エルフたちの決意
どうもシファニーです! 今日も家でゴロゴロ!
第34話、第1章第34話『エルフたちの決意』です。どうぞ!
俺とリアサは戦場に向かった。
リーヴァたちのところに行っても良かったが、すぐにでも敵が攻めてくるのなら前線にいるべきだろうという判断だ。
「あ、リアサパイセン、ちゃす。そちらは、リネル様っすね! じゃ、なくてリネル様ですね! こんにちは!」
リチャードに声をかけようと探していると、ツンツンヘアのお調子者感漂うエルフの男性が声をかけてきた。
どうやらリアサと知り合いらしいが、見覚えは無かった。
「えっと、君は?」
「ランドと呼んで欲しいっす! しがない戦士っす!」
「ランドか、よろしく。突然悪いんだけどリチャードがどこにいるか知ってるか?」
「はい! ご案内するっす!」
さっき正したはずの口調が戻っていたが、まあ気にするほどではない。
大仰に敬礼したランドに連れられ、俺とリアサはリチャードのところに向かった。
リチャードは仮設テントの下で話し合いをしていた。地図を覗き、他の戦士たちと共に作戦を練っている最中だったらしい。
声をかけるのが憚られて少し離れて待っていようかと思っていると、ふいに視線を上げたリチャードと目があった。
「おおリネル様! いらっしゃってくださったのですな! ささ、こちらへどうぞ!」
「いいのか? 忙しそうだけど」
「何をおっしゃいますか! そんなこと気にする必要はありませんぞ! して、何用ですかな?」
「何か手伝えることがないかと思ってな」
リアサのことも指差しながら言えば、リチャードは少し渋い顔をした。しかし、ひと息ついてから真剣な眼差しを浮かべてこちらを見た。
「此度の戦い、前回のように済むとは考えておりません。私のような老骨どもが積極的に前線に立つつもりであります。……それを承知のうえでも、同じことを言われるのですか?」
「死ぬつもりなのか?」
声をすぼめて聞けば、リチャードは静かに目を伏せ、語り出す。
「私はすでに千年近い時を生きております。ご存じかは分かりませんが、シンラ・カクの最年長者であります。これまでに多くのことを、多くの者に伝えてきました。すでに、私の役目は終わっております。すでに悔いはないつもりであります」
千年、と言う数字を聞いたとき、俺は想像できないと感じてしまった。俺は4度の転生をしてなお、100年と生きていないのだ。それだけの間シンラ・カクに貢献し続けてきた英雄が、死を覚悟している。つまり、それだけの窮地ということ。そんな危機感を抱いているということ。
「私にも多くの良き師がおりましたが、みな、若きを救うために命を懸けて戦いました。私自身も多くの戦士を育てましたが、その中には2度と帰らなかた者もいます。次は私の番なのでしょう」
そう言って、リチャードは静かにこちらを見つめた。
「私としましては、リネル様にはリィナ殿下と共にいていただきたいと、思う次第であります」
「……なるほど、考えは理解した」
「その口ぶりですと、私の願いは叶えていただけないのでしょうか」
「まあな」
苦笑いをするリチャードに返せば、朗らかな微笑みを浮かべ、仕方なさそうに頷いた。
そして居住まいを正し、背筋を伸ばす。
「シンラ・カク防衛軍顧問リチャード、リネル様及びリアサ嬢のご協力に感謝申し上げます。これより作戦会議を行います故、ご参加願います」
「ああ、ぜひ参加させてくれ」
そう答えて振り返れば、リアサも首を縦に振った。
周囲を見渡せば、戦士たちが見せるのは不安と期待が混ざった表情。リィナの婚約者の俺が危険を冒すことへの不安と、この状況をどうにかしてくれるんじゃないかという期待、と言ったところか。
残念ながらその不安を払拭してやることは出来ないが、期待には応えられるよう頑張らないとな。
何度も期待を裏切ってきた。でも今、俺は今まで以上に多くのものを背負っている。多くの大切に思ってくれる人がいる。それに、そう何度も繰り返すつもりはない。もう1度だって、失うのはうんざりなんだ。これ以上、失わせはしない。
それから、シンラ・カクを守るための作戦を立てた。俺とリアサが持つすべての情報を提示し、念入りに。こちらの戦力はエルフの戦士が200人ほど。対するは大量の魔物と、それを操る魔人、そしてニケロイア。きっと、激しい戦いになるはずだ。
それでも負けることは許されなかった。ここには守る人がいて、守ることが俺の役目だから。守ると、約束したから。リィナはその約束を知らないかもしれないけどな。
「こんなところ、ですかな」
「そうなるな。リチャード、難しいことを押し付けるようだが、よろしく頼む」
「何をおっしゃいますか。希望が見えてきた、それだけで十分でございます。我ら、必ずや成し遂げて見せましょう」
顔を上げれば、リチャードを始め、歴戦の面々が立ち上がり、背筋を正した。
って、みんな同年代にしか見えないんだけど。まだまだ新米戦士くらいの外見年齢なのに千年って、やっぱり感覚狂うな。でも、ちゃんと実力者たちのはずだ。何百年って修行を続けてきた、強者たちだ。任せられるだろう。
この場を収めるように、リチャードが声を上げた。
「では諸君、この戦いで魔族を倒し、我らの力を見せつけようぞ!」
「「「おおおおおぉぉぉーー!!!」」」
戦士たちの雄叫びが響く。
そろそろ日が暮れようとしていた。木々の葉はざわめき怪しく揺れるが、戦士たちに怯えはない。みな仲間を守るために、その命さえ捧げる覚悟が出来ていた。常に意識を張り続け、緊張感が漂っている。
そして、1時間が過ぎた頃。完全に日が暮れ、辺りは暗闇に包まれた。風のざわめきが強くなり、葉が擦れる音が響く。監視を続けるエルフたちは目を光らせ続け、緊張感を保ち続けていた。
そして、わずかに風向きが変わる。ひと際強く吹いたその風に思わず前髪を抑えたのと同時、住んだ暗闇を引き裂くような、甲高い鐘の音が鳴り響く。
戦闘の火蓋が、切って落とされた。
人類史における千年って馬鹿長いじゃないですか。科学技術なんて50年もあれば目に見える進化を遂げるのに、千年生き続けるって相当のことだと思うんですよ。ただ、エルフは基本的に寿命が長く、その分人類史と比べて1年ごとの価値が比較的低くなっている。皆停滞に慣れ、成長を忘れるのが常。そんな中でこのリチャードという男は、10万年以上シンラ・カクの歴史の中で多くの戦術を生み、戦士を育てて来た時代の先駆者になります。
なんて設定を考えていたのですが使う機会が無さそうなのでここに書いておきます。
それでは!