今だけは笑っていたい
どうもシファニーです! ガンダムジークアクス第2話。映画見てなかったのもあって鳥肌ものでした。
第142部、第4章第6話『今だけは笑っていたい』です。どうぞ!
リーヴァはしばらく抱きしめたのち、満足してくれたらしい。
俺たちのことを放し、数歩下がる。
「まったく、お母様にも困ったものです。いつまでも子ども扱いして」
「子どもに違いはないだろ?」
「そう言うことを言ってるんじゃないわよ」
なんて言いながらも、リィナは笑っている。満更でもない笑みを、浮かべている。
前この部屋を飛び出した時、リィナは泣いていたのを思い出す。その時のことを思えば、随分元気になったんじゃないだろうか。
なんだかんだ言って、リーヴァのことが大好きなのだ。じゃないとリーヴァが元気なだけで嬉しそうになるはずが無いのだから。
可愛げないって言ったの、訂正しようかな。
微笑ましい気持ちになりながら、リーヴァを見る。こんな可愛い娘が無事で帰って来たんだ。さぞかし嬉しくて仕方ないだろう。さっきのハグじゃ足りないかもしれない。
そんな風に思っていたから。
今にも抱きだしそうに目を赤くして、両手に力を込めたリーヴァを見て、思わず目を見開いた。
「……ねえ、リィナ。それと、リネル君」
「お母様? どうかしたんですか?」
リィナも気付く。
リーヴァは俯き、顔を隠すようにしながら。
どこか上擦った声で、ゆっくりと言う。
「私、ね。私、考えたの。やっぱり2人には、もっとたくさん外の世界を知って欲しい。聞いた時、驚いたよ。雪山に行ったって。2人の好奇心と行動力、私、分かりきってなかったみたいなの。……だから、もう10年。そのくらいの時間しか、用意できないけど。2人には、もっとく多くの世界を見に行って欲しいと、思ってるんだ」
言葉が出来なかった。それがどういうことを意味するのか、聞けなかった。
思わずリィナを見た。開いた口が広がらず、ただリーヴァを見つめることしか出来ない。脱力し、何をしていいのか理解できないといった様子で、固まっている。
……ここは、俺が声を上げなきゃいけないか。婿として。そして、息子として。
「リーヴァ様、その言葉の意味が分かった上で言っているのなら、それは――」
「お母様は何も分かっていない!」
「――っ、リィナ?」
リィナが声を荒げた。喉を焦がすような、苛立ちにまみれた声。何度か聞いたことがある。けれど、そのどれよりも大きく、重く芯に響く声だ。
「リィナ。私はね、最後に少しでも、リィナの好きなことを」
「私が何が好きなのか、お母様は知っているんですか?」
「え? それは、外の世界を知る事でしょ?」
「違います」
断じた。俺に出会った時、あれだけ願ったことじゃないのか。それがもし嘘だとしたら無理がありすぎる。
だって、リィナはあんなに外の世界に憧れてたじゃないか。行ってみたいと願い、自ら足を踏み出して。
何にそこまで魅入られたのか。焦がれたのか。分からない程に。……分からない? いや、理由ならあるだろう。リィナのお父さんが冒険好きで、その本を見て憧れたんだ。自分も行ってみたい。お父様が見たことないような景色を見たいって。
だから、あれだけ……。
それは明確なことのはずなのに、何か違和感があって。
その答えにたどり着いた時、はっとした。
「私は、憧れたんです。外の世界に行くことに。捕らわれの世界から、抜け出すことに。お父様が見た景色を、見ていない景色を。たくさんの景色を、見ることに」
「で、でしょ? だから、リィナが好きなのは」
「けど、別にそうじゃなくてもいいんです。そうじゃなくてもよかったのよ。そのことに、やっと気づけたのよ」
口調が変わったのは、自分に言い聞かせていたからだろうか。噛み締めるように呟いて、リィナはリーヴァの目を真っ直ぐ見つめた。
「私は連れ出して欲しかった。外の世界に。でもそれは外の世界に魅入られたからが理由じゃなかった。誰よりも憧れた人と、同じことがしてみたかった。そんな、本当に子どもっぽい理由。ねえ、お母様。私が誰よりも憧れた人、誰だと思う?」
リィナが生まれた時には、すでに父親はいなかったという。そんなリィナにとって、誰よりも身近で、憧れることの出来た存在。そんなの、リーヴァしかいないはずだ。
ああそうか。
本当は大好きなくせに認められないのは、嫌いなら言わないはずの文句を言うのは。
リーヴァに憧れ、リーヴァのようになりたいと願っていたからなんだ。
リーヴァも言葉の意味に気付いたのだろう。目を見開いて、口元を抑えた。
「私、何度も失いかけた。大切な人を、失う痛みを知ったの。それはたぶん、お母様の感じたのと同じもの。出来れば、それだけは同じじゃないほうが良かったって思うくらい、苦しくて、悲しかった。……信じられる? リネル、雪山でまた、死にかけたのよ? 何度私を心配させれば気が済むんだか」
リィナがこちらを見る。ぴんぴんしてる俺を見て、信じられないと思っているのだろう。
「5年。5年よ、お母様。それだけの時間、貰ってあげる」
「……その時間で、何をするの?」
「お母様を助ける。雪山で、死にかけたリネルを救う力を見たの。神林弓と同じ、神器だった。同じ力を持つものが、必ずあるはずなの。この世界のどこかに」
「それを、見つけるつもりなの? だ、駄目! そしたら、今度はリィナだって――」
「今、私よりも先に自分が死ぬことを肯定したのは、誰だったか忘れたの?」
「っ……」
リーヴァは気まずそうに視線を逸らし、唇をかむ。両手の拳に力を込めて、肩を震わせた。
やっぱり、そうだったんだな。
似ても似つかないと思っていた。リーヴァとリィナ、同じ血を引くものとは思えなかった。けど、やっぱり根っこのところでは同じだったんだ。
自分の愛する人のために、自分の身を投げ出す事さえ出来る覚悟を持っている。そんなことが出来るほどに、優しすぎるんだ。
「お母様、5年を貰ってあげる。そして帰ってきたら、私にその何倍もの時間をちょうだい。お母様のことを知るための時間を。お母様に知ってもらうための時間を」
「……」
リーヴァは大きく息を吸った。呼吸を整えるための、深呼吸。
胸の上に手を当てて、大きく上下させる。そして、赤く腫れた目ものを露にしながら、笑った。
「なら、この涙は取っておくね」
「ええ、そうして。これから先、喜んで、悲しんで。笑って、泣くの。そんな毎日を過ごすの。一緒に。その時、思う存分泣けばいい。まあ、でも――」
リーヴァがいつも浮かべる明るい笑みを、リィナに求めたことがある。心の中で何度、リィナもリーヴァみたいに笑えばいいのにと思ったことか。
でもきっと、その考えは間違っていた。
「どうせなくなら、嬉し泣きだけにしなさいよね」
俺が、リィナの笑顔に気づいていなかっただけなんだ。
相変わらずガンダム大好きな私ですが。マチュちゃん改めアマテちゃん、可愛いですね。ニャアンもまだ謎多きガールではありますが、現時点でだいぶ好印象です。
でもそんなことは良いんですよ。第2話。ファーストのオマージュっぷりと言ったらもう凄い。ファーストガンダムを見たことある人には、ぜひ1度見てみて欲しい作品です。もちろん未視聴の方にもおすすめです!
それでは!