉」
「ええ! そうよ!」
「ち、違うと思います! お、お待ちくださいリィナ殿下! ってきゃっ⁉」
私はレイカを置き去りにして走り出す。レイカも慌てて立ち上がろうとしたが、スカートに足を取られて顔から落ちてた。あれはあれで痛そうなので後でローラに診せるとして、私は、今私に出来ることをするべきだ。
「リィナ殿下⁉ ど、どちらに行かれるのですか⁉」
「お待ちくださいリィナ殿下! 外は危険です!」
「だ、誰かリィナ殿下を御留めしろ!」
シンラ・プライド中のエルフたちが騒ぎ出し、私を止めようと躍起になる。でも、その程度で止まる私じゃない。
「《エア・フライト》っ!」
「ああっ! お待ちを!」
廊下の天井すれすれを飛んで追っ手を躱す。昇降機を使ったら袋のネズミなので、非常用の階段を使ってぐんぐん降りる。エア・フライトで減速しながらも、足で追いかけてくるエルフたちは簡単に撒けた。
それからも止まらず外を目指せば、結構あっさり抜け出せた。
「あら、これなら今度からは抜け出し放題ね」
今ままで外に出たいと思っても中々出れなかったが、いいことを知った。
しかし今はそんな場合ではない。
空を見上げれば真っ暗闇。シンラ・プライドの外では物音ひとつせず、薄暗い。シンラ・カクの中でもこの暗さ、森の中はもっと暗いだろう。
「どうにかして、森を明るく出来ないかしら。そうすればきっと、リネルたちの助けになれるはず……あっ! あれなら! でも、私の魔力でどうにかなるかしら?」
リヴェラル・ワームス。あれを使えば周囲を朝に変えることくらいならできる。でも、どこが戦場になっているかも分からない森全体を照らすのは、流石に至難の業だ。ドームの中を照らすのとはわけが違う。
でも、悩んでいる暇は無かった。
「出来ることを、出来るだけ……やるだけやって駄目なら、私はその程度、ってこと! ふん~っ!」
全身の魔力を両手に集結させる。極力魔力効率をよく出来るよう、温度調節は全部省く。昼と変わらない、戦闘するのに都合のいい明るさにすることだけを意識して、魔力を練り上げていく。
「駄目、これじゃ足りない……なら、森の魔力を貰うまでよ!」
くっきりと見える。シンラシンラの木々のすべてに宿る、何百年も溜め込んだ魔力たち。ちょっとやそっと使ったくらいじゃ、決して尽きることのない膨大な魔力。普段は森を壊さないように、枯らさないようにとみんな使わないようにしているみたいだけど、今回ばかりは許してもらえるだろう。
だってこれが失敗すれば森が壊されるかもしれない。それに、
「これが成功すれば、森を救えるのよ! だから許して! お願い! ……この森を、みんなを、リネルを守るために! はあああぁぁぁぁぁ!」
練り上げた魔力を薄く張っていく。それは森全体に伝わり、流れを飲み込む渦になる。
「お願い、私に力を貸して!」
そう叫ぶと同時、森全体が静かに揺れ始めた気がした。頬を優しく風が撫で、私の背中を押してくれるような感覚に包まれる。そして少しずつ、少しずつ森全体から魔力が渦に飲み込まれていく。
「っ! ありがとう、シンラシンラ! そのままお願い、もっと、もうちょっとだけ手伝って!」
私の魔力と森の魔力が、確実に混ざり合い、力を合わせていく。
その中に、一層魔力を強く放つ植物たちがあった。目を向ければ、それはシンラ・アースの中から放たれていた。しかしそれは木たちとは違い、己の命すら削るような量。
「みんな⁉ だ、駄目よ! そこまでする必要はないわ!」
必死に叫ぶが、魔力の供給は止まらない。どうにか魔力を断ち切れないかと考えていた時、手の中に、暖かい温もりが流れ込んできた。
それは、誰かに抱かれているような、包まれているような柔らかい温もり。安心させ、緊張から解き放ってくれるような、甘い香り。
「みんな……そう、そうよね。大切な人のためだもの、誰だって、無茶したくなるわよね。でも駄目よ、あなたたちにはリネルを笑顔にするって役割があるんだから、こんな余計なことで倒れてもらったら困るの! ……それでも、少しだけ力を貸して、みんな!」
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。想いを叫ぶたびに森中の魔力が集結し、やがて厚い膜となって森全体を覆い包む。すでに私ひとりで制御できる量ではなくなっていたが、安定を保ち、自らの意思で動いているかのように、森を守る壁かのように、そこに漂っていた。
「ありがとうを送るわ、シンラシンラ。そして、約束する。必ずこの場所を守り切って見せる、って。……これが私に出来る全力よ。みんな、受け取りなさい!」
再び掲げた両手は、大きな光を放ちだす。そしてそれが空へと向かい、森を覆う膜と触れ合う。それと同時に、私は祈りを告げていた。
「みんなを守って! 《リヴェラル・ワームス》ッ!」
その声が、シンラシンラを包み込む闇を払いのけ、光をもたらした。
これ、もしリィナの髪が塔のてっぺんからでも地面に届くくらいだったらどんなお話しになるんでしょうね(既視感)
ディズニーはあんまり見たことないけど人気なだけあって作品のクオリティーは馬鹿にならないはずなので、また今度見てみましょうかね。どうせ見ないですこの人。
それでは!