3度目の旅立ち
どうもシファニーです! 今日はホームセンターまでお散歩しましたよ。歩いて30分。田舎だと遠く感じる距離でもなかったですが、都会は建物が多くて景色がどんどん移り変わるのでやけに遠く感じましたね。
第146部、第4章第10話『3度目の旅立ち』です。どうぞ!
リーヴァの部屋での雑談が一区切りついたあと、部屋を出ようとした俺たちのことを、リーヴァが呼び止めた。
「ねえ、リィナ、リネル君。あと、レイカとヒセちゃんも」
「ん? どうかしたの?」
リィナが返事して、俺たちはいっせいに振り返る。
日が傾き、少しずつ暗くなる森を背後に、リーヴァは両手を胸の前で合わせている。何か思いを募らせ、祈っているような姿。
その姿は美しかったけれど、どうしてそんなことをしているのかは、分からない。
「今度出かけるときは、ちゃんと見送りをさせて欲しいの。だっていつも、私が知らないうちに出掛けちゃうんだもん。だから、ちゃんとお見送りしたい。行ってらっしゃい、って。駄目、かな?」
見送り、か。
確かに、まともにされたことはない。大切な娘が危ないことをするかもしれないのに、そんな事さえ出来ないんじゃ、リーヴァの心も休まらないか。
いや、違うな。
俺たち全員だ。リーヴァはきっと、リィナだけじゃない。俺たち4人の誰1人としていなくていいだなんて思わない。大切に思ってくれている。そして、成功を祈ってくれているんだ。
その想いを、受け取らないとな。
リィナも同じ意見だったんだろう。ため息を、どこか嬉しそうに微笑みながら零し、はっきりと口にする。
「そんなこと、お願いされるまでも無いわ。お母様が望むなら、いくらでも見送られてあげる」
「ほんと? いいの?」
「どうして駄目なのよ。そんなこと言うわけないじゃない。……でも、そうね。私からも変わりのお願いがあるわ」
「うんうん、なんでも聞くよ。私に出来ることなら」
「お母様にしか出来ないわよ。じゃないとお願いなんてしないもの」
相変わらず刺々しくて、図々しい。けどその声音が優しいのは分かるから、部屋の中はまだ、少しだけ陽気に包まれている。
「見送られてあげる代わり、出迎えて欲しいわ。お帰り、って。そしたら私たちが、ただいまって言うわ」
「リィナ……うん、任せて! ちゃんと全員、お出迎えするわ!」
誰もがきっと、この2人のことを親子だなんて思わない。エルフはともかく、人間は分からないだろう。
それでもたぶん、2人が本気で信頼し合っていることは肌で感じるはずだ。だから何、ってわけじゃない。ただ、数年前までは相いれなかった2人がこうして仲睦まじげにしているのは、ずっと見てきた俺からすると、嬉しいことだった。
夜、俺たちは一緒にご飯を食べることにした。リーヴァの部屋で、見知った顔たちが机を囲っている。
その中に、日中喋ることの出来なかったリアサがいた。
「リアサ、レイカに魔法を教えたんだって? また何で」
「強くお願いされましたので。それに、簡単なことくらいは覚えておいて損しませんので」
「簡単なことって言って、変なこと教えてないだろうな。レイカなら騙されかねないぞ」
「していませんよ。本当に」
相変わらず黒い布で両目を隠したリアサは、すました顔でそんなことを言う。嘘をついている様子はないが……リアサ自身が変わった生い立ちの持ち主だ。自覚がない場合だってある。
そもそも、リアサの性格で、素直にレイカに魔法を教えるとも思えない。誰よりも魔法の怖さと恐ろしさを知っているはずだ。レイカのことを大切に思うなら、危ない魔法は教えられない。
「だ、大丈夫ですよ! 私、ちゃんとお勉強しましたから! 御心配には及びません!」
「そうは言っても……ま、分からないことがあれば俺が教えても言い訳だし。何かあったら聞いてくれよ」
「その時はよろしくお願いします!」
レイカのやる気は本物だ。だからこそ、使いたいと言うのならちゃんと使わせてあげたい。ただなぁ。魔法って最初にどんな風に教わるかが8割と言われている。流派と例えたらいいのだろうか。人によって方針に差が出過ぎる。
リィナの場合は、不思議と上手くいったけど、レイカが上手くいくとは限らない。
しかしそうなると、リィナは誰から魔法を教わったんだろう。今度聞いてみようか。
それから一緒にご飯を食べた。メイド組は遠慮したが、リーヴァに強く言われたら断り切れない。レイカもリアサも、ローラも一緒になってご飯を食べた。
こんなことは、あの祝勝会以来だ。滅多にある事じゃない。どこか浮ついた気分のまま、時間は流れた。
そして、翌朝。
「もう、何もこんなすぐに出かけること無いのに」
「思い至ったら即行動するのが私のポリシーよ。あれこれ考えている時間が、勿体ないもの」
シンラ・プライドの前、俺、リィナ、ヒセ、レイカは、それぞれの荷物を持ち、横に並んでいた。
「そうね。それが多分、リィナのいいところ。でも、だからって進むばっかりじゃん無くていいからね? 途中でも、疲れたら帰ってきていいから」
「はいはい、考えておくわ。……それじゃ、そろそろ」
「……うん」
目を細め、肩の力を抜きながら、リーヴァは寂しそうに頷く。
「シンラシンラの外まではリオネルに送ってもらう。そしたらそこから歩いて、人間の国に行くわ」
「もしかしたら、私たちエルフは受け入れてもらえないかもしれない」
「そうかもしれないわね。けど、それでいかない理由になるわけじゃない。……ま、リネルもいるし、きっと大丈夫よ」
酷く信頼されたものだ。けど、リィナに向けられた、頼りにしていると言わんばかりの目が、俺は好きだ。その期待に応えるのも、やぶさかではない。
荷物はすでに風林車に積んである。あとは乗り込み、出発するだけ。
そんな俺たちを前にして、リーヴァは大きく息を吸う。何度か胸を上下さえ、最後に、小さく吐き出し、笑顔を浮かべた。
「みんな、行ってらっしゃい」
私が1人暮らしをするとなった時、親戚が集まって壮行会を開いてくれたのを、流石にまだ覚えています。私は別に心配でも不安でもなかったんですけど、そんな私以上に心配してくれたり、不安になる人がいて。
私はつくづく愛されていて、幸せなんだなと改めて思いましたよね。
別に勘違いでもいいんです。そう思わせてくれる人がいる。それだけで、やっぱり人間頑張れるってものですから。
それでは!