暗闇のシンラシンラ
どうもシファニーです! 1日中執筆したの久しぶり!
第34部、第1章第34話『暗闇のシンラシンラ』です。どうぞ!
暗闇の中での戦闘は、エルフたちにとって不利な状況を生み出していた。
「くっそぉー! なんで自分ばっかり追われるんっすか⁉」
突然の奇襲自体は想定していたし、夜間の戦闘も考慮はしていた。しかし、夜の森がこんなに視界が悪いものだということを、ランドは知らなかった。
戦闘が始まって間もなく、エルフたちは現れたスピアーモンキーたちに対し、優勢に立っているかのように思われた。その勢いを跳ねのけ、徐々に森の中に押し返していったのだ。しかしその優勢も束の間で、森の奥に深追いしすぎた数人の戦士たちは、スピアーモンキーたちの包囲網に入ってしまっていた。
そのひとりがランドである。
「ああもう埒が明かないっすよ!」
暗闇の中で直前まで見えなかったが、目の前に木が迫っていた。しかしランドは焦ることなく体を捻り、そのまま風魔法を足元に送り込んで跳ねるように姿勢を立て直す。方向転換と姿勢制御をすまし、また先ほどまでよ同じような高速移動に戻るまで、2秒と掛からない。
ランドはこれでもエア・フライトを始めとする風属性魔法の扱いに長けていて、空中戦闘は戦士たちの中でも5本の指に入ると自負している。だが、だからこそ可能な高速移動をもってしても、追っ手を振り切れないでいた。
理由は簡単だ。スピアーモンキーたちの数が多すぎる。四方八方を囲まれ、1匹撒いたと思ったらもう1匹、その2匹を撒いたと思ったらさらに、とすでに10匹以上に追われる状況になっている。ふと気になって背後を振り返るが、暗闇の中に光る眼がざっと30個は見えた。先程までよりさらに増えているかもしれない。
ランドはかなり長い間逃げ回っていた。待ち伏せしていたスピアーモンキーの攻撃をすれすれで躱したのも1度や2度ではなく、それが長く続くうちに少しずつ余裕が生まれていく。
「これが自分じゃなかったら危なかったっすね。他のエルフならとっくに捕まって――」
軽口を言うために開いた口を、ランドはすぐに閉ざした。耳元に鋭い風が走ったかと思えば、目の前で木が砕ける音がしたのだ。驚いて目を凝らし、その木に何がったのかを見てみれば、拳大の石がめり込んでいた。嫌な予感がして自分の耳を触ってみると、少し熱く、液体が滴っているようだった。
「マジ、っすか」
呟いた瞬間、再び風を切るような音がした。
「《エア・ブースト》ッ!」
とっさに体を捻り、ついでに風魔法で自分を押し出す。それと同時にもう1度鳴り響いた轟音は、先程までランドがいた場所のすぐ近くで鳴り響いていた。
スピアーモンキーが投擲しているのだろう。それもあてずっぽうではなく、かなりの精度で。
「こりゃ、まずいっすね!」
悲鳴のように叫びながらランドは移動を開始する。こちらは暗がりで狙い撃ちが出来ないというのに、スピアーモンキーは夜目が利くらしい、遠距離攻撃を仕掛けてくる。近づけば数で圧倒され、距離を取っても投げものを使ってくる。太刀打ちのしようがない状況に半ば絶望しながらも、動き続ければ捕まることはないと信じて逃げ続ける。
すでに集中力は切れかかり、魔力だってどれくらい持つかは分からない。
「こんな時、リアサパイセンだったら暗闇とか気にせず戦うんだろうなぁ」
なんて呟いてみるが、突然魔力の流れが見えるようになるわけもない。まだなお続きそうな追いかけっこに備え、頬を軽く叩いて気合を入れ直す。
もう1度振り返れば、スピアーモンキーたちとの距離は徐々に縮まっていた。逃げる方向が限定され、その度に敵の数が増えているからだろう。そのじりじりと詰め寄られる感覚に冷や汗を流しながらも、ランドは自らを鼓舞する。
「リアサパイセン、これが終わったら、褒めてもらうっすからね!」
高くこぶしを突き上げてランドが叫んだ瞬間、シンラシンラをひとりの魔力が包み込んだ。
「《リヴェラル・ワームス》ッ!」
晴れ渡る青空のような広がりを見せたその声は、シンラシンラに散らばっていたすべてのエルフの耳に届いた。
「今のリィナ殿下の声っすよね……」
そんな不思議な現象に思わずランドが飛ぶ速度を緩めた瞬間、背後から伝わる殺気に気付く。
振り返ると同時に、すぐそこまで迫る1体のスピアーモンキーが目に入った。だが、見えるのはその目だけだ。体がどこにあるのか分からない。
魔法を構えこそしたが狙いが定まらず、放てないでいた、まさにその時。
突然森全体が明るくなり、スピアーモンキーの姿が露になった。
「《エア・スラッシュ》ッ!」
風の斬撃が迷わずはなたれ、スピアーモンキーの体に傷をつける。勢いを失った体は落下し、やがて大きな音を立てる。
しかしランドに安心している暇はない。すぐさま次のスピアーモンキーが迫って来ているのを確認し、背を向けて移動を始める。
始めながらも、今の状況に困惑していた。
(いやいやどうして明るくなったんすか!? まさか自分一晩中逃げ回ってたんすか!? いや、そうだとしてこんな急に明るくなるわけが……)
空を見上げれば、青々とした木漏れ日が差し込んできている。見るからに昼である。
(リィナ殿下の声が聞こえた気がするっすけど、まさか何かの魔法、っすか? だとしたらリィナ殿下ぱねぇっす)
エルフの王家の血を引くものは魔力量が凄い、とは聞いたことがあるけど時間を早めるほどの大魔法が使えるだなんて知らなかった。
でも、おかげで視界が開けた。こうなってしまえばこちらのものだ。
逆転ののろしを上げるために視線を巡らす。
「あれは?」
すぐ目の前、3体のスピアーモンキーに追われる同僚が見えた。
矢筒から3本の矢を取り出し、弓を引く。しっかりと目を見張り、風を感じ、獲物の動きを追う。そして、放つ。
3本の矢はそれぞれ意思を持っているかのようにうねり、木の合間を縫い、そして獲物の頭を違わず貫く。3本同時、正確な射撃だった。
追われる気配が消えたことに気付いたのか、同僚が振り返る。
「おお、ランド! 助かっ――って、なんだその数! どれだけ連れまわしてるんだよ!」
「自分が聞きたいっすよ! 毎日お風呂入ってるんすけどね!」
「と、とにかく他のやつらと合流するぞ! そっから殲滅だ!」
「了解っす!」
視界が開けてしまえばエルフの領域。あとはこちらも数を揃えて対抗するだけの話。
「さあ、反撃するっすよ!」
落ち込んでいた思考もどこへやら。ランドの頭の中ではすでに、逆転の未来が煌々と輝いていた。
今回はランド視点! これからちょっと視点が毎話変わる感じになるかもしれませんが、なんとなく察してください!
全部を三人称で書いてもいいんですけど、心の中の考えとかを書くとき、やっぱり一人称の方が楽なんですよね。というわけでご容赦ください。
それでは!